水溶液中で観察可能な大気圧電子顕微鏡ASEMを用いて,迅速な免疫電顕法を開発した.ASEMは原子にして数百個厚の薄膜によってサンプルと電顕カラムの真空とを隔離することで,膜越しに水中のサンプルを高分解能観察する.サンプルは開放型ディッシュ内の水環境で観察されるため,抗原性がよく保たれ免疫電顕に優れている.サンプル調整には,疎水処理を伴う複雑な過程が不要であり,ディッシュ内の細胞培養液を固定液や抗体溶液と交換するだけで迅速に標識できる.ASEMディッシュの電子線透過薄膜はpoly-
l-lysine(PLL)など様々なコーティングが可能で,さらに3 mlの培地による安定な培養環境を実現し,神経細胞初代培養など多様な培養を実現した.倒立SEMは加速電圧が30 kVではディッシュ底の膜越しに細胞基部2~3 μmを観察でき,複雑に立体分布する分子の観察に有利である.分解能は8 nmである.上からは光学顕微鏡が,同じ視野をカバーしてSEM観察ガイドとして働く上に,correlative microscopeとして蛍光との相関観察ができ,分子の共局在から複合体形成を検出できる.金による免疫ラベルによって,様々な細胞で多様なタンパク質の局在をSEM観察した.神経細胞のシナプス形成において,繊維状アクチン(F-アクチン)や微小管などの細胞骨格の複雑なネットワークを高分解能で観察した.さらにはCRACアクティベーターのSTIM1が小胞体内Ca
2+の濃度低下を感知した時には,分子どうしが一次元的に凝集することが高分解観察により判明した.迅速な免疫ASEM法では,多条件のサンプルを高分解能で比較することができ,タンパク質微結晶成長を直に観察できる.基礎生物研究のみならず,がんの術中迅速診断や病原菌の特定,さらにはバイオ分野のみならず,高分子化学,材料科学,物性研究など様々の分野への応用が期待される.
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