日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
122 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説特集号「薬理学のQOLへの貢献」
  • −モルヒネ鎮痛耐性とモルヒネ抵抗性神経因性疼痛
    植田 弘師
    原稿種別: 総説特集号
    2003 年 122 巻 3 号 p. 192-200
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/08/26
    ジャーナル フリー
    痛みは本来,生体に対する警告系としての機能を果たしているが,過剰で持続的な痛みは除去する必要がある.がん性疼痛を含む様々な慢性疼痛はそのものが疾患であるという意識を持ち,痛みを我慢せず適切な痛み治療を受けることがQOLの高い人生を全うする上で重要である.痛みは,その原因から侵害性,炎症性,神経因性と心因性の4つに分類される.典型的な慢性の痛みは中でも神経そのものの傷害を伴う神経因性疼痛を指すことが多いが,刺激が侵害性であっても原因が慢性化する場合には同様に治療を受け完全に痛みを除去すべきである.痛みは新たな痛みを生み出す悪循環の性質を持ちうるからである.がん性疼痛では腫瘍組織の肥厚などにより機械的侵害性刺激を受けるが,この痛みはモルヒネで完全に抑制される.炎症性疼痛では抗炎症薬により原因が抑制除去されれば,痛みは取れる.しかし,神経因性疼痛では神経そのものが傷害を受け,その変化が慢性化し,しかも新たな神経回路上の可塑的変化を誘導するため,原因はおろか症状を緩解することにも困難を伴う.がん性疼痛におけるモルヒネ鎮痛は有効な治療方法であるが,長期療養の場合には増量を必要とし,しかも痛みそのものの性質が神経因性疼痛へと変化することもあるので,QOLを考慮する上で多くの課題を有している.また帯状疱疹後疼痛に見られるように神経炎症が治まった後に神経因性疼痛に変化することが高頻度に観察されるので,慢性化する炎症も深刻なQOLの課題を有していると考えられる.本稿では未だ十分に解決されていないがん性疼痛におけるモルヒネ鎮痛の問題点と神経因性疼痛のしくみについて最近の研究動向を述べると共に,今後QOL向上に求められる薬理学的課題について議論してゆきたい.
  • 森 泰生, 稲垣 千代子, 久野 みゆき, 井上 隆司, 岡田 泰伸, 今泉 祐治
    原稿種別: 総説特集号
    2003 年 122 巻 3 号 p. 201-214
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/08/26
    ジャーナル フリー
    イオンチャネル·トランスポーターの分子機能は神経·筋·腺細胞の興奮性を制御することだけでなく,非興奮性細胞を含むあらゆる細胞の増殖分化および細胞死のメカニズム制御にも深く関わっていることが明らかとなりつつあり,後者の制御機構における分子実体が近年,急速に明らかになってきた.本総説では細胞の増殖分化および細胞死に関連するイオン制御機構のトピックスを幾つか取り上げた.特に重要な分子実体である非選択性陽イオンチャネルとしてのTransient Receptor Potential(TRP)の機能に関する新知見を紹介した.さらにアルツハイマー病におけるβアミロイドタンパク毒性の発現に関わる中枢神経系でのClポンプ機能,破骨細胞におけるH+動態調節機構,容量感受性Clチャネルのアポトーシスにおける役割,免疫細胞増殖における幾種かのK+チャネルの役割などを解説し,これらのチャネル·トランスポーターと疾患との関連および創薬への展望をQOLの改善に関連させて論じた.
  • 笹 征史, 西 昭徳, 小林 和人, 佐野 裕美, 籾山 俊彦, 浦村 一秀, 矢田 俊彦, 森 則夫, 鈴木 勝昭, 三辺 義雄
    原稿種別: 総説特集号
    2003 年 122 巻 3 号 p. 215-225
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/08/26
    ジャーナル フリー
    (第1章)大脳基底核回路は,運動制御,動作選択,報酬予測などの重要な脳機能を媒介する.神経伝達物質ドパミンはこれらの脳機能の制御において必須の役割を持つ.ドパミンの作用は,ニューロン活動の頻度の調節ばかりでなく,その活動のパターン形成にも関与する.ドパミンD2受容体を含有する線条体−淡蒼球ニューロンは,ドパミンに依存する運動協調作用において二重の調節的な役割を持つ.(第2章)ラット線条体のアセチルコリン性介在ニューロンへ入力するGABA性シナプス終末に存在するD2タイプ受容体活性化により,N型カルシウムチャネルが選択的に遮断され,GABA遊離が抑制される.また,このシナプス前抑制は,D2タイプ受容体とN型チャネルとの共役を保ちつつ,生後発達に伴い減弱する.大脳基底核関連機能と老化,関連疾患の発症年齢,新しい薬物治療といった臨床医学的見地からも興味深い.(第3章)中脳辺縁系ドパミン神経の起始部に相当する腹側被蓋野からドパミンニューロンを単離した後,細胞内遊離Ca2+濃度を測定し,orexin-A,methamphetamine,phencyclidineの作用を解析した.ドパミンニューロンはこれらの刺激に応答し,細胞内遊離Ca2+の増加およびCa2+チャネルの活性化が認められた.ドパミン神経は精神·行動異常や睡眠·覚醒の制御に関与しており,その細胞分子機構として細胞内遊離Ca2+の増加およびCa2+チャネルの活性化が重要であると考えられる.(第4章)DARPP-32は線条体に選択的に発現し,ドパミン情報伝達の効率を制御するリン酸化タンパクである.DARPP-32はリン酸化される残基によりプロテインホスファターゼ1抑制タンパク(Thr34)やPKA抑制タンパク(Thr75)として作用する.グルタミン酸はイオン共役型NMDA/AMPA受容体や代謝型グルタミン酸受容体を介してDARPP-32リン酸化を調節しており,DARPP-32はドパミン作用とグルタミン酸作用を統合する分子機構として重要である.(第5章)我々は,統合失調症の病態発生と神経幹細胞の関係を検討している.これまでに得られた結果は次のようである.(1)成熟ラットの頭部にX線照射を行うと移所行動量が増大した.(2)統合失調症患者のリンパ球内では,very low-density lipoprotein receptor(VLDLR),leukemia inhibitory factor(LIF),LIF受容体のmRNA発現量が増加していた.(3)ドパミンD1受容体選択的作動薬は海馬歯状回の細胞新生を促し,統合失調症の陰性症状を改善した.
  • 仁木 一郎
    原稿種別: 総説特集号
    2003 年 122 巻 3 号 p. 228-235
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/08/26
    ジャーナル フリー
    糖尿病は遺伝的要因と環境的要因の両方が深く関わって発症する生活習慣病である.その患者数は極めて多く,かつ現在も増え続けている.1920年代にインスリンが,そして50年代にスルホニル尿素薬が発見されて以来,両者は糖尿病治療に広く用いられることになった.しかし,インスリンの使用は患者による日単位の自己注射を強いるし,スルホニル尿素薬の長期使用では膵B細胞の機能障害が示唆されている.これらの問題を解決するために,そして血糖のきめ細かな調節を図るために,糖尿病治療のための多くのアプローチが試みられている.そして,多様化した糖尿病治療戦略は,この疾患の進行はもちろんのこと,患者のQOLを著しく損なう糖尿病合併症の発症をも防げると期待されている.この総説では,糖尿病治療を目指す研究のこれまでとこれからを概述する.
  • 桜井 武
    原稿種別: 総説特集号
    2003 年 122 巻 3 号 p. 236-242
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/08/26
    ジャーナル フリー
    近年,摂食行動を制御する機構について,関心が高まっており,視床下部を中心とした中枢神経系における摂食行動とエネルギー収支の制御機構の一部が明らかになってきている.とくに,レプチンの発見以降,その影響を受ける中枢性の因子として,多くの生理活性ペプチドが食欲を制御していることがわかってきた.本稿では,神経ペプチドの役割を中心に摂食行動やエネルギー収支の制御メカニズムについて概説する.
  • 中谷 晴昭, 三木 隆司, 清野 進, 山田 勝也, 稲垣 暢也, 鈴木 将, 佐藤 俊明, 山田 充彦, 松下 賢治, 倉智 嘉久, 有田 ...
    原稿種別: 総説特集号
    2003 年 122 巻 3 号 p. 243-250
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/08/26
    ジャーナル フリー
    ATP感受性K+(KATP)チャネルの分子構造が明らかにされ,各種臓器においてその分子種が異なることが示唆されている.現在,いくつかのKATPチャネルの遺伝子改変動物が作成されており,その解析からKATPチャネルの新たな病態生理的役割も明らかにされつつある.このような状況下においてKATPチャネルの機能を再度見つめ直し,その薬物制御によってQOLの向上をめざすことは重要であろう.KATPチャネルは内向き整流特性を示すKir6.1あるいはKir6.2というポア成分と,調節サブユニットであるスルホニル尿素受容体(SUR)から構成される複合体である.SURにはSUR1,SUR2A,SUR2Bと呼ばれる3つの分子種が存在し,各種臓器のKATPチャネルにおいてこれらの組み合わせは異なっている.血管平滑筋細胞のKATPチャネルはKir6.1とSUR2Bからなり,Kir6.1のノックアウト(KO)マウスにおいては冠動脈の攣縮と房室ブロックをおこし,突然死した.このことは血管平滑筋細胞のKATPチャネルの失調はPrinzmetal型の狭心症を惹起することを示唆している.また,中枢神経系のKATPチャネルはKir6.2とSUR1からなり,Kir6.2のKOマウスの解析から脳の黒質網様部のKATPチャネルは低酸素などの代謝ストレス時のてんかん発作抑制に重要な役割を果たす事が明らかとなった.心筋細胞の細胞膜に存在するKATPチャネルはKir6.2とSUR2Aからなり,Kir6.2のKOマウス心ではischemic preconditioningと呼ばれる内因性心筋保護機構が消失し,虚血·再灌流時の心機能回復が悪化していた.その分子構造は明らかにされていないがミトコンドリア内膜にもKATPチャネルが存在し,diazoxideなどのK+チャネル開口薬はミトコンドリア膜電位を減少させ,ミトコンドリア内のCa2+過負荷を軽減することが示唆された.KATPチャネルのSURはK+チャネル開口薬の受容体と考えられているが,これらはSURに存在する2つのヌクレオチド結合ドメイン(NBD1とNBD2)とアロステリックに連関し,心血管系のKATPチャネルの付属タンパクであるSUR2AおよびSUR2BではそれらのNBD1とNBD2に対するATPあるいはADPの結合状況によってK+チャネル開口薬の作用が修飾されることも明らかとなった.このように各種臓器においてKATPチャネルの分子種およびその調節機構が微妙に異なっていると共にその新たな生理的役割が明らかにされてきており,QOL向上をめざした新たなKATPチャネル作用薬の開発が期待される.
総説
  • 茂里 康, 島本 啓子
    原稿種別: 総説
    2003 年 122 巻 3 号 p. 253-264
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/08/26
    ジャーナル フリー
    グルタミン酸は興奮性神経伝達物質として認知·記憶·学習などの高次神経機能に密接に関与している.その一方で高濃度のグルタミン酸は神経細胞を傷害する.神経伝達を効率的に行うと同時に神経細胞死を防ぐために,シナプスでのグルタミン酸濃度は細胞膜上に存在するグルタミン酸トランスポーター(Excitatory Amino Acid Transporter: EAAT)により常に低濃度に維持されている.一方神経細胞内のグルタミン酸は,シナプス小胞に存在するグルタミン酸トランスポーター(Vesicular Glutamate Transporter: VGLUT)によりシナプス小胞に取り込み貯蔵され放出に備えられる.EAATは5つのサブタイプ(EAAT1-5),VGLUTは3つのサブタイプ(VGLUT1-3)がこれまでに知られている.EAATはNa+依存性トランスポーターで,グルタミン酸1分子の取り込みに連動して,2~3分子のNa+の流入,1分子のH+の細胞内への流入と細胞外へ1分子のK+の流出が起きる.またこれらとは別に,基質取り込みと連動していないClの流入が存在する.一方VGLUTはATPやH+およびClに対する依存性を有し,グルタミン酸に対する基質特異性が高い点等EAATとはかなり性質が異なっている.EAATおよびVGLUTの機能·発現制御は様々な神経疾患(脳卒中,てんかん,アルツハイマー病,エイズ関連の痴呆,ハンチントン舞踏病,筋萎縮性側索硬化症,悪性神経膠腫等)と関わっていることが示唆されている.これらのトランスポーターの生理的役割を調べるためには選択的な阻害薬が不可欠であり,グルタミン酸誘導体を初めとする非天然型アミノ酸などが有効なツールとして開発されてきている.
新薬紹介総説
  • 小栗 侯二郎
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2003 年 122 巻 3 号 p. 265-270
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/08/26
    ジャーナル フリー
    β2刺激薬は,気管支拡張作用により喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)の呼吸困難を効果的に軽減することから,既に多くの化合物と製剤が研究開発され臨床使用されている.製剤には経口剤,貼付剤,ネブライザーとして使用する液剤,注射剤および吸入剤があり,定期的に使用して症状の発現やその程度を軽減させる維持療法,発作発現時の発作治療,救急外来受診や入院時の急性増悪時の治療,運動誘発性喘息の予防などと幅広く利用されている.喘息,COPDともに慢性疾患で外来処方による薬物療法が重要なことから,β2刺激薬の研究開発の主体は維持療法であり,β1受容体の刺激による心血管系への影響を少なくすることと,長時間持続する効果が得られることが長年の課題であった.サルメテロールは,β2受容体に長時間結合させることにより12時間持続する気管支拡張効果に改良したβ2刺激薬で,製剤はキシナホ酸塩としたサルメテロールを標的部位の気道に直接デリバーするドライパウダータイプの吸入剤である.サルメテロールの研究は,従来のβ2刺激薬のように血中濃度の持続時間を長くするという血液薬物動態学的な改良ではなく,Receptor Pharmacokineticsという新しい概念とアプローチにより発見された化合物である.すなわち,グラクソ·スミスクラインの研究陣は,化合物をβ2受容体の非活性部位に結合させれば活性部位の結合を長くすることできると考え,ユニークな化学構造式を有するサルメテロールを発見した.臨床評価においても,これまでは他の薬剤との比較が中心であったが,これだけに留まらず,喘息やCOPDの患者の有益性が得られるように,他の薬剤と併用時の有効性や安全性が十分に検討されている.喘息治療では,サルメテロールと吸入ステロイド薬との併用効果,COPD治療では,抗コリン薬やテオフィリンとの併用効果も確認されている.このように他の薬剤との併用時の臨床評価は,薬理学的研究とともに今後益々重要な流れになっていくものと考えられる.
feedback
Top