ATP感受性K
+(K
ATP)チャネルの分子構造が明らかにされ,各種臓器においてその分子種が異なることが示唆されている.現在,いくつかのK
ATPチャネルの遺伝子改変動物が作成されており,その解析からK
ATPチャネルの新たな病態生理的役割も明らかにされつつある.このような状況下においてK
ATPチャネルの機能を再度見つめ直し,その薬物制御によってQOLの向上をめざすことは重要であろう.K
ATPチャネルは内向き整流特性を示すKir6.1あるいはKir6.2というポア成分と,調節サブユニットであるスルホニル尿素受容体(SUR)から構成される複合体である.SURにはSUR1,SUR2A,SUR2Bと呼ばれる3つの分子種が存在し,各種臓器のK
ATPチャネルにおいてこれらの組み合わせは異なっている.血管平滑筋細胞のK
ATPチャネルはKir6.1とSUR2Bからなり,Kir6.1のノックアウト(KO)マウスにおいては冠動脈の攣縮と房室ブロックをおこし,突然死した.このことは血管平滑筋細胞のK
ATPチャネルの失調はPrinzmetal型の狭心症を惹起することを示唆している.また,中枢神経系のK
ATPチャネルはKir6.2とSUR1からなり,Kir6.2のKOマウスの解析から脳の黒質網様部のK
ATPチャネルは低酸素などの代謝ストレス時のてんかん発作抑制に重要な役割を果たす事が明らかとなった.心筋細胞の細胞膜に存在するK
ATPチャネルはKir6.2とSUR2Aからなり,Kir6.2のKOマウス心ではischemic preconditioningと呼ばれる内因性心筋保護機構が消失し,虚血·再灌流時の心機能回復が悪化していた.その分子構造は明らかにされていないがミトコンドリア内膜にもK
ATPチャネルが存在し,diazoxideなどのK
+チャネル開口薬はミトコンドリア膜電位を減少させ,ミトコンドリア内のCa
2+過負荷を軽減することが示唆された.K
ATPチャネルのSURはK
+チャネル開口薬の受容体と考えられているが,これらはSURに存在する2つのヌクレオチド結合ドメイン(NBD1とNBD2)とアロステリックに連関し,心血管系のK
ATPチャネルの付属タンパクであるSUR2AおよびSUR2BではそれらのNBD1とNBD2に対するATPあるいはADPの結合状況によってK
+チャネル開口薬の作用が修飾されることも明らかとなった.このように各種臓器においてK
ATPチャネルの分子種およびその調節機構が微妙に異なっていると共にその新たな生理的役割が明らかにされてきており,QOL向上をめざした新たなK
ATPチャネル作用薬の開発が期待される.
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