日本薬理学雑誌
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137 巻, 3 号
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特集 時間薬理学と時間栄養学による新しい治療戦略の開拓
  • 柴田 重信, 平尾 彰子
    2011 年 137 巻 3 号 p. 110-114
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/03/10
    ジャーナル フリー
    哺乳類の体内時計遺伝子ClockPer1が発見されて以来,体内時計の発振,同調,出力の分子機構が明らかになってきた.時計遺伝子発現は生体の至る所で見られ,視交差上核を主時計,視交差上核以外の脳に発現する時計を脳時計とよび,肝臓や肺,消化器官などに発現する時計を末梢時計と呼ぶようになった.これらの事実は,生体の働きに時間情報が深く関わっている可能性を強く示唆するものである.種々の疾病の症状には日内リズムが見られ,たとえば喘息の症状は朝方悪化しやすく,虚血性心疾患は早朝から午前中にかけて起こりやすいことも知られている.また,コレステロールの合成酵素のHMG-CoA reductaseの活性は夜間に高まることから,スタチン系の薬物は夕方処方が推奨されている.このように,疾病治療における薬の作用を効果的にするために,発症時刻に合わせて,薬を与えるというような治療法が考案されてきた.いわゆる時間薬理学という学問領域である.一方で,最近時間栄養学の研究領域が台頭してきた.食物や栄養などの吸収や働きを考えると,栄養の摂取時刻により,栄養の働きが異なる可能性が考えられる.実際,同じ食物でも夜間に食べると太りやすいと言われており,これはエネルギー代謝に日内リズムがあることに起因する.また,薬物の吸収,分布,代謝,排泄に体内時計が関わるように,栄養の吸収,代謝などには体内時計が深く関わる可能性がある.体内時計の同調刺激に規則正しい食生活リズムが重要であることが指摘されて以来,同調刺激になりやすい機能性食品の開発が試みられている.このことは,たとえばメタボリックシンドロームの治療や予防に,時間薬理と時間栄養の両学問の知識や研究成果の集約が,効果的である可能性を示唆する.
  • 大戸 茂弘, 小柳 悟, 松永 直哉
    2011 年 137 巻 3 号 p. 115-119
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/03/10
    ジャーナル フリー
    社会の少子化および高齢化が進む中で,集団の医療から個の医療へとその重点が移りつつある.現在,個体間変動要因の代表例である遺伝子多型に関する研究およびその治療への応用は確立されつつあるが,遺伝子診断のみでは説明できない現象もある.従って,医薬品適正使用のさらなる充実を図るには,個体間変動のみならず個体内変動に着目した研究の充実は必至である.こうした状況の中で,投薬時刻や投薬タイミングにより薬の効き方が大きく異なることがわかってきた(時間薬理学:chronopharmacology).また薬の効き方を決定する薬の体内での動き方や薬に対する生体の感じ方も生体リズムの影響を受ける.従って投薬タイミングを考慮することにより医薬品の有効性や安全性を高めることも可能となる(時間治療学:chronotherapy).最近では,医薬品の添付文書などに服薬時刻が明示されるようになってきた.生体リズム調整薬のみならず生体リズムを考慮した時間制御型DDS(chrono-drug delivery system)や服薬時刻により処方内容を変更した製剤が開発されている(時間薬剤学:chronopharmaceutics).その背景には時計遺伝子に関する研究の発展があげられる.すなわち,時計遺伝子が,睡眠障害,循環器疾患,メタボリックシンドローム,がんなどの疾患発症リスクおよび薬物輸送・代謝リズムに深く関わっていることがわかってきた.
  • 加藤 秀夫, 国信 清香, 齋藤 亜衣子, 出口 佳奈絵, 西田 由香, 加藤 悠
    2011 年 137 巻 3 号 p. 120-124
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/03/10
    ジャーナル フリー
    からだのリズムは,体温や血圧,睡眠,運動などの生命活動を始め,心と身体の健康を管理している司令塔であり,生活リズムに適応するための自律的な予知機能も備えている.明暗サイクルのあるなしに関係なく,一定の摂食時間に餌を与えると血中副腎皮質ホルモンはいずれも摂食直前にピークを示す日内リズムが形成される.次の日から絶食にしても血中副腎皮質ホルモンの日内リズムは持続し,典型的な内因性のリズムを示す.このことから,血中副腎皮質ホルモンのリズム発現には,明暗サイクルより摂食サイクルが重要であると考えられる.血中副腎皮質ホルモンのリズム形成には口から摂取する食餌そのものと,食餌を感知する消化管が関与している.血中副腎皮質ホルモンのリズム形成・維持には摂食リズムと食餌の刺激を感知する空腸が重要な役割を果たしている.ヒトでの研究においても同様の知見が得られ,血中副腎皮質ホルモンのリズム形成には,摂食リズムが重要であることを明確に示した.一方,ヒラメ筋グリコーゲンは摂食によって増加し,その後減少する日内リズムが認められる.しかし,1日摂食量の1/3を遅い時刻に摂食させた場合,摂食によるヒラメ筋グリコーゲンの増加はなかった.また,脳などにグルコースを供給する肝臓グリコーゲンは,摂食によって増加し,その後,糖新生の利用による低下が認められる.しかし,1日摂食量の1/3を遅い時刻に摂取させると肝臓グリコーゲンの総貯蔵量は減少した.つまり,遅い時刻に摂取する夜食では,摂取した栄養素が筋肉や肝臓グリコーゲンの合成に利用されず,むしろ脂肪蓄積につながると考えられる.次に,食塩の摂取と血圧との関係を時間栄養学の観点から検討した.朝や昼に比べて夕食後に食塩の尿排泄が多く,血中アルドステロンの日周リズムと連動していた.血中成長ホルモンの分泌は,朝の運動で減少し,夕方の運動で増大した.トレーニング効果を高めるためには生体リズムを考慮することも重要である.以上のことから,時間栄養学は体内時計が実証する新しい健康科学である.
  • 藤村 昭夫
    2011 年 137 巻 3 号 p. 125-129
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/03/10
    ジャーナル フリー
    24時間自由行動下血圧測定法の普及に伴って血圧日内リズムの特徴が明らかになり,その病態学的意義も明らかにされた.特に,昼間に比べて夜間の降圧が10%未満(non-dipper型)の場合には高血圧性臓器障害が進展することや,起床時の急激な血圧上昇が心筋梗塞や脳梗塞の誘発要因の1つであることが知られている.従って,高血圧患者を治療する時には患者毎に血圧日内リズムの特徴を把握し,昼間のみならず夜間や起床時の血圧も適切にコントロールする必要がある.一方,血圧日内リズムに及ぼす降圧薬の影響も種類によって異なり,たとえば,アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬は夕方に投与すると血圧日内リズムがnon-dipper型からdipper型に移行することが多いが,Ca拮抗薬は投与時刻に係わらず昼間と夜間の血圧を同程度に低下させるために,血圧日内リズムに及ぼす影響は小さい.このように降圧薬の血圧日内リズムに及ぼす影響は種類によって異なり,臨床の場ではまず患者の血圧日内リズムの特徴を把握し,それに基づいて適切な降圧薬とその投与タイミングを選択する必要がある.
総説
  • 山脇 英之
    2011 年 137 巻 3 号 p. 131-135
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/03/10
    ジャーナル フリー
    これまで脂肪細胞は単に余分なエネルギーの貯蔵庫としての働きしか知られていなかったが,様々なアディポサイトカイン(adipocyte+cytokine)を分泌することができる内分泌器官として認識されるようになった.近年特に,アディポサイトカインはメタボリックシンドロームと呼ばれる生活習慣病(糖尿病・肥満・高血圧・動脈硬化症・心筋梗塞等)と密接に関係することが明らかとなり注目を集めるようになった.一方,最近ビスファチン,バスピン,オメンチン,ケメリン,ネスファチン等の新規アディポサイトカインが同定され,その役割に関する研究がなされている.しかし,それらの研究の大部分は臨床疫学的研究であり,血管系の病態生理に関する基礎的検討はほとんどなされていない.そこで我々のグループは,上記のアディポサイトカインが,(1)血管炎症性障害および,(2)生理的血管作用(収縮・弛緩機構)に,どの様に関与するかの検討を開始した.これらの結果を含む新規アディポサイトカインの研究成果は,ヒトの生活習慣病コントロールに関係する創薬や治療法開発の重要な標的となると考えており,またその焦点として心血管系における生理的および病態生理的役割の解明が重要である.
実験技術
  • 芝崎 誠司
    2011 年 137 巻 3 号 p. 136-140
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/03/10
    ジャーナル フリー
    ファージや微生物の表層を構成するタンパク質に融合することで,異種タンパク質を外界に提示する,いわゆる「分子ディスプレイ法」は,標的分子に対する親和性リガンド分子の探索や,標的分子の機能解析,ならびに特定タンパク質分子の変異体クローンの作出に威力を発揮して来た.各種分子ディスプレイ法の原理や特徴を解説し,これらの手法を用いた経口ワクチンへの応用例についても述べる.
  • 宮原 聡子, 宮原 信明, 松原 茂樹
    2011 年 137 巻 3 号 p. 141-145
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/03/10
    ジャーナル フリー
    アレルギー性鼻炎の動物モデルにおいて,遺伝的背景が明らかなマウスの利用,特に近年の遺伝子改変マウスの利用により,詳しい病態解析が可能になった.しかし,これまでのマウスのアレルギー性鼻炎の評価には,抗原による誘発後30分以内のくしゃみおよび鼻かき回数が繁用されており,臨床上散見される遅発相反応など長時間に亘る客観的症状観察,あるいは鼻閉の評価は困難であった.そこで我々は,Whole Body Plethysmograph法における呼吸数の変化を幾つかのパラメータと併せて無麻酔下で測定することにより,鼻腔抵抗上昇を反映した新規アレルギー性鼻炎モデルを作製した.卵白アルブミン感作マウスに無麻酔下で経鼻抗原チャレンジすることにより,吸気および呼気共に延長する上気道閉鎖のパターンを示し,呼吸数が有意に減少した.この抗原によって誘発される呼吸数減少は,麻酔下で測定したマウスの鼻腔抵抗上昇値と良好な相関性を示すことから,本実験モデルにおける呼吸数減少は,間接的に鼻閉を反映することが明らかとなった.感作マウスに抗原チャレンジを繰り返した場合,抗原暴露回数に依存した非特異的過敏性反応,抗原特異的即時相および遅発相反応が認められた.さらに,本モデルにおいて種々遺伝子改変マウスを用いたところ,鼻過敏性反応の成立には抗原特異的IgEおよび肥満細胞が,遅発相反応にはインターロイキン-13の寄与が必須であることが明らかとなった.以上,我々が作製したマウスアレルギー性鼻炎モデルは,長期間に亘る非侵襲的呼吸機能測定が可能であり,鼻反応を誘発した際の呼吸機能変化に対する検出感度が優れていた.そして,本モデルで測定する呼吸数変化はアレルギー性鼻炎患者の鼻閉を反映しており,詳細な病態解析ならびにアレルギー性鼻炎治療薬の薬効評価に有用であると思われる.
創薬シリーズ(5)トランスレーショナルリサーチ(16)(17)
  • 大上 直秀, 仙谷 和弘, 坂本 直也, 安井 弥
    2011 年 137 巻 3 号 p. 146-149
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/03/10
    ジャーナル フリー
    がん細胞特異的に存在し,全身正常組織に存在しない分子は,分泌タンパク質であれば血清腫瘍マーカーとして,細胞表面タンパク質であれば治療の標的分子として期待される.著者らの研究室では,SAGE法・CAST法を用いて消化管がん,特に胃がんに特異性の高い遺伝子の探索を行っている.SAGE法から同定された胃がんに特異性の高い遺伝子はREG4OLFM4MIAMMP10DKK4 等で,REG4 遺伝子がコードするReg IV,OLFM4 遺伝子がコードするオルファクトメジン4(olfactomedin 4)はいずれも分泌タンパク質であり,胃がん診断における高感度血清マーカーである.CAST法から同定されたDSC2 遺伝子は細胞間接着分子デスモコリン2(desmocollin 2)をコードしており,腸型粘液形質を有する胃がんの細胞表面に発現していることから,診断マーカー・治療標的として有用である.
  • 井家 益和, 小澤 洋介
    2011 年 137 巻 3 号 p. 150-153
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/03/10
    ジャーナル フリー
    自家培養表皮「ジェイス」は,ヒト細胞を用いた日本初の再生医療製品であり,2007年に承認された.自家培養表皮は,患者自身の皮膚を原材料として作製した表皮細胞シートである.ジェイスの製造は,3T3-J2細胞のフィーダーと,ウシ胎児血清や増殖因子を添加した培地を用いて表皮細胞を培養するGreen法を採用しており,数cm2の皮膚から体表をすべて覆う面積の表皮細胞シートを製造することができる.ジェイスを広範囲熱傷の熱傷創面に適用すると,表皮細胞が生着することによって創が閉鎖される.ジェイスの生着は,移植部位の状態に大きく影響されることがわかっている.生着を阻害する要因には,感染,炎症,物理的刺激,細胞傷害性物質などが考えられる.ジェイスの有効性を発揮させるために,わが国の医療現場に適した移植手技が標準化されることが望ましい.再生医療製品では,細胞毒性が低い併用薬の選択が求められることから,薬理学的なサポートも重要である.
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