日本薬理学雑誌
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119 巻, 5 号
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総説
  • 小畑 俊男
    原稿種別: 総説
    2002 年 119 巻 5 号 p. 273-279
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/21
    ジャーナル フリー
    冠循環は,その重要さゆえに心筋虚血などの代謝異常運動,外的ストレス,に対して迅速に対応できる循環制御メカニズムが備わっている.循環系の調節因子はきわめて複雑であるが,神経,心臓,内皮細胞および血球成分はそれぞれから遊出されるケミカルメディエーターにより冠微小循環を個別に調節することが知られている.心臓はエネルギー消費の最も大きい臓器で,容易に虚血に陥る.虚血-再灌流障害による代謝変動と,これにかかわるフリーラジカルが生体内の生理病理現象に広く関わっている.ATPの分解産物であるアデノシンは神経,心筋,内皮細胞および白血球成分のいずれからも産生され,かつどの細胞にも受容体が存在するため冠微小循環調節の各因子のモジュレーターとして冠循環を調節している.アデノシンは虚血や低酸素下で心筋から大量に産生され,冠血流量増大,心筋代謝改善,不整脈に作用する.
  • 小林 英幸, 横尾 宏毅, 柳田 俊彦, 和田 明彦
    原稿種別: 総説
    2002 年 119 巻 5 号 p. 281-286
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/21
    ジャーナル フリー
    脳微小血管は,血液脳関門として自由な物質輸送を制限する一方で,血液と脳の間における栄養素,イオン,水,酸素等の輸送を行う.近年,脳微小血管に存在する輸送体分子の実体と,それらの病態における変化が明らかになりつつある.脳微小血管には,促通拡散型のGLUT1がグルコーストランスポーターの主要なサブタイプとして,アクアポリン4が水輸送を行う分子として,p-糖タンパクが異物排出トランスポーターとして発現している.脳微小血管内皮細胞間のタイトジャンクションを構成している分子として,オクルディンとクローディン5が同定された.また,輸送体の機能は,アドレナリン作動性神経等の神経活動,およびアドレノメデュリン等の生理活性ペプチドにより調節されていることが明らかとなってきた.これらの脳微小血管に存在する輸送体の活性および発現を制御することにより,脳浮腫等の脳血管障害のみならず,神経変性疾患,脳の発達異常や老化に対する新たな予防·治療法の可能性が生まれてきた.
  • 合田 榮一
    原稿種別: 総説
    2002 年 119 巻 5 号 p. 287-294
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/21
    ジャーナル フリー
    肝細胞増殖因子(HGF)は初代培養肝細胞の増殖を強く促進する因子として精製されたサイトカインであり,肝臓の旺盛な再生力を支える肝再生因子の有力な候補である.HGFは増殖因子としては大きく,分子量約6万の重鎖と約3.5万の軽鎖がジスルフィド結合したヘテロダイマーの構造をもつ.ヒトHGFはプラスミノーゲンと相同性を有する728アミノ酸残基の1本鎖前駆体として合成された後,N末端シグナルペプチドの除去,細胞外への分泌を経て,HGFアクチベーター叉はウロキナーゼ(u-PA)などにより2本鎖に切断され活性型となる.HGFは初代培養ラット肝細胞の増殖を10 pMの低濃度から促進し,その他の様々な上皮系細胞,内皮細胞,一部の間葉系細胞の増殖も促進する.また,ある種のがん細胞の増殖を逆に抑制し,アポトーシスを誘導することもある.さらに,細胞運動性亢進作用,管腔形成などの形態形成誘導作用,抗アポトーシス作用,血管新生作用および免疫応答調節作用なども有する.HGFの受容体はがん原遺伝子c-metの産物でチロシンキナーゼ活性をもち,HGFの多様な生物作用はc-Metを介して発揮される.肝再生時には肝DNA合成誘導に先行して肝,脾,肺のHGF遺伝子発現の増加並びに血中,肝中HGFレベルの上昇が認められ,抗HGF抗体の投与により肝再生が抑制される.培養細胞におけるHGF産生はPKC活性化薬,cAMP上昇薬,PKA活性化薬,種々の増殖因子,炎症性サイトカインなどにより誘導され,TGF-β,グルココルチコイド,活性型ビタミンD,レチノイン酸などによって抑制される.様々な細胞に対する強力な増殖促進作用を利用してHGFを肝硬変や慢性腎不全,肺線維症,心筋梗塞,閉塞性動脈硬化症など各種難治性臓器疾患の治療薬として応用できる可能性を示す報告が多数なされている.また,血清および血漿HGF定量ELISAキットは肝炎劇症化の予知のために用いられている.
  • 末丸 克矢, 荒木 博陽, 五味田 裕
    原稿種別: 総説
    2002 年 119 巻 5 号 p. 295-300
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/21
    ジャーナル フリー
    神経性ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)は,αサブユニットとβサブユニットから構成される5量体のイオンチャネル型受容体であり,多くの神経伝達物質の放出を促進することによって精神機能にさまざまな影響を及ぼす.従来より,喫煙と各種精神病疾患の関係について多くの調査や研究が行われ,精神分裂病,うつ病および不安などの精神病疾患と喫煙の間に正の関連性があることが示されている.その喫煙動因として,ニコチンの中枢刺激作用により精神疾患の症状を自ら改善しようとする試み(self-medication),またはニコチン退薬症候に伴う症状の悪化をニコチン再摂取により軽減させていることが考えられている.近年,nAChRサブユニットのノックアウトマウスや各種精神疾患の動物モデルを用いて神経性nAChRの精神薬理作用の解明が進み,精神分裂病の注意障害や情報処理障害にはα7 nAChRが,またニコチン依存および退薬症候にはα4β2 nAChRが関与していることが示唆されている.
新薬紹介総説
  • 田中 正彦
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2002 年 119 巻 5 号 p. 301-308
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/21
    ジャーナル フリー
    フリーラジカルが脳虚血後の主な傷害因子の1つであることは数多く報告されている.エダラボン(3-methyl-1-phenyl-2-pyrazolin-5-one(分子量174.20),MCI-186,ラジカット注30 mg)は有害なラジカルを消去無害化することで,脳虚血後の神経細胞や血管内皮細胞の酸化傷害を防ぐ脳保護薬である.エダラボンはラット脳虚血モデルにおいて,脳局所虚血後あるいは虚血再開通後の静脈内投与により,脳内の·OH増加を抑制するとともに,脳梗塞巣の進展および遅発性神経細胞死を抑制した.また,エダラボンは虚血に伴う神経症候および脳浮腫を軽減した.脳梗塞急性期患者を対象に実施した臨床試験において,エダラボンは脳梗塞の中核症状である神経症候,日常生活動作障害および機能障害を改善した.平成13年4月に,脳梗塞急性期に対し,発症後24時間以内に投与を開始とする効能効果,用法用量により製造承認を得た.脳保護薬として脳梗塞急性期治療に貢献することを期待している.
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