日本薬理学雑誌
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149 巻, 5 号
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特集:炎症を機転とした恒常性維持機構の破綻―免疫系細胞、がん組織、消化器系、循環器系からみた炎症性疾患の病態と制御―
  • 亀島 聡, 岡田 宗善, 山脇 英之
    2017 年 149 巻 5 号 p. 194-199
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー

    Eukaryotic elongation factor 2(eEF2)はタンパク質翻訳過程においてペプチド鎖伸長を促進的に制御しタンパク質合成を促進する.このeEF2の機能はeEF2 kinase(eEF2K)により特異的に調節されており,翻訳開始因子とともに大部分のタンパク質合成を制御している.近年,様々な疾患の病態機序におけるeEF2K/eEF2シグナルの役割が報告されており,このシグナル経路がタンパク質合成だけでなく炎症性反応,細胞死,神経成長にも影響を及ぼす可能性が示唆されている.今後,eEF2K/eEF2は循環器,腫瘍及び神経系疾患に対する治療・創薬標的となることが期待される.

  • 西山 和宏, 藤本 泰之, 中嶋 秀満, 竹内 正吉, 東 泰孝
    2017 年 149 巻 5 号 p. 200-203
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー

    マクロファージは炎症応答を司り代謝性疾患の発症に寄与するだけでなく,全身のエネルギー代謝のバランス維持にも関与する.近年,健常時における脂肪組織内に存在するマクロファージのサブタイプに関する研究報告が相次ぎ,糖尿病やメタボリックシンドロームなどの代謝性疾患とマクロファージとの関連性に注目が集まる.今回,代謝性疾患における炎症性因子と抗炎症性因子について概説し,新しい視座を紹介する.一つ目の視座として,マクロファージのサブタイプにより炎症応答への作用が異なり,炎症応答を亢進するM1マクロファージと,逆に炎症応答を抑制するM2マクロファージとに分けられる.次の視座として,脂肪酸および関連因子が炎症応答に関与することが示され,飽和脂肪酸,n-9単価不飽和脂肪酸およびn-6多価不飽和脂肪酸は炎症応答を惹起するのに対して,エイコサペンタエン酸ならびにドコサヘキサエン酸などのn-3多価不飽和脂肪酸は炎症応答を抑制する機能を有する.したがって,マクロファージサブタイプ間と炎症や抗炎症作用を示す脂肪酸とのクロストークの研究を通じて,代謝性疾患の発症機序の理解が進み,将来の新規薬理作用点の発見に繋がることを期待したい.

  • 山崎 愛理沙, 中村 達朗, 大森 啓介, 村田 幸久
    2017 年 149 巻 5 号 p. 204-207
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー

    肥満細胞は免疫細胞の1つであり,顆粒を大量に含むその形態学的特徴からこの名がつけられた.この細胞は,ヒスタミンなどの炎症性物質を大量に放出(脱顆粒)することで,アレルギー性疾患の発症に関わる主な免疫細胞として長らく認識されてきた.しかし,近年研究が進み,肥満細胞は脱顆粒後に起こる種々のサイトカインやケモカイン産生・放出を通して,アレルギー性疾患以外の様々な疾患の発症や進行にも関与することが分かってきた.我々の研究室では,現在アレルギー疾患の他,創傷治癒,急性炎症,がんの発症や進行において,この肥満細胞が果たす役割の解析を進めている.特に肥満細胞が脱顆粒後に大量に産生する脂質メディエーターであるプロスタグランジンD2の役割について焦点をあてて研究を進めてきた.本稿ではその一部を紹介したい.

  • 円城寺 秀平, 大浜 剛
    2017 年 149 巻 5 号 p. 208-212
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー

    古くから慢性炎症とがんの間には密接な関係があることが知られている.近年,その詳細な分子機構についても研究が進展し,炎症反応と発がん・がんの悪性化には共通の細胞内シグナルが関与して,複雑に相互作用していることが明らかになり,両者に共通の因子を標的にする抗がん戦略が考えられるようになった.我々は,炎症とがんの双方で重要な抑制因子として働くprotein phosphatase 2A(PP2A)に注目している.PP2Aは,細胞内の主要なセリン/スレオニン脱リン酸化酵素であり,多様なシグナル伝達を調節している.PP2AにはI1PP2A(ANP32A),ENSA,Arpp19,CIP2A,PME-1,SET/I2PP2A等のPP2A阻害タンパク質が存在し,ほとんどのがんにおいてPP2A阻害タンパク質の発現上昇によるPP2A活性の低下が認められる.PP2A阻害タンパク質の中でもSET/I2PP2Aは,炎症反応を増強する役割が報告されている.当シンポジウムにおいて我々は,炎症反応依存的な胃がん自然発症マウスGanマウスにおいてSET発現が上昇すること,ヒト胃がん患者においてSET発現の上昇が予後の悪さと相関関係を示すこと,SET標的薬が胃がん細胞株に対して抗がん効果を示すこと等を報告した.本稿では,これまでに報告されている慢性炎症とがんの関係およびその分子機構,両者の抑制因子としてのPP2Aとその阻害タンパク質であるSETについて,最新の知見と共に紹介したい.

特集:顧みられない熱帯病治療薬開発の戦略
  • 北 潔
    2017 年 149 巻 5 号 p. 214-219
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー

    2013年12月に西アフリカではじまったエボラ出血熱では1万1,000人以上が死亡し,現在においても特効薬もワクチンもない.また三大感染症として知られているAIDS,結核,マラリアによる死者は世界中で年間300万人を超えている.さらに効果を示していた薬剤に対して耐性を示す病原体の出現はウイルス,細菌から寄生虫にまで及んでいる.そして,人々に深刻な人的,社会的,そして経済的損失を引き起こしている.例えば代表的な熱帯病であるマラリアは熱帯・亜熱帯のアジア地域や,サハラ以南のアフリカの広い地域で流行しており,最近のWHOの報告では,年間2億人以上の人々が新たに感染し,死者は40~50万人にのぼる(World Malaria Report 2016).かつての特効薬であったクロロキンに対する耐性マラリアは世界中に拡散し,最新の治療法であるアルテミシニンと他剤の併用によるartemisinin combination therapy(ACT)に対しても薬剤耐性株が出現している.しかもACTはコストが高いことから新たな治療法の開発が求められている.このような状況の中で2015年10月5日,スウェーデン王立科学アカデミーはノーベル生理学・医学賞を大村智(さとし)北里大学特別栄誉教授,米国ドリュー大学名誉研究員のウイリアム・キャンベル博士および中国中医科学院主席研究員の屠呦呦(と・ゆうゆう)博士に授与すると発表した.その受賞理由は大村博士とキャンベル博士については「線虫によって引き起こされる寄生虫感染症に対する新規な治療法の発見」であり,屠博士は「マラリアに対する新規な治療法の発見」である.すなわち前者は抗フィラリア薬「イベルメクチン」,後者は抗マラリア薬「アルテミシニン」の発見によるものである.イベルメクチンは大村博士が土壌中の放線菌から見出したマクロライド系の化合物であり,アルテミシニンは中国の薬草の一種である青蒿(チンハオ.クソニンジンと呼ばれる)から屠博士等が見出したエンドペルオキシドを持つ化合物であり,いずれも「自然からの贈り物」である.なぜ抗寄生虫薬の発見が受賞対象となったのか? 本稿ではイベルメクチンに代表される我が国からの抗寄生虫薬開発への貢献と筆者らの取り組みを紹介する.

  • Simon Croft
    2017 年 149 巻 5 号 p. 220-224
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー

    リーシュマニア症は典型的な「顧みられない熱帯病(neglected tropical diseases:NTDs)」の一つであり,中南米,アフリカから中近東,ヨーロッパ,アジアそしてインドと世界中に患者が見られる点が特徴である.単細胞の寄生虫で鞭毛虫類に属するリーシュマニアLeishmaniaによって発症し,サシチョウバエによって媒介される.宿主哺乳類の中ではマクロファージに寄生していることからワクチンによる予防や治療は困難であり,薬剤による治療が中心となっている.しかし治療薬の現状は,長期の投与や激しい副作用など満足できる状態ではない.そこで,薬剤開発と治療デザインを考えるにあたっては,リーシュマニア症の特徴である多様な症状と病原体の原虫としての多様性を理解することが必須である.リーシュマニア症は2つに大別され,皮膚リーシュマニア(cutaneous leishmania:CL)においては主に感染がサシチョウバエに刺された部位に成立するが,Leishmania donovaniL. infantumなどによる内蔵リーシュマニア(visceral leishmania:VL)では肝臓や脾臓,骨髄のマクロファージに感染し,治療しなければ死をもたらす.このような問題を解決するには安価で投与しやすく効果的で,しかも小児への投与を含む短期間投与が可能な新規薬剤の開発が喫緊の課題である.VLとCL両者のリーシュマニア症の新しい治療法の開発は不可欠であり,われわれはこの原虫に関する生物学,病理学,医薬品化学,薬物動態学や製剤学などを統合して新薬の開発と新たな治療法の確立をめざしている.近い将来にリーシュマニア患者に新しい治療法が提供されることを確実にするためには製薬企業,政府や非営利組織を含む国際機関,バイオテクノロジーセクターおよびアカデミアのパートナーシップと弛まぬ努力が必要である.

  • 浅田 誠
    2017 年 149 巻 5 号 p. 225-230
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー

    顧みられない熱帯病(neglected tropical diseases:NTDs)に罹患している患者さんは世界中の貧困国を中心に10億人以上存在し,三大感染症(マラリア,HIV/AIDS,結核)とともに,身体的障害や偏見による労働力の低下,経済成長の抑制,衛生環境などの社会インフラの未整備の一因となっており,それがさらなる患者を生み出すという負のスパイラルを招いている.これらの疾患の制圧のためには,有効な薬剤を開発し,患者さんに広く提供する必要があり,製薬企業はこれらの熱帯病制圧に向けて大きな役割を担うことが期待されている.しかしながら,その使命を果たすためには,製薬企業が従来経験したことのない幾つものハードルを越えなくてはならない.もちろん薬剤の開発コストと利益の不均衡の問題は大きいが,それ以外にも例えば,熱帯病に関する知識や研究材料が企業内部に保有されていない,熱帯病の蔓延地域で臨床試験を行うにも当該国規制当局との交渉経験や治験ネットワークがない,あるいは,薬剤をお届けするための販路も構築されていないなど,一企業が単独で向き合うにはあまりにも高い壁が存在する.近年,こうした状況を緩和するために様々なProduct Development Partners(PDPs)が設立され,企業,アカデミアのそれぞれの専門性を取り入れた国際的な協働の枠組みが構築されており,またその活動を推進する資金提供団体も設立されて,熱帯病に有効な薬剤開発が強力に促進されつつある.本論では,製薬企業の取り組みの一例として,弊社の熱帯病薬開発の活動を紹介し,特にNTDs治療薬開発に特化したPDPとして著明なDrugs for Neglected Diseases initiative(DNDi)と共同して進めているシャーガス病とマイセトーマ(真菌性菌腫)に関する経験を述べる.

  • 鹿角 契
    2017 年 149 巻 5 号 p. 231-234
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー

    マラリアや結核,顧みられない熱帯病,そしてエボラ出血熱やジカ熱―世界は今もなお感染症の脅威にさらされ続けている.日本がもつイノベーション,研究開発能力を感染症対策のために活かすことは,国際貢献,また安全保障の観点からも大変重要といえる.グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は,外務省と厚生労働省,日本の製薬企業,ビル&メリンダ・ゲイツ財団等の共同出資によって2013年に設立されたグローバルヘルスR&Dに特化した日本発の非営利・国際機関であり,途上国で蔓延する感染症に対する治療薬,ワクチン,診断薬の研究開発を支援している.これまでに60件以上のプロジェクトに対して総額60億円以上の投資を行い,7件がすでに臨床試験の段階に入っている.また,日本の複数の研究機関,製薬企業が各化合物ライブラリーを活用し,感染症に有効なヒット化合物の発見,さらにリード化合物に進めるべく研究開発を推進している.今後,日本が感染症に対抗すべく創薬開発をさらに推進し,国際保健分野での貢献を果たしていく役割は大きい.

総説
  • 田中 宏幸, 山下 弘高, 稲垣 直樹
    2017 年 149 巻 5 号 p. 235-239
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー

    アレルギーの原因となる抗原の多くはプロテアーゼ活性を有し,外界とのバリアとして働く上皮系細胞を種々の環境因子とともに刺激する.上皮系細胞からは,この特異的な刺激によりdanger signals(ATPや尿酸)やサイトカイン(IL-25,IL-33,thymic stromal lymphopoietin(TSLP))が産生され,抗原特異的な2型免疫応答の方向性が決定される.近年,3種類の自然リンパ球(innate lymphoid cells:ILCs)が発見され,特に2型ILCs(ILC2)がアレルギーの発症や病態形成に関与することが明らかになりつつある.ILC2は抗原受容体を持たない代わりに,上述のサイトカインの受容体を発現し,それらの刺激を受けた後にヘルパー2型T細胞(Th2)とは比較にならないほどの大量のTh2サイトカインを産生することが特徴の一つである.したがって,抗原侵入部位において抗原特異的なTh2免疫応答が開始される前にIL-5やIL-13などのサイトカイン産生を介し好酸球増多や粘液産生を誘導することにより,抗原や寄生虫排除に重要な役割を有すると考えられる.ILC2の活性化はアラキドン酸代謝産物によっても生ずる.特にシステイニルロイコトリエン(cysLTs)やプロスタグランジンD2はそれぞれcysLT1受容体やCRTh2受容体を介しILC2を活性化することから,これら受容体拮抗薬がILC2活性化抑制薬となり得る.一方,ILC2はIL-33の刺激とともにTSLPの刺激を受けるとステロイド抵抗性になることから,特にTSLPのシグナルが治療標的として注目されている.また,近年,IFNsやIL-27,PGI2など内因性のILC2活性化抑制因子が相次いで発見されていることから,アレルギー性疾患の治療への応用が期待される.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(13)
  • 福澤 薫
    2017 年 149 巻 5 号 p. 240-246
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー

    タンパク質の全電子計算が可能なフラグメント分子軌道(FMO)法によって,創薬の標的タンパク質とリガンドとの複合体構造から,それらの間の相互作用エネルギーを量子論的に計算することができ,これまでにない高精度の構造ベース創薬が可能になってきている.FMO法にもとづく「FMO創薬」は,新規化合物の精密な設計や合理的なリード化合物の最適化,インシリコスクリーニング,さらにはビッグデータに基づく創薬へと繋がることが期待されている.現在はFMO創薬の実現に向けて,産学官連携のFMO創薬コンソーシアムを母体として,スーパーコンピュータ「京」を活用した大規模な手法の検証と開発を行っており,2016年末までに700を超えるタンパク質-リガンド複合体構造のFMO計算を実施済みである.本稿ではFMO法の概要と応用例,最近のコンソーシアムの活動について概説する.

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