日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
122 巻 , 1 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
ミニ総説号「プロテアーゼ疾患の分子病態と治療戦略」
  • 岩田 修永, 西道 隆臣
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 122 巻 1 号 p. 5-14
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/06/24
    ジャーナル フリー
    アミロイドβペプチド(amyloid β peptide, Aβ)の蓄積はアルツハイマー病(Alzheimer's disease, AD)脳で進行的な神経細胞の機能障害を起こす引き金になる.しかし,ADの大半を占める孤発性ADにおいて,何故Aβが蓄積するのかは不明である.家族性ADと異なり,Aβ合成の上昇が普遍的な現象として認められないことから,老化に伴うAβ分解システムの低下が脳内Aβレベルを上昇させ,蓄積の原因となる可能性が考えられた.我々の研究室では,Aβの脳内分解過程をin vivoで解析する実験と分解酵素の候補になったプロテアーゼのノックアウトマウスの解析により,ネプリライシンがAβ分解の律速段階を担う主要酵素であることを明らかにした.ネプリライシンノックアウトマウスの脳では著しいAβ分解活性の低下と内在性Aβレベルの上昇が認められ,これにより初めて分解系の低下もAβ蓄積を引き起こす要因になりうることが実証されたのである.また,ネプリライシンは神経細胞のプレシナプス部位に存在し,正常老齢マウスを用いた実験で加齢に伴って貫通線維束と苔状線維の終末部位で選択的に低下することが分かった.このことは,海馬体神経回路の記憶形成にかかわる重要な部位で局所的にAβ濃度が上昇することを意味する.一方,ネプリライシンを強制発現した初代培養ニューロンでは細胞内外のAβが顕著に減少することより,分解系の低下を抑制することや分解系を操作して増強することが,加齢に伴うAβ蓄積を抑制し,アルツハイマー病の予防や治療に役立つことを示唆する.神経細胞におけるネプリライシンの活性あるいは発現は神経ペプチドによって制御される可能性が考えられる.神経ペプチドのレセプターはGタンパク質共役型であるので,薬理学的に脳内Aβ含量を制御できることが期待される.
  • 筑波 隆幸, 山本 健二
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 122 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/06/24
    ジャーナル フリー
    カテプシンEは免疫細胞や皮膚などに限局的に存在する細胞内アスパラギン酸プロテアーゼである.我々はカテプシンEの機能を解析するために遺伝子欠損マウス(ノックアウトマウス)を作成した.カテプシンE欠損マウスは無菌(Specific pathogen-free, SPF)環境下で飼育しても,全く異常は認められなかったが,コンベンショナル(Conventional)環境下で飼育するとアトピー性皮膚炎様症状を示した.このマウスは病理組織学的にもアトピー性皮膚炎の特徴である表皮肥厚と皮下組織への好酸球,マクロファージ,リンパ球,肥満細胞などの細胞浸潤が認められた.また,血液学的解析でも,高好酸球血症と高IgE血症が見られ,脾臓細胞からのIL-4,IL-5などのTh2サイトカインの産生上昇が観察された.さらに,血清でのIL-1βおよびIL-18濃度の上昇とこれらのサイトカインの生物学的半減期の遅延が認められた.アトピー性皮膚炎患者においても,カテプシンE量が健常者とくらべて有意に減少していることから,ヒトおよびマウスともにカテプシンEの欠損あるいは低下によりアトピー性皮膚炎発症を惹起することが分った.
  • 反町 洋之, 川畑 順子
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 122 巻 1 号 p. 21-29
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/06/24
    ジャーナル フリー
    カルパインは様々な生物種·組織で機能する,Ca2+によって活性化される細胞内システインプロテアーゼである.哺乳類には14種類の分子種が存在し,その生理機能は未だに不明な点が多いが,筋ジストロフィーや神経変性などの病態への関与が報告されている.特に骨格筋特異的に発現するカルパイン,p94(カルパイン3とも呼ばれる)は肢帯型筋ジストロフィー2A型(LGMD2A)の責任遺伝子産物と同定されており,疾患との関連性が深く研究されている.p94は,代表的な分子種であるµ-,m-カルパインと高い相同性を示すが,特徴的な3つの挿入配列を有しており,それらによってp94の特異的な性質,すなわちCa2+非依存的な高い自己消化活性能,骨格筋構成タンパク質コネクチンへの結合などが生み出されると考えられている.LGMD2Aはp94のプロテアーゼ機能欠損が発症原因となることから,p94の特徴的な機能が骨格筋組織の維持に不可欠なことは明らかである.以上を踏まえ,既に解明されているµ-,m-カルパインの結晶構造にp94の構造を投影させることなどで,p94の機能と構造の相関を考察した.こうした考察はp94の骨格筋での役割とLGMD2A発症過程の分子機構を解析するうえで重要であり,さらに組織普遍的なカルパインの機能の解明に応用することで,カルパインが関与する病態の機構と治療法の確立に大きく貢献すると考えられる.
  • 田中 啓二, 村田 茂穂
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 122 巻 1 号 p. 30-36
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/06/24
    ジャーナル フリー
    様々な神経変性疾患の脳内病理所見でタンパク質の凝集体が出現することは,共通にみられる普遍的な現象である.この凝集体の主成分であるタンパク質の多くがユビキチンで修飾されていることが報告されてきた.ユビキチンがタンパク質分解のマーカー分子であることから,これらの疾病の発症原因にタンパク質代謝系の異常が示唆されてきたが,その分子機構の解明は遅々として進展しなかった.しかし,ユビキチン·プロテアソームシステム研究の飛躍的な進展により,その突破口が開かれようとしている.細胞内において,タンパク質は時として異常性を獲得するが,生じた異常タンパク質を処理し恒常性を維持する機構が備わっている.その主役は分子シャペロンと呼ばれる一連の分子群であり,損傷したタンパク質の再生装置として寄与している.もう一方の役者がユビキチン·プロテアソームシステムである.ユビキチン·プロテアソームシステムはもはや再生して機能タンパク質に復帰することができなくなった異常タンパク質を選別して破壊するマシーンであり,不要物の累積を回避する生存戦略の一貫として重要な役割を果たしている.これらは,分子レベルでみるとタンパク質の健康度をモニターして適宜に処理する細胞内装置とみなすことができる.この現象をタンパク質側からとらえると細胞内の全てのタンパク質は恒常的に品質管理されており,細胞内では無駄な存在が許容されない健全な仕組みが作動していることになる.ごく最近,このタンパク質の品質管理の破綻の累積がニューロンにおける恒常性維持の危険信号となり,引いては細胞死につながることが推定されている.そして特異的なニューロンの大規模な死によって,特定の脳組織の機能が逸脱した結果として引き起こされる様々な神経変性疾患の共通の基盤となっている可能性が高まっている.
  • 門脇 知子, 瀧井 良祐, 馬場 貴代, 山本 健二
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 122 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/06/24
    ジャーナル フリー
    グラム陰性偏性嫌気性細菌Porphyromonas gingivalis(ジンジバリス菌)は歯周炎の発症·進行において最重要視されている病原性細菌であり,菌体表面および菌体外に強力なプロテアーゼを産生する.なかでもジンジパイン(gingipains)は本菌の産生する主要なプロテアーゼであり,ペプチド切断部位特異性の異なるArg-gingipain(Rgp)とLys-gingipain(Kgp)が存在する.両酵素は相互に協力しながら生体タンパク質の分解を引き起こし,宿主細胞に傷害を与え,歯周病に関連する種々の病態を生み出すと考えられている.ジンジパインは歯肉線維芽細胞や血管内皮細胞の接着性を消失させ細胞死を誘導する.こうしたジンジパインの病原性は本菌の保有する病原性の大部分を占めており,それらの特異的阻害薬を用いることや遺伝子を欠損させることによって消失させることができる.ジンジパインは単量体として菌体細胞外に分泌されるだけでなく,外膜上では血球凝集素やヘモグロビン結合タンパク質,LPS,リン脂質と結合した高分子複合体としても存在する.この膜結合型ジンジパイン複合体は単量体よりさらに強力な細胞傷害活性を示す.ジンジパインは宿主に対して強い病原性を発揮する一方で,菌自身にとってはその生存増殖に不可欠であり,ジンジパイン阻害薬の存在下では本菌は増殖できない.最近,歯周病が心筋梗塞,早産·低体重児出産などの全身疾患のリスクファクターであることが指摘されるようになり,これら疾患とジンジバリス菌の関係も注目されている.本稿ではジンジパインの構造学的·病理学的特性と特異的阻害薬の開発によるその制御の試みについて紹介する.
  • 木戸 博, Chen Ye, 山田 博司, 奥村 裕司
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 122 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/06/24
    ジャーナル フリー
    インフルエンザウイルスの生体内増殖に個体由来のトリプシン型プロテアーゼが必須で,ウイルスの感染性発現の決定因子になっている.最近このプロテアーゼ群の解明が進み,気道の分泌型プロテアーゼのトリプターゼクララ,ミニプラスミン,異所性肺トリプシン,膜結合型トリプシン型プロテアーゼ群が相次いで同定された.これらのプロテアーゼはそれぞれ局在を異にするだけでなく,ウイルス亜系によってプロテアーゼとの親和性を異にして,ウイルスの増殖部位と臨床症状を決めている.一方これらのプロテアーゼ群に対する生体由来の阻害物質の粘液プロテアーゼインヒビターや肺サーファクタントが明らかとなり,合わせて個体のウイルス感染感受性を決める重要な因子となっている.小児のインフルエンザ感染では,aspirin,diclophenac sodium服用時のライ症候群や,解熱剤を服用していない患者でも見られる急速な脳浮腫を主症状とする致死性の高いインフルエンザ脳症が社会問題になっている.インフルエンザ脳症発症モデル動物を用いた我々の研究から,このインフルエンザ脳症の原因として,インフルエンザ感染と共に脳血管内皮細胞で急速に増加するミニプラスミンが,血液脳関門の障害と血管内皮細胞でのウイルス増殖に,直接関与していることが明らかとなってきた.さらにミニプラスミンの血管内皮での蓄積を裏付けるミニプラスミンやプラスミンのレセプターが,発症感受性の高い動物の血管内皮で見いだされた.これらのことからインフルエンザ脳症は,発症感受性遺伝子,発症感受性因子の検索に研究の焦点が絞られてきた.本総説では,我々の研究を中心に最近の知見を紹介する.
総説
  • 大槻 純男, 堀 里子, 寺崎 哲也
    原稿種別: 総説
    2003 年 122 巻 1 号 p. 55-64
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/06/24
    ジャーナル フリー
    血液脳関門(blood-brain barrier: BBB)は,血液と脳を隔てる関門組織として存在し薬物の脳への透過性を制限していることは,古くから認識されていた.近年のBBB研究の成果によって,BBBには栄養物質を脳へ供給する輸送系だけではなく,脳から血液方向の排出(efflux)輸送系の存在が明らかになり,それら輸送系の機能が薬物の脳移行性に大きな影響を与えていることが明らかになりつつある.血液から脳への輸送を行うinflux輸送系は,薬物を脳へ移行する通り道となる.BBBに発現するアミノ酸輸送系の一つであるsystem Lによって,L-DOPAは脳内に輸送される.また,一部の塩基性のµ-opioid peptide analogueは,BBBと電荷的相互作用を介したtranscytosisによって脳内に移行する.一方,排出輸送系によって排出されてしまうために脳内分布が低下してしまうケースも存在する.排出輸送に関わる分子としてATP-binding cassette(ABC)トランスポーターのABCB1(MDR1)が存在する.この輸送系は,ATP水解エネルギーを利用して,比較的脂溶性の高い薬物を血中に排出する.また,内因性物質の排出輸送系によっても薬物が脳から排出される.ドパミンの代謝物であるhomovanillic acidは,organic anion transporter 3(OAT3)が関与する排出輸送系によって脳から排出される.このOAT3が関与する排出輸送系によって6-mercaptopurineやacyclovir等が排出され脳への移行が制限されている可能性が示唆されている.また,BBBにはシナプスと同様にセロトニンやノルエピネフリンのトランスポーターが発現していることから,これらトランスポーターを阻害する抗うつ薬による相互作用が考えられる.現在,血液脳関門に発現し薬物の輸送に関わる輸送系や,薬物と相互作用する輸送系が徐々に明らかになりつつある.今後,このようなBBBの輸送系の解明は中枢作動薬の開発や中枢疾患の病因解明に重要な知見となるであろう.
  • 坂梨 又郎, 市原 和夫, 吉田 啓之, 久保田 徹, 富永 隆治, 野口 克彦, 小畑 俊男
    原稿種別: 総説
    2003 年 122 巻 1 号 p. 65-72
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/06/24
    ジャーナル フリー
    虚血や心不全などの好ましくない状況から心臓を保護するにはどのような要素がこのような状況に関連し,また,どのような薬物がこれらに影響するのかについて検討することが必要と思われる.このため,第75回日本薬理学会年会シンポジウム40「心筋保護:最近の話題」では次の6つの研究成果が発表された:(1)慢性心不全でのサルコグリカン複合体の役割(吉田啓之),(2)心不全と炎症性サイトカイン(久保田徹),(3)開心術中心筋保護の基本戦略と最近のトピックス(富永隆治),(4)心筋虚血再灌流傷害におけるtetrahydrobiopterinの役割(野口克彦),(5)一酸化窒素による心筋保護作用(小畑俊男),(6)虚血心筋保護薬としての抗酸化薬の再考(市原和夫).この総説は,このシンポジウムでの発表内容をとりまとめたものである.
  • 岡部 進, 天ヶ瀬 紀久子
    原稿種別: 総説
    2003 年 122 巻 1 号 p. 73-92
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/06/24
    ジャーナル フリー
    消化性潰瘍の成因,および治療薬の開発のために,実験動物に種々の潰瘍モデルが考案されてきたが,多くは急性潰瘍モデルであり,また筋層に達する損傷であっても,数週間以内に治癒し,再燃·再発することはなかった.しかし,筆者らは,酢酸潰瘍モデルという簡便に作製出来る慢性潰瘍モデルを4型考案した.その内,2つの潰瘍モデルは,潰瘍発生後,長期間(>1.5年)持続し,再燃·再発を繰り返す潰瘍であることが証明された.さらに,他の研究者は,酢酸を使用して食道潰瘍,口腔内潰瘍,大腸潰瘍モデルも作製した.現在,これらの酢酸を使用した潰瘍モデルは国内外で繁用され,潰瘍の治癒過程の解明,抗潰瘍薬の効力検定,さらに非ステロイド性抗炎症薬の胃腸障害作用の有無の検討,ヘリコバクター·ピロリ菌による潰瘍の遅延,再発の機序の研究に使用されている.これらの潰瘍モデルの使用により,現在臨床応用されている薬物も多く開発され,また潰瘍の治癒,再発機構の解明も時代とともに分子レベルで進んでいる.さらに,難治性潰瘍には遺伝子治療の可能性も示唆されている.今回は,潰瘍モデルの歴史,酢酸潰瘍モデルの紹介,各種薬物の効果を主に記載した.
    1.はじめに
    2.実験潰瘍モデルの歴史
    3.酢酸潰瘍モデルを使用した薬効評価
    4.酢酸潰瘍の遺伝子治療
    5.結語
新薬紹介総説
  • 表 雅之
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2003 年 122 巻 1 号 p. 93-101
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/06/24
    ジャーナル フリー
    エレトリプタン(レルパックス®)は,トリプタン系と呼ばれる新しいタイプの片頭痛治療薬である.エレトリプタンは,5-HT1B/1D受容体の活性化を介して,頭蓋血管を収縮させ,また,三叉神経からのニューロペプチドの遊離を抑制することにより,痛みの中枢への伝導を減少させると考えられている.エレトリプタンは,ヒト5-HT1B/1D受容体に対して選択的な親和性と強力なアゴニスト作用を示し,冠動脈と比較して頭蓋血管を選択的に収縮させることが麻酔イヌおよび摘出ヒト血管を用いた実験において確認された.5-HT1B/1D受容体に対する親和性および頭蓋血管に対する選択性はスマトリプタンより高かった.エレトリプタンは,また,麻酔ラットの三叉神経を電気刺激したときに頭蓋の硬膜に発現する血管透過性の亢進をスマトリプタンと同程度抑制した.エレトリプタンをヒトに投与したときの吸収は早く,高い生物学的利用率を示した.臨床試験においては,速やかな頭痛の改善効果と再発抑制効果を示し,また,日常生活への支障度を片頭痛の随伴症状である嘔気·嘔吐·光過敏とともに改善した.エレトリプタンを長期間,複数回の発作に対して投与しても頭痛改善率の低下または副作用発現率の増加は見られなかった.エレトリプタンの安全性に問題はなく,認められた有害事象のほとんどは中等度以下であった.
feedback
Top