日本薬理学雑誌
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158 巻, 5 号
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特集:ミクログリアがコードする情報の読み出しへの挑戦
  • 小山 隆太
    2023 年 158 巻 5 号 p. 347
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル 認証あり
  • 河野 玲奈, 池谷 裕二, 小山 隆太
    2023 年 158 巻 5 号 p. 348-352
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル 認証あり

    脳内の神経細胞は互いにシナプスを形成することで回路を構築するが,グリア細胞はシナプスの形成と除去に関与している.グリア細胞には,ミクログリア,アストロサイト,オリゴデンドロサイトがあり,それぞれ異なる遺伝子発現パターンや形態に支えられた特徴的な機能を有しているが,シナプス貪食という共通の機能を通して,神経回路のシナプスの数を調節することが明らかになった.また,脳の部位や時期によって,特定のグリア細胞が特定のシナプスを貪食することが報告されており,それぞれの貪食プロセスに関わる分子メカニズムの一端が解明されている.例えば,シナプス貪食との関連で最も多く報告されているグリア細胞であるミクログリアは,補体を含む様々な「eat me signals」を認識してシナプスを貪食し,発生期の神経回路の精密化に寄与することが知られている.さらに最近では,アストロサイトやオリゴデンドロサイト前駆細胞もシナプスの貪食に関与していることが明らかになっている.興味深いことに,異なる種類のグリア細胞が同じ種類のシナプスを貪食しているという報告もある.そして,場合によっては,異なるグリア細胞種が互いにシナプス貪食を制御していることも示唆されている.本総説では,グリア細胞によるシナプス貪食に関する最近の研究を紹介しながら,複数種のグリア細胞によるシナプス貪食の意義について議論する.

  • パラジュリ ビージェイ, 小泉 修一
    2023 年 158 巻 5 号 p. 353-358
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル 認証あり

    ミクログリアは,脳内免疫を担当する唯一のグリア細胞である.ミクログリアは常に脳内の環境を監視し,異常を探知するとダメージを受けた細胞を貪食し,液性因子(炎症性因子,細胞障害性因子,栄養因子など)の産生・放出等を行い,組織恒常性の維持に貢献する.最近,アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患において,ミクログリアが過剰に活性し,正常な神経細胞機能を障害することで,これら疾患の発症及び増悪を引き起こすことが明らかになってきた.ミクログリアの生存にはコロニー刺激因子1受容体(CSF1R)シグナルが必須である.従ってCSF1R拮抗薬を用いると,過剰活性化したミクログリア除去,除去/自己再生によるリセット,または除去後の新しいミクログリア移植等のミクログリア操作が可能となる.これらは,脳疾患の新しい治療戦略として有望視され,盛んに基礎研究が行われている.本稿では,様々な中枢神経系疾患におけるミクログリアの役割,また治療戦略としてミクログリア除去,リセット及び移植に関する最新の知見を紹介する.

  • 和氣 弘明, 橋本 明香里, 加藤 大輔, 竹田 育子
    2023 年 158 巻 5 号 p. 359-361
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル 認証あり

    ミクログリアは中枢神経系唯一の免疫細胞である.これまで発達期及び成熟期において神経幹細胞の細胞死に関与することで,能動的に神経細胞の数を制御することが明らかにされている.さらに近年の光学技術を用いて,生体イメージングが可能となり,ミクログリアのシナプスに対する機能が明らかとなってきた.ミクログリアはシナプス活動を定期的にモニターし,脳梗塞などの障害時には異常な活動を示すシナプスを取り除く働きがある.また発達期においては発達早期のシナプス形成時には,樹状突起に接触することで,未熟なシナプス形成に寄与し,さらに古典的補体カスケードシグナルを用いることで,活動の弱いシナプスを選択的に除去し,シナプス除去過程に関わる.さらにこれらの異常は発達期においては自閉症の発症に関与することが知られ,成熟期においてはアルツハイマー型認知症の発症に寄与することが知られている.これに加えて,ミクログリアは成熟期の学習過程のシナプスの可塑的変化にも寄与する.さらにシナプス活動を修飾することで,神経回路の活動変化にも関わることが知られている.このようなシナプスに対する機能に加えて,近年血液脳関門の透過性に関わることなども知られている.本章ではこれらの機能を総括し,論じたい.

  • 津田 誠, 河野 敬太
    2023 年 158 巻 5 号 p. 362-366
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル 認証あり

    体性感覚神経系の傷害や疾患によって神経障害性疼痛という慢性疼痛が発症する.病態モデル等を用いたこれまでの研究から,神経障害性疼痛の発症におけるミクログリアの寄与が示されてきた.神経損傷等を感知したミクログリアは,細胞形態や遺伝子発現を伴いその細胞機能を変化させ,痛覚伝達神経の興奮性を高めて疼痛の発症を誘導する.しかし最近,神経障害性疼痛の寛解期に増加するミクログリアサブセット(CD11c陽性)が新たに特定され,疼痛の自然寛解に必要であることと,その後も寛解状態の維持に重要な役割を担うことが明らかになった.すなわち,神経損傷によって変化したミクログリアの機能や役割は一元的ではなく,発症・維持・寛解という各フェーズにおいてダイナミックに変化することが示唆される.これらのミクログリアの多様性とその役割に関する新しい知見から,神経障害性疼痛や他の神経疾患を読み解く新しいストラテジーの確立が期待される.

特集:臓器連関と創薬:循環器・泌尿器疾患における最新知見
  • 筒井 正人, 齊藤 源顕
    2023 年 158 巻 5 号 p. 367
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル 認証あり
  • 澤野 達哉, 今村 武史, 三明 淳一朗
    2023 年 158 巻 5 号 p. 368-373
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル 認証あり

    心血管疾患は有病率および罹患率が高く,世界的な主要な死因である.近年,技術の進歩により,腸内細菌叢の異常が心血管疾患を含む様々な疾患と関連していることが報告されている.腸内細菌叢は複雑な生態系であり,宿主の健康維持に重要な役割を担っている.腸内細菌叢のバランスが崩れると,腸内細菌由来物質として短鎖脂肪酸やトリメチルアミン-N-オキシド,リポポリサッカライドなどの産生に変化が生じ,心血管疾患発症の一因となることが報告されている.創薬において,腸内細菌をはじめとする腸と心臓の関連に着目することは,心血管疾患の予防と治療への有望なアプローチである.しかし,このアプローチを効果的な治療法に転換するために克服しなければならない課題に直面している.本稿では,アテローム性動脈硬化や心不全,心房細動などの心血管疾患に焦点を当て,心血管疾患と腸内細菌および腸内細菌由来物質との関連について概説する.また,心血管疾患の治療や予防のために,腸-心臓連関を標的とした創薬の課題と可能性について論じる.

  • 筒井 正人
    2023 年 158 巻 5 号 p. 374-378
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル 認証あり

    臓器連関における一酸化窒素合成酵素(NOSs)系の役割は不明な点が多い.私達は,この点を,NOSs系完全欠損(triple n/i/eNOSs-/-)マウスを用いて検討した.私達は,triple n/i/eNOSs-/-マウスが心筋梗塞を引き起こすことを報告した.しかし,心筋梗塞の発症には約1年もの長期間を要した.一方,triple n/i/eNOSs-/-マウスの腎臓を2/3摘除すると,4~5ヵ月後に心筋梗塞による突然死が認められた.2/3腎摘triple n/i/eNOSs-/-マウスは心筋梗塞を発症する実験に有用なモデルである.本研究の結果から,NOSsは腎-心連関において保護的役割を果たしていることが示唆された.私達は,次に,血管病変形成における骨髄細胞のNOSsの役割を検討した.マウスの頸動脈を結紮すると14日後には収縮性血管リモデリングと新生内膜形成を特徴とする血管病変が形成された.この血管病変形成の程度は,野生型(WT)マウスの骨髄を移植したWTマウスと比較してtriple n/i/eNOSs-/-マウスの骨髄を移植したWTマウスにおいて著明に増悪していた.これらの結果から,NOSsは骨髄-血管連関において保護的役割を果たしていることが示唆された.私達は,さらに,肺高血圧における骨髄細胞のNOSsの役割を検討した.低酸素暴露3週間後の肺高血圧の重症度は,WTマウスの骨髄細胞を移植したWTマウスと比較してtriple n/i/eNOSs-/-マウスの骨髄細胞を移植したWTマウスにおいて著明に増悪していた.これらの結果から,NOSsは骨髄-肺連関において保護的役割を担っていることが考えられた.以上より,全身および骨髄のNOSsは,心筋梗塞,血管病,肺高血圧における重要な治療標的であることが示唆された.

  • 清水 翔吾
    2023 年 158 巻 5 号 p. 379-383
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル 認証あり

    過活動膀胱は尿意切迫感を必須とし,頻尿,夜間頻尿を伴い,切迫性尿失禁の有無は問わないと国際禁制学会により定義されている.本邦における過活動膀胱患者は約1,000万人以上と推定され,生活の質の低下が問題となっている.過活動膀胱に対する薬物治療としては,抗コリン薬,β3受容体作動薬の服用ならびにボツリヌス毒素膀胱内注入療法などが挙げられる.しかしながら,いまだ薬物が奏功しない,もしくは有害事象により治療を中断する例は一定数存在する.そして,現行の薬物療法は膀胱を中心とした末梢臓器に作用する薬物であり,排尿および蓄尿を制御する脳に作用する効果的な薬物は存在しない.アンジオテンシンⅡ(Ang II)は末梢のみならず中枢レベルにおいても,血圧および水分調整など様々な生理反応に関与することが報告されている.これまで筆者らは,脳内Ang IIが排尿反射を促進する生理作用を有することを動物実験にて報告した.そして,その反応はAng IIタイプ1(AT1)受容体下流シグナル経路(phospholipase C/protein kinase C/NADPH oxidase/superoxide anion)活性化ならびにGABA神経系抑制を介することを提起した.さらに,中枢移行性のある降圧薬AT1受容体拮抗薬(ARB)テルミサルタンの経口投与が脳内Ang IIによる頻尿を抑制した.これら結果より,高血圧かつ過活動膀胱に対して,ARBは両疾患を抑制する有効な薬物である可能性が示唆された.本稿では,脳内AT1受容体を標的としたARBの頻尿抑制効果について,著者らの研究成果を中心に紹介する.

創薬シリーズ(8)創薬研究の新潮流58 ~ベンチャーが拓く創薬研究~
  • 徳永 周彦, 前川 敏彦
    2023 年 158 巻 5 号 p. 384-390
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル 認証あり

    株式会社サイフューズは,革新的な3D細胞積層技術を用いて再生医療等製品の社会実装を目指すべく,2010年に設立された研究開発型ベンチャーであり,2022年12月に東京証券取引所グロース市場への新規上場を果たした.エンジニアリングとバイオロジーの2つの異分野技術の融合から生み出された独自のプラットフォーム技術をもとに,ヒトの細胞のみから成る3D細胞製品を開発している.再生医療等製品として承認取得を目指す3つの主要パイプラインが,現在すでにヒト臨床試験のステージへ進んでおり,近い将来の社会実装が期待されている.また,再生医療向け以外にも,基盤技術である剣山メソッドを活用した機能性細胞デバイスの開発も並行し,新薬開発に貢献する支援ツールの販売も開始した.以上のような当社の細胞製品の実現を裏で支える特殊なアディティブマニュファクチュアリング(AM)技術なども併せ,当社の目指す医療分野への貢献について,具体例を交えて詳しく紹介する.

新薬紹介総説
  • 星山 弘敏
    2023 年 158 巻 5 号 p. 391-398
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル オープンアクセス

    ソトラシブ(ルマケラス®)は,KRASタンパク質の12番アミノ酸がグリシン(G)からシステイン(C)に変異したKRAS G12Cに選択的に結合し,KRASの活性型への構造変化を不可逆的に阻害する,世界初のRAS阻害薬である.ソトラシブの標的となるKRAS G12Cを生じさせる遺伝子変異(KRAS G12C変異)は非小細胞肺がんにおいて認められる発がんドライバーの1つであり,KRAS G12C変異によりKRASが活性型に維持されることで下流のシグナル伝達が亢進し,腫瘍細胞の増殖及び生存につながると考えられている.ヒトのがんにおけるRAS変異の役割については数十年前から知られていたものの,RASは正常細胞においても機能していること,RASとGTPの親和性が高く細胞内GTP濃度も高いこと,RASは表面構造の起伏が乏しいことから,長らくRASを標的とした創薬は不可能とされてきた.しかし,2013年にKRASのSwitch IIポケットが発見され,KRAS G12Cに特異的に結合する化合物が報告されたことがソトラシブの開発につながった.ソトラシブはKRAS G12C変異陽性細胞株の増殖を抑制するとともに,KRAS G12C変異陽性細胞株を移植したマウスモデルにおいて腫瘍の増殖を抑制した.臨床試験(CodeBreaK 100試験/20170543試験/NCT03600883)では,ソトラシブを1日1回960 mg経口投与したKRAS G12C変異陽性の進行非小細胞肺がん患者における客観的奏効が37.4%で認められた.また,用量制限毒性は認められず,その他の有害事象も忍容可能であった.以上の結果,本邦で2021年3月に希少疾病用医薬品に指定されたソトラシブは,2022年1月に「がん化学療法後に増悪したKRAS G12C変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」に対する治療薬として承認を取得した.

  • 丸山 祐哉, 吉田 拓允, 丸山 格
    2023 年 158 巻 5 号 p. 399-407
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/09/05
    [早期公開] 公開日: 2023/07/15
    ジャーナル オープンアクセス

    抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)は全身の臓器病変を伴う壊死性の血管炎である.グルココルチコイド(GC)と免疫抑制薬を組み合わせた標準療法によりAAVの予後は大きく改善されているものの,GC使用に伴う副作用など対処すべき問題が残されている.アバコパン(タブネオス®カプセル)はAAVのうち,顕微鏡的多発血管炎(MPA)及び多発血管炎性肉芽腫症(GPA)を効能または効果として,本邦で2021年9月に製造販売承認された経口投与可能な選択的C5a受容体(C5aR)拮抗薬である.補体成分C5aによって引き起こされる好中球の機能亢進(プライミング)はAAVの病態形成に深く関与するが,アバコパンはC5aRの拮抗阻害を通じてこれを抑制する.非臨床試験においてアバコパンはC5a-C5aRシグナルの活性化によって引き起こされる好中球の細胞走化性やプライミングに対して抑制作用を示した.また,ANCAによって誘発される糸球体腎炎モデルマウスの腎炎及び腎障害の発症を有意に抑制した.MPA及びGPAを対象とした日本を含む国際共同第Ⅲ相臨床試験(ADVOCATE試験)において,アバコパン群はプレドニゾン群と比較し,26週時の寛解について非劣性を,また52週時の寛解維持について優越性を示し,主要評価項目を達成した.同時に,Glucocorticoid Toxicity Indexによってスコア化されたGC毒性はアバコパン群で有意に低く,また,GCとの関連が否定できない有害事象の発現も少なかった.さらに,推算糸球体ろ過量(eGFR)による腎機能評価についても,アバコパン群はプレドニゾン群と比較して良好な改善作用を示した.以上,補体系を標的とする新規作用機序を有するアバコパンは,GCによる副作用の軽減や腎機能の改善を可能とするAAVの新たな治療選択肢になると期待される.

  • 矢尾 幸三, 曽根原 裕介, 永濵 文子
    2023 年 158 巻 5 号 p. 408-418
    発行日: 2023/09/01
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル オープンアクセス

    ダルビアス®点滴静注用135 ‍mgの有効成分であるダリナパルシンは,グルタチオン抱合体構造を有する有機ヒ素化合物である.腫瘍細胞内でミトコンドリアの機能障害(膜電位の低下等)や細胞内活性酸素種の産生促進等を引き起こすことにより,アポトーシス及び細胞周期停止を誘導し,腫瘍増殖抑制作用を示す.ダリナパルシンの一部は,細胞膜表面に発現するγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GT)を介してジメチルアルシン酸-システインに変換され,シスチントランスポーターによって細胞内に取り込まれる.多くの腫瘍細胞は,酸化ストレスを回避するためグルタチオンの細胞内レベルを高く維持しており,そのためγ-GTとシスチントランスポーターが高発現している.ダリナパルシンは,腫瘍細胞のこの特性を利用し,腫瘍細胞に効率的に取り込ませることで増殖抑制作用を示すよう設計された新規の抗悪性腫瘍薬である.再発又は難治性の末梢性T細胞リンパ腫を対象とした国際共同第Ⅱ相試験(ピボタル試験)において,主要評価項目である効果安全性評価委員会の中央判定による奏効率は19.3%(11/57例,90%信頼区間:11.2~29.9%)であり,ダリナパルシンが投与された患者65例のうち発現頻度が5%以上のGrade 3以上の副作用は,好中球減少(9.2%,6例),貧血(6.2%,4例)及び血小板減少(6.2%,4例)であった.国際共同第Ⅱ相試験で再発又は難治性の末梢性T細胞リンパ腫に対する一定の有効性及び許容可能な安全性が示されたことを受け,「再発又は難治性の末梢性T細胞リンパ腫」を効能・効果として2022年6月にソレイジア・ファーマ株式会社が承認を取得し,同年8月に日本化薬株式会社から発売された.当該疾患の新たな治療選択肢の一つとして臨床現場に寄与し得ることが期待される.

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