日本薬理学雑誌
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148 巻 , 5 号
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特集 肺循環薬理学研究の最前線
  • 山村 彩
    2016 年 148 巻 5 号 p. 226-230
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/01
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    肺高血圧症とは,様々な要因により慢性的に肺動脈圧が上昇する病態の総称である.安静時の肺動脈平均圧が25 mmHg以上の場合に肺高血圧症と診断される.肺高血圧症は病態の進行に伴って肺血流量が低下し,最終的には右心不全に至る予後不良の難治性血管疾患である.肺高血圧症において,最も典型的な臨床像を示す肺動脈性肺高血圧症(PAH)の特徴は,肺動脈平滑筋の攣縮と肺血管リモデリングである.これらの病態の主な原因は,肺動脈平滑筋における細胞内Ca2+シグナルの異常な亢進である.肺動脈平滑筋の細胞質内Ca2+濃度の調節には,細胞膜上に発現するイオンチャネルが深く関与している.イオンチャネル分子の発現および活性が変化して細胞内Ca2+ホメオスタシスが破綻すると,PAHの発症や病態形成に進展する.本稿では,肺動脈平滑筋細胞に機能発現するイオンチャネルの中でも,特に細胞内Ca2+シグナル応答に密接に関連する電位依存性Ca2+チャネル,電位依存性Kチャネル,Ca2+活性化Kチャネル,transient receptor potential canonical subfamily(TRPC)チャネル,Orai/STIMチャネル,Ca2+活性化Clチャネルに注目し,PAHにおける発現変動について概説する.

  • 堀之内 孝広, 真崎 雄一, 寺田 晃士, 東 恒仁, 三輪 聡一
    2016 年 148 巻 5 号 p. 231-238
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/01
    ジャーナル フリー

    肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)は,肺血管の拡張能低下や肺血管床の器質的変化(肺血管リモデリング)を病態基盤とする難治性呼吸器疾患である.エンドセリン-1(ET-1)は,血管内皮細胞で産生される血管収縮性・炎症性ペプチドであり,血管収縮・炎症・線維化・細胞増殖・アポトーシス抵抗性獲得などを引き起こすことによって,肺血管リモデリングを促進させ,PAHの病態を悪化させる.PAHの発症・進展には,血管内皮細胞の機能不全による内皮由来弛緩因子(プロスタサイクリン(PGI2)と一酸化窒素(NO))の産生低下も関与している.そのため,PAHの肺血管拡張療法では,血管平滑筋に対する内皮由来弛緩因子と内皮由来収縮因子の作用の不均衡を是正するために,プロスタサイクリン経路を活性化するプロスタノイドIP受容体(PGI2受容体)活性薬,NO経路を活性化する可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬やホスホジエステラーゼ5型阻害薬,ならびに,ET経路を抑制するET受容体(ETR)遮断薬が用いられている.最近では,PAHの病態解明が進み,ETRシグナルの下流で活性化されるTRPC6チャネルやRhoキナーゼが,血管平滑筋細胞の収縮や増殖を介して,PAHの病態形成に関与していることが明らかにされている.本稿では,本邦において承認されているPAH治療薬の作用機序や臨床エビデンスを概説した後,エンドセリンシステムに対するPAH治療薬の作用,ならびに,今後のPAH治療戦略について考察する.

  • 瀧原 圭子
    2016 年 148 巻 5 号 p. 239-243
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/01
    ジャーナル フリー

    肺高血圧症(PH)はさまざまな病態に関連して発症することが知られており,第5回ワールドシンポジウムによる肺高血圧症の臨床分類(Nice分類)では病因・病態が類似していると考えられる症例を5つの群に分類している.しかしながら,第5群には「詳細不明・複合的要因による肺高血圧症」として,未だ発症の因果関係が明確でない多様な疾患も数多く含まれている.肺動脈性肺高血圧症(PAH)の病態は,肺動脈のれん縮と器質的病変に由来し,肺動脈病変は血管構成細胞の異常増殖を伴う血管リモデリングにより形成される.肺動脈血管リモデリングには遺伝子異常だけでなく,構成細胞の増殖を制御するさまざまな増殖因子やサイトカイン,そしてこれらの情報伝達系の異常が深く関与していると考えられているが,その発症・進展過程に「炎症・感染」というプロセスも大きく関わっていることが近年指摘されている.Human immunodeficiency virus(HIV)感染だけでなく,他のウイルス感染により引き起こされた「慢性炎症」がPAH発症に関与している可能性を示唆する症例も相次いで報告されている.また,低酸素に暴露されることによりさまざまな炎症性サイトカインの産生が肺組織において増強していることも観察されている.PAH病態を理解する上で,bone morphogenic protein(BMP)シグナルと血管作動性サイトカインや増殖因子との機能的関連だけでなく,炎症性サイトカインとの関連を含めた新たな“multiple-hits theory”を理解することが必要と思われる.

特集 SGLT2 阻害薬 : 症状からの創薬、そして治療へ
  • 栗山 千亜紀
    2016 年 148 巻 5 号 p. 245-252
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/01
    ジャーナル フリー

    ナトリウム/グルコース共輸送体(SGLT)2は,腎近位尿細管においてグルコースの再吸収を担う主要な輸送体である.田辺三菱製薬が創製したカナグリフロジン水和物(以下,カナグリフロジン,製品名:カナグル®錠(国内),INVOKANA®錠(海外))は,2型糖尿病治療薬として米国で初めて承認されたSGLT2阻害薬であり,グルコースの再吸収抑制による尿中排泄促進を機序とした血糖降下作用を示す.我々は,SGLT2及びSGLT1の安定発現細胞を用いて,カナグリフロジンのSGLTへの作用キネティクス及び阻害メカニズムを解析した.カナグリフロジンは,競合的にSGLT2及びSGLT1を阻害し,SGLT1に対して約200倍と中程度のSGLT2選択性を示した.また,14C標識したカナグリフロジンをSGLT2発現細胞に添加すると,Na依存的且つ温度依存的な放射活性の上昇を示すことを見出した.これは,カナグリフロジンのSGLT2を介する細胞内への移行を反映しているものと考えられた.さらに,パッチクランプ法のホールセルモードを用いて,細胞内外からカナグリフロジンを作用させ,[14C]α-メチル-d-グルコピラノシド(AMG)輸送に伴う内向き電流に対する効果を検討したところ,SGLT2及びSGLT1のいずれに対しても細胞外,即ち生体においては管腔側から阻害することが明らかになった.これらの事実と血漿中遊離型薬物濃度から,臨床用量においてカナグリフロジンはSGLT2を十分阻害するが,腎SGLT1には作用しないと考えられた.また,小腸に発現するSGLT1については,投与直後,局所的に管腔側薬物濃度が上昇するため一過性に阻害され,糖質吸収遅延作用につながることが示唆された.以上より,カナグリフロジンは,薬剤特性により,腎における糖再吸収のみならず,小腸における一過性の糖質吸収遅延作用を併せ持つことが示された.

  • 小島 直季, 寒川 能成, 髙橋 禎介
    2016 年 148 巻 5 号 p. 253-258
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/01
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    SGLT2阻害薬は,腎臓の近位尿細管に発現するSGLT2に作用して血中の過剰な糖を尿糖として体外に排泄させるという,既存薬とは大きく異なる特徴を有した新規経口糖尿病治療薬である.SGLT2阻害薬の薬理作用機序を解明するために,耐糖能異常肥満モデル動物に対するSGLT2阻害薬ルセオグリフロジンの作用を検討した.その結果,ルセオグリフロジンは用量依存的に尿糖排泄量を増加させ,インスリン分泌に依存することなく糖負荷後の過度な血糖上昇を抑制した.日本人2型糖尿病患者を対象に24時間の血糖変動について評価した臨床試験において,ルセオグリフロジンは尿糖排泄量を増加させることにより,24時間を通して持続的に血糖値を低下させた.さらに,ルセオグリフロジンはプラセボに比較して1日を通じて血糖を良好にコントロールできることが確認され,至適な血糖範囲を占める割合を有意に増加させた.また,ルセオグリフロジンは2型糖尿病患者においても食後の血清インスリン値の上昇を有意に減少させることが明らかとなった.以上の結果から,SGLT2阻害薬は尿糖排泄増加作用によりインスリン分泌非依存的に血糖低下作用を発揮することが動物実験において明らかとなり,2型糖尿病患者に対しても同様の薬理作用を発揮することにより高血糖を是正することが明らかとなった.また,糖尿病性腎症に類似した症状を示すモデル動物において,ルセオグリフロジンは腎障害進展を抑制する効果を示したことから,糖尿病合併症の一つである糖尿病性腎症に対してSGLT2阻害薬が有効である可能性が期待された.SGLT2阻害薬の糖尿病合併症に対する治療効果については今後もさらなる検討が必要であるが,糖尿病治療の最終的な目標である合併症に対する予防効果が期待できる点においてもSGLT2阻害薬は糖尿病治療の有力なオプションとなる可能性が考えられる.

  • 深澤 正徳, 永田 工, 鈴木 昌幸, 鈴木 好幸, 川邊 良樹
    2016 年 148 巻 5 号 p. 259-265
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/01
    ジャーナル フリー

    トホグリフロジン水和物(以下トホグリフロジン,製品名:アプルウェイ®錠,デベルザ®錠)は中外製薬株式会社によって創製された選択的ナトリウム-グルコース共輸送体(SGLT2:sodium glucose cotrasporter 2)阻害薬である.麻酔下カニクイザル・グルコース滴定試験において,トホグリフロジンおよびフロリジン(SGLT1,2阻害薬)はグルコース滴定曲線のスプレイ領域を拡大させたが,尿細管グルコース最大輸送活性には影響をおよぼさなかった.麻酔下正常血糖ラットにおける尿糖排泄・内因性糖産生同時測定系において,トホグリフロジンによる尿糖排泄の増加は内因性糖産生の増大で代償され正常血糖が維持された.一方,フロリジンはトホグリフロジンよりも大きな尿糖排泄促進作用と内因性糖産生性増加作用を示したが,その血糖降下作用はトホグリフロジンよりも大きかった.麻酔下ラットグルコース滴定試験および正常・低血糖グルコースクランプ試験において,トホグリフロジンは高血糖下のグルコース再吸収を50%以上抑制したが低血糖条件下では抑制しなかった.一方,フロリジンは高血糖下の腎グルコース再吸収を50%以上抑制し,低血糖条件下でも腎グルコース再吸収を20~50%抑制した.腎グルコース再吸収におけるSGLT2の貢献程度は低血糖よりも高血糖条件下で大きく,選択的SGLT2阻害薬であるトホグリフロジンは低血糖下の尿糖排泄を惹起せず,低血糖リスクが低いと考えられた.

  • 高須 俊行, 高倉 昭治, 濱田 香理
    2016 年 148 巻 5 号 p. 266-271
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/01
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    イプラグリフロジンL-プロリン(以下イプラグリフロジン,商品名:スーグラ®錠)は,アステラス製薬株式会社と寿製薬株式会社との共同研究により見出されたC-グリコシドタイプの選択的sodium/glucose co-transporter(Na/グルコース共輸送担体:SGLT)2阻害薬であり,2014年1月に同クラスの糖尿病治療薬として国内で初めて承認された.本薬は腎近位尿細管においてグルコースの再吸収を担う糖輸送担体であるSGLT2を阻害し,血液中の過剰なグルコースを尿糖として体外に排泄することによって高血糖を是正する.我々は,腎尿細管におけるイプラグリフロジンの作用をポジトロン放出核種である11Cで標識したmethyl-α-d-glucopyranoside(11C-MDG)を用いて直接的かつ動的にイメージング画像として捉えた.また,高脂肪食を負荷して惹起した肥満モデルラットにおけるイプラグリフロジンの体組成,特に脂肪量に対する作用をdual-energy X-ray absorptiometry(DEXA)及びcomputed tomography(CT)を用いて検討したところ,イプラグリフロジンが脂肪組織量を選択的に減少させることを見出した.さらに,非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)/非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)モデルの一つであるコリン欠乏性l-アミノ酸置換食(choline-deficient l-amino acid-defined (CDAA) diet)負荷ラットにおいて,イプラグリフロジンは肝臓の脂肪滴サイズを縮小し肝臓中TG含量を低下させるとともに,肝臓中のハイドロキシプロリン含量ならびに線維化スコアを低下させた.イプラグリフロジンは国内市販後臨床試験において,2型糖尿病患者のHbA1c及び空腹時血糖値を改善するとともに体重低下,ウエスト周囲長の低下,体脂肪量の減少及び肝酵素の低下をもたらした.これらの臨床試験成績は,上記の肥満モデルラット及びNASH/NAFLDモデルラットで得られた成績と同様,イプラグリフロジンの新たな可能性を示唆するものである.選択的SGLT2阻害薬イプラグリフロジンは2型糖尿病患者の血糖管理に貢献するだけでなく,2型糖尿病に伴う肥満やNASH/NAFLDといった合併症の改善にも寄与することが期待される.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(8)
  • 川西 徹
    2016 年 148 巻 5 号 p. 272-277
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/11/01
    ジャーナル フリー

    健康長寿社会の実現および21世紀の産業基盤の構築という両面から医薬品・医療機器・再生医療等製品等の医療製品開発および産業の振興が国家戦略としてあげられ,健康・医療戦略としてその研究開発および実用化を促進するための法律(健康・医療戦略推進法)の制定,研究開発予算を一元的に管理する日本医療研究開発機構(AMED)の設立等,矢継ぎ早の政策が実行されている.この中で注目すべき点の一つは,レギュラトリーサイエンス(RS)の振興・推進が強調されていることである.我が国においては,新しいタイプの先端的医薬品を世界に先駆けて承認した例は少なく,日本発の先端的医薬品を開発するという国の施策を成功させるためには,まずは日本での開発が円滑に進むことを可能にする環境の整備の一つとして,開発対象となると思われる医薬品の承認申請・審査に必要な規制要件をまとめた文書の整備,およびその作成を支える標準的な製品評価法の開発が重要である.現在AMED等からの研究支援をうけ,産学官を交えてこのようなRS研究が加速されており,あわせて我が国では人材が十分でないこの分野の人材育成の試みが実行されている.このような戦略を通じて,一つでも多くの先端的医薬品開発が世界に先駆けて我が国で迅速かつ安全に実現することが期待される.

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