日本薬理学雑誌
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151 巻, 6 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
特集:PACAPシグナル研究の新潮流~中枢・末梢組織での新しい生理・病態的意義~
  • 中町 智哉
    2018 年 151 巻 6 号 p. 232-238
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/08
    ジャーナル フリー

    下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)と血管作動性腸管ポリペプチド(VIP)は約70%のアミノ酸配列の相同性を持つ神経ペプチドである.PACAPは涙腺組織にPACAP陽性線維が観察されていることが知られていたが,その生理作用については不明であった.私たちはPACAP KOマウスが角膜傷害の発症と涙液分泌の低下というドライアイ様の表現型を示すことを発見した.PACAPおよびその受容体であるPAC1受容体(PAC1-R)は涙腺組織に発現し,マウスへのPACAP点眼により涙液分泌が有意に促進されるが,VIPではその効果が弱いことが明らかになった.さらにそのシグナル解析によりPACAPはPAC1-RのGsシグナル伝達経路を介して,水チャネル分子であるアクアポリン5のリン酸化を促進し,アクアポリン5の細胞膜へのトランスロケーションを誘導することにより涙液分泌を促進することが明らかになった.本稿ではPACAPとVIPの涙液分泌に関する作用についてまとめるとともに,今後の研究展開の可能性についても解説する.

  • 神戸 悠輝, 栗原 崇, 宮田 篤郎
    2018 年 151 巻 6 号 p. 239-243
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/08
    ジャーナル フリー

    アストロサイト-ニューロン乳酸シャトル(ANLS)は,アストロサイトを含むグリア細胞が産生した乳酸をニューロンが利用することを仮定したモデルである.ANLSは近年,学習・記憶,薬物依存などに重要な役割を果たし,細胞レベルにおいても,ニューロンを直接活性化したり,シナプス促通を惹起したりすることが報告されている.しかしながら,どのようなシグナルがアストロサイトに作用し,ANLSを活性化するか明らかではなかった.一方,神経ペプチド,下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)とその受容体は,中枢神経系に広く分布する.我々は前脳由来培養アストロサイトにおいて,PACAPは非常に低い濃度からANLSを活性化する可能性を見出したことから,内因性のANLS活性化因子の候補としてPACAPを捉え,恐怖記憶,脊髄痛覚伝達に対する関与を検討した.その結果,PACAPは少なくとも前脳と脊髄のアストロサイトのPACAP/PAC1シグナルの下流においてPKCを介したANLSの活性化を惹起し,恐怖記憶および脊髄痛覚伝達に関与することが明らかとなった.以上の結果から,PACAPは内因性のANLS活性化因子である可能性が示された.

  • 大滝 博和, 矢倉 一道, 徐 枝芳
    2018 年 151 巻 6 号 p. 244-248
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/08
    ジャーナル フリー

    Pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide(PACAP)は細胞保護作用,抗炎症作用,神経細胞増殖・分化機能をはじめ多岐にわたる生理機能を有する神経ペプチドである.これまで,胎生期および出生後の神経の発生過程への関与はよく報告されており,神経を含む外胚葉由来の器官発生に関しての報告は多数報告されているがそれ以外の胚葉への関与はほとんど明らかになっていなかった.本稿では,近年,我々が見出したPACAPの造血に対する役割を概説するとともに,自律神経投射によるPACAPの恒常性維持や病態への制御の可能性を紹介する.

  • 吾郷 由希夫, 早田 敦子, 橋本 均
    2018 年 151 巻 6 号 p. 249-253
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/08
    ジャーナル フリー

    近年,特定の遺伝子領域におけるコピー数変異を解析したいくつかの報告から,VPAC2受容体をコードするVIPR2/VPAC2遺伝子の重複が,統合失調症と高いオッズ比で関連することが明らかになった.これは本疾患における遺伝的要因としてのVPAC2受容体の関与を示す新しい知見であるが,従来,神経保護的に作用すると考えられてきたPACAPあるいはVIPシグナルが,どのように病態に関与するのか不明である.本稿では,統合失調症の遺伝子研究における最新の知見を紹介するとともに,精神疾患におけるVPAC2受容体シグナルの病態的意義に関して,我々の研究成果を含め議論したい.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(23)
  • 五十嵐 友香, 佐藤 陽治
    2018 年 151 巻 6 号 p. 254-259
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/08
    ジャーナル フリー

    わが国では,ヒトiPS細胞の樹立が契機の一つとなり,再生医療や細胞治療(再生医療等)の研究と実用化の促進のため国を挙げた取り組みがなされている.特に再生医療等を支える医事・薬事の各種規制の抜本的改革が精力的に進められてきた.医事規制では,安全な再生医療等を迅速かつ円滑に患者に提供する目的で『再生医療等安全性確保法』が制定され,薬事規制では,『薬機法』において「再生医療等製品」が定義されるとともに,再生医療等製品の特性に応じた条件・期限付承認制度が導入された.しかし,実用化・産業化における開発・製造に関するコストなど解決すべき課題はまだ多い.特に米国では2016年末に21st Century Cures Actが成立し,日本の条件・期限付承認制度に類似した制度が設けられるなど,追い上げも激しくなりつつある.本稿では,大きく動きのあった再生医療等にかかる規制について国内外の動向と再生医療の現状と今後対応すべき課題について概説する.

新薬紹介総説
  • 興野 大, 原口 佳代, 小島 昌太, 太田 拓巳, Chulho Jung, Sung Mo Yang, Sangwoo Park, Ji ...
    2018 年 151 巻 6 号 p. 261-272
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/08
    ジャーナル フリー

    エタネルセプトは,ヒト免疫グロブリン(Ig)G1のFc領域とヒト腫瘍壊死因子(TNF)Ⅱ型受容体の細胞外領域からなる遺伝子組換え融合糖タンパク質であり,TNFα及びリンフォトキシンα(LTα)の活性を中和することにより関節リウマチ(RA)や多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎(JIA)等の炎症性疾患に対して治療効果を発揮する.持田製薬株式会社及びLG Chem, Ltd.が開発したエタネルセプトBS皮下注シリンジ「MA」,同ペン「MA」及び同皮下注用「MA」は,エンブレル®を先行バイオ医薬品(先行品)とする国内初のバイオ後続品であり,有効成分であるエタネルセプト(遺伝子組換え)[エタネルセプト後続1](以下,エタネルセプトBS)は,先行品の有効成分であるエタネルセプト(遺伝子組換え)と同一の一次構造を有する.エタネルセプトBSの品質特性評価,非臨床及び臨床試験は,「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」等に準拠して実施した.エタネルセプトBSは,先行品と同等/同質の品質特性を持ち,非臨床試験において先行品と同程度のTNFα/LTα結合親和性及びTNFα生物活性中和作用,先行品と同様の薬物動態及び安全性を示した.また,健康成人対象の海外第Ⅰ相試験及びRA患者対象の国際共同第Ⅲ相試験では,先行品と同等/同質の薬物動態及び有効性が検証され,安全性プロファイルも先行品と大きな相違がないことが確認された.持田製薬株式会社はこれらの成績をもとに製造販売承認申請を行い,2018年1月に先行品と同じ効能・効果で承認を取得し,あゆみ製薬株式会社から販売予定である.先行品より安価なエタネルセプトBS皮下注シリンジ「MA」,同ペン「MA」及び同皮下注用「MA」によって,多くの患者が先行品と同様の高い効果をもつ治療法にアクセスしやすくなることが期待される.

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