日本薬理学雑誌
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141 巻, 4 号
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特集 革新的難聴治療の夜明け
  • 中川 隆之
    2013 年 141 巻 4 号 p. 184-187
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
    感音難聴に代表される内耳障害は,主な身体障害のひとつであるが,多くは不可逆性であり,根本的治療法の開発が強く望まれている.本稿では,内耳蝸牛の感覚上皮に焦点を当て,障害進行段階に応じた治療法開発の取り組みについて紹介する.音響刺激を神経信号に変換する役割を担う蝸牛感覚上皮の有毛細胞が障害されているが,未だ細胞死に至っていない段階では,インスリン様成長因子1などの薬物局所投与の難聴治療への可能性が呈示され,臨床試験も行われている.有毛細胞が喪失しているが,感覚上皮を構成するもうひとつの細胞である支持細胞が温存されている段階では,ノッチ情報伝達系制御による支持細胞から有毛細胞への分化転換による有毛細胞再生による聴覚再生が研究されている.さらに,障害が進行し,再生のソースが蝸牛内に残されていない段階では,工学的な蝸牛感覚上皮再生ともいえる人工感覚上皮開発が行われている.今後の研究発展により,革新的難聴治療が臨床的に実現することが望まれる.
  • 神崎 晶
    2013 年 141 巻 4 号 p. 188-190
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
    感音難聴の原因の大部分は内耳障害であり,多くは難治性である.その理由として内耳の感覚細胞である有毛細胞が再生しないためである.再生医療を含めて新しい治療が求められている.そのような治療が期待されている中で,内耳局所に薬物や遺伝子を投与する方法が必要となる.局所投与は,内耳に高濃度に薬物を送れる上に,全身の副作用のリスクを軽減するという利点がある.全身に副作用が生ずる危険性の高い薬物や遺伝子を投与する上では欠かせない投与法である.現在,臨床では突発性難聴などの急性内耳障害に対するステロイドの内耳局所投与に関して報告されているが,内耳への薬物動態,遺伝子治療に関する可能性に関する報告は少ない.そこで本稿では,内耳の解剖学的特徴を踏まえた局所投与について,局所投与における薬物動態,動物実験の内耳へ投与された遺伝子運搬体(ベクター)に関する過去の報告に基づいて,臨床応用される際にどのような内耳疾患に適応があるかについて述べる.
  • 神谷 和作
    2013 年 141 巻 4 号 p. 191-194
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
    難聴の原因は多岐にわたるが,近年の遺伝子改変動物開発技術の向上や多種のモデル動物の開発により多くの病態メカニズムが解明に近づいている.全ての先天性疾患の中でも頻度の高い遺伝性難聴においては,難聴家系や突然変異難聴マウスの遺伝子解析によって多くの遺伝性難聴原因遺伝子が同定されている.しかし遺伝性難聴の根本的治療法は未だ開発されていない.特に哺乳類の有毛細胞は再生能力を持たないため多能性幹細胞移植による有毛細胞修復が近年試みられている.多能性幹細胞移植は薬物治療や遺伝子治療と異なり細胞導入後の病変部への侵入や増殖・分化による病態に応じた修復が期待できる.しかし特殊なリンパ液で充たされた内耳の構造的特徴から,聴力を温存しつつ標的部位に前駆細胞を到達させ分化させることは非常に難しい.動物実験においても幹細胞を内耳病変部にて適切に分化させ,機能を回復させた報告はいまだ少ない.近年有毛細胞以外にも蝸牛線維細胞などの機能異常が単独で難聴病態の引き金となることも明らかとなっており,多様な細胞種による治療戦略が求められている.多能性幹細胞の損傷部への組織誘導(ホーミング)機構や組織環境(ニッシェ,niche)による分化誘導を十分に解明し,これを応用すれば細胞治療は内耳組織の変性や遺伝子異常に対する永続的治療に有効となる可能性が高い.我々は遺伝性難聴モデルとしてのコネキシン26等の遺伝子改変動物を用い,骨髄間葉系幹細胞や人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の多能性幹細胞の分化制御や組織誘導の促進によって効率の高い内耳細胞治療法の開発を進めてきた.
  • 大島 一男
    2013 年 141 巻 4 号 p. 195-198
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
    幹細胞とは多分化能(複数系統の細胞に分化する能力)と,自己複製能(細胞分裂後も自身と同じ能力を維持する能力)を併せ持つ細胞と定義される.皮膚や腸管といった臓器では幹細胞からの再生が経常的に行われているが,聴覚の感覚受容器である有毛細胞は一旦傷害されると再生しないため,内耳に幹細胞は存在しないと言われてきた.ところが近年,聴覚器から幹細胞を単離し有毛細胞に分化可能であることが報告され,内耳にも幹細胞が存在していることを示唆する報告が相次いでいる.また,ES細胞やiPS細胞といった内耳由来ではない多能性幹細胞から有毛細胞へ分化誘導する方法も近年開発されるなど,内耳の幹細胞研究は日本を含め世界中で活性化してきている.内耳の解剖学的な複雑さ,アプローチの難しさ,細胞数が極めて少ない,などの理由で内耳の研究は他の領域に比べ困難である.現在行われている治療法では治療困難な難聴に取り組むため,これまで遺伝子治療などが研究されてきたが,幹細胞研究が進み有毛細胞を人工的に作成できるようになると,これまでとは違う展開が期待できる.今後,内耳への幹細胞移植による細胞治療や,大規模ドラッグスクリーニングによる再生薬の開発などへの展開が望まれる.また,先天難聴に対しても,難聴患者からのiPS細胞を利用して,テーラーメード的な医療も不可能ではない.幹細胞研究が今後の難聴治療戦略を変えていくと思われるが,実際に臨床の場で使われる際には,安全性,倫理面,長期成績に留意することが必須である.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(1)
新薬紹介総説
  • 岩田 理子, 敷波 幸治, 梛野 健司, 原田 寧
    2013 年 141 巻 4 号 p. 205-211
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
    リルピビリン(RPV)は,ジアリルピリミジン(DAPY)を母核とする新規の非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)で,野生型(WT)および既存のNNRTIに耐性のヒト免疫不全ウイルス(HIV)に対して強力な抗ウイルス作用を持つ.RPVは標的となる逆転写酵素(RT)のNNRTI結合ポケットに深く結合するとともに,柔軟な立体構造特性で変異によるNNRTI結合ポケットの構造変化にも適応する.In vitroでの検討から,RPVは耐性を引き起こしにくく,NNRTI関連変異に対して既存のNNRTIと異なる感受性プロファイルを持つことが示された.治療経験のないHIV-1感染症におけるRPVの有効性および安全性を検討する臨床試験としては,前期第II相試験,後期第II相試験ならびに第III相試験としてECHO試験およびTHRIVE試験が実施された.エファビレンツ(EFV)を対照とした第III相試験では,主要評価項目であるウイルス学的効果消失までの期間の補完アルゴリズムに基づくWeek 48のウイルス学的効果(HIV RNA量が50 copies/mL未満の被験者%)はRPV群84%,EFV群82%であり,RPVのEFVに対する非劣性が検証された.RPVは,これらの臨床試験成績に基づき,販売名を「エジュラント錠」,適応症を「HIV-1感染症」として,2012年5月に本邦で承認された.エジュラント錠は,HIV-1感染症治療薬の新たな治療選択肢として期待される.
  • 小久保 博雅, 細谷 俊二, 市川 雅幸
    2013 年 141 巻 4 号 p. 213-219
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/10
    ジャーナル フリー
    プルモザイム®吸入液2.5 mg(有効成分:ドルナーゼ アルファ)は,ヒトデオキシリボヌクレアーゼI(DNase I)遺伝子を用いて作製した遺伝子組換えヒトDNA分解酵素製剤で,「嚢胞性線維症における肺機能の改善」の効能・効果として2012年3月に承認された.嚢胞性線維症患者の痰を用いた試験において痰の流動性増加,コーンプレート粘度の低下がみられ,嚢胞性線維症患者に投与後気道分泌物中でDNase濃度と酵素活性が6時間にわたって維持された.気道内分泌物中に含まれている死滅好中球由来のDNA加水分解により,分泌物の粘稠性を低下させ気道からの除去を容易にすることが,肺機能の改善の主たる作用機序と考えられている.努力肺活量(FVC)が予測値の40%以上である嚢胞性線維症患者を対象に実施された臨床試験において,ネブライザーによる本薬吸入(2.5~10 mg 1日2回)は呼吸1秒量(FEV1)の増加効果を示しFVC,呼吸困難,嚢胞性線維症関連症状等,QOLの改善が認められた.また,第III相試験として気道感染の発症率低下とFEV1の持続的改善効果が示され,抗生物質非経口投与の累積日数および累積入院日数が短縮した.安全性については第III相試験において,すべての被験者で,本剤投与の忍容性に問題はなかった.主な副作用は軽度の発声障害と咽頭炎であった.以上のことから,ドルナーゼ アルファはこれまで十分な治療が施せなかった本邦の嚢胞性線維症患者の肺機能改善に寄与することが期待される.
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