日本薬理学雑誌
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132 巻, 5 号
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特集:漢方薬理学:基礎医学エビデンスから臨床効果まで
  • 佐藤 広康
    2008 年 132 巻 5 号 p. 260-264
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    現在,医学教育の中で,「和漢薬を概説できる」がコア・カリキュラムになり,多くの大学で東洋医学のカリキュラムが取り込まれている.これまで,東洋医学は古典的,伝統的な医学概念として理解され,先人による永年の臨床経験に基づいて処方され,その作用機序は不明であるといわれてきた.現在,依然不明な点も多いが,これまで多くの基礎医学的実験によるエビデンスから薬理作用メカニズムが詳細に解明されてきている.難解とされる東洋漢方的概念は「証」であろう.漢方医薬は3000年の臨床経験から「証」に準じた2種以上の生薬からなる複合多成分薬であるので,「証」を全く無視しての診断処方は難しい.西洋医学との相違や基本的理論(「気血水」「八綱弁証」「六病位」「五臓」)など,漢方医学的特徴をある程度理解する必要がある.これまで解明されてきた多くの基礎・臨床薬理学エビデンスから,卒後医師や学生の東洋漢方医学に対する興味や認識度を向上させ,正しい知識と理解に結びつけていきたい.将来,漢方医薬が誰でも処方できる医薬品となるように,漢方医学の概論を簡略にまとめた.
  • 評価について
    榊原 巌
    2008 年 132 巻 5 号 p. 265-269
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    漢方製剤が薬価に収載されてすでに30年以上が過ぎ,医療の現場においても漢方製剤が治療アイテムとして定着してきている.また,15改正日本薬局方において初めて6処方の漢方エキスが収載され,医療用医薬品の地位を固めつつある中,その品質保証の面で,科学の進歩に合わせたより高度な分析評価が望まれるようになってきている.一方,欧米においては補完代替医療(CAM)の考え方が定着し,多くのサプリメントが普及されるようになってきている.その中,アリストロキア酸含有生薬が配合された製品が引き起こした腎障害事例,エフェドラによる脳出血の事例など,ハーブによる様々な問題も表面化されるようになり,植物薬の品質管理面での社会的な要望が高まりつつある.米国FDAならびに欧州EMEAでは植物薬の品質評価として“フィンガープリント”を提唱している.この流れを汲み,漢方製剤の国際化も考慮し,“漢方製剤の3Dフィンガープリント評価法”を確立した.本評価法は原料となる生薬および製品である漢方製剤の双方の品質評価に有用であり,特に配合する生薬の品質が最終製品である漢方製剤の品質を左右することから,より均一な漢方製剤を提供するためには原料生薬レベルでの品質の安定化を図る取り組みが重要となる.またフィンガープリントによる同等性評価としての新たな試みとして,統計学的な手法を用いたパターン認識法による同等性の解析評価法を開発した.漢方製剤を高次なレベルで評価する取り組みが今後,益々重要視されてくる.
  • 高橋 京子, 侯 暁瓏, 高橋 幸一
    2008 年 132 巻 5 号 p. 270-275
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    東西医薬品の併用投与は有効な治療手段となっているが,歴史的経験知は東西薬物併用療法を想定していなかったため,適正使用に必要な情報が著しく不足している.最適な併用療法の実践には,安易な漢方薬の使用中止ではなく,薬物動態学的相互作用情報の提供が求められる.CYP3A4はヒトチトクロムP450(CYP)に最も多く存在する分子種で,小腸には全体の30%程度が分布することから,経口剤の薬物動態学 的相互作用の主要な因子である.従来の生薬・漢方薬に関する相互作用報告は統一的見解に至らず,結果の相違が生薬の多様性や実験動物の種差などで処理されている.そこで,動物実験の利点と限界を理解し,目的に応じた評価系構築を提案する.その目的は,(1)漢 方方剤(漢方薬)の総合的評価,(2)薬物代謝酵素CYP450とP-glycoproteinに対する影響,(3)漢方薬の服用方法(経口剤・前処置・連続投与)に則した実験法の構築,(4)薬物動態学的パラメーターの算出,(5)相互作用発現機序を検証できることである.まず,著者らは,雄性ラットに柴苓湯(さいれいとう)(蒼朮(そうじゅつ)配合)を反復前処置することで惹起される消化管CYP3A代謝変動を,ニフェジピンの体内動態パラメーターから解析した.その変動を肝臓および小腸ミクロソームのCYP3A活性,関連タンパクの発現状態,相互作用の持続性について検討し相互作用発現機序に至る過程を明らかにした.また,柴苓湯による異なる相互作用報告は,製造企業間で素材生薬(日本薬局方収載の蒼朮または白朮(びゃくじゅつ)配合)や混合比率の相違のため比較が困難で,生薬製剤の品質が重要な課題となることを再確認した.一方,柴苓湯の含有成分パターンから,高濃度を占めるバイカリンなどの配糖体由来成分の動態は,腸内細菌などの生体の反応性に左右される.漢方薬の真価を評価し適正使用を推進するためには,同じ規格毎の方剤で科学的エビデンスが蓄積され,情報発信ができることを切望する.
  • ―慢性疾患の改善作用の主要機序として―
    川喜多 卓也
    2008 年 132 巻 5 号 p. 276-279
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    漢方薬は様々なタイプに分類されるが,補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や人参養栄湯(にんじんようえいとう)のような補益剤(ほえきざい)は,西洋薬には同種のものが存在しない,その一つの分類である.補益剤は貧血,食欲不振,疲労倦怠,慢性疾患による体力低下などを伴う患者に使用されている.補益剤は免疫薬理作用を有していて,種々の病態改善作用の主要なメカニズムと考えられている.制がん剤投与や放射線照射したマウスにおいて,補中益気湯や人参養栄湯は,造血幹細胞の増殖を促進して,白血球減少症を回復させる.人参養栄湯は血小板や赤血球系前駆細胞の回復も促進する.一方,補中益気湯は腸管上皮間リンパ球からのインターフェロンγ産生によりマクロファージを活性化して細菌感染からマウスを守る.また,ヘルパーT細胞タイプ2を誘導する免疫をしたマウスの抗原特異的イムノグロブリンEやインターロイキン4産生を抑制する.この効果がアトピー性皮膚炎治療の有効性の根拠になっている.人参養栄湯は自己免疫異常の調節効果で自己免疫マウスを著しく生存延長する.その他,補中益気湯ではストレス負荷や幼若マウスでの感染抵抗性低下の改善作用,人参養栄湯の肝線維化や間質性肺炎の改善作用なども示されている.以上の様に補益剤は免疫のアンバランスにより感染,アレルギー,自己免疫などになり易い状態を修正する効果がある.
  • 西田 清一郎, 佐藤 広康
    2008 年 132 巻 5 号 p. 280-284
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    漢方薬を用いた診療はすでに広い領域に応用され,そのエビデンスも少しずつ構築されつつあるが,循環器領域における漢方薬応用に関する研究の発展は今後一層必要とされる.漢方薬,および生薬のもつ血流改善作用は末梢の冷えやむくみなどの改善に応用されてきたが,これまで一般治療薬(西洋薬)による治療が中心であった高血圧や慢性心不全のような疾患にも応用できる可能性が判明してきた.高血圧に関しては,釣藤散(ちょうとうさん),黄連解毒湯(おうれんげどくとう)の臨床報告がなされている.慢性心不全では,木防已湯(もくぼういとう)によって慢性心不全を改善する可能性が示唆されている.木防已湯の薬理作用を基礎医学的に検討した結果,木防已湯は心筋に対して抗不整脈作用をもち,木防已湯の含有生薬成分であるシノメニンは心筋保護作用を表わすことが解明された.木防已湯は血管緊張を調整する作用があり,投与前の血管緊張の度合いによって収縮作用か,弛緩作用を示す.木防已湯の作用は血管内皮依存性と平滑筋の弛緩作用機序に起因しており非常に複雑である.木防已湯の血管弛緩作用と,含有成分であるシノメニンの弛緩作用を比較すると,シノメニンは老齢ラットに対して弛緩作用が減弱するが,木防已湯は老齢ラットでもその弛緩作用を保持していた.その詳細な機序は今後の検討が必要であるが,木防已湯に含有する複数の生薬成分による複雑な相互作用の結果,木防已湯は薬理作用の加齢変化を受けにくくなっていると推測された.我々の臨床医学的検討では例数は少ないが,高齢者の慢性心不全を改善し肺動脈圧を低下させることを明らかにした.漢方薬は他の西洋薬のようなコントロールを設定した二重盲検法試験の実施が難しい薬物であるため,臨床的エビデンスの構築は遅れているが,基礎医学的な研究とともに今後は臨床データが積み重ねられEBMがさらに蓄積されることが期待される.
  • 小林 裕美
    2008 年 132 巻 5 号 p. 285-287
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    アトピー性皮膚炎は症例毎に異なる悪化因子が関与するため,治療に個別のアプローチが必要である.悪化因子が比較的単純で除去しやすい例は,標準的治療のみで充分軽快するが,複雑な因子が関与し長年にわたる経過のうちに悪化の方向に向かう一群も存在する.このような例に対して,私たちはまず漢方で重視する「食」について指導し,なお改善しない場合に漢方方剤内服を併用してきた.アトピー性皮膚炎に用いる漢方エキス製剤は多岐にわたり,それぞれの薬理作用の理解のもとに使用する.小児,成人ともに気虚を伴う例に用いる補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は,内因を改善する補剤の代表方剤である.補中益気湯のアトピー性皮膚炎治療における有用性を明らかにするため,私たちは,内服前後における血中サイトカイン値の変動を検討するなど症例集積研究を重ねてきた.さらに最近,プラセボを対照薬とした多施設共同無作為化二重盲検比較試験を行った(Evidence-based Complementary and Alternative Medicine 2008; doi: 10.1093/ecam/nen003).対象は,4週間以上の標準治療にても緩解しない難治症例でかつ,補中益気湯の使用目標となる気虚判定表のスコアで気虚と判定された例に限定した.試験開始前と同じ治療内容を継続し,補中益気湯またはプラセボを24週間投与し,皮疹の重症度の推移のみならず,外用剤の使用量を点数化し,また安全性についても検討した.3カ月後では有意な差はみられなかったが6カ月後の結果において補中益気湯群で外用量の有意な削減効果がみられ,皮疹が消失した著効例も補中益気湯群に多く,増悪例は有意に少なかった.
治療薬シリーズ(31) 寄生虫病・熱帯病治療薬
  • 草野 正弘
    2008 年 132 巻 5 号 p. 288-291
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    マラリア治療薬はアーテミシニンおよびその誘導体との配合剤の出現により大きく進歩した.しかし,配合剤であっても今後耐性化しない保証はなく,新しいクラスの薬剤の開発が行われている.日本でも岡山大学を中心に新しい薬剤が臨床試験開始寸前の段階にある.一方マラリアワクチンの開発は近年非常に盛んになってきており臨床試験実施中のものが20近く存在する.この領域でも大阪大学微生物研究所で開発されたワクチンが大規模臨床試験の準備中である.しかし抗マラリア薬以外ではリーシュマニア症に対するシタマキンのみが新規化合物として有望である.
  • 丸山 治彦
    2008 年 132 巻 5 号 p. 292-296
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    わが国における寄生虫病・熱帯病治療の問題点は,国内承認薬が少なく,保険適用の効能の範囲も狭いことである.たとえば,重要な熱帯感染症であるマラリアに対してはメフロキンとキニーネ末が承認されているが,重症マラリアには対応できず,三日熱マラリアと卵形マラリアに必要な根治療法もおこなえない.また,近年増加傾向にある赤痢アメーバ症,国内の寄生虫病で比較的多い幼虫移行症に有効な薬剤は,承認されてはいるが効果効能では適用外である.トキソプラズマ症も国内承認薬だけでの治療は困難である.このような問題はあるが,「輸入熱帯病・寄生虫症に対する稀少疾病治療薬を用いた最適な治療法による医療対応の確立に関する研究」班(略称:熱帯病治療薬研究班)が,薬剤の輸入・保管・治療対応に関する研究活動を行っており,国内未承認薬での治療が可能になっている.
創薬シリーズ(3) その3 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験
  • 猪又 晃
    2008 年 132 巻 5 号 p. 297-300
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    内分泌系臓器は,生体の恒常性維持のために体内外からの刺激に対して互いに協調して働くため,ある内分泌系臓器の機能変調は標的臓器のみならず,ときに複数の関連臓器におよぶ病態を引き起こす.また,薬剤による内分泌系臓器の変化に遭遇した際,それが薬剤の直接的な作用によるものか,または他の関連する要因によるものかを考察することは評価上重要なポイントである.さらに薬剤による内分泌系への影響には,ホルモン輸送タンパク質や標的細胞の感受性の差などにより,動物種差や性差があることにも留意する必要がある.本稿では,内分泌系の概観,薬剤の非臨床試験における内分泌毒性の特徴,内分泌毒性評価の進め方,およびin vitro内分泌毒性評価系の有用性について述べた.さらに,化合物により生じる病変が比較的多く認められる副腎,甲状腺,膵ランゲルハンス島,下垂体および上皮小体における代表的な病変について簡潔に述べた.
新薬紹介総説
  • 永野 伸郎, 川田 剛央, 和田 倫斉
    2008 年 132 巻 5 号 p. 301-308
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/14
    ジャーナル フリー
    細胞外液中のカルシウムイオン(Ca2+)濃度([Ca2+e)のわずか数%の変化を副甲状腺が鋭敏に感知し,副甲状腺ホルモン(PTH)分泌が速やかに変動する.その結果,腎,骨,腸管でのCa出納が制御され,[Ca2+eの恒常性が維持されている.この副甲状腺が有する[Ca2+eの感知機構の本体として,1993年にクローニングされたのがカルシウム受容体(CaR)であり,7回膜貫通Gタンパク共役型受容体(GPCR)の構造をとる.副甲状腺細胞表面上のCaRにポジティブ アロステリック モジュレーター(positive allosteric modulator)として作用し,[Ca2+eが上昇した場合と同様に,PTH分泌を強力に抑制する薬理作用を有する化合物をCaR作動薬(calcimimetics)と称する.シナカルセト塩酸塩(シナカルセト)は,現在,臨床使用されている唯一のcalcimimeticsであり,慢性腎不全の合併症の一つで,過剰なPTH分泌の亢進状態で特徴付けられる二次性副甲状腺機能亢進症(2HPT)の治療薬として開発された.2HPTを呈する慢性腎不全ラットを用いた薬効薬理試験において,血中PTH低下,Ca低下,副甲状腺細胞増殖抑制,線維性骨炎発症抑制,骨密度・骨強度低下抑制,血管石灰化発症抑制などの薬理作用が認められている.また,透析施行中の2HPT患者において,血中PTH低下,Ca低下,リン(P)低下,骨代謝マーカー低下といったミネラル代謝異常に対する改善作用のみならず,生活の質(QOL)の改善や心血管系疾患が原因での入院イベントの発生低下などの有用性も認められている.シナカルセトは,維持透析下の2HPTを適応症として,本邦では2007年10月に製造販売承認を受け,2008年1月より,レグパラ®錠(25 mg・75 mg)として臨床使用されている.その優れた血中PTH低下作用に加えて,既存の2HPT治療薬であるビタミンD(VD)製剤の副作用(血中Ca,P上昇作用)とは相反する作用を有するという点で,2HPT治療のいわば特効薬として期待されている.また,薬理学的見地からも,無機イオンであるCa2+を内因性リガンドとする受容体を標的とする点や,GPCRに対する世界初のアロステリック モジュレーターであるという点において,特筆すべき薬剤であるといえる.
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