日本薬理学雑誌
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141 巻, 3 号
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特集 トランスレーショナルリサーチの応用
  • 徳井 太郎
    2013 年 141 巻 3 号 p. 122-125
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    ゲノムシークエンス技術の革新を受けて,がん領域では個別化医療への取り組み,すなわち,遺伝子変異をターゲットにした分子標的薬の創製,バイオマーカーによる患者さんの診断,診断薬と治療薬の同時開発,分子レベルでのがん疾患の再定義,などの試みが急速に進んでいる.がん細胞の遺伝子変異や標的分子の発現量を指標にしたバイオマーカーで薬効の期待できる患者さんを選び,治療奏効率の高い薬剤を開発することが可能になってきている.一方,効果を見込めない患者さんへは,無用の投薬を防ぎ,より早く別の治療法を提供することが可能になる.また,治療奏効率が高いため,検証試験であるPhase III試験の規模を小さくし,新しい薬剤を早く上市できるという開発上のメリットも期待されている.個別化医療を可能にするためには新しい創薬ターゲットの同定と検証が必要であり,生体システムの理解,分子疫学の推進およびpredictive biomarkerの確立が鍵となる.診断薬と薬剤を同時開発するコンパニオン診断薬という概念が提唱され,診断薬の性能をPhase III試験でプロスペクティブに検証することが求められている.開発初期からバイオマーカー検討に着手する必要があるため,診断薬企業と製薬企業が連携して製品開発にあたることが必要となる.将来的には,診断薬と薬剤が1対1の関係となる‘コンパニオン’診断薬から,多数の因子を同時に検査できる網羅的診断法へ進化していくと考えられており,患者さんごとのがん増殖メカニズムに基づいた合理的な治療アルゴリズムの開発が期待される.
  • 山浦 由之
    2013 年 141 巻 3 号 p. 126-130
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    マイクロドーズ(MD)臨床試験は,超微量(推定薬効量の1/100以下かつ100 μg以下)の化合物をヒトに投与して薬物動態を検証する試験である.投与量が少ないため副作用の心配がなく,簡易な毒性試験のみでヒトへの投与が認められることから,少ない期間と投資でヒト実測データが得られ,確実性の高い候補化合物を選択できることが期待される.当社の候補化合物ONO-AE4-499は,動物種間で血漿中曝露が大きく異なり,ヒトの経口吸収性予測が困難であった.また,構造類似体に重篤な毒性が認められ,これが代謝物として生成しないことを確認する必要があった.そこで我々は,開発継続の可否を早期に判断するため英国でMD臨床試験を実施した.健康成人に14C標識ONO-AE4-499を投与し,HPLC分画後に加速器質量分析計(AMS)を用いて分析した.また,ヒトの経口吸収性が低かった場合にその原因を考察し,新たな化合物の創出に活かすため,静脈内投与を実施し,バイオアベイラビリティ(BA)および肝初回通過代謝を評価した.ヒトのBAは10.5%と高くはなかったが,個体間変動は小さく,推定臨床投与量もコストの適合範囲と考えられた.血漿および尿中の毒性代謝物は検出限界未満であり,ヒトで生成する可能性は低いと考えられた.これらの結果から,ONO-AE4-499の開発を継続すべきと判断できた.新薬開発においてMD臨床試験を最大限活用するには,より短い期間で実施し意思決定する必要がある.ガイドラインの整備や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)マイクロドーズプロジェクトの成果で国内での実施基盤も整ってきたが,製薬企業の社内実施体制を含め改善の余地は残されている.MD臨床試験に限らず,バイオマーカー探索や陽電子放射断層撮影(PET)技術と組み合わせた早期探索臨床試験の活用により,成功確率のさらなる向上が期待される.
  • 劉 世玉
    2013 年 141 巻 3 号 p. 131-135
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    近年,医薬品への研究開発投資は上昇しており,その一方で上市される医薬品の数は横ばいあるいは低下傾向にあり,医薬品1剤あたりの開発コストの上昇,研究開発の生産性低下が問題となっている.研究開発の生産性を高めるため,様々な取り組みが行われており,Exploratory IND(探索的IND,IND:investigational new drug),バイオマーカーの利用,PGx(pharmacogenomics:ファーマコゲノミクス,またはゲノム薬理学)の導入やイメージング技術などを医薬品開発の加速ツールとするトランスレーショナルリサーチ(translational research:TR)は大きく期待されている.PGxは,特定の疾患において,患者のゲノム情報に基づいて,有効で安全性の高い医薬品を提供することを目的としている.製薬企業にとっては,ゲノム情報を用いた「個別化医療」の実現を目指した創薬開発と言える.TRにおけるPGxの役割は,ゲノム情報を導入することにより,探索の段階では,より早期に各疾患の創薬ターゲットやバイオマーカーの確立を可能にする.また臨床試験において,①早期のGo/No-goの意思決定の提供,②レスポンダーや高リスク患者群の同定,③臨床試験において患者の層別など特定のサブグループに焦点を当てた医薬品開発を行うことにより,試験サイズ・費用の低減,開発期間の短縮,成功確率の向上に繋がる.一方,上市後に撤退した薬剤の救済や,レスポンダーとノンレスポンダーの解析結果を基礎研究へフィードバックすることにより新しい創薬にもなりうる.特に,上市後において安全性の問題で市場からの撤退を余儀なくされた場合は,その副作用に関連する遺伝子を同定するために国内製薬企業が構築した日本人のコントロールDNAデータベースを利用し原因遺伝子を特定することにより,その副作用リスクを有する患者群を対象患者から除いた新たな患者層に対する薬剤として再申請し復活させることも可能である.
  • 西村 伸太郎
    2013 年 141 巻 3 号 p. 136-140
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    ポジトロン断層撮像法(PET:positron emission tomography)は,医療現場でがんや脳機能等の診断に使われている短半減期の放射性診断薬を用いた核医学診断技術である.動物でも測定可能なことから,非臨床と臨床データをブリッジできるトランスレーショナル研究の有力なツールとして注目されている.創薬への利用としてはターゲット臓器への到達薬物量の定量(薬物動態試験)や,受容体占有率試験による有効投与量の推定・POM(proof of mechanism)の取得(薬理試験),開発候補品の他剤との比較・差別化等に利用可能であり,最近ではさらに安全性試験やコンパニオン診断薬への応用も検討され始めている.当社では長年国内外のアカデミア,異業種とのオープンイノベーションや国家プロジェクトを通じてPETの要素技術開発や人材育成に取り組み,国内製薬初の自社PETイメージング研究施設と組織を構築して研究・開発を推進中である.本稿ではPETの創薬応用に向けた当社の取り組みについて概説する.
総説
  • 鍵山 直子, 水島 友子
    2013 年 141 巻 3 号 p. 141-149
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    平成17年(2005年)の動物愛護管理法改正により動物実験の国際原則である3R(Replacement,Reduction,Refinement)が明文化され,翌年の施行にあわせて環境省は,同法に基づく実験動物の飼養保管基準を告示,文部科学省,厚生労働省,農林水産省は,3R原則を踏まえた動物実験基本指針を告示または通知した.このような動物実験に関する法的枠組は,平成24年(2012年)の法改正でも継続された.科学研究の進歩を支えることの重要性に鑑み,動物実験は研究機関による自主管理によってその適正化が図られている.しかし,実験動物をみだりに殺し,傷つけ,苦しめれば,動物愛護管理法によって処罰されるし,動物実験基本指針を遵守しなければ,氏名の公表や研究費の返還命令によって研究者生命を失うことにもなりかねない.研究機関等は法的枠組を踏まえ,日本学術会議(科学者)が発出した動物実験ガイドライン(動物実験の倫理指針)を参考にしつつ,それぞれ自主・自律的に動物実験を規制している(動物実験の自主管理).法的枠組と自主管理を組み合わせた枠組規制は,自由闊達で創意工夫に富んだ生命科学研究を決して妨げるものではない.自主管理の信頼性・網羅性・透明性は,研究者による動物実験計画の立案,機関の動物実験委員会による審査,機関長による承認と自己点検評価,外部検証および情報開示によって担保される.動物実験計画の審査は,動物の苦痛と動物実験がもたらす意義の相対評価(harm-benefit analysis)によってなされる.なかでも,研究者が動物の苦痛を正しく理解し,可能な限り軽減しているかどうかが重要と考え,筆者の所属する研究所の動物実験委員会は,実験処置コード表を作成し動物実験審査要領に添付した.本論文の後半で紹介したい.
  • 戸田 昇
    2013 年 141 巻 3 号 p. 150-154
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病(AD)の治療にドネペジルを始めとするアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬が広く使用されている.これらの薬物は,AD患者の脳組織で減弱しているコリン作動性神経の働きを補完する目的で合成されその有効性が証明された.最近,ADの発症と進展の原因のひとつとして脳循環障害が取り上げられており,そのメカニズムとして一酸化窒素(NO)を介する血管拡張・血流増加の減弱が注目されている.AChE阻害薬はAD患者の脳血流を改善しADの症状を軽減する.この循環作用の少なくとも一部にAChE阻害作用が関与すると考えられるが,その作用機序について納得のいく説明がなされていない.脳血管は外来性AChによって内皮依存性の拡張をひき起こすが,血管を直接支配するコリン作動性神経は脳動脈拡張には関与しない.従って,自律神経由来のAChは内皮からのNOを介して脳循環を改善することはなく,AChE阻害薬がこのレベルで効果を発揮するとは考えられない.我々は副交感神経系由来で脳血管を拡張するNO作動性神経の役割について,1990年に世界に先駆けて報告した.本総説では,翼口蓋神経節のレベルで節前線維から遊離されるAChの分解を阻害し,節後線維であるNO作動性神経の働きを増大することで,AChE阻害薬が脳動脈拡張,血流増加をひき起こすとの考えについて,これまでの研究成果をもとに解説したい.
創薬シリーズ(6)臨床開発と育薬(25)
  • 西岡 絹恵
    2013 年 141 巻 3 号 p. 155-159
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    医療用医薬品の承認申請時において,非臨床試験資料に含まれる薬理試験資料は,効力を裏付ける試験,副次的薬理試験・安全性薬理試験,その他の薬理試験に分類され,当該資料を基に審査が行われている.効力を裏付ける試験では作用機序等を含む有効性を裏付ける薬理作用が評価され,医薬品添付文書の薬効薬理の項において情報提供される.安全性薬理試験では被験物質の望ましくない薬力学的作用が評価され,そのうち生命維持を司る器官系のコアバッテリー試験は,急性の薬理作用に関する情報等を得るために,ヒトに初めて投与される前に実施される.副次的薬理試験・安全性薬理試験で認められた作用は,安全域に関する情報を考慮することにより,臨床での作用発現の可能性や過量投与時の反応を予測する手助けとなる.薬理試験に関連する主な通知(ICHガイドライン等)を中心に,その内容を紹介する.
新薬紹介総説
  • 北谷 照雄, 高橋 修哉, 池谷 理
    2013 年 141 巻 3 号 p. 160-167
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    ブレーザベス®カプセル100 mg(一般名:ミグルスタット)は,植物および微生物から抽出されたポリヒドロキシル化アルカロイド(イミノ糖)に属する化合物で,スフィンゴ糖脂質(GSL)の生合成経路の最初の過程に関わる,グルコシルセラミド合成酵素活性阻害作用を有している.このことから,当初,いくつかのスフィンゴ糖脂質蓄積症(ゴーシェ病,ファブリー病,GM2ガングリオシドーシス,GM1ガングリオシドーシス)といった,いわゆるリソソーム病への臨床応用が考えられた.本剤は,まず酵素補充療法の無効例,あるいは,この治療法を継続することができない成人ゴーシェ病I型の治療薬として,2002年11月にEU,2003年7月に米国で承認された.その間,ニーマン・ピック病C型モデル動物にミグルスタットを反復経口投与したところ,神経症状(企図振戦および運動失調等)の発現の遅延,生存期間の延長,小脳の細胞構造の維持および脳におけるガングリオシド蓄積の抑制が認められた.この事実に基づき,成人および小児のニーマン・ピック病C型患者を対象とした臨床試験を実施したところ,進行性神経症状に対する治療効果を認め,本剤は2009年1月にニーマン・ピック病C型治療薬としてEUで承認された.本邦では,本剤は2011年3月9日に希少疾病用医薬品に指定された後,2012年3月30日に承認され,この難病に対して有用な治療手段となることが期待される.
  • 林 美貴子
    2013 年 141 巻 3 号 p. 169-174
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/03/08
    ジャーナル フリー
    デスモプレシン酢酸塩水和物の口腔内崩壊錠(ミニリンメルト®OD錠120 μg,240 μg)は,本邦初の経口夜尿症用剤として,2012年3月に承認を取得した.本剤は,アルギニンバソプレシン(AVP)の誘導体で,AVPの1位のアミノ酸を脱アミノ化し,さらに8位のL-アルギニンをD-アルギニンに置換した合成ペプチドである.また,腎集合管細胞に分布するV2受容体を活性化して水の再吸収を促進する薬理学的作用(抗利尿作用)をもつ選択的V2受容体アゴニストである.デスモプレシンのラットにおけるバソプレシンV1,V2受容体およびオキシトシン受容体に対する結合親和性(Ki)はそれぞれ1748,1.04,81 nmol/L であり,バソプレシンV2受容体に選択的な結合親和性を示した.デスモプレシンは,バソプレシンV1受容体に比べV2受容体に対して高い選択性を有し,昇圧作用をほとんど有さず,用量に依存して抗利尿作用が長時間持続する特徴を有している.夜尿症患者を対象とした国内第III相試験では,本剤投与3~4週の14日間あたりの,ベースラインからの夜尿日数減少量は,本剤が3.3日,プラセボが1.5日で,本剤はプラセボに比べ有意に夜尿日数を減少させることが確認された.また,安全性においても特に問題となる有害事象は認められなかった.これらの結果より,夜尿症患者に対する本剤の安全性,忍容性が確認された.デスモプレシン製剤は,海外で40年にわたる臨床使用経験がある.経鼻製剤では,アレルギー性鼻炎等による,鼻腔粘膜からの吸収障害による薬効への影響等が認められていた.経口製剤の開発により,そのような課題が克服された.夜尿症治療に重要とされる水分摂取管理において,水なしで服用できる本OD錠は安定した臨床効果が期待できる.投与の簡便性も加わり,夜尿症で悩む患者のQOLの向上に貢献しうる薬剤であると考えられる.
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