日本薬理学雑誌
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142 巻 , 3 号
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特集 治療標的の発掘をめざしたシナプス形成メカニズムの探求
  • 富樫 英
    2013 年 142 巻 3 号 p. 100-105
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/10
    ジャーナル フリー
    神経細胞はシナプスと呼ばれる特殊な接着部位において結合しシグナルの伝達を行う.シナプス形成には軸索と樹状突起間の結合が必須であるが,培養神経細胞においてカドヘリンどうしの結合を阻害すると正常なシナプスができないなどの結果から,シナプス形成におけるカドヘリンの重要性が示されている.カドヘリンは軸索および樹状突起の両方に発現している.しかし,神経細胞において,軸索−樹状突起間のシナプス結合は安定して形成されるものの,軸索−軸索間または樹状突起−樹状突起間のシナプス結合はほとんど存在しない.この軸索−樹状突起間で特異的に安定した接着が生じ,その部位だけでシナプスが形成される分子機構はカドヘリンによる細胞間接着形成だけでは説明できなかったが,カドヘリンと共に細胞間接着形成を促進する接着分子ネクチンにより説明できることがわかった.神経細胞におけるネクチンファミリーメンバーの局在は異なっており,ネクチン-1は軸索に,ネクチン-3は樹状突起に存在する.ネクチン-1とネクチン-3が神経細胞内で異なった局在をすることが,軸索と樹状突起の間での特異的な接着に必要不可欠であり,軸索と樹状突起間でネクチン-1とネクチン-3が結合し,その部位にカドヘリンをリクルートしてシナプス形成を制御するという分子機構が示されている.さらに,これまで神経細胞における機能が不明だったZO-1が樹状突起フィロポーディアの形成と樹状突起の形態形成に関与することが示されている.ZO-1は樹状突起間のフィロポーディアどうしの接着部位に局在し,フィロポーディア間の相互作用を制御することで,樹状突起の形態形成にも関与する.これらの接着分子はシナプス形成,神経突起間認識を通じて神経細胞の形態形成に関与しているだけでなく,神経疾患にも関連することが示されており,今後の新しい治療の標的となることが期待される.
  • 山形 要人, 杉浦 弘子, 安田 新
    2013 年 142 巻 3 号 p. 106-111
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/10
    ジャーナル フリー
    脳は経験等の入力に応じて,神経回路を変化させることによって環境に適応する.これは,神経活動によってシナプスの伝達効率や形態が変化することを意味しており,実験的にも検証されてきた.特に,神経活動によって興奮性シナプス後部(樹状突起スパイン)がダイナミックに変化することは電気生理学とイメージングを組み合わせて研究が進んでいる.一方,この分子メカニズムも詳細に解析されており,活動依存的に誘導される遺伝子産物が重要な役割を担っていることもわかってきた.さらに,これらの翻訳や修飾に関わる因子の遺伝的変異が自閉症を起こすという知見も集積してきている.本総説では,活動依存的に発現する遺伝子産物について紹介し,スパイン形態制御や脳疾患との関連,そしてそれらを標的とした新しい治療薬について考察したい.
  • 田中 秀和
    2013 年 142 巻 3 号 p. 112-115
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/10
    ジャーナル フリー
    脳を治療するための薬物は,従来神経伝達物質に関連するものが主であった.現在はそれらに加えて,神経変性疾患のメカニズム解明をもとにした治療法の開発や,喪失した細胞を補充することを目指した再生医学的アプローチも盛んになっている.今後はさらに,シナプス病といった概念の発展により,神経回路の構築そのものが,あらたな治療標的を探索する対象となっていくかもしれない.近年シナプス前後の細胞間認識に関わる接着分子や,その他のタイプのシナプス形成に関わる分子が,自閉症などの疾患に関連することが示されている.うつ病においても海馬が萎縮し,逆に治療により拡大することなどから,海馬神経回路の機能や構造が変化する可能性がある.海馬神経回路リモデリングを担う分子の一例として,プロトカドヘリン型の接着分子arcadlinが知られている.arcadlinは即効性に抗うつ効果を示す電気けいれんにより誘導されるばかりでなく,遅効性の抗うつ薬の慢性投与後にも誘導される.またうつ病患者の海馬において増加する脱リン酸化酵素MKP-1と,拮抗する関係にあるp38 MAPキナーゼがarcadlinによって活性化することからも,arcadlinとそのシグナル伝達系による海馬シナプスリモデリングのメカニズムは,うつ病の治療効果に関与する可能性が期待される.
  • 櫻井 武
    2013 年 142 巻 3 号 p. 116-121
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/10
    ジャーナル フリー
    シナプスは様々な精神疾患に関与する薬の主要な作用点である.近年のヒトゲノム解析からシナプスの様々な分子をコードする遺伝子の変異が精神疾患の発症に関与することが明らかになってきた.自閉症もそういった疾患の一つで,自閉症はシナプスの異常で引き起こされる病態,シナプソパチーであるという概念も提唱されている.シナプスを標的とした創薬が自閉症に対しても試みられているが,ヒトゲノム解析に裏付けられたコンストラクトバリディティーを持つマウスモデルを利用してシナプスを標的とした創薬を進めるに際して,いくつか考えておくべきことがあるのではないだろうか.自閉症に関与していることがヒトゲノムの解析から明らかとなっているシナプス裏打ち分子の一つであるShank3の研究を例にとって私見を述べる.
総説
  • 冨永(吉野) 恵子, 小倉 明彦
    2013 年 142 巻 3 号 p. 122-127
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/10
    ジャーナル フリー
    海馬で獲得された記憶情報は,時間とともに海馬から皮質に転送され,安定な長期記憶となるとされる.記憶の獲得は,海馬を含む回路内のシナプスで,直ちに伝達効率が変化することで起こると考えられている.これに対応する細胞レベルの現象が,長期増強現象(LTP)である.しかし,LTPと長期記憶をつなぐ固定の過程については未解明の点が多く,細胞レベルの研究と行動レベルの研究にギャップがある.私たちはそのギャップを埋めるため,独自の実験系を立ち上げた.げっ歯類新生仔脳から海馬切片を作り培養下で成熟させると,生体脳と等価な神経回路をガラス器内に再現できる.この系にLTPを繰り返し誘発すると,伝達強度がゆっくりと増大し,増強状態が数週間以上持続する.RISEと名づけたこの現象は,既存シナプスでの伝達効率調節現象であるLTPとは異なり,シナプス自体の増加を伴う構造可塑性現象であった.その様子を追跡すると,初期には樹上突起棘の発出と退縮の両者が高まり,その後退縮が先に収まって,結果的に増加がおこるという経過をとった.また,RISEの成立には,BDNFや幼若型AMPA受容体(Ca2+透過型受容体)が,原因として関与している.現段階ではRISEが行動上記憶の固定過程のガラス器内再現だと断定はできないが,少なくとも海馬を含む皮質ニューロンに,こうした構造可塑性を起こす能力が備わっていることが示された.即時的変化とは別の,ゆっくり発達する構造可塑性現象RISEは,細胞レベルと行動レベルのギャップを埋める実験系となる可能性がある.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(7)
  • 嶋村 敏孝
    2013 年 142 巻 3 号 p. 128-133
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/10
    ジャーナル フリー
    川崎臨海部を中心とした京浜臨海部では,国際拠点空港化が進む羽田空港や首都圏3,700万人の人口集積などの地域資源を活用して,ライフイノベーションの推進を目指している.ライフイノベーションの実現を図るため,川崎市殿町地区(キングスカイフロント)において,国の国際戦略総合特区制度も活用しながら,ライフイノベーションの拠点形成を進めており,現在,実験動物中央研究所などが立地している.今後,ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社や国立医薬品食品衛生研究所などが立地する.さらに,川崎市と川崎市産業振興財団が進めている(仮称)ものづくりナノ医療イノベーションセンターでは,産学官が一つ屋根の下に集い,研究開発を行う「場」を提供する.国の制度なども活用しながら拠点形成を図り,ライフイノベーションを推進することにより,国際競争力の強化に取り組む.
新薬紹介総説
  • 合田 真貴, 赤星 文彦, 石井 伸一, 寺田 龍司, 林 義治
    2013 年 142 巻 3 号 p. 134-143
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/09/10
    ジャーナル フリー
    テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物(テネリア®錠)は,dipeptidyl peptidase-4(DPP-4)を選択的に阻害し血糖値を低下させる本邦で新規に開発された2型糖尿病治療薬である.テネリグリプチンは連続した5つの環を構造上の特徴とする薬剤で,その各々の構造がDPP-4活性部位の複数のアミノ酸に結合・作用して,強い酵素阻害活性を発揮する.非臨床薬理試験において,テネリグリプチンはヒト組換えDPP-4活性を濃度依存的に阻害し,そのIC50値は0.89 nMであった.ヒトおよびラットの血漿中DPP-4阻害作用のIC50値はそれぞれ1.75 nMおよび1.14 nMで,他のDPP-4阻害薬(シタグリプチンおよびビルダグリプチン)と比較して強いことが示された.In vivoにおいてもテネリグリプチンは,経口投与でラットの血漿中DPP-4活性を阻害し,その作用は他のDPP-4阻害薬よりも強く持続的であった.Zucker fattyラットへの単回投与でテネリグリプチンは,投与12時間後に実施した経口混合糖液負荷による血糖上昇も抑制し,持続的な薬効を示した.健康成人を対象にした臨床試験において,テネリグリプチン20 mgを単回経口投与した時の血漿中未変化体濃度の半減期は24.2時間であり,反復投与しても薬物の蓄積性は認められず,7日以内に定常状態に達した.また腎機能障害者においても,テネリグリプチンは著明な血中濃度上昇を生じないことを確認している.2型糖尿病患者を対象とした臨床薬理試験において,テネリグリプチンは1日1回朝食前の投与で,朝食,昼食および夕食後の食後高血糖を抑制し,終日にわたる良好な血糖改善作用を示した.この時テネリグリプチンは血漿中DPP-4活性を24時間にわたり阻害し,活性型glucagon-like peptide-1(GLP-1)濃度増加作用が夕食時も持続した.2型糖尿病患者への長期投与試験において,テネリグリプチンは単独投与で52週間にわたりHbA1c低下作用を示し,スルホニルウレア(SU)系薬剤との併用試験においても,52週にわたって安定した血糖コントロールを示した.国内で実施された全ての臨床試験を統合した解析において,副作用発現率は10.0%であった.テネリグリプチンの低血糖症の発現頻度はプラセボと同程度で,重篤な低血糖症は認められなかった.結論として,テネリグリプチンは強力かつ持続的なDPP-4阻害作用に基づき,1日1回投与で24時間にわたる血糖コントロールが可能で,安全性が高く,服薬の利便性が高い新規の2型糖尿病治療薬として期待できる.
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