日本薬理学雑誌
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82 巻, 6 号
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  • (1)マウス着床前受精卵のIn vitro培養法の確立およびその発育経過に及ぼす6-Mercaptopurineの影響
    鎌田 紘八, 鈴木 秋悦, 大石 幸子
    1983 年 82 巻 6 号 p. 411-418
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/03/07
    ジャーナル フリー
    マウスの受精卵を2細胞期または8細胞期より,in vitroで培養し,後期胚盤胞に至るまでの発育率を指標として培養条件の検討およびその至適系を使って,薬物の受精卵におよぼす影響をみた.1)3種の培養液,SECM,BMOC-III,TYH-280について検討した結果,2細胞卵の後期胚盤胞へ至るまでの発育率はBMOC-IIIにおいて最高率を示した.したがって,培養液としてはBMOC-IIIを用いた.2)培養液の交換については受精卵の培養開始後,1回交換し,後期胚盤胞に至るまでの発育率を検討した.2細胞卵を培養開始後1および3時間に培養液を交換したときの発育率は12および24時間後交換した際の発育率に比較して低下していた.8細胞卵は1時間後交換で発育率の低下を示した.したがって,受精卵の培養開始後1および3時間での環境変化は発育を阻害し,8細胞卵は2細胞卵と比較して,環境変化に対する抵抗性を示すと思われた,3)6-mercaptopurine(6-MP)の受精卵の発育に対する影響については2細胞卵および8細胞卵に6-MPを12または24時間作用させると,各発育段階での発育率は用量依存的に減少したが,8細胞卵での発育率は2細胞卵の結果と比較して高かった.したがって,受精卵に対する薬物作用時間は12または24時間が最適であるとした.受精卵の発育率は作用時間中および終了後においても減少した.作用時間中の発育率の減少は薬物の細胞致死作用である急性毒性の発現を示していると考えられる.また,作用終了後の発育率の低下は数回の細胞分裂後に発現した.これはこの薬物が受精卵の細胞機能に何等かの影響を与えたことを示唆していると考える.
  • (2)マウス卵細胞の染色分体分染法の開発
    鎌田 紘八, 大石 幸子
    1983 年 82 巻 6 号 p. 419-427
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/03/07
    ジャーナル フリー
    マウスの培養受精卵を用いて,薬物の毒性評価法を確立するために後期胚盤胞(Late blastocyst: LB)における卵細胞の染色分体の分染を試みた.方法は5-bromodcoxyuridine(BrdU)を加えた培養液内で桑実胚をLBまで発育させた後,染色体標本を作製した.標本は染色分体を分染するためにHoechst33258で染色し,光照射の後,Giemsa染色を行った,照射光源としては蛍光灯(15W),紫外線灯(20W),水銀灯(400W)の3種類を使用した。これらの光源による染色分体の分染に対するBrdUの最少有効濃度を比較した.分染は水銀灯を用いたときに最も低いBrdU濃度で可能であったが,過度の照射や温度の上昇は分染阻害を来すことが判明した.次にBrdUのLBへの影響について検討した.LBでは1ng/mlの濃度で細胞数は若干増加したが,3~100ng/mlの濃度下では殆んど変化が認められなかった.また,細胞の分裂指数はいずれの濃度においても変化しなかった.従って,BrdUは受精卵細胞の分裂遅延作用をこの濃度域では発現していないと考えられた.染色分体交換(Sister chromatid exchange: SCE)の頻度は3~30ng/mlの濃度で安定した頻度を示し,この発現傾向は他の培養細胞での報告と類似した,LBでのBrdUの分染濃度はいずれの培養細胞での濃度よりも低濃度であり,また,SCEの頻度は他の培養細胞での報告と同等か,または低い頻度を示した.マウスの受精卵の染色分体の分染法としてのBrdUは3~30ng/mlで処理し,照射は水銀灯を用いたときにSCE頻度に影響しない最適条件が得られることが判明した.この方法を用いて,薬物の受精卵に対する影響をその発育率,'LBの細胞数,分裂指数およびSCEの頻度を指標として現わした.これは薬物の遣伝的変化についての情報を得ることが可能であり,培養下で薬物の毒性を短期間に評価する有効な手段になり得ると考えられる.
  • 中神 啓仁, 小林 豊一, 高柳 法康, 矢野 譲次, 三浦 昌己
    1983 年 82 巻 6 号 p. 429-441
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/03/07
    ジャーナル フリー
    Forssman抗血清によるモルモットの気道抵抗の変化を薬理学的および病理学的に検討した.モルモットにForssman抗血清を静注すると2相性の気道抵抗の増大が生じた。すなわち,投与後20秒の潜伏期の後,一過性の増大(I相)が生じ,続いて徐々に持続性の増大(II相)が生じた.この増大は5~7分後にはプラトーとなり不可逆的であった.病理組織学的所見で,肺には出血ならびに浮腫が認められ,気管支枝内には分泌液の充満が認められた.肺胞には浸出液の貯留,出血が認められ,毛細血管内には好中球の集籏が認められた.電顕的には血管内皮細胞の崩壊が認められた.I相およびII相の気道抵抗の増大はDSCGの前処置で何ら影響されず,cobra venom factorおよびcarrageeninにより完全に抑制された.isoproterenolおよびsalbutamolはI相を選択的に抑制し,aminophyllineはII相の後半の反応も抑制した.cyproheptadineはI相を抑制したがchlorpheniramineは抑制しなかった.一方,indomethacinおよびaspirinはII相を選択的に抑制した.O2-のスカベンジャーであるsuperoxidedismutaseはII相を著明に抑制したが,不活性化superoxide dismutaseおよびH2O2のスカベンジャーであるcatalaseは抑制しなかった.以上の成績より,本反応の発現には補体系が重要な役割を担っていることが示唆された.I相は気道の収縮によるものと考えられ,その一因としてセロトニンの関与が示唆された.一方,II相は血管内皮障害による血管透過性充進,浮腫および気道内への出血性分泌液の充満等の炎症性の機序が考えられ,プロスタグランジンやO2-の関与が示唆された.
  • 野崎 正勝, 丹羽 雅之, 長谷川 順一, 藤村 一
    1983 年 82 巻 6 号 p. 443-450
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/03/07
    ジャーナル フリー
    麻薬拮抗性強力鎮痛薬であるbutorphanol(BT)およびその主代謝産物のnorbutorphanol(NB)とhydroxybutorphanol(HB)のオピオイド受容体相互作用をラット脳粗シナプトソーム分画を用いて検討した.BTはμ(dihydromorphine),δ(D-Ala2-D-Leu5-enkephalin),に(ethylketocyclazocine)の各リガンドの特異結合に対しmorphine,ketocyclazocineなどより強い阻害作用を示し,特にμ,κ-部位に対する結合が著明であった.NBはμ-部位に対しpentazocineより強い相互作用を示したがκ-部位への結合は弱かった.HBはμ-部位にのみ弱い結合を示した.BT,NB,HBのσ(phencyclidine)部位への作用はpentazocine,ketocyclazocineなどより弱くmorphineと同等であった.100mM Na+イオン共存下あるいは500μM DTNB処理した場合,BTは典型的なantagonist-agonist,NBはagonistそしてHBはantagonistの成績をあたえた.BTの主たる薬理作用は比較的強いμ-antagonistおよびκ-部位へのκ-agonist様作用によって発現していると考えられ,これがBTの身体依存形成能が低い理由の一つであると思われる.
  • 丹羽 雅之, 野崎 正勝, 上久保 啓太, 藤村 一, 門田 利人, 甲斐 修一, 河野 茂生, 河村 寿, 高橋 紀光
    1983 年 82 巻 6 号 p. 451-463
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/03/07
    ジャーナル フリー
    butorphanol(BT)およびその主代謝産物であるnorbutorphanol(NB),hydroxy-butorphanol(HB)の依存形成能を各種動物モデルで試験した.ラットに被検薬を1時間毎に3日間静脈内反復注射後,naloxone誘発性体重減少および禁断症状を検討したところBT>NBで弱いものの作用が認められた.HBは有意な作用を示さなかった.被検薬を除放性エマルジョンとし,モルモット皮下に注入,2~3日後naloxone投与によるjumping反応でBT投与は同用量(最大600mg/kg)のpentazocine投与より有意に少いjumpingしか出現せず,またNB,HB(600mg/kg)投与群はともにjumpingを認めなかった,モルヒネ依存ラットに対し,被検薬の交叉反応を検討すると,BT,HBの両投与群は同用量のpentazocineより有意に強い体重減少と退薬症候を示した。NB投与群は生理食塩水投与群に比し,体重変動が有意に小さかったpentazocine投与群とはほぼ有意差を認めなかった.ラット尾状核のadenylate cydase活性に対しBTは用量依存性の弱い抑制作用を示した.その作用はpentazocineより弱かった.NBによる抑制作用はBTの作用よりさらに弱く,またHBは作用を認めなかった.以上の成績からBTの依存形成能はpentazocineの作用よりも弱いと考えられ,これはBTの強いμ-antagonist性によるのかもしれない.NBはμ-agonist性があり依存形成能を否定することはできないと思われる.HBには依存形成能はないと考えられた.
  • 清水 一広, 田中 修一, 半田 武, 川添 祥一, 荒尾 宣一郎, 中沢 照喜, 白石 美津子, 旭 哲也
    1983 年 82 巻 6 号 p. 465-474
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/03/07
    ジャーナル フリー
    虚血によって誘起したラットの急性腎障害モデルを作製し,このモデルにおける腎機能および腎細胞内代謝の変化と,adenosine triphosphate-magnesium chlodde(ATP-MgCl2)投与における効果について腎機能面から検討した.その結果1)腎虚血を40分間以上することにより,腎血流再開90分後の腎細胞内ATPレベルおよびエネルギーチャージ(EC)は非虚血群に比しそれぞれ45~57%,4.1~7.4%有意に低下した.また腎組織中Na+は有意に増加したが,K+は低下傾向を認めたものの有意差は認められなかった.さらに腎組織中乳酸濃度は虚血時間の延長とともに非虚血群に比し27~31%の増加傾向を示し,腎細胞内の嫌気的代謝が認められた.一方,腎血流再開24時間後の血漿クレアチニン(P-Cr),血中尿素窒素(BUN)およびナトリウム排泄率(FENa)は非虚血群に比しそれぞれ有意に増加し,さらにクレアチニンクリアランス(C-Cr),尿浸透圧は有意に低下し,虚血性腎障害に陥っていることが認められた.2)40分の腎虚血後にATP-MgCl2を,投与量25μmole/kg,投与速度1.0μmole/minで静脈内投与することにより,腎血流再開24時間後のP-Cr,BUNおよびFENaは対照(生理食塩液投与)に比しそれぞれ36,35および35%有意に低下し,さらにC-Crおよび尿浸透圧はおのおの41%および31%有意に上昇した.以上の結果から,ラットの虚血性急性腎障害は虚血によって腎細胞内ATPおよびECが減少し,細胞内代謝障害を生じることによって発症するものと考えられた.さらに,かかる病態に対しATP-MgCl2を投与することにより,腎機能が有意に改善されることが示唆された.
  • 岸岡 史郎, 井口 賀之, 尾崎 昌宣, 山本 博之
    1983 年 82 巻 6 号 p. 475-484
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/03/07
    ジャーナル フリー
    ラット延髄傍巨大細胞網様核(NRPG)を含む巨大細胞網様核(NRGC)に少量のmorphine(Mor)を局所注入することによって鎮痛作用が発現し,そのED50は8.5ng/ratであった.そこで,NRPGを含むNRGC破壊のMor鎮痛に及ぼす影響について検討した.体重3009前後のラットを用い,DC,0.5mA,40秒間の通電によって両側性にNRGCを破壊した.手術直後の破壊の程度は,NRGC(NRPGを含む)の約30%であったが,術後日数の経過と共に破壊面積は縮少した.対照ラットでは,術後一過性に軽度の体重減少が認められたが,NRGCが正確に破壊された破壊ラットでは,術後急激な体重減少と以後の体重増加の抑制が認められた.しかし,破壊ラットに運動機能障害は認められなかった.Mor鎮痛作用の測定は,tailpinch法と後肢加圧法に従った.tailpinch法は鎮痛活性(AI)および鎮痛曲線下面積(AUA)を後肢加圧法は反応閾値の上昇度(IT)およびAUAを指標とした.コントロール疹痛閾値は,NRGC破壊によって影響を受けなかった.Mor5mg/kg,s.c.によるMor鎮痛は,tailpinch法(AIおよびAUA)および後肢加圧法(ITおよびAUA)共にNRGC破壊によって著明(P<0.Ol)に抑制された.偏位破壊ラットにおけるMor鎮痛の減弱は,破壊ラットにおけるよりも軽度であった.5,10および15mglkg,s.c.のMor鎮痛は,NRGC破壊によってほぼ同程度に抑制されたが,いずれの用量のMQr鎮痛にも完全抑制は認められなかった.対照および破壊ラットにおける種々用量によるMor鎮痛の経時変化は相似した.破壊面積の大きさとMor鎮痛減弱の強さの間には,tailpinch法および後肢加圧法共に,相関が認められ,破壊面積が広い程Mor鎮痛の抑制は増強された.以上,NRGC破壊によるMor鎮痛の抑制について明らかにした。
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