日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
123 巻, 1 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
ミニ総説号「PGD2とその関連生体分子の生理と薬理」
  • 裏出 良博, 江口 直美, 有竹 浩介, 早石 修
    原稿種別: ミニ総説号
    2004 年 123 巻 1 号 p. 5-13
    発行日: 2004年
    公開日: 2003/12/23
    ジャーナル フリー
    プロスタグランジン(PG)D2は,末梢組織の肥満細胞やTh2リンパ球で産生されアレルギー反応のメディエーターとして働く.一方,中枢神経系の主要PGとしても産生され,睡眠や痛覚の調節を行う.PGD合成酵素は,PG類の共通中間体であるPGH2からPGD2への異性化を触媒し,肥満細胞やTh2リンパ球に分布する造血器型と,中枢神経系や雄性生殖器,心臓に局在するリポカリン型の2種類が存在する.マウスとヒトの両酵素のcDNAがクローニングされ,造血器型酵素はシグマ型のグルタチオン転移酵素の遺伝子ファミリーに属し,リポカリン型酵素は脂溶性低分子化合物の結合と輸送を行う分泌タンパク質により構成されるリポカリン遺伝子ファミリーに属する初めての酵素であることが証明された.両酵素のアミノ酸配列には全く相同性が見られず,異なる起源から進化してPGD合成酵素活性を獲得した機能的相似の新しい例と考えられる.さらに,ヒト脳脊髄液の主要タンパク質として1961年に発見されたベータ·トレース(β-trace)がリポカリン型PGD合成酵素であることも証明され,脳脊髄液や尿,精液,血液等の各種体液中の本酵素濃度が,脳内出血や腎疾患,稀精子症,冠動脈狭窄等の疾患マーカーとして有効であることが証明された.そして,それぞれの酵素の遺伝子欠損マウスとヒト型酵素を大量発現するトランスジェニックマウスが作製され,アレルギーや痛覚,睡眠調節の異常を示すことが証明された.さらに,ラットとヒトの造血器型酵素およびマウスのリポカリン型酵素のX線結晶構造が決定され,両酵素に特異的な阻害薬との複合体の構造解析も進んでいる.それぞれのPGD合成酵素で産生されたPGD2は,DPとCRTH2の2種類の受容体に作用して,様々な生理機能に関与すると考えられる.
  • 平井 博之
    原稿種別: ミニ総説号
    2004 年 123 巻 1 号 p. 15-22
    発行日: 2004年
    公開日: 2003/12/23
    ジャーナル フリー
    アレルギー炎症の惹起細胞として知られているマスト細胞は,その細胞表面の高親和性IgE受容体を介して結合している特異的IgEに,生体内に侵入してきた特異的抗原が結合し架橋すると,活性化し様々なメディエーターを分泌する.その結果,気管支収縮,粘液分泌の亢進,血管透過性の亢進,2型ヘルパーT(Th2)細胞,好酸球,好塩基球らの炎症細胞の集積など,いわゆるアレルギー炎症を引き起こす.プロスタグランジンD2(PGD2)は活性化したマスト細胞が分泌する主要なプロスタノイドであるが,アレルギー炎症における機能については不明な点が多かった.しかし,最近の研究によりアレルギー炎症に促進的に働くことが示されてきている.PGD2はおもに受容体を介して作用を発揮し,PGD2受容体としてDP受容体とCRTH2が報告されている.この2つの受容体はシグナル伝達系が全く異なり,違った機能を持っているが,協調的作用によってアレルギー炎症の形成と進展に関与していると推測される.そのため,PGD2およびその受容体はアレルギー克服のための新たなターゲットとしての期待がもたれる.
  • 上原 誉志夫
    原稿種別: ミニ総説号
    2004 年 123 巻 1 号 p. 23-33
    発行日: 2004年
    公開日: 2003/12/23
    ジャーナル フリー
    最近,心臓血管壁再構築プロセスにおけるPGD2/L-PGDS系の役割が注目を集めている.PGD2/L-PGDSは心臓·血管壁細胞をはじめ炎症系細胞にも存在し,炎症関連疾患の病態の進展に関係する.われわれは,PGD2/L-PGDS系が血管壁平滑筋細胞や内皮細胞の核内受容体を介してNFkB,STATやAP-1などの転写因子に影響を与え,誘導型NO,PAI-1,endothelinやVCAM産生を低下させ,血管障害性のプロセスを抑制することを明らかにしてきた.実際,各種腎障害や高血圧,糖尿病性腎症など炎症関連疾患では腎臓障害の早期からPGD2/L-PGDS系が亢進している可能性があり,尿中L-PGDS排泄量はこれら腎臓障害の予知因子として臨床的意義が高いことをみいだしてきた.尿中L-PGDS排泄量の増大は,一つには糸球体で濾過されたL-PGDSの尿細管再吸収低下と尿細管細胞におけるL-PGDSmRNA増加とによって説明される.実際,免疫組織学的には,近位尿細管でL-PGDS抗原性が証明され,ヘンレのループまたは糸球体には発現がほとんどみられない.また,正常腎では尿細管細胞よりも尿細管基底膜での抗原性が著明である.局所におけるL-PGDS産生の制御因子は明らかではないが,サイトカインなどの炎症関連因子の関与が考えられる.L-PGDS産生はPGD2産生を亢進することから,この増加は組織障害に対する適応現象と思われる.実際,PGD2およびその代謝産物を前投与しておくことで,LPSによるエンドトキシンショックから生じる肝機能障害を軽減し,血管壁NO産生を低下させ,NO産生刺激による血管弛緩反応を減弱する.PGD2/L-PGDS系のこのような作用は,炎症に関連する臓器血管障害の遺伝子治療に道を開く知見といえる.PGD2/L-PGDSの歴史は古いが,心血管系疾患の成因および治療に新たな可能性をもたらしており,まさに“Cinderella in vascular biology”といえよう.
  • 三輪 宜一, 田場 洋二, 宮城 めぐみ, 笹栗 俊之
    原稿種別: ミニ総説号
    2004 年 123 巻 1 号 p. 34-40
    発行日: 2004年
    公開日: 2003/12/23
    ジャーナル フリー
    プロスタグランジンJ2(PGJ2),Δ12-PGJ2,15-デオキシ-Δ12,14-PGJ2(15d-PGJ2)の三者を含むPGJ2ファミリーは,生体内ではアラキドン酸代謝の過程においてPGD2が非酵素的に変換され生成される.これらPGJ2ファミリーの薬理作用としては,古くからがん細胞やウイルスの増殖を強力に抑制することが知られていた.しかしながらその他の作用についてはほとんど知られていなかった.その後,1995年にPGJ2ファミリーが脂肪細胞の分化に必要な核内受容体peroxisome proliferator-activated receptor γ(PPARγ)のリガンドであることが明らかになって以来,研究が飛躍的に進んだ.特に15d-PGJ2は現在のところ最も強力な内因性PPARγリガンドとして知られており,抗炎症作用,アポトーシス抑制および誘導作用,分化誘導作用等の新たな薬理作用を有することが見出された.本稿では主に心血管系の細胞を中心に,これまでに明らかにされたPGJ2ファミリーの薬理作用およびその機序についてまとめた.
feedback
Top