心肥大から心不全発症に至る病的心筋リモデリングの過程においては病的なCa
2+依存性シグナルが重要な役割を果たすことが知られるが,その活性化にかかわる病的なCa
2+流入がどのように起きるかは未だ不明な点が多い.我々は病的心において発現が亢進する心筋胎児型遺伝子の発現調節機構解明の過程において,このような細胞内への病的なCa
2+流入を担うと考えられる二つのイオンチャネルを明らかにした.一つはアンジオテンシンIIなどの受容体刺激において活性化される受容体活性化型Ca
2+チャネルであるtransient receptor potential C(TRPC)チャネルであり,もう一つは比較的低電位で活性化する電位依存性Ca
2+チャネルであるT型Ca
2+チャネルである.受容体刺激により活性化されるTRPCチャネルのうち,特にTRPC6チャネルが心筋への病的刺激によりカルシニューリン-NFAT依存性に遺伝子発現が亢進すること,TRPC6発現亢進がさらにカルシニューリン-NFATを活性化させ病的心筋リモデリング進展に関与することを見出した.さらに,抗心肥大作用を有する心房性ナトリウム利尿ペプチドは,protein kinase Gを介してTRPC6をリン酸化しその活性を抑制すること,TRPC阻害薬投与が心肥大モデルマウスの心肥大を有意に抑制することを明らかにした.また我々は心筋胎児型遺伝子再発現にneuron-restrictive silencer factor(NRSF)として知られる転写抑制因子の関与を見出し,心筋においてNRSF阻害が心不全および突然死を惹起することを報告したが,このマウスでは,T型Ca
2+チャネルの発現亢進を認め,T型Ca
2+チャネル阻害薬はこのマウスの突然死を優位に減少させた.これら研究からTRPCチャネルおよびT型Ca
2+チャネルが新たな病的心筋リモデリングに対する治療標的となりうる可能性が示唆された.
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