日本薬理学雑誌
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140 巻 , 3 号
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特集 統合失調症治療薬の研究開発
  • 池田 和仁
    2012 年 140 巻 3 号 p. 102-106
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/10
    ジャーナル フリー
    疾患動物モデルは,(1)想定する仮説に基づき,(2)ある動物種を用いて,(3)何らかの方法で病態を引き起こし,(4)ある測定手段を持って評価を行うことになる.統合失調症動物モデルに関してこれら4要素に分け整理すると,まず仮説については臨床から偶発的に見つかった事象(back-translational psychopharmacology research)から提唱された仮説から,疫学調査・病理学さらに遺伝学(translational psychopharmacology research)から構築された仮説へと広がりを見せ始めている.動物種については,前頭葉皮質の未発達なげっ歯類に代わり,ヒトとのギャップを少しでも埋めるべく霊長類に注目が集まりつつある.統合失調症様症状を引き起こす方法については,出生前に遺伝子を改変,あるいは免疫学的な環境負荷をかける方法,出生後の幼若期に免疫学的あるいは精神的ストレスによる環境負荷,あるいはイムノトキシンなどで特定の神経細胞を破壊する神経回路制御法,さらにNMDA拮抗薬投与などによる従来の薬理学的手法も多く報告されている.評価方法に関しては,特に認知機能評価は霊長類(NHP: non-human primate)を対象としたCANTAB(Cambridge Neuropsychological Test Automated Battery)装置の利用によって,臨床においてMCCB(MATRICS Consensus Cognitive Battery)やCogStateによって整備・細分化された各認知ドメインへの対応づけが可能となる.さらにfMRI(functional Magnetic Resonance Imaging)やERP(Event-Related Potential)などの中間表現型の評価系を併せて活用していくことも試み始めている.
  • 尾崎 諭司
    2012 年 140 巻 3 号 p. 107-110
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/10
    ジャーナル フリー
    統合失調症は陽性症状,陰性症状,認知機能障害を主たる症状とする精神疾患であり,若年で発症し,その罹患率は約1%といわれている.統合失調症の治療薬には,ハロペリドールやクロザピンに代表される,第一・第二世代抗精神病薬が用いられているが,錐体外路症状のような副作用が生じやすい点や,陰性症状や認知機能障害に対する有効性が乏しいことから,新たな治療薬の開発も期待されている.しかしながら,統合失調症をはじめとする抗精神病薬の開発においては,精神作用に対するその薬物の効果の客観的な評価や,標的組織である脳への薬物の移行性,標的分子の周辺環境中での薬物濃度の確認等が臨床では困難であるため,それらがこの領域における新薬開発の難易度を上げる要因にもなっている.近年,バイオマーカーやトランスレーショナル研究の創薬プロセスへの利用が活発になってきているが,fMRI(functional magnetic resonance imaging,機能的核磁気共鳴画像法)やPET(positron emission tomography,ポジトロン断層法)などの画像解析法は,脳神経活動の変化や,薬物の脳内動態および標的分子への結合量(占有率)を実験動物からヒトまでを同一手法を用いて非侵襲的に測定できるため,中枢作動薬の開発においても徐々に活用されるようになってきている.特に統合失調症の領域においては,[11C]racloprideを用いたPET受容体占有率試験によるハロペリドールの薬効と受容体占有率の関係を示す研究に代表されるような,PETを用いた多くの研究がなされており,治療薬の開発においても,PET占有率試験に代表されるイメージングバイオマーカーの活用が増えてきている.本節では,統合失調症治療薬の開発においてバイオイメージング技術がどのように活用されているかについて,PETの例を中心に紹介したい.
  • 日吉 哲明, 茶木 茂之, 奥山 茂
    2012 年 140 巻 3 号 p. 111-115
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/10
    ジャーナル フリー
    統合失調症は,陽性症状,陰性症状,および認知機能障害を主要症状とする精神疾患である.今日まで「ドパミン仮説」に基づく治療薬が創製されてきたが,いずれも陽性症状には奏効するものの,陰性症状や認知機能障害に対する治療効果は十分ではない.近年,陰性症状や認知機能障害の原因として前頭皮質におけるグルタミン酸神経系異常への注目が集まり,新薬開発は「グルタミン酸仮説」に基づく新たなターゲットへとシフトしている.統合失調症の「グルタミン酸仮説」は,皮質神経回路の興奮/抑制バランス異常による情報伝達障害を病態の原因とする仮説である.我々は早くから本仮説に着目し,過剰興奮した錐体ニューロン活性を抑制するアプローチとしてグループII代謝型グルタミン酸受容体(mGlu2/3受容体)アゴニストの創薬に取り組んできた.mGlu2/3受容体アゴニストは,非臨床試験における抗精神病様作用が報告されているほか,近年,Eli Lilly社が開発中のLY2140023の第II相臨床試験における有効性が検証され,より一層の注目を集めている.本稿では,統合失調症の「グルタミン酸仮説」に基づくmGlu2/3受容体アゴニストの作用機序を中心に概説し,その新規統合失調症治療薬としての可能性について考察する.
  • 多神田 勝規, 三宅 進一, 松本 光之
    2012 年 140 巻 3 号 p. 116-120
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/10
    ジャーナル フリー
    統合失調症は,陽性症状・陰性症状・認知機能障害を伴う様々な症状を呈し,その顕著な症状により社会的営みが大きく阻害される.また若年での発症を認めること,そして症状の持続や増悪化など予後が悪い患者も多いことから,本人のみならず家族を始めとする取り巻く人々へも負担を強いる,社会的影響が極めて大きな疾患の一つである.統合失調症治療に関しては,現在ドパミン遮断を主作用とする定型抗精神病薬や,セロトニンその他受容体調節作用を加え発展させた非定型薬剤により,特に陽性症状への介入に一定のベネフィットが認められる.一方で,陰性症状や認知機能障害に対してはこれら薬剤による治療効果は必ずしも高くなく,大きなアンメットニーズとして認識されている.臨床においてはこのように満たされない現状ではあるが,近年では精神疾患領域における研究の飛躍的な進展により,病因・病態の観点から多面的な俯瞰が可能となってきた.遺伝学からは疾患感受性(リスク)遺伝子の同定,分子生物学・細胞生物学からはリスク遺伝子のメカニズム解析,組織学・解剖学からは病理・病態への考察,そして脳イメージングや脳波などのin vivo電気生理学アプローチにより,中間表現型(エンドフェノタイプ)と考えられる生体脳機能変化への切り込みが試みられている.このような多様なアプローチを駆使することで,統合失調症に対する新しい病態仮説の設定や創薬標的探索が模索されている.そして,現状の創薬が取り組む症状緩和を主目的とする対症療法アプローチから,次世代の創薬には病態改善を含む抜本的な切り口が求められるようになるだろう.この大きな課題に対してどのような取り組みが必要なのか,本節においては創薬標的分子の探索に主眼をおいて議論したい.
総説
  • 光山 勝慶
    2012 年 140 巻 3 号 p. 121-126
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/10
    ジャーナル フリー
    RA系が脳・心・腎の臓器障害やメタボリックシンドローム,糖尿病の病態に重要な役割を演じていることは臨床レベルでも確立しており,その病態生理ならびに阻害薬の薬理学的機序に注目が集まっている.RA系による脳・心・腎の臓器障害の機序として,アンジオテンシンIIによる血管内皮障害や血管リモデリングが重要な役割を演じている.アンジオテンシンIIはNADPHオキシダーゼ,キサンチンオキシドリダクターゼおよびeNOSアンカップリングによる酸化ストレス増加作用,接着因子,ケモカインおよびサイトカインの発現増加を介した炎症惹起,インスリン抵抗性促進作用等の多様なメカニズムを介して,酸化ストレスと炎症の悪循環を引き起こし,血管内皮障害や血管リモデリングの成因に関与する.さらに,アンジオテンシンIIによる血管eNOSアンカップリングやeNOS機能不全は,心腎連関の進展,食塩感受性高血圧や腎機能障害にも関与している.MAPキナーゼキナーゼキナーゼであるASK1は酸化ストレスによって活性化される分子であるが,アンジオテンシンIIによって著明に活性化される.ASK1欠損マウスを用いた検討から,アンジオテンシンIIによる心血管リモデリング,肥満,インスリン抵抗性,脂肪肝の進展にASK1が重要な役割を演じている.SHRSP(脳卒中易発症高血圧ラット),慢性脳低灌流による血管性認知症マウス,アルツハイマー病モデルマウスを用いた検討から,neurovascular unitでのRA系亢進が脳卒中や認知症の病態に重要な役割を演じており,脳内RA系をブロックすることが認知症の予防戦略としても有効である可能性がある.以上の成績から,RA系による臓器障害の機序,インスリン抵抗性等の代謝性疾患の機序を解明することは循環規約の創薬につながることが期待できる.
創薬シリーズ(6)臨床開発と育薬(18)(19)(20)
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