日本薬理学雑誌
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130 巻, 6 号
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特集:神経伝達物質トランスポーター研究の新しい展開
  • 北山 滋雄, 十川 千春, 土肥 敏博
    2007 年 130 巻 6 号 p. 444-449
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/14
    ジャーナル フリー
    神経終末やグリア細胞の細胞膜に存在する神経伝達物質トランスポーターは,神経終末より遊離された神経伝達物質を再取り込み(reuptake)することによりその神経伝達を終結させる役割を担う.これらトランスポーターは遺伝子ファミリーを形成し,その構造と機能,発現と病態との関連が明らかにされてきた.これまでの研究から,神経伝達物質トランスポーターの機能や発現がいかに調節され,それにより伝達物質の合成や貯蔵あるいは遊離がどのように影響されるのか,さらに伝達物質輸送とチャネル様活性という異なる機能が神経伝達の調節に果たす役割は何か,などの問題についての重要な発見が蓄積されてきている.最近では,グルタミン酸トランスポーター並びにNa+/Cl-依存性神経伝達物質トランスポーターのバクテリアホモログの結晶解析が神経伝達物質トランスポーターの構造についての新たな知見をもたらし,トランスポーターの機能や発現との関係について新たな研究展開を促している.本総説では,こうした神経伝達物質トランスポーターの構造解析に基づき,その限界も含めた構造・機能・発現の新しい考えを概説する.
  • 曽良 一郎, 猪狩 もえ, 山本 秀子, 池田 和隆
    2007 年 130 巻 6 号 p. 450-454
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/14
    ジャーナル フリー
    モノアミントランスポーターはコカイン,メチルフェニデート,メタンフェタミン(MAP)などの覚せい剤の標的分子であることから,覚せい剤依存の病態における役割を明らかにするための詳細な精神薬理学的研究が行われてきた.モノアミントランスポーターには,各モノアミンの前シナプス終末に主に発現する細胞膜モノアミントランスポーターと,すべてのモノアミンを基質とするシナプス小胞モノアミントランスポーター(VMAT)の2種類がある.覚せい剤は,モノアミン輸送を阻害し,神経細胞内外の分画モノアミン濃度を変化させ薬理効果を示す.コカインは細胞膜モノアミントランスポーター阻害作用を有し,その報酬効果はドパミントランスポーター(DAT)を介しているとする「DAT仮説」が提唱された.しかし,DATとセロトニントランスポーター(SERT)が共に関与していることが示された.ただし,SERTよりもDATがより大きな役割を果たしていると考えられる.「DAT仮説」は当初提唱された以上に複雑であると思われる.また,メチルフェニデートを健常人に投与すると投与が興奮や過活動を引き起こすが,注意欠陥多動性障害(ADHD)患者へは鎮静作用がある.DAT欠損マウスはメチルフェニデートを投与されると移所運動量が低下することから,ADHDの動物モデルの一つと考えられる.MAPはコカインとは異なる薬理作用を有する.コカインがDATを阻害し,細胞外ドパミン(DA)を増加させるのに対して,MAPはDATに作用して交換拡散によりDAを細胞外へ放出させることで細胞外DA濃度を増加させる.さらに,MAPはVMATに作用して小胞内のDAを細胞質へ放出させる.MAPの反復使用は,逆耐性現象(行動感作)や認知機能に障害を引き起こすことから,覚せい剤精神病や統合失調症などの動物モデルの一つと考えられている.依存性薬物のモノアミントランスポーターへの複雑な作用機序を明らかにすることにより,薬物依存の病態の新たな知見が得られてくると期待される.
  • 田中 光一
    2007 年 130 巻 6 号 p. 455-457
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/14
    ジャーナル フリー
    グルタミン酸は,神経幹細胞の増殖,神経細胞の移動・成熟にとって重要な役割を果たすことがin vitroの実験から示唆されてきた.しかし,グルタミン酸受容体欠損マウスなどのグルタミン酸のloss-of-functionモデルでは,脳の形成異常を示さない.我々は,グルタミン酸トランスポーター欠損マウスを用いグルタミン酸のgain-of-functionモデルを作成した.そのモデルの一つに,大脳皮質・海馬・嗅球の層形成障害などの様々な発達異常が観察された.これらの異常は,過剰な細胞外グルタミン酸による神経幹細胞の分裂障害・神経細胞の移動および成熟障害によるものである.以上の結果は,脳の正常な発達にはグルタミン酸トランスポーターによる細胞外グルタミン酸濃度の厳密な制御が重要であることを示している.
  • 森田 克也, 本山 直世, 北山 友也, 森岡 徳光, 土肥 敏博
    2007 年 130 巻 6 号 p. 458-463
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/14
    ジャーナル フリー
    神経因性疼痛は難治性で従来の鎮痛薬が奏効せず,新しい薬が期待されている.グリシン作動性ニューロンは脊髄を含む脳の特定部位に局在し,痛みシグナルの伝達を調節する重要な役割を果たしている.本研究では,坐骨神経部分結紮(PSL)神経因性疼痛モデルマウスを用いてグリシントランスポーター(GlyT)阻害薬の抗侵害作用について検討し,特異的GlyT1阻害薬ORG25935,sarcosineおよびGlyT2阻害薬ORG25543,ALX1393の脊髄腔内投与および静脈内投与によりアロディニア症状を寛解することを見い出した.この作用は強力で長期間持続し,gabapentinの作用よりも著しく長いものであった.GlyTs阻害薬の抗アロディニア作用はGlyTsの阻害によるグリシンの貯留と,それに続く脊髄グリシン受容体α3(GlyRα3)の活性化を介したグリシン作動性抑制系の賦活によることを示した.グリシン神経の活性化は神経損傷の初期では侵害的に作用し,4日以降に抗侵害作用を認めた.この逆転現象はミクログリアの活性化,脳由来神経栄養因子(BDNF),細胞内Cl-の汲み出しに機能するKCC2の発現抑制といった一連のカスケードが関与する可能性を示唆した.以上,GlyTs阻害薬に強力な抗アロディニア作用を認め,GlyTは神経因性疼痛の治療薬開発のターゲットとなることを示した.更に,GlyTs阻害薬の作用は,神経損傷後3~4日を境に逆転した.このことよりGlyT阻害薬は投与のタイミングが重要であることを明らかにした.また,この逆転現象は神経因性疼痛発症の基盤となる分子メカニズムを解明する面からも興味がもたれる.
  • 松本 良平, 須原 哲也
    2007 年 130 巻 6 号 p. 464-468
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/14
    ジャーナル フリー
    セロトニントランスポーターは多くの抗うつ薬の主要な結合部位のひとつであり,うつ病の発現に重要な役割を果たしていることが想定されている.PET(positron emission tomography)では,セロトニントランスポーターに特異結合する放射性リガンドを用いて,ヒト脳内のセロトニントランスポーターをin vivoで定量することが可能である.実際に,PET研究で,視床のセロトニントランスポーターがうつ病患者群において,増加していることが報告されており,セロトニントランスポーターがうつ病の病態に大きな役割を果たしていると推察できる.また,健常者において,うつ病の発症脆弱性が,視床におけるセロトニントランスポーターの発現と関連している可能性もPET研究から示唆されている.一方,セロトニン神経系の起始核がある中脳での有意な変化は,PET研究では報告されておらず,今後の知見の集積がまたれる.抗うつ薬のPETによる評価としては,セロトニントランスポーターに対して特異的に結合する放射性リガンドと抗うつ薬が競合阻害することから,占有率を算出して評価する方法が一般的である.PETを用いて,抗うつ薬による脳内セロトニントランスポーターの占有率およびその経時変化を測定することで,血中の薬剤濃度や半減期に比して,より適切な臨床用量や投与方法が設定可能である.実際に,既存の薬剤の再評価に加え,日本国内でも,新規抗うつ薬の治験にPETが使用されている.今後,新規の抗うつ薬の開発にPETが重要な役割を果たすことが,期待されている.
総説
  • ―リチウムの作用機構と時計遺伝子の関連について―
    池田 正明
    2007 年 130 巻 6 号 p. 469-476
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/14
    ジャーナル フリー
    大うつ病,躁うつ病,季節性うつ病などの気分(感情)障害には,気分の日内変動,体温やコルチゾール位相の変異,REM潜時の短縮など概日リズムに関連した症状がある.気分障害の治療,特に躁病相の予防と治療には気分安定薬としてリチウム,バルプロ酸およびカルバマゼピンが広く用いられ,効果をあげているが,その作用は活動性の亢進や生気感情の亢進を抑制するいわゆる抗躁作用ばかりでなく,躁病相への移行の抑制や各相の持続期間にも影響を与えている.また最近では抗うつ薬による治療に抵抗性のうつ病症例にリチウム治療が有効であることがわかり,気分安定薬は躁病相ばかりでなく,うつ病相にも効果のあることが明らかになっている.気分安定薬の気分障害に対する作用の分子機構についてはまだ確定的なものはないが,リチウムの標的因子としてGSK3βが,リチウムとバルプロ酸の共通の標的因子としてIMPase(イノシトールモノホスファターゼ)が同定され,それぞれの機能と治療効果発現機構が注目されている.概日リズムの発振を行っている時計遺伝子が発見され,その発現機構が明らかになってきたが,気分安定薬であるリチウムやバルプロ酸に概日リズム位相を変化させる作用のあることが報告された.これはリチウムがGSK3βの抑制作用を介して時計遺伝子産物の分解を促進すること,あるいは核移行を抑制することを通じて,概日リズムの周期や位相の形成に直接関与していることによると考えられている.
  • 今泉 和則, 原 英彰, 伊藤 芳久, 田熊 一敞, 布村 明彦
    2007 年 130 巻 6 号 p. 477-482
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/14
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病,パーキンソン病を代表とする神経変性疾患は,進行性の神経細胞死という解剖学的所見を共通の特徴とする疾患であるが,その発症原因は不明であり,充分に有効な治療法・治療薬は未だ見いだされていない.また,脳虚血などの脳血管性疾患については,脳血流の低下あるいは再灌流をトリガーとして神経細胞死が惹起されることは明白であるものの,未だ著効な治療法・治療薬は明らかではない.このような背景のもと,これら神経変性疾患および脳血管性疾患に共通する「神経細胞死」という現象に関わる分子機序の解明を通して新たな治療法開発にアプローチしようという試みが,国内外ともに最近の研究の潮流となりつつある.本稿では,第80回日本薬理学会年会において開催された表題のシンポジウムでの講演より,神経変性疾患および脳血管性疾患の病態解明ならびに新規治療法の開発に大きく貢献しうる神経細胞死メカニズムの最先端研究を紹介する.
実験技術
  • 水谷 暢明, 吉野 伸, 奈邉 健, 河野 茂勝
    2007 年 130 巻 6 号 p. 483-488
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/14
    ジャーナル フリー
    アレルギー性鼻炎は,くしゃみ,鼻汁分泌亢進および鼻閉を主症状とする典型的なI型アレルギー疾患である.くしゃみおよび鼻汁分泌の亢進は,抗ヒスタミン薬により抑制される.一方,患者にとって最も苦痛を強いられる鼻閉にはグルココルチコイドが繁用されるが,周知のごとくグルココルチコイドは優れた効果を発揮するが副作用も強く,これに代わる鼻閉の治療薬が望まれている.実験動物を用いたヒトの病態を反映した良好なモデルは,新規治療薬の開発に極めて重要な位置にあることは論をまたない.そこで,我々はモルモットを用いてスギ花粉抽出エキスで経鼻的に感作し,以後スギ花粉の反復吸入を行うことにより,ヒトの病態に類似した症状を呈するアレルギー性鼻炎モデルの開発を企図した.本法により,抗原惹起後に明らかなくしゃみおよび二相性の鼻閉が認められ,くしゃみの発現は周知のごとく抗ヒスタミン薬で強力に抑制された.一方,遅発性の鼻閉は,システイニルロイコトリエン(CysLT)の受容体拮抗薬で強く抑制され,さらには遅発性に明らかなCysLTsの産生が認められた.また,一酸化窒素(NO)合成酵素阻害薬が遅発相を抑制したことから,遅発性に産生されたCysLTsがNOを介する血管拡張により遅発性の鼻閉を誘起しているものと推察された.さらに,本モデルの特徴は,慢性および重症化した患者において認められる鼻過敏性が認められることである.本鼻過敏性の発症は,ブラジキニンB1およびB2受容体に対する拮抗薬で抑制され,さらにはこれらの受容体のアゴニストであるdes-Arg10-カリジンおよびブラジキニンの点鼻は感作―惹起動物においていずれも鼻過敏性を誘起することから,本鼻過敏性の発症にはキニン類が大きな役割を演ずる可能性が示唆された.このように,本モデルはヒトのアレルギー性鼻炎の病態を良好に反映しており,薬効評価さらには病態のメカニズム解析において有用であると考えられる.
治療薬シリーズ(21)アルツハイマー病
  • 山西 嘉晴, 上野 正孝, 小倉 博雄
    2007 年 130 巻 6 号 p. 489-493
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/14
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病(AD)はかつてnon-treatableと言われてきた.しかし近年,コリン仮説に基づいた創薬研究からコリンエステラーゼ阻害薬が開発され,薬物治療の対象となった.現在ではタクリン,ドネペジル,リバスチグミン,ガランタミンが上市されている.さらにNMDA受容体拮抗薬のメマンチンが承認されている.一方,ADの根本治療の研究開発も進められており,ADの原因および発症に密接に関与しているとされるアミロイド・βタンパク(Aβ)に関する研究から,Aβの産生・代謝に関与する酵素阻害薬および免疫療法などが開発されてきている.将来これらの研究成果が実を結び実際の治療に寄与していくことを期待したい.
  • 新井 哲明
    2007 年 130 巻 6 号 p. 494-498
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/14
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病の症状は,中核症状である認知機能障害と,周辺症状である行動および心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)に大別される.中核症状に対しては,アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬とNMDA受容体拮抗薬の有効性が確立しており,わが国で現在使用できるのは前者に属するドネペジルのみである.AChE阻害薬については,認知機能の改善あるいは安定化作用のほか,日常生活動作の維持,向精神薬使用頻度の低下,介護者負担の軽減,施設入所時期の遅延,費用対効果の低減,などの効果が報告されている.興奮,焦燥,幻覚,妄想などのBPSDに対する薬物療法としては,非定型抗精神病薬の有効性が確立しつつあったが,2005年米国食品医薬品管理局より死亡率の増加を指摘されたことから,その適応について議論が続いている.
創薬シリーズ(3)その2 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験
  • ―安全性ガイドラインの現状
    佐神 文郎
    2007 年 130 巻 6 号 p. 499-504
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/14
    ジャーナル フリー
    ICH(International Conference on Harmonizationof Technical Requirement for Registration on Pharmaceuticals for Human Use:日米EU医薬品規制調和国際会議)は,日本・米国・欧州連合(以下EU)における新医薬品の承認に際して必要な品質・有効性・安全性および複合領域に関わる試験方法等に関するガイドラインの規制の調和を図るための会議として,1990年に設立された.それまでは,新薬申請に関する試験方法等の規制は各国で独自に定められており,それぞれの規制への対応に,追加試験や不必要な試験の繰り返しが行われてきた.ICHによって,これまで多くのガイドラインが調和され,試験材料と動物,時間等の資源の節減と承認審査の迅速化に寄与してきた.ICHの会議は,日・米・EUの3地域の規制当局および医薬品業界代表者により構成され,医薬品の承認に際して必要な品質(Quality,Q)・有効性(Efficacy,E)・安全性(Safety,S)および複合領域(Multidisciplinary,M)に関わるガイドラインをQ,E,Sの各領域の専門家により構成される専門家作業部会(Expert Working Group:EWG)により科学的見地から議論され,これまでに50を超えるガイドラインが合意され批准されている.また,実際の運用についての各国・地域間の不調和や科学技術の進展への対応のため,合意されたガイドラインも必要に応じて見直しが行われ,各国・地域の規制の調和が図られてきた.
  • 小島 肇夫
    2007 年 130 巻 6 号 p. 505-509
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/12/14
    ジャーナル フリー
    「動物の愛護及び管理に関する法律」が2006年6月に施行され,さらに,「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」が環境省より告示された.この基本的な考え方は,3Rs(Reduction:実験動物の削減,Refinement:実験動物の苦痛の軽減,Replacement:実験動物の置き換え)の徹底である.しかし,削減や置き換え試験法の確立のためにはバリデーションや第三者専門家による評価が必要である.この試験法評価の使命を果たすために,国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター内に新規試験法評価室が2005年11月に設立された.この部門の活動をJaCVAM(Japanese Center for the Validation of Alternative Methods)と呼ぶ.
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