日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
114 巻, 3 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 薬理学の新世紀を拓く
    中村 祐輔
    1999 年 114 巻 3 号 p. 126-130
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    われわれの「生命の設計図」に担当する「ヒトゲノム」解析研究が進められている.その成果はわれわれの生活,とりわけ,医療分野に計り知れない影響をおよぼす研究である.病気の発症には遺伝的要因と後天的な環境要因が複雑に関与するが,程度の差はあるもののほとんどの病気には遺伝的な要因が関係している.したがって,ゲノム研究により病気を起こす仕組みが明らかにされれば,それらの情報を手がかりに,画期的な治療薬・診断法などが開発されるであろうし,生活スタイルに気をつけて病気を防ぐことも可能となる.ゲノム研究により病気の理解が進むことにより,21世紀の医療がどう変革するかを紹介したい.
  • 薬理学の新世紀を拓く
    岡本 宏
    1999 年 114 巻 3 号 p. 131-139
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    Glucose induces an increase in the intracellular Ca2+ concentration in pancreatic β-cells to secrete insulin. CD38 exists in β-cells and has both ADP-ribosyl cyclase, which catalyzes the formation of cyclic ADP-ribose (cADPR) from NAD+, and cADPR hydrolase, which converts cADPR to ADP-ribose. ATP, produced by glucose metabolism, competes with cADPR for the binding site, Lys-129, of CD38, resulting in the inhibition of the hydrolysis of cADPR and thereby causing cADPR accumulation in β-cells. cADPR then binds to FK506-binding protein 12.6 (FKBP12.6) in the islet type of the ryanodine receptor (RyR), dissociating the binding protein from RyR to induce the release of Ca2+ from the endoplasmic reticulum. Ca2+/calmodulin-dependent protein kinase II (CaM kinase II) phosphorylates RyR to sensitize and activate the Ca2+ channel. Ca2+, released from the RyR, further activates CaM kinase II and amplifies this process. Thus, cADPR acts as a second messenger for Ca2+ mobilization to secrete insulin. The novel mechanism of insulin secretion described above is different from the conventional hypothesis in which Ca2+ influx from extracellular sources plays a role in insulin secretion by glucose. Furthermore, many physiological and pathological phenomena in various tissues and cells such as cardiac muscles, cerebellum, neuronal cells, pancreatic acinar cells, alveolar macrophages and immune B-cells become understandable in terms of “the CD38-cADPR signaling system” that sometimes acts in cooperation with other signal systems.
  • 薬理学の新世紀を拓く
    渡辺 和夫
    1999 年 114 巻 3 号 p. 141-148
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    消化器薬理の将来展望について,実験胃潰瘍並びに胃液分泌に関する著者らの研究の観点から考察した.著者らは薬物による中枢性迷走神経刺激下に粘膜壊死性物質または抗炎症薬を併用することによってラットの胃幽門洞に限局した穿孔性の巨大な胃潰瘍を作成する方法をいくつか確立した.また,Helicobacter pilori. の潰瘍病原性との関連で試みたアンモニアの併用もこの潰瘍の発生に寄与した.この潰瘍モデルにおいて幽門部胃粘膜が迷走神経の興奮下または絶食後の再摂食条件で,粘膜侵襲に対して感受性が高まること,粘膜の一次求心性神経が胃粘膜防御系の統合機能に重要な役割を持っていることを示した.多くの実験潰瘍のうちでも本幽門洞潰瘍は,発生部位並びに病理特性の点でヒトの胃潰瘍と類似点があることから将来の研究に役立つことが期待される.また,著者らはラットの摘出胃粘膜及びマウスの摘出全胃標本の酸分泌測定法と麻酔ラットの胃内灌流法による胃酸分泌の連続自動記録法を確立した.これらの方法によって迷走神経から壁細胞に至る刺激情報伝達経路の解析を行った.特に,その経路のうちエンテロクロマフィン様細胞を介する経路の役割を明確化することができた.麻酔ラットを用いた胃酸分泌の中枢性調節機構の研究では,中枢GABA,バルビツレート,グルタメート,ニューロステロイド,およびオピオイドなどの受容体系の重要な役割を解析した.これらの研究成果と関連して,今後の研究目標として残されているいくつかの重要課題に言及した.
  • 薬理学の新世紀を拓く
    森 泰生, 岡田 峯陽, 清水 俊一
    1999 年 114 巻 3 号 p. 149-160
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    タンパク共役型受容体やチロシンキナーゼ型受容体の活性化により惹起される,イノシトールリン脂質(phosphoinositide: PI)応答と連関した,一群のCa2+透過性チャネルが存在する.これら受容体活性化Ca2+チャネル(receptor-activated Ca2+ channe1; RACC)は生理的に最も重要なCa2+流入経路の一つであり,活性化機構においても,Ca2+透過性の程度においても非常に多様である.RACC群のなかでは,細胞内Ca2+ストアである小胞体(endoplasmic reticulum: ER)の枯渇により活性化される,容量性Ca2+流入が詳細に調べられてきた.また,近年RACCの分子的実体であると論じられてきたTRP(trans reseptor potential)タンパク質の機能に関しても,組み換え発現系と変異ショウジョウバエ光受容体を用いることにより,多くのことが明らかになってきた.しかしながら,RACCは依然として明かすべき謎の多いイオンチャネルである.本総説においては,容量性Ca2+流入とTRPタンパク質という2つのトピックス,およびそれらの間の関係を中心に,我々が関与してきたRACC研究の最近の展開を記述したい.
  • 薬理学の新世紀を拓く
    大森 京子, 稲垣 千代子, 笹 征史
    1999 年 114 巻 3 号 p. 161-168
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    難治性てんかんの治療薬の開発には,てんかん原性の発現に関わる基本的な病態生理を把握し,これを標的とした薬物を考案することが必要とされる.本総説では,こうした薬物開発の標的としての,てんかん原性の発現・発達を担う分子レベルの変化に焦点をあて,概説する.c-fosをはじめとする最初期遺伝子およびこれに続くnerve growth factor(NGF)やbrain-derived neurotrophic factor(BDNF)の発現は,一過性の神経興奮を長期的な神経可塑性の変化へと発展させる分子機構のカスケードの初期の現象として重要であることが証明された.Srcファミリーに属する非受容体型チロシンキナーゼFynは,NMDA受容体のサブユニットNR2Bのチロシンリン酸化を介してキンドリング発達を促進すると推察された.抑制系の異常としては,ヒト側頭葉てんかん脳のてんかん原性海馬におけるグルタミン酸依存性のGABA遊離の低下が観察され,GABA transporterの減少によるものと考えられた.興奮系の異常として,てんかん原性海馬において,けいれん発作に先立つグルタミン酸の遊離増加,NMDAグルタミン酸受容体の反応性の増加,AMPA受容体の発現増加が認められ,特にAMPA受容体刺激がキンドリング成立後のけいれんに強く関わっていることが示された.ヒト家族性てんかん遺伝子の解析から,K+チャネルの遺伝子KCNQ2,KCNQ3,ニコチン受容体α4サブユニットの遺伝子CHRNA4,シスタチンBの遺伝子などの異常や変異が見いだされている.また,てんかんモデルマウスとして知られるElマウスにおいては,複数の遺伝子の変異が発作に関与し,そのうちのひとつEl-1はCemloplasmin遺伝子の異常を含む.SER(spontaneous epileptic rat: Zi/Zitm/mt)のてんかん形質を担う2つの原因遺伝子Zitm遺伝子のうちtm遺伝子にaspartoacylase遺伝子を含む広範な欠失が認められた.この結果脳内で増加するN-acetyl-L-aspartate(NAA)がけいれん発作誘発に関与すると考えられた.
  • 薬理学の新世紀を拓く
    谷内 一彦
    1999 年 114 巻 3 号 p. 169-178
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    分子から神経を考える時,遺伝子改変動物を用いた研究が重要な手がかりを与える.また神経機能をシステムとして理解する試みも,最近の画像医学の進歩により新しい研究動向のひとつになっている.画像医学による脳研究の長所はヒトにおいて非侵襲的に研究がおこなえる所にある.ヒトにおいて脳の生理機能や様々な精神疾患の病態をシステム的に理解しようというとき画像医学の果たす役割は極めて大きい.また21世紀の臨床薬理学や創薬を考えたとき,ポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)を含む非侵襲的機能画像法を用いた研究が重要な役割を果たすと考えられている.我々は10数年間,PETを用いてヒトの薬理学(Human Pharmacology)がどこまで可能であるかという命題に取り組んできた.本総説では,1) 3次元データ収集PET,2) [18F]フルオロデオキシグルコース法と[15O]H215O静注法による脳血流測定法による神経活動イメージング,3) ,11C-,18F-リガンドによる特異的神経伝達のイメージングについて最近の研究動向を,我々のデータを含めて簡単に概略する.
  • 薬理学の新世紀を拓く
    谷口 和弥, 嘉屋 俊二, 横山 毅, 阿部 一啓
    1999 年 114 巻 3 号 p. 179-184
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    Skouによる,Na/K-ATPaseの発見以来,Na/KATPaseとNaとKの輸送の機構は詳細に研究されてきた.ATP加水分解は,Post-Albers機構として知られている,Na-酵素-ATP複合体(NaE1ATP),ADP感受性リン酸化酵素(NaE1P),K感受性リン酸化酵素(E2P)およびK閉塞酵素(KE2)を順に経由してα鎖とβ鎖からなる,プロトマー又はジプロトマーで生じるとされている.Na/KATPaseの4量体的性質,1/4,1/2,3/4および全部位の反応性と電子顕微鏡的観察からATP加水分解中のNa/KATPaseの4量体構造の存在が直接生化学的に示された.ATPの結合後ふたつの平行な経路,各々ふたつの1/2部位で,リン酸化-脱リン酸化と直接ATP加水分解が(NaE1P : E·ATP)2,(E2P : E·ATP : E2P : E·ADP/Pi)および(KE2 : E·ADP/Pi)2を経由して生じる.NaE1PからE2P形成,E2PからKE2形成はそれぞれ順にTCAに不安定な結合ATPの1/2がADP/Piへその後残りの1/2のADP/Piへの変化を伴う.Post-Albers機構における反応中間体はすべてATPおよびまたはADP/Piを結合している.
  • 薬理学の新世紀を拓く
    千葉 義彦, 三澤 美和
    1999 年 114 巻 3 号 p. 185-190
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    非特異的刺激に対する過剰な気道平滑筋収縮反応性の亢進,すなわち気道過敏性はアレルギー性気管支喘息患者に共通の特徴であり,発作の重要因子である.喘息患者から摘出した気道平滑筋自体でも反応性の亢進が認められている.このことは,喘息患者では気道平滑筋に何らかの変化が惹起されて平滑筋の収縮性(contractility)が大きくなり,その結果わずかな刺激でも過剰な収縮反応を呈してしまうことが考えられる.当教室ではこれまでに,感作ラットに抗原を反復吸入チャレンジすることにより,再現性の良い気道過敏性状態が得られ,また,本気道過敏性モデルにおいては喘息患者と同様,摘出気管支平滑筋レベルでも過敏性が獲得されていることを報告している.本気道過敏性ラットより摘出した肺内気管支平滑筋skinned fiber標本を用いて検討を行ったところ,acetylcholine(ACh)非存在下でのCa2+による収縮反応は正常レベルであったが,ACh存在下でいわゆるCa2+感受性を観察したところ,このACh誘発Ca2+感受性効果は気道過敏性時には著明に増強されていることを初めて明らかにした.また,このACh誘発Ca2+感受性は低分子量GTP結合タンパク質Rhoの不活化薬C3の前処置により完全に抑制された.気道過敏性ラットの気管支平滑筋組織のRhoAのタンパク質を測定したところそのレベルが著明に増大していることも明らかにした.以上の結果より,抗原誘発気道過敏性時には気管支平滑筋収縮におけるRhoを介するCa2+感受性機構が亢進しており,その結果わずかなアゴニスト刺激に対しても著しい収縮反応が惹起されて気道過敏性がもたらされることを示唆し,提唱した.
  • 春日 繁男, 牛島 光保, 森原 直明, 板倉 洋一, 仲田 義啓
    1999 年 114 巻 3 号 p. 191-197
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    ストレス性高血糖に対するニンニク抽出液(以下,AGE: aged garlic extraotと略す)の有用性を明らかにする目的で,マウスの拘束ストレスモデルを用い,AGEのストレス性高血糖に対する作用を検討した.ddY系雄性マウスに1日16時間の拘束ストレスを2日間負荷すると,血糖値,血清コルチコステロン濃度の上昇および副腎重量の増加が認められたが,血清インスリン濃度には変化は認められなかった.したがって,本モデルでの高血糖は,視床下部―下垂体―副腎皮質系を介したものであると推察された.AGE 5および10 ml/kgは,ストレス負荷の1時間前に2日間経口投与することにより,血糖値,血清コルチコステロン濃度の上昇および副腎重量増加を抑制し,AGEはストレスによる高血糖を防御した.
feedback
Top