日本薬理学雑誌
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150 巻, 4 号
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特集:難治性疾患の治療に向けた基礎研究
  • 岡村 信行, 原田 龍一, 古本 祥三, 中村 正帆, 谷内 一彦, 工藤 幸司
    2017 年 150 巻 4 号 p. 172-176
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    アルツハイマー病患者の脳内では,アミロイドβタンパク質が発症前から凝集・蓄積してシナプス機能障害の原因となるほか,タウタンパク質の蓄積を介して神経変性をもたらすと考えられている(アミロイド仮説).本仮説が正しければ,アミロイドβタンパク質およびタウタンパク質の凝集・蓄積を阻止することでアルツハイマー病の進行を阻止できるはずである.アルツハイマー病の根本治療法を確立するためには,治療薬の開発だけでなく,上記タンパク質蓄積量を非侵襲的にモニタリングするためのバイオマーカーが必要となる.本目的において,タンパク質特異的PETプローブを用いた生体イメージングの果たす役割は大きい.アミロイドPETやタウPETにおいては,線維化タンパク質が形成するクロスβ構造に対する親和性を有する低分子化合物を生体用プローブとして使用する.アミロイドβタンパク質を標的としたプローブは既存の病理用染色剤をベースに開発されてきたが,他のミスフォールディングタンパク質を標的としたプローブを開発するためには,新たなシード化合物の探索が求められる.プローブ候補化合物の結合性を証明するには,疾患脳サンプルを用いたナノモル濃度域での結合親和性および選択性の評価が必要である.本稿では,筆者らがこれまで進めてきた分子イメージングプローブの開発研究を紹介し,プローブ開発における課題を考察する.

  • 金丸 みつ子
    2017 年 150 巻 4 号 p. 177-182
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は,睡眠中に気道閉塞とそれに伴う無呼吸/低呼吸を繰り返し起こす.それに伴う繰り返す低酸素/高炭酸ガス血症や中途覚醒は,メタボリックシンドロームや認知症や骨粗鬆症等を併発させ,心筋梗塞や脳血管障害のリスクを高め,日中の眠気から交通事故や労働災害を引き起こす.世界的にも罹患率の高い疾患であり,肥満度の低い日本人においても上気道の解剖学的特徴から罹患率は欧米並みである.軽症から中等症OSAS患者には,持続陽圧換気(CPAP)の治療適応がなく,薬物治療等の新たな治療法が求められているが未だ確立したものはない.多くのOSAS患者の上気道閉塞部位が咽頭気道であることから,その前壁を構成する頤舌筋の緊張の調節因子として,舌下神経核のセロトニン(5-HT)神経について研究が進んできている.舌下神経核の5-HT2受容体を介した頤舌筋の調節が報告されている.我々は,低酸素や高CO2換気・気道応答に対して舌下神経核と孤束核を含む背内側延髄の5-HT2受容体を介した作用を検討した.背内側延髄の5-HT2受容体活性の低下時に,低酸素刺激では反応初期に気道抵抗が増大し換気増大が遅れ,低酸素/高CO2刺激では反応初期の気道抵抗の増大や換気増大の遅れは消失していた.CO2換気・気道応答の結果と合わせて,背内側延髄の5-HT2受容体活性は速やかな低酸素換気・気道応答に重要であるが,CO2の存在により代償されることが示唆された.OSAS治療薬として期待されていた5-HT関連薬のミルタザピンは,臨床試験の途中で体重増加と眠気が大きな壁となった.最後に,OSAS治療薬としての5-HT関連薬の可能性について,上気道の開大性,中途覚醒の抑制,食欲の抑制の視点から考察した.

  • 和田 孝一郎, 臼田 春樹
    2017 年 150 巻 4 号 p. 183-187
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    クローン病や潰瘍性大腸炎に代表される難治性の消化器疾患は,指定難病の対象になっており,より効果的な創薬と根本的な治療法の確立が望まれている.そのためには適切な疾患モデルを用いた基礎的研究と,新しい治療薬開発のための薬効評価は重要である.その一方でこれら難治性消化器疾患の根本的な発症原因は依然として明らかになっていない.しかしながら粘膜の炎症・びらん・潰瘍といった炎症性腸疾患の病態発症には,免疫系の異常が直接の原因であることは間違いない.そこで潰瘍性大腸炎やクローン病の基礎的研究や薬効評価には,免疫系の異常をもとにした「ヒト病態に類似した」疾患モデルであるDSS colitisなどの化学物質誘発性のモデルが汎用されている.これらのモデルは薬効評価や免疫系の異常などの基礎的研究には有用であるが,必ずしも「根本的な発症原因に基づいて作製された」疾患モデルとは言い難い面がある.確かにこれまでの疾患モデルを用いた基礎研究や薬効評価により効果的な治療薬が臨床応用されているのも事実である.しかしながら将来の難治性炎症性消化器疾患の完治に向けた治療法確立のためには「根本的な発症原因に基づいて作製され」,「極めてヒト病態に類似した」疾患モデルの作製がより重要になると考えられる.

  • 水口 博之
    2017 年 150 巻 4 号 p. 188-194
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    アレルギー疾患感受性遺伝子の発現レベルは症状の重篤性と相関するため,遺伝子発現の抑制は有効な治療法となりうる.我々は,ヒスタミンH1受容体(H1R)遺伝子が花粉症の疾患感受性遺伝子であることを証明し,その遺伝子発現がプロテインキナーゼCδ(PKCδ)シグナルを介することを明らかにした.また,和漢薬苦参由来H1R遺伝子発現抑制化合物(-)マーキアインの分子薬理学的研究から,花粉症に対する新規創薬ターゲットとしてヒートショックプロテイン90(Hsp90)を同定した.Hsp90阻害薬は鼻過敏症モデルラットにおいて鼻粘膜H1R遺伝子発現亢進を抑制し症状を改善した.抗ヒスタミン薬はPKCδシグナルを抑制し症状を改善するが,抗ヒスタミン薬によりH1R遺伝子発現がコントロールレベルにまで減少しても症状は完全には改善せず,花粉症の症状発現にPKCδシグナルに加えて第2の細胞内シグナルの関与が考えられた.スプラタストは抗ヒスタミン薬と同様症状改善効果を示すがPKCδシグナルを抑制せず,その症状改善効果は第2の細胞内シグナルの抑制によると考えられた.スプラタストと抗ヒスタミン薬エピナスチンの併用投与により,それぞれの薬物単独投与に比べ顕著な症状改善効果が認められた.スプラタストは鼻粘膜IL-9遺伝子発現を強く抑制したが,エピナスチンはIL-9遺伝子発現を抑制せず,スプラタストが第2の細胞内シグナルを介したIL-9遺伝子発現を抑制することが示唆された.スプラタストはRBL-2H3細胞においてNFATシグナルを介したIL-9遺伝子発現亢進や,NFATシグナルを介することが知られているJurkat細胞におけるIL-2遺伝子発現亢進を抑制した.これらのことから,スプラタストがNFATシグナルを抑制することが明らかとなった.以上の結果から,PKCδシグナルとNFATシグナルは花粉症発症に関与する細胞内シグナルであり,両シグナルを抑制することにより顕著に症状を改善できることが明らかとなった.

実験技術
  • 町田 拓自, 飯塚 健治, 平藤 雅彦
    2017 年 150 巻 4 号 p. 195-200
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/09/30
    ジャーナル フリー

    血管の機能は,生理活性物質や神経刺激のみならず血流及び拍動に伴うメカニカルストレスによっても調節されており,このメカニカルストレスの異常が循環器疾患の進展やさらなる関連疾患の発症に深く関わる.血管壁へ負荷されるメカニカルストレスは,大きくずり応力,伸展,圧力に分類できるが,この分野の研究においてはずり応力や伸展による細胞機能解析が先行している一方,圧力による細胞機能への影響は未だ不明な点が多い.血管内圧は,最高血圧と最低血圧の間を周期的に変動し,高血圧症や局所での病変部位においてはその範囲が大幅に変化する.そこで我々の研究室では,高血圧のモデルを想定する場合においても最高血圧と最低血圧をそれぞれ区別する必要があると考え,上限と下限を自由に設定することができ,さらにこれらの設定範囲の間で内圧が周期的に変動する波動圧力を培養細胞に負荷することができる装置(波動圧力負荷装置)を考案した.波動圧力負荷装置は,培養ディッシュが設置される加圧タンク,真空ポンプ,加減圧コントローラー,圧力トランスミッタならびにインキュベーターより構成される.加圧タンク内の圧力を圧力トランスミッタによりモニタリングし,圧力の下限に達すると加減圧コントローラーにより圧力が負荷され,上限に達すると圧力負荷を止めることでタンク内の細胞に周期的に圧力を負荷する.これまでにこの装置によって作製した収縮期高血圧を想定した高血圧モデル細胞において,細胞内エネルギー代謝が促進されて増殖が促進すること,また,インターロイキン-1β刺激による誘導型一酸化窒素合成酵素発現が抑制されること等の圧力による細胞応答の変化を見出した.圧力負荷による高血圧モデル細胞の機能を解明することで,治療薬の新たな作用機序の解明や新薬開発への足がかりとなるような知見が得られることが期待される.

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