日本薬理学雑誌
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135 巻 , 6 号
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受賞講演総説
  • 中川 貴之
    2010 年 135 巻 6 号 p. 225-229
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/11
    ジャーナル フリー
    ミクログリアやアストロサイトといったグリア細胞が,神経回路網と密な相互作用を持ち,シナプス伝達の調節,脳機能発現に積極的に関与することは,今やよく知られることである.一方,慢性疼痛と薬物依存は,一見異なる現 象ではあるが,いずれも神経回路網の可塑的変化がその根底にあり,グルタミン酸神経系が重要な役割を果たすなど共通点も多く見られる.著者は,麻薬性鎮痛薬や覚醒剤といった依存性薬物の長期投与により,一部の脳部位において,主にアストロサイトに発現するグリア型グルタミン酸トランスポーターGLT-1の発現量が減少することを見出した.さらに,グルタミン酸トランスポーター阻害薬や活性化薬を用いた行動薬理学実験,組換えアデノウイルスを用いた脳局所へのGLT-1遺伝子導入実験などから,依存性薬物によりアストロサイトのグルタミン酸取り込み機構に破綻が生じた結果,薬物依存が形成されることを明らかにしてきた.一方,慢性疼痛においても,脊髄内のミクログリアやアストロサイトが重要な役割を果たすことが明らかにされてきたが,炎症性疼痛モデルや神経障害性疼痛モデル動物の脊髄でも同様にGLT-1発現量あるいは膜局在量の減少が生じており,グルタミン酸を介する神経—グリア回路網の異常が,慢性疼痛の基盤となる神経可塑性を引き起こすことを明らかにしてきた.さらに,このとき生じるGLT-1エンドサイトーシスについて,神経—グリア共培養系を用いてその分子機構の一部を明らかにしている.また,グリア細胞の活性化機構の一部に様々なTRPチャネルが関与することを見出しており,実際に,TRPM2遺伝子欠損マウスでは炎症性疼痛や神経障害性疼痛が減弱することを明らかにしている.このような基礎的知見が,薬物依存や慢性疼痛といった慢性神経・精神疾患に対して,「グリア細胞」を標的とした新たな治療薬の創製に貢献できることを期待している.
  • 守屋 孝洋
    2010 年 135 巻 6 号 p. 230-234
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/11
    ジャーナル フリー
    睡眠・覚醒や体温の日内変化など,様々な生体機能における24時間の周期的変動を制御している概日時計は,光や食事などの1日の時刻の手掛かりとなる情報をシグナルとして受容することにより外部環境に同調している.概日時計の同調(リセット)機能の不全は時差症候群をはじめとする種々の疾患の一因になることが知られているが,その分子基盤は明らかになっていなかった.著者らは哺乳類の概日時計リセット機構解明における共同研究に参画し,中枢時計の存在する視交叉上核において光が時計遺伝子PeriodPer)を一過的に発現誘導することによって概日時計をリセットすることを見出した.さらに視交叉上核におけるPer遺伝子の発現制御に関わる神経伝達物質の役割解明に取り組み,ガストリン放出ペプチド(GRP)がGタンパク質共役型受容体であるGRP受容体を介してPer遺伝子の発現を誘導し,視交叉上核・光シグナル非受容領域の概日時計をリセットすることを明らかにした.また,視交叉上核以外の脳部位における時計遺伝子の発現制御機構を検討し,ニューロン新生を担う神経幹細胞では上皮成長因子がPer遺伝子の一過的な発現誘導と引き続く24時間周期の発現リズムを惹起し,神経幹細胞の増殖における概日リズムを生み出していることを明らかにした.また,食事による概日時計の同調機構の解明に取り組み,食事が視床下部背内側核においてPer遺伝子の発現を著しく上昇させ,視床下部背内側核の概日時計を速やかにリセットすることを明らかにした.臨床で用いられている多くの薬物が概日時計に影響することや,薬物の効果が日内変動を示すことを考え合わせると,本研究で得られたPer遺伝子の発現制御に関する知見は,概日時計の異常に基づく疾患の病態の解明だけでなく,それらを標的とした新たな治療薬の開発にも貢献すると考えられる.
総説
  • 山浦 克典, 鈴木 昌彦, 並木 隆雄, 上野 光一
    2010 年 135 巻 6 号 p. 235-239
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/11
    ジャーナル フリー
    2000年に新規同定されたヒスタミンH4受容体は,主に免疫系細胞に発現し免疫反応への関与が示唆されている.我々は関節リウマチ患者の関節滑膜に着目し,マクロファージ様および線維芽細胞様滑膜細胞いずれにもH4受容体が発現していることを確認した.次に,表皮および真皮のH4受容体発現を検討し,表皮においてはケラチノサイトが分化に伴いH4受容体の発現を増強することを,また真皮においては真皮線維芽細胞にH4受容体が発現することを確認した.さらに,皮膚に発現するH4受容体の役割として掻痒反応への関与が示唆されているため,サブスタンスPによるマウス掻痒反応において,H4受容体遮断薬が抗掻痒作用を示すことを確認した.サブスタンスPにより誘発する掻痒反応では,マスト細胞の関与は小さいこと,ケラチノサイトが反応に重要な役割を果たすとされることから,ケラチノサイトに発現するH4受容体を介する掻痒反応機構の存在が示唆された.
  • 戸村 秀明, 茂木 千尋, 佐藤 幸市, 岡島 史和
    2010 年 135 巻 6 号 p. 240-244
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/11
    ジャーナル フリー
    OGR1(Ovarian cancer G-protein-coupled receptor 1),GPR4,TDAG8(T-cell death-associated gene 8),G2A(G2 accumulation)は,お互いのアミノ酸の相同性が40-50%のGタンパク質共役型受容体(GPCR)である.これらの受容体は最初,脂質性メディエーターに対する受容体として報告されたが,2003年のLudwigらによる報告以降,これらの受容体が細胞外プロトンを感知するプロトン感知性GPCRであることが,明らかとなった.OGR1,GPR4,G2Aが脂質メディエーターであるsphingosylphospholylcholine(SPC)やlysophosphosphatidylcholine(LPC)に対する受容体であるとの説は,受容体への結合実験の再現性の問題から,現在は疑問視されている.細胞外pHの低下に伴いプロトン感知性GPCRは,受容体中のヒスチジンがプロトネーションされる結果,立体構造が活性型に移行し,種々の三量体Gタンパク質を介して,多様な細胞内情報伝達系を活性化させると考えられている.G2Aに関しては生理的なpH条件下で恒常的な活性化が観察されるので,別の活性化機構が提唱されている.生体内のpHは7.4付近に厳密に調節されていることから,細胞外pHの低下は炎症部位やがんなど局所的に起こっていることが予想される.実際,炎症やがんなどで,プロトン感知性GPCRを介した作用が,我々の報告を含め,細胞レベル,個体レベルで報告されている.これまでの研究結果から,発現するプロトン感知性GPCRの種類の違いにより,炎症部位で異なる応答が惹起される可能性が浮上してきた.さらに最近,各受容体の欠損マウスの報告が出そろい,プロトン感知性GPCRの研究は新たな段階に入ってきた.プロトン感知性GPCRの研究は,炎症やがんに対する新たな視点からの創薬へのきっかけにつながる可能性を秘めている.
実験技術
  • 山本 信太郎, 塩谷 孝夫, 頴原 嗣尚, 岩本 隆宏
    2010 年 135 巻 6 号 p. 245-249
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/11
    ジャーナル フリー
    動物細胞は,様々な浸透圧変化による細胞容積変化に対応するための調節機構を保持している.その解明には1個の細胞容積を経時的に測定できるシステムが不可欠である.現在までに,ビデオ画像解析法,蛍光イメージング法,コールターカウンター法,走査型イオンコンダクタンス顕微鏡などが開発されてきた.このうち,我々が用いているビデオ画像解析法は,簡便なシステムで高い測定精度と時間分解能が得られ,パッチクランプ実験との併用も容易である.我々は,顕微鏡に装着したCCDカメラで細胞のビデオ画像を撮影し,そのビデオ画像を画像解析ソフトScion-Imageを用いて解析することにより,単一心室筋細胞における細胞容積の経時変化を定量的に評価している.本稿では,各種細胞容積測定法の概略を説明し,ビデオ画像解析法を用いた心筋細胞の容積変化の経時的解析の具体例を紹介する.
創薬シリーズ(5)トランスレーショナルリサーチ(2)
  • 石井 保之
    2010 年 135 巻 6 号 p. 250-253
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/11
    ジャーナル フリー
    スギ花粉症は日本固有の季節性アレルギー疾患で,くしゃみや鼻炎症状,結膜炎症状を特徴とする.その患者数は3000万人を超えたとも言われている.症状の軽い人は,抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬の服用で症状をある程度コントロールすることができるものの,中重症度の多くの患者さんは,既存の対症療法に満足していないのが実情で,根本的な治療法が求められている.しかしながら,現在唯一の治療法はスギ花粉エキスを皮下投与する減感作療法であるが,十分に普及していない.その主たる理由して,長期間の通院が必要であることや作用機序が十分に解明されていないこと,さらにはアナフィラキシーを誘発する危険性を回避するために,高容量のスギ花粉エキスを注射できないことが挙げられる.我々は,現状の問題を解決する新たな予防・治療法として,組換えスギ花粉抗原を用いた2つのワクチンの研究開発を行っている.
新薬紹介総説
  • 大野 桂司, 田原 一二
    2010 年 135 巻 6 号 p. 255-260
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/11
    ジャーナル フリー
    ラスリテック®(一般名:ラスブリカーゼ(遺伝子組換え))は,Aspergillus flavus由来の尿酸オキシダーゼの遺伝子をSaccharomyces cerevisiae株に導入し,発現させた遺伝子組換え型尿酸オキシダーゼであり,尿酸を水溶性の高いアラントインに変換する新規作用機序を有している.本剤は欧米を含む世界50ヵ国以上で承認されており,本邦では「がん化学療法に伴う高尿酸血症」を効能または効果として2009年10月に承認された.悪性腫瘍に対して化学療法は有効な治療方法の1つであるが,しばしば腫瘍崩壊症候群(急激な腫瘍細胞の崩壊が生じた結果,大量の核酸,カリウムおよびリン酸などが細胞内から血中に放出され,それにより高尿酸血症,高カリウム血症,高リン酸血症が生じること)を引き起こすことがある.尿酸は通常,腎臓から排泄されるが,多量に産生された尿酸を十分排泄することができず,腎で析出することがあるため,がん化学療法により高尿酸血症に至った患者では腎機能障害や急性腎不全が発現し,致命的な経過をたどることがある.このため,化学療法後の高尿酸血症を予防することが重要であるとされている.本剤承認前までの本邦における予防方法は,輸液,尿のアルカリ化,アロプリノールの投与などがあげられるが,これらの対処方法では尿酸値を下げるまでに時間を要することやアロプリノールが経口薬のみであることから服薬が困難な患者では使用できないことなどの問題があり,十分対処できない患者が存在した.ラスリテック®は投与直後から尿酸値を速やかに低下させることが期待でき,国内臨床試験においてはほとんどの患者で投与後4時間までに尿酸値を1 mg/dL以下まで低下させた.近年,優れたがん治療薬が開発されていく中で,がん化学療法に伴う高尿酸血症への対処の重要性は増しており,本剤はその一助となることが期待される.
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