日本薬理学雑誌
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143 巻, 6 号
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特集 消化器疾患の病態に関わる新たな展開
  • 平山 晴子, 樅木 勝巳, 椎名 貴彦, 志水 泰武
    2014 年 143 巻 6 号 p. 270-274
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    グレリンとは,主に胃から分泌される,28個のアミノ酸からなるペプチドホルモンである.他のホルモンにはないグレリンの特徴として,3番目のセリン残基に脂肪酸による修飾を受けていることが挙げられる.この脂肪酸修飾がグレリン受容体を介した作用発現には必須である.生体内にはグレリンの脂肪酸修飾を持たない型も存在し,デスアシルグレリンと呼ばれるが,脂肪酸修飾を欠くというその構造上,グレリン受容体に対しては不活性型である.しかし近年では,デスアシルグレリンのグレリン受容体以外の経路を介する作用についても多数の報告がなされている.グレリンの作用としては,成長ホルモン分泌促進や,食欲亢進,エネルギー消費の抑制をはじめとし,循環器系への作用,消化器系への作用と,その作用は非常に多岐に渡る.グレリンの消化管運動に対する作用としては,胃や小腸,大腸の運動性を亢進させることなどがこれまでに報告されている.また,消化器疾患におけるグレリンの関与についてもさまざまな知見が報告されており,今後の研究の展開が期待されている.我々はこれまでに,in vivoの実験系を用い,グレリンの脊髄腰仙髄部の排便中枢を介する大腸運動への作用について研究してきた.本稿ではこの結果について,実験系も含め紹介する.
  • 東 泰孝, 竹内 正吉
    2014 年 143 巻 6 号 p. 275-278
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    炎症性腸疾患は,難治性の慢性腸炎であり,小腸および大腸を好発部位とするクローン病および大腸に起こる潰瘍性大腸炎が代表的な疾患である.いずれも慢性的な炎症の緩解と再燃を繰り返す疾患である.原因は未だ完全には解明されていないが,これまでに,IL-2,IL-10およびT 細胞受容体の遺伝子欠損マウスが炎症性の腸炎を惹起することから,免疫異常,特に粘膜免疫系の過剰な反応によって誘発される可能性が示されている.今回,IL-10ファミリーに分類されるIL-19の炎症性腸疾患における役割を検討したところ,クローン病モデルおよび潰瘍性大腸炎モデルのいずれにおいても,IL-19遺伝子欠損に伴い炎症の悪化が起こることが明らかとなった.
  • 大島 浩子
    2014 年 143 巻 6 号 p. 279-282
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    慢性炎症反応は,発がん促進に関与すると考えられている.とくに,ピロリ菌感染に起因した胃がん発生では,炎症性サイトカインが腫瘍発生に関与する可能性が報告されている.我々は,炎症依存的胃がんを発生するGanマウスとTNF-α(Tnf)およびTNFR1 受容体(Tnfrsf1a)欠損マウスを用いて,胃発がんにおけるTNF-α/TNFR1シグナルについて解析した.その結果,Tnf-/-GanマウスとTnfrsf1a-/-Ganマウスは,有為に腫瘍発生が抑制された.また,骨髄移植実験の結果から,骨髄由来細胞(BMDCs)が発現するTNF-αがBMDCsのTNFR1受容体を介した活性化により腫瘍発生促進に関与することが明らかとなっ た.さらに,マイクロアレイ解析結果から,TNF-α依存的に腫瘍細胞でCD44遺伝子の発現が誘導され, これが腫瘍細胞の腫瘍原性獲得に関わっている可能性が示された.したがって,TNF-α/TNFR1シグナルを標的とする胃がん治療の可能性が示唆された.
総説
  • 篠塚 和正, 和久田 浩一, 鳥取部 直子, 中村 一基
    2014 年 143 巻 6 号 p. 283-288
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    ATPは様々な細胞から遊離されるが,ATPとその代謝産物のアデノシン(ADO)をアゴニストとする受容体もほとんどの細胞の細胞膜上に存在している.したがって,遊離された ATPやADOは,自身または隣接した細胞の受容体に作用し,異種細胞間の共通した細胞外シグナル分子として相互作用(クロストーク)に寄与している可能性がある.血管交感神経終末部にADO(A1)受容体が存在し,交感神経伝達を抑制的に調節していることはよく知られているが,筆者らはα1受容体刺激により血管内皮細胞から ATP やADO が遊離されること,これがノルアドレナリン(NA)の遊離を抑制することを見出し,逆行性のNA遊離調節因子として機能している可能性を報告した.また,培養内皮細胞の ATP(P2Y)受容体を刺激することにより,内皮細胞内のカルシウムイオンレベルが増加するとともに細胞の形状が変化し,細胞間隙が増大して内皮細胞層の物質透過性が増加することを見出し,ATPが生理学的・病態生理学的な透過性調節因子として機能している可能性を報告した.一方,ヒト線維芽肉腫由来細胞(HT-1080)からATPが遊離されることを見出し,これが血管内皮細胞のP2Y受容体を刺激して細胞内カルシウムイオンレベルを増加させることを明らかにするとともに,このような内皮細胞の反応ががん転移機序の一部に寄与する可能性を報告した.さらに,HT-1080のADO(A3)受容体刺激により,cyclin D1発現量の低下を介した抗がん作用が現れることを見出し,内皮細胞がA3受容体を細胞拮抗に利用している可能性を示唆した.このように,内皮細胞を中心としたATPによるクロストークは多様であり,組織の生理学的・病態生理学的機能変化を総合的に理解する上で,クロストークの役割の解明は重要であると考えられる.
  • 榎本 篤, 浅井 直也, 高橋 雅英
    2014 年 143 巻 6 号 p. 289-294
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    中枢神経系の中でも主に生後に発生が完成する海馬の歯状回は,成体においても神経幹細胞および前駆細胞が存在し,新しい神経細胞の産生が続いている場所として知られている.本現象は「成体脳における神経新生(adult neurogenesis)」と呼ばれており,近年は齧歯類のみならずヒトにおいても存在が証明されつつある.ここで新生した神経細胞の意義については議論もあるが,近年は空間認知・学習・記憶といった海馬の基本的な機能,情報獲得や長期的な記憶において重要な機能を果たすと考えられており,再生医学の観点から多くの神経科学者により注目されている.私達はセリン/スレオニンキナーゼAkt の基質として同定したアクチン細胞骨格の結合分子Girdin のノックアウトマウスを作成したところ,海馬歯状回の生後発生が障害されていることが明らかとなり,また他グループから同部位のadult neurogenesis においても重要であることが示された.Adult neurogenesis が観察されるもう一つの主要な部位として脳室周囲の脳室下帯があるが,ここでも新生した神経芽細胞の移動におけるGirdin の重要性が示されている.興味深いことにGirdin は統合失調症の脆弱性因子として知られるdisrupted-in-schizophrenia 1(DISC1)と複合体を形成して機能することが示され,Girdin が精神疾患や神経疾患の病態と関わることも示唆された.本稿では本研究の経過・詳細を述べるとともに,病理学的な観点から今後の研究の問題点・展望について考察したい.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(15)
  • 新間 陽一, 澤田 美智子
    2014 年 143 巻 6 号 p. 295-301
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    独立行政法人産業技術総合研究所(以下,「産総研」)は,グリーン・イノベーションとライフ・イノベーションの推進を主要な柱とし,基礎研究を産総研の「本格研究」により民間企業での製品化に繋いでいくことに加え,産学官が結集して研究・技術評価・標準化を行うために,産総研の「人」または産総研という「場」を活用する「オープンイノベーションハブ」機能を強化している.そのために,企業や大学等に産総研を活用してもらう連携メニューを多数用意している.産総研ライフサイエンス分野は,「技術を医療へ」を目指し,創薬,医療機器開発の実践と,レギュラトリーサイエンスの追究を行っている.最先端科学・技術の研究開発,知的財産権の確保,技術移転,標準化等を通じた技術の普及,それらを担う人材の育成を行っている.
新薬紹介総説
  • 白石 綾子
    2014 年 143 巻 6 号 p. 302-309
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    イバンドロネート(イバンドロン酸ナトリウム水和物:IBN)静注剤は,骨粗鬆症を適応症として2013年8月より日本国内で発売された月1回ビスホスホネート(BP)注射剤である.IBNは,骨基質であるハイドロキシアパタイトに対する高い親和性を有しており,投与後骨に分布する.破骨細胞に取り込まれた後ファルネシルピロリン酸合成酵素を阻害し,これにより破骨細胞の機能を抑制することで骨吸収抑制作用を示すと考えられる.閉経後骨粗鬆症の病態モデルである卵巣摘除モデルを用いた検討では,IBNは,卵巣摘除ラットの骨密度や骨代謝マーカーを用量依存的に改善し,卵巣摘除サルにおいて骨構造の破綻を抑制した.さらにIBNは,活性型ビタミンD3製剤であるエルデカルシトール(ELD)と併用した場合に相加的な骨密度の増加作用ならびに骨吸収の抑制作用を示した.BP製剤は,多くの臨床試験で骨折抑制効果が証明された骨粗鬆症治療薬であり,海外および国内において第一選択薬となっている.静注BP 製剤は経口製剤と比較し,服薬時の煩雑な制約がなく確実に投与することが可能であり,さらに上部消化管障害の軽減も期待される.IBNは,BP製剤の中でも,1ヵ月以上の投与間隔で治療可能な利便性の高い骨粗鬆症治療薬として,国内外で,経口剤と注射剤の2つの剤形で開発が進められてきた.国内では注射剤の開発が先行し,検証的試験として60歳以上の原発性骨粗鬆症患者を対象にした無作為化二重盲検群間比較試験が実施された.その試験の結果,3年間の非外傷性椎体骨折発生頻度(95%信頼区間)は,IBN 1 mg 群(イバンドロン酸として1 mg を1ヵ月に1回静脈内投与)および対照群(リセドロン酸ナトリウムとして2.5 mg を連日経口投与)で,それぞれ16.1%(12.2~19.9%)および17.6%(13.6~21.6%)であった.非外傷性椎体骨折発生頻度の層別Cox回帰分析による対照群に対する本剤1 mg群のハザード比(90%信頼区間)は0.88(0.65~1.20)であり,IBNのリセドロネートに対する非劣性が証明された(非劣性限界値1.55).また,これまでと同様の良好な安全性についても確認された.このように,IBN静注剤は,既存BPに匹敵する有効性を有しており,さらに投与間隔,投与経路,安全性の面から,新たな選択肢として骨粗鬆症治療に貢献するものと期待される.
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