日本薬理学雑誌
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124 巻, 1 号
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実験技術
  • 荒木 久美子, 山本 経之
    2004 年 124 巻 1 号 p. 3-9
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/06/26
    ジャーナル フリー
    高齢者社会を迎え,アルツハイマー病を初めとする痴呆症状を呈する疾患の病因解明は,喫緊の課題である.従って,動物を用いての基礎的研究において,知的機能を適確に測定する実験法の確立は極めて重要である.一方,ヒトの日常的な行動の大部分は,報酬の付随する刺激提示によって惹起される自発的な行動,すなわちオペラント行動に属する.この為,動物のオペラント行動を用いての知的機能に関する知見は,他の実験系のそれに比べて,ヒトへの外挿が容易と考えられている.知的機能の中心をなす記憶,中でも作業記憶や注意機能の障害は,アルツハイマー病のみならず統合失調症を初めとする精神疾患でも認められる症状である.3-lever operant装置を用いての遅延見本合わせ(delayed matching-to-sample)課題や選択反応時間(choice reaction time)課題は,それぞれ作業記憶および注意機能を測定する有用な方法である.一方,新しい環境への適応は生きていく上において重要な能力であり,その破綻は諸種精神疾患の成因の1つと考えられている.2-lever operant装置を用いた逆転学習(position reversal learning)課題は,この適応能の前臨床的評価法として利用できる.このように,オペラント行動を用いての知的機能の追究は臨床との相関性が高く,その障害の解明と治療薬開発に向けて,今後増々繁用されるべき戦略と位置付けられる.
  • −細胞内カルシウム濃度同時多点観察システムを用いるシナプス形成のアッセイシステム
    川原 正博, 村本 和世, 根岸(加藤) みどり, 矢部(細田) 律子, 小林 和夫, 黒田 洋一郎
    2004 年 124 巻 1 号 p. 11-17
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/06/26
    ジャーナル フリー
    学習·記憶などの脳の高次機能発現やアルツハイマー病などでの記憶障害においては,シナプスの可塑的変化が重要な役割を占める.我々は,カルシウム·イメージング法を用いて,ラット大脳皮質初代培養神経細胞中のシナプス数を定量的かつ簡便にアッセイする系を確立し,この系を用いてシナプス形成に関わる分子群の探索を行ってきた.その結果,MAP1B(微小管関連タンパク質1B)がシナプス形成時に特異的にリン酸化されることが判明した.さらに,このアッセイ系を,化学物質による甲状腺機能の攪乱作用の解析,フェロモン記憶形成に関わる副嗅球神経回路網の機能解析などに応用してきた.ここでは,その方法と応用例について詳しく述べる.
  • 須貝 文宣, 山本 洋一, 佐古田 三郎
    2004 年 124 巻 1 号 p. 19-23
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/06/26
    ジャーナル フリー
    筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,緩徐進行性に上位および下位運動神経が障害されるために,四肢のみならず嚥下·会話·呼吸に関する筋力も低下し日常生活機能が著しく損なわれる極めて予後不良の神経変性疾患である.ALSのほとんどは孤発性であり,その病因としてグルタミン酸毒性,酸化的ストレス,ニューロフィラメントの構造異常などが想定されているが,未だ原因の確定には至っていない.一方,ヒトALS患者の1-2%がsuperoxide dismutase 1(SOD1)遺伝子の変異をともなうことから,変異型ヒトSOD1遺伝子を過剰発現させたトランスジェニックマウスがALSのモデル動物として汎用されている.一方,前臨床段階におけるALS治療薬のin vitroスクリーニング方法として,正常ラットを用いた脊髄切片培養法が用いられてきた.この系は,グルタミン酸取り込み阻害薬を培養液中に添加することで,グルタミン酸毒性による緩徐な脊髄前角運動神経細胞死を誘導しようとするものである.今回,我々はマウスを用いたin vitro ALSモデルとしての脊髄切片培養法の確立を目指し,正常マウスを用いた系でもグルタミン酸取り込み阻害薬により脊髄前角運動神経細胞数が減少することを確認した.マウスによる系の最大の利点は,遺伝子改変動物の利用が容易であることであり,今後変異型ヒトSOD1遺伝子を過剰発現させたALSモデルマウスを用いることで,脊髄前角運動神経細胞が自然に減少する,より理想的なin vitro ALSモデルの確立を目指している.
新薬開発状況
  • 今泉 正洋
    2004 年 124 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/06/26
    ジャーナル フリー
    本邦においても特定の分子を標的とした抗体製剤が抗癌薬として承認されたが,米国では抗体に活性物質を結合したイムノコンジュゲートを使って殺細胞化合物や放射性同位元素を癌細胞に運び標的細胞選択的に強い作用を示す抗癌薬が承認されている.ゲムツズマブオゾガマイシンはヒト化抗CD33抗体に殺細胞化合物であるカリケアマイシン誘導体を結合したイムノコンジュゲートである.CD33抗原に結合した後インターナリゼーションされてリソソーム内の酸性環境下でカリケアマイシン誘導体が遊離し,核内のDNAを切断して殺細胞作用を示す.ゲムツズマブオゾガマイシンは再発急性骨髄性白血病患者を対象とした臨床試験において良好な結果が得られ,2000年に米国で承認された.本邦においても現在承認申請中である.さらに,近年米国では抗CD20抗体に放射性化合物を結合した2種類の放射性免疫療法剤も非ホジキンリンパ腫を適応症として承認されている.これらの薬剤はいずれも従来の化学療法剤の作用が期待できない再発難治の癌患者で有効性を示しており,イムノコンジュゲートにより特定の細胞を狙って活性物質を作用させる療法は今後の有望な癌治療法として期待される.
新薬紹介総説
  • 茶珍 元彦, 大村 剛史, 林 直之, 西村 洋一郎, 佐藤 壽
    2004 年 124 巻 1 号 p. 31-39
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/06/26
    ジャーナル フリー
    テルミサルタン(ミカルディス®)は,ベーリンガーインゲルハイム社で合成·開発されたアンジオテンシンII(AII)タイプ1受容体拮抗薬であり,優れた降圧効果の持続を特長とする.受容体結合実験において,テルミサルタンはAT1受容体に選択的な親和性を示し,AT1受容体からの解離は類薬と比較し遅い.また摘出大動脈標本において,テルミサルタンはAIIによる血管収縮の最大反応を減少させるinsurmountableな拮抗作用を示し,その作用は標本洗浄後2時間以上持続する.AT1受容体からの遅い解離およびinsurmountableな拮抗作用はテルミサルタンの降圧効果持続性の要因と考えられる.テルミサルタンは,種々の高血圧モデル動物において用量依存的かつ持続的な降圧作用を示す.腎血管性高血圧ラットでのテルミサルタン1 mg/kg単回経口投与時の降圧作用は22時間以上持続する.また,高血圧自然発症ラットでは,テルミサルタン3 mg/kg 5日間反復経口投与で有意な降圧作用を示し,休薬時のリバウンド現象は観察されない.本態性高血圧症患者におけるテルミサルタンのtrough/peak比は80%以上と高く,1日1回投与で血圧日内変動に影響を与えることなく24時間にわたり降圧効果が持続することが確認されている.本態性高血圧症患者を対象とした第III相臨床試験においても,優れた降圧効果(有効率76.0%)と対照薬と比して優れた安全性が示されている.テルミサルタンの血漿中消失半減期は20~24時間と類薬と比較し長く,これもテルミサルタンの長い作用持続性の要因であると思われる.降圧薬の作用持続性は,早朝起床時に認められる急激な血圧上昇(morning surge)時に好発する心血管系事故の予防に重要と考えられることより,降圧効果の持続性に優れたテルミサルタンは,臨床において有用な降圧薬として期待される.
  • 川上 裕, 梛野 健司, 新海 啓介, 祖父江 聡, 阿部 雅秋, 石河 醇一
    2004 年 124 巻 1 号 p. 41-51
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/06/26
    ジャーナル フリー
    ホスフルコナゾール(プロジフ®)静注液は,英国ファイザー社中央研究所で見出されたフルコナゾール(ジフルカン®)をリン酸エステル化し,水溶性をさらに向上させたプロドラッグである.活性本体のフルコナゾールは,有効性と安全性に優れたアゾール系抗真菌薬であり,深在性真菌症の治療に広く使用されている.一方,重篤な真菌症の患者にフルコナゾール静注液を投与する場合には,体内の水分量や電解質量のバランスに注意する必要がある.また,フルコナゾールの高用量による治療や投与早期から有効な血中濃度を得ることができるローディングドーズ法も望まれており,これらを容易にする高濃度の静注液製剤の開発が期待された.ホスフルコナゾールはフルコナゾールに比べ,水溶性が高く,同等量のフルコナゾールを生体内で生成するのに要するホスフルコナゾール静注液の投与液量はフルコナゾール静注液の1/40となり,ボーラス投与が可能となった.ホスフルコナゾールはin vitroではCandida属およびCryptococcus neoformansに対し有意な抗真菌活性を示さなかったが,ラットの全身カンジダ症モデルおよび頭蓋内クリプトコッカス症モデルに対しては,フルコナゾールと同程度の有効性を示した.このことから,ホスフルコナゾールは生体内で速やかにフルコナゾールに変換されて,抗真菌活性を発揮するものと考えられる.ホスフルコナゾールは主にアルカリホスファターゼによって加水分解されることが確認されており,生体内ではほぼ完全にフルコナゾールに変換される.第I相試験の結果,ホスフルコナゾール投与後のフルコナゾールの薬物動態には見かけ上線形性が認められた.また,フルコナゾールでは血中濃度が定常状態に到達するまでの期間が6~10日間であったが,ホスフルコナゾールではローディングドーズすることにより,3日間に短縮化された.深在性真菌症患者を対象とした第III相試験では,ローディングドーズ法を採用し,ホスフルコナゾールの有効性および安全性について検討した.その結果,カンジダ属およびクリプトコッカス属による深在性真菌症(真菌血症,呼吸器真菌症,真菌腹膜炎,消化管真菌症,尿路真菌症,真菌髄膜炎)に対し,ホスフルコナゾールは有効であり,また臨床的に問題となる有害事象は認められなかった.深在性真菌症は重篤な感染症であり,早期の有効血中濃度の確保とこれによる治療が患者の予後には重要とされている.ローディングドーズ法を可能にしたホスフルコナゾールは深在性真菌症に新たな治療の選択枝を提供できると考えられる.
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