日本薬理学雑誌
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121 巻 , 2 号
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総説
  • 鈴木 光
    原稿種別: 総説
    2003 年 121 巻 2 号 p. 85-90
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/01/31
    ジャーナル フリー
    内皮細胞依存性過分極因子(EDHF)の性質や生理機能について,最近の我々の知見をまとめた.EDHFによる過分極はカリブドトキシンで抑制されるので,Intermediate Conductance Ca-activated K-channel(IKチャネル)の関与が考えられた.EDHF作用発現時には内皮細胞内Ca濃度が上昇したので,関与するIKチャネルは主に内皮細胞膜に在ると思われたが,このことは内皮細胞から直接膜電位を測定することにより確認された.摘出血管における組織内の電位分布の測定から,内皮細胞は周辺の内皮細胞や平滑筋細胞とギャップ結合により機能的に結合しており,内皮細胞―平滑筋細胞間や平滑筋細胞間に比べ内皮細胞間の電気的結合がより良く,従って内皮細胞において発生した電位変化は速やかに内皮細胞層に伝搬した後,平滑筋に伝搬することがわかった.これらの結果から,EDHFは内皮細胞の膜電位変化がギャップ結合を介して電気緊張的に平滑筋細胞に伝搬されたものであると考えた.最近報告されたいくつかのEDHF候補物質について,その可能性を考察したが,関与するKチャネルや用いられた薬物の選択性などの問題から,それらがEDHFであると断定するには至らないと思われた.EDHFに関連して,平滑筋の細胞膜過分極が筋弛緩を誘発する機構が未知であり,今後の課題であると思われる.
  • 後藤 勝年, 宮内 卓
    原稿種別: 総説
    2003 年 121 巻 2 号 p. 91-101
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/01/31
    ジャーナル フリー
    エンドセリン(ET)は3種類のファミリーペプチド(ET-1,ET-2およびET-3)よりなり,2種類の受容体サブタイプ(ETAおよびETB)を刺激して様々な作用を発揮する.血管内皮細胞から産生されるのはET-1のみである.ET-1は強力な血管収縮作用と同時に,心血管系の様々な細胞に対して直接,または他の成長因子や活性物質と協調して間接的に増殖作用を示す.ET-1は細胞外マトリックスも含む様々な活性物質の産生や分泌も促す強い作用を発揮することも見出されている.これらのことから,ET-1は高血圧や肺高血圧,血管リモデリング(血管の狭窄や動脈硬化),急性·慢性腎不全,慢性心不全等の各種慢性循環器疾患と深いかかわりを持つことが示唆されてきた.ET-1が慢性循環器疾患の病因または悪化因子として働いているなら,その作用を遮断する薬物は治療薬となり得ることが予想され,ETの生合成阻害薬や受容体拮抗薬の開発に多くの注目が注がれてきた.20世紀終盤には,ペプチド性および経口投与可能な非ペプチド性のET受容体拮抗薬が数多く開発され,当初は薬理学的ツールとして内因性ETの生理的·病態生理的役割の解明に供され,幾多の成果を収めてきた.その後,各種の慢性循環器疾患の動物モデルを用い,予防や治療を目的とした様々なタイプの実験が行われ,ET受容体が著効を発揮することが次々と証明されてきた.上記の慢性循環器疾患の患者においても,急性または慢性投与による治験研究が積み重ねられ,極めて良好な治療効果のあることがかなりの疾患で示されてきている.そして2001年10月,bosentanが世界で最初に肺高血圧症の治療薬として,FDAより正式に認可され,上市された.本総説では,ET受容体拮抗薬の臨床応用に関する展望を探ってみる.
  • 百瀬 和享, 松田 武久, 大池 正宏, 小原 一男, Laher Ismail, 杉浦 清了, 大幡 久之, 中山 貢一
    原稿種別: 総説
    2003 年 121 巻 2 号 p. 103-111
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/01/31
    ジャーナル フリー
    血液循環,特に局所血流の恒常性維持機構や動脈硬化症などの循環器疾患の発症機構を明らかにする上で,心·血管系のメカノトランスダクション機構の分子メカニズムおよびその細胞内情報伝達系を詳細に検討することは重要である.また,人工臓器と移植臓器の中間に位置づけられるハイブリッド組織体の開発研究·臨床応用にも細胞バイオメカニクスの技術が不可欠である.このような視点の下に企画された第75回日本薬理学会年会のシンポジウム3「メカニカルストレス応答による細胞機能制御―創薬と再生臓器開発への応用―」の概要を紹介する.松田は細胞の持つ生体適合性と機能性をそのまま利用して,人工材料あるいは生体由来材料と組み合わせて,より生体組織に類似した機能を有する血管組織体(ハイブリッド組織体)の形成に関する最近の知見を示した.大池は血管内皮細胞への低浸透圧刺激はRho/Rho-キナーゼ,チロシンキナーゼの順に伝達され,これがATP放出を引き起こし,オートクリン機構によってCa2+上昇反応に至ることを示した.百瀬は細胞間情報伝達物質として注目されるリゾホスファチジン酸(LPA)が血管内皮細胞への流れ刺激により誘発されるCa2+応答を著明に増強することを示し,血行動態制御におけるLPAの役割を示唆した.小原はイヌ脳底動脈における伸展誘発性タンパク質リン酸化および収縮活性化の伸展速度依存性について検討し,緩徐伸展はインテグリン/Src系を介してRho/Rho-キナーゼ系を活性化し,MLCの複数部位(3カ所)のリン酸化やPKCδの移行を惹起することを明らかにした.Laherは脳底動脈の圧誘発筋原性収縮には,プロテインキナーゼCやHETEなどの脂質性メディエーターが介在し,それらの効果は,おそらくRho-キナーゼを介する細胞内Ca2+感受性の増大によるものであることを示した.杉浦は単一心筋細胞の収縮特性を簡便に測定できる新しい実験系を開発し,連続的に負荷を変えながら心筋細胞の長さ変化と発生張力を記録し,それらをX-Y平面にプロットしたところ,各拍動ごとに左回りのループが得られることを示した.
実験技術
  • 村松 理子, 高井 真司, 宮崎 瑞夫
    原稿種別: 実験技術
    2003 年 121 巻 2 号 p. 113-118
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/01/31
    ジャーナル フリー
    癌の浸潤·転移,血管新生などの病理的過程において,細胞は周囲の細胞外マトリックスを破壊しながら浸潤していく.この様な細胞浸潤の過程で細胞外マトリックスを分解する酵素として,マトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase; MMP)が良く知られている.これまで組織中のMMPは,免疫組織化学染色法やELISA法によるタンパク質としての検出,電気泳動を利用したzymography法による活性の検出という方法により解析されてきた.最近,ゼラチン薄膜を均一に塗布したポリエステルフィルムを使ってFilm in situ zymography(FIZ)法が開発され,ゼラチンを基質とするプロテアーゼ活性の検出および組織内での活性局在を簡便にまた定量的に検出することが可能となった.このFIZ法を利用した癌や関節リウマチにおけるMMP活性の組織内局在を検討した研究が報告され始めている.FIZ法は簡便であり,今後,MMPが関与する多くの分野で汎用されることが予想される.本稿では,ハムスタースポンジ皮下移植血管新生モデルでのFIZを用いた実例とともに測定技術を紹介した.
新薬紹介総説
  • 都賀 稚香, 近藤 翠, 所 明男
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2003 年 121 巻 2 号 p. 119-128
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/01/31
    ジャーナル フリー
    メシル酸イマチニブ(グリベック®)は,分子標的コンセプトに基づきノバルティス ファーマ社で合成·開発された慢性骨髄性白血病(CML)治療薬である.CMLの発症本態であるBcr-Ablチロシンキナーゼを標的とし,その活性を阻害することで細胞内シグナル伝達を抑え,CML細胞の細胞増殖を抑制することが示された.キナーゼアッセイおよび細胞レベルでのチロシンキナーゼ自己リン酸化における検討から,メシル酸イマチニブは,Bcr-Abl,血小板由来増殖因子(PDGF)受容体およびc-Kitチロシンキナーゼ活性を阻害すると考えられた.また,細胞増殖に対する作用の検討においては,bcr-abl遺伝子導入細胞およびCML由来細胞の増殖を抑制し,CML患者の骨髄より採取した造血前駆細胞サンプルのbcr-abl遺伝子発現コロニーの形成を選択的に抑制した.さらに,メシル酸イマチニブはbcr-abl遺伝子発現細胞に対しアポトーシス誘導作用を持つ可能性が示唆された.bcr-abl遺伝子発現細胞に対する増殖抑制作用はin vivoにおいても認められ,bcr-abl遺伝子導入細胞およびCML由来細胞の担癌ヌードマウスにおいて,腫瘍の増大または形成を抑制した.これらの結果から,メシル酸イマチニブはbcr-abl遺伝子が産生するタンパク質であるBcr-Ablの亢進されたチロシンキナーゼ活性を阻害することで,CML病態における細胞の異常増殖を抑制することが示唆された.実際,臨床試験において,これらのコンセプトから期待された効果が得られた.メシル酸イマチニブは,IFN-α不応または不耐容の慢性期CML患者を対象に実施した国内臨床第I/II相試験において,第I相部分では血液学的完全寛解率は92%,Philadelphia染色体が消失する細胞遺伝学的完全寛解率は58%であった.また,IFN-α不応例,不耐容例またはIFN-α未治療例を対象に実施した第II相部分においても,血液学的完全寛解率は92%,細胞遺伝学的完全寛解率は41%と,いずれも高い有効性を示した.主な副作用は,血液毒性,嘔気,嘔吐,下痢,浮腫(特に眼瞼浮腫),発疹,筋骨格筋障害,倦怠感であった.
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