日本薬理学雑誌
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133 巻, 6 号
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特集:薬理学研究に使う統計
  • ─典型的な誤用とその解決方法─
    浜田 知久馬, 赤澤 理緒, 西沢 友恵
    2009 年 133 巻 6 号 p. 306-310
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    浜田等は薬効・薬理試験でよく用いられる統計手法の現状分析を行なうため,日米欧の代表的な薬理学雑誌について,1996年公表された論文について使用されている統計手法の文献調査を行い,統計手法の不適切な使用・記載の典型例を指摘した.この調査から,10年が経過したので,最近の薬効・薬理試験の統計解析法の動向を調べるため,Journal of Pharmacological Sciencesについて再度,文献調査を行い,1996年の調査結果と比較して,この10年間の統計解析法の変遷について評価した.また,統計手法の記述内容の適切性を評価した.このジャーナルのHPでPDFファイル化されている電子ジャーナルから,統計解析(Statistical Analysis)の節に記載されている統計解析の手法を抽出し,集計した.調査対象の論文数は(1996年1月~12月,134報),(2002年1月~12月,148報),(2007年1月~12月,133報)となった.結果は次のようになった.1)Student t test(t検定)の使用の割合が減少し,ANOVA(分散分析)の使用の割合が増加した.2)多重比較法では,Dunnett法が減りTukey法,Bonferroni法が増加した.3)Scheffe法,Newman-Keuls法,Fisher(P)LSD法,Duncan法の不適切な多重比較法も依然として用いられていた.4)検定の両側・片側の区別,ソフトウエアについては記載されていない場合が多かった.本論文では,以上の結果から,薬理学雑誌の統計の質を高め,適正化するための方法について考察し,提言を行う.
  • 赤澤 理緒, 中山 勝, 山崎 亜紀子, 橋本 敏夫, 浜田 知久馬
    2009 年 133 巻 6 号 p. 313-318
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    酵素阻害反応の阻害様式の選択は,従来から,Lineweaver-Burkプロットなどを作成し,研究者の視覚的判断により行われている場合が多い.酵素阻害反応はMichaelis-Menten式に基づいて表すことができ,阻害様式の違いにより数学モデルが異なるので,阻害様式の選択を統計学的視点から考えると統計的モデル選択の問題に帰着する.本稿では,非線形最小二乗法を用いて阻害モデルを当てはめ,阻害様式の選択を行う方法(提案法)を評価し,従来型のLineweaver-Burkプロットに基づいた視覚的方法を客観化した方法(両逆数法)との比較を行った.モンテカルロシミュレーションによる定量的な検討により,提案法は,誤差が等分散の場合,および現実のデータをより反映した分布(CV一定)の場合のいずれにおいても,正しい阻害様式を選択できる割合(正選択率)が両逆数法に比較して高いことが示された.よって,提案法の有用性が定量的に示された.
  • 山田 雅之
    2009 年 133 巻 6 号 p. 319-324
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    開発候補化合物の特性を評価する方法の1つに,用量反応関係の評価がある.広い用量反応関係を検討するin vitro試験では,統計解析ソフトウェアの発展に伴い,用量反応モデルに非線形モデルを用いたパラメータの推定が広く行われるようになっている.用量反応関係を検討するin vitro試験では,しばしばサンプルの反応性の違いに起因する大きなサンプル間変動を含むデータが得られる.薬物動態試験や臨床試験の分野では,同様のデータに対して,サンプル間変動を考慮した非線形混合効果モデルを当てはめて,母集団パラメータを直接推定することが行われている.本論文では,薬物動態試験や臨床試験に比べ,サンプルサイズに限りのある薬理試験データに対して,非線形混合効果モデルを適応した場合の母集団パラメータの推定精度を検討した.推定精度は,従来用いられているstandard two-stage method(STS法)との母集団パラメータの推定精度の比較により評価した.対象は,刺激剤による生体内活性物質の産生に対する薬剤Aの抑制効果を検討したin vitro試験とした.実験データは,3サンプルに対して薬剤Aを4用量段階処置した測定値,刺激剤のみを処置したコントロールの測定値,および無処置のブランクの測定値を用いた.非線形混合効果モデルの変量効果は最大反応(β4)のみに設定した.母集団パラメータの点推定値は,EC50(β1),最小反応(β3)およびβ4でほぼ同様の値を示したが,傾き(β2)でSTS法が外れ値の影響により低値を示した.また,興味のあるパラメータβ1の推定精度は,非線形混合効果モデルのほうが良かった.以上より,サンプルサイズに制限のあるin vitro薬理試験においても,適切な解析モデルと推定方法を組み合わせることにより,非線形混合効果モデルが適用可能で,従来法より精度良い推定結果が得られることが示唆された.
  • ─血圧降下試験事例による解説─
    高橋 行雄
    2009 年 133 巻 6 号 p. 325-331
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    薬理学研究から得られる経時データに対して,様々な統計手法が適用されている.しかし,適切な統計解析法なのかが明確にされていないために,反復測定分散分析(Repeated measures ANOVA)を行い,薬剤因子と時間因子の交互作用に有意な差があれば,時点ごとに多重比較法により輪切り的に群間の平均値を比較する方法が標準的になっている.今回,経時的に測定された血圧データを用いて,降圧剤の薬効評価の観点からその問題点について検討した.反復測定分散分析において,投与前値を含む実データを使うか,投与前値からの差のデータを使うかによって分散分析表の見方が全く異なることを示した.経時データのエンドポイントとして,1)効果が最大となる時点,2)曲線下面積,3)薬効の発現時点,4)投与前値までの回復を取り上げ,設定のための着眼点について例示した.投与前値をどのように考慮するかについて,1)投与開始後のデータのみを用いた方がよい場合,2)投与前値を共変量としてよい場合,共変量としてはならない場合に分けて述べた.投与中止後の投与前値への血圧の回復を判定する場合には,有意差検定より差の信頼区間を用いる方が望ましいことを例示した.
実験技術
  • 山本 巌, 甲斐 菜穂子, 白崎 哲哉, 副田 二三夫, 高濱 和夫
    2009 年 133 巻 6 号 p. 332-336
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    排尿障害は,超高齢化社会を迎え患者数が増加の一途をたどっている疾患である.しかしながら,排尿障害治療薬の開発は他分野に比べて遅れている.その一因として,排尿機能に関する基礎研究の遅れがあり,排尿障害治療薬の薬効評価系を含む実験手法が十分開発されていないことが挙げられる.その実験手法の一つに,無麻酔・無拘束の動物を用いた昼夜連続の排尿活動測定があり,これまでラットにおいてはよく検討されてきたが,マウスの微量な尿を正確に測定することは困難であり,未だ数報の報告にとどまっている.そこで,我々は既報の問題点を考慮し,これらとは独立して,マウスにおいて昼夜連続して排尿活動を記録できる新しい方法を開発した.この新規測定システムは,マウス用代謝ケージの下に採尿用のロートを設置せず,尿と糞を天秤上にセットしたプレート上に直接落下させ,その重量をコンピューターで処理するというものである.ここまでは既報に見られるが,我々の方法は尿のデータのみを抽出するためのソフトウェアを独自に開発し,これにより以下の詳細な解析が可能になったことが特徴である.1回ごとの排尿量,排尿時刻および排尿回数を昼夜にわたって正確に測定できることに加え,これまで評価が困難であった,1回の排尿における尿重量の経時的推移や1回の排尿にかかる時間,1回の排尿における排尿速度が測定できるようになった.また,24時間以上連続した測定が可能であるため,12時間交替の明暗サイクル下において,マウスの活動時間帯である暗時間に排尿活動のピークがくる日内変動をとることが見出せた.さらに,1回の排尿の初期速度が雌雄のマウスで違うことなど,排尿機能における雌雄差も見出せた.本システムは,遺伝子改変動物や病態モデル動物を用いた測定や薬効評価への応用が期待され,今後の研究に広く貢献すると考えられる.
創薬シリーズ(4) 化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験(その1) 吸収(3)
  • 中井 康博
    2009 年 133 巻 6 号 p. 337-340
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    薬物の吸収には複数の機構があるため,創薬段階においてもそれらを含む高次評価としてモデル動物を用いたin vivo評価を実施することが望ましい.しかし,in vivoの評価系では代謝なども寄与する生物学的利用率(Bioavailability:BA)と吸収率を切り分けることは煩雑な手技が必要となる.適切な仮定をおくことによって,限られた情報の中からBAと吸収率を算出すること,適切なモデル動物の選択をすることによりヒトにおける吸収性を予測することが創薬段階における吸収性の評価には重要である.また,吸収性の評価において,溶解性と投与量の関係を考慮することは不可欠である.本稿では物性の評価,in vitroでの吸収性評価を終えた段階でin vivoの吸収性評価を実施する際に筆者がどのような手法を用いているかを述べる.
新薬紹介総説
  • 金子 健彦, 水島 昌哉
    2009 年 133 巻 6 号 p. 341-348
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    セツキシマブ(アービタックス®)は,米国で開発された,EGFR(上皮細胞増殖因子受容体)を標的とするIgG1サブクラスのヒト/マウスキメラ型モノクローナル抗体である.本邦では,2008年7月に「EGFR陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」を適応症として承認された.セツキシマブはヒトEGFRに対して高い親和性で結合し,多様なEGFR陽性癌細胞株に対して濃度依存的なin vitroでの増殖阻害作用を示し,また,in vivoの系においてEGFR陽性癌細胞株(ヒト結腸癌GEO等)で増殖阻害作用が確認されている.その作用機序としては,EGF,TGF-αなどの内因性EGFRリガンドの結合を阻害することで,細胞増殖,細胞生存,細胞運動,腫瘍内血管新生および細胞浸潤など,腫瘍増殖・転移に関与する多くの細胞機能を抑制し,抗腫瘍効果を発揮することに加え,細胞表面上のEGFRのダウンレギュレーションを誘導し,受容体シグナルの減少をもたらすことや,抗体依存性細胞傷害(ADCC)も作用機序として考えられており,in vitroにおいてそれら作用機序の存在を示唆する結果が得られている.また臨床効果においても,EGFR陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌に対して,化学療法との併用投与および単独投与での国内外で臨床試験により有効性が示されており,副作用も忍容可能なものであった.昨今ではKRASの変異と効果の相関を示す追加解析の結果が発表されており,いずれもKRAS野生型にて上乗せ効果が認められており,今後,医療の個別化を考える上で非常に興味深い結果といえる.
  • 宇治 達哉, 橋本 好和
    2009 年 133 巻 6 号 p. 351-358
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/12
    ジャーナル フリー
    タゾバクタム・ピペラシリン(ゾシン®静注用2.25,ゾシン®静注用4.5)は,β-ラクタマーゼ阻害薬であるタゾバクタムと広域抗菌スペクトルを有するペニシリン系抗生物質であるピペラシリンを力価比1:8の割合で配合した注射用抗生物質であり,2008年10月より販売されている.本剤は,各種のβ-ラクタマーゼ産生菌を含むグラム陽性菌および緑膿菌などのグラム陰性菌に対して強い抗菌力を有し,タゾバクタムの添加によって薬剤耐性菌の出現頻度が抑制されることが明らかにされている.これまでに国内で実施された敗血症,肺炎,複雑性尿路感染症および小児感染症を対象とした臨床試験においても,優れた細菌学的効果と臨床効果を示すことが証明されている.本剤は,1992年以降,海外において国内の適応症のほか,腹腔内感染症や発熱性好中球減少症などの重症・難治性感染症の標準治療薬として使用されてきた.本剤の用法・用量は,臨床分離菌に対する抗菌力と体内動態に基づくPK-PD解析の結果から設定され,1日最大投与量は18 g(4.5 g 1日4回:重症・難治の市中肺炎および院内肺炎患者)であり,緑膿菌などの重症・難治性感染症の原因菌に対しても有効性が期待できることが明らかにされている.健康成人を対象とした臨床薬理試験では,4.5 g 1日4回の7日間反復投与においてもタゾバクタムおよびピペラシリンの血漿中濃度に蓄積性は認められていない.国内の臨床試験において認められた主な副作用は,肝機能異常と下痢などの胃腸障害であり,本剤の安全性プロファイルは海外と本質的に差がなく,日本人においても安全に投与できるものと考えられた.タゾバクタム・ピペラシリンが使用できることにより,国内においても海外と同様に重症・難治性感染症に対してペニシリン系抗菌剤での治療が可能になり,耐性菌出現抑制にも寄与するものと考えられる.
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