高速走査型共焦点レーザー顕微鏡により生きた心筋細胞内のCa
2+に関して3種類の動きが観察されている.Ca
2+トランジェントは活動電位によって惹起される細胞質のCa
2+濃度上昇で,正常な心筋収縮に対応するものである.哺乳動物の心室筋では全細胞質のCa
2+濃度がほぼ同時に上昇し,10 ms程度でピークに達する.Ca
2+トランジェント初期相では,筋小胞体のうちT管と至近距離で対峙している部分からCa
2+放出が起きることが捉えられた.T管とSRの膜に挟まれた領域でのCa
2+濃度が細胞質全体のCa
2+に先行して上昇し,異なった挙動を示すことが心筋の正常なCa
2+動態の維持に重要な役割を果たしていると考えられる.Ca
2+ウェーブは自然発生的かつ局所的なCa
2+濃度上昇が伝搬する動きで,筋小胞体からのCa
2+-induced-Ca
2+ releaseの連鎖である.Ca
2+ウェーブは低酸素,強心配糖体投与などにより誘発されることから不整脈などと関連した異常なCa
2+の動きであると考えられるが,T管構造のない心房筋では正常な興奮収縮連関の一部として機能している.Ca
2+スパークは細胞質内の直径1~2 μmの微小領域での非伝搬性のCa
2+濃度上昇で,30-40 ms持続する.Ca
2+スパークは筋小胞体からのCa
2+放出の単位であり,心室筋ではCa
2+スパークが細胞質全体で同時に発生したものがCa
2+トランジェントである.Ca
2+スパークは筋小胞体のCa
2+放出における不応期現象の観測,細胞内Ca
2+による心臓ペースメーカー細胞の歩調取り制御の研究,各種生理活性物質や薬物の作用の解析などに応用されている.イメージング技術は我々に他の方法では得られない知見を多く与えてくれるが,目的とする生命現象や薬理作用の理解の中で,それがどのような意味を持つのかを正しく判断することが重要であろう.
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