日本薬理学雑誌
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126 巻, 4 号
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特集:メカニカルストレスおよび酸化ストレスによる心血管系分子・細胞反応
  • 田島 壮一郎, 土屋 浩一郎, 大西 秀樹, 兼松 康久, 玉置 俊晃, Ronald Mason, 滝口 祥令
    2005 年 126 巻 4 号 p. 246-249
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/01
    ジャーナル フリー
    通常生体は,強固な内在性抗酸化システムにより酸化ストレスの原因となる活性酸素・活性窒素種を効率良く消去することで,生体を酸化ストレスから守っている.しかしこれら防御システムを越える,または抗酸化システムを巧妙にくぐり抜けた活性酸素・活性窒素種によって,シグナル伝達経路に影響を与えたり,タンパク質の変性や脂質の過酸化およびDNAの損傷がおきる.そしてこれらの長期間にわたる蓄積が,生活習慣病を始めとする様々な疾病の原因になると考えられている.ところで酸化ストレスが生体分子と相互作用することの関与を直接証明するためには,生体高分子が酸化ストレスによって生成するラジカル中間体を検出することが重要である.タンパク質では,チオール残基やチロシン残基が酸化を受けやすいことが知られているが,現在これらプロテインラジカルを直接検出する方法としてはEPR(Electron Paramagnetic Resonance:電子スピン共鳴)法が唯一の測定法として使われている.しかしEPR法でプロテインラジカルを検出するためには大量のタンパク質(数10 mg)が必要であり,微量のタンパクに応用することは困難であった.そこで,我々はEPR-スピントラップ法を応用して,ラジカルと安定な複合体を形成するスピントラップ剤と生体高分子が結合した状態を認識する抗体を作成し,Western blotting法を応用した新たなプロテインラジカルの検出法を検討した.その結果,ミオグロビンおよびチオレドキシンにおいて酸化ストレスによるプロテインラジカルの生成を検出できたので報告する.
  • 木村 正司, 安部 陽一
    2005 年 126 巻 4 号 p. 251-255
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/01
    ジャーナル フリー
    心筋に発現するアンジオテンシン受容体とβアドレナリン受容体のそれぞれの受容体拮抗薬による相互作用が示され,これら薬物の心不全治療効果にお互い影響しあうことが考えられる.本稿では,アンジオテンシン(ANG)急性および慢性暴露における心血管系での酸化ストレスと活性酸素産生系について,またイソプロテレノールの注入によるβアドレナリン受容体刺激における心肥大と心筋酸化ストレスにおけるAT1受容体の関与についてmitogen-activated protein(MAP)キナーゼの活性化を指標に検討した結果を紹介する.ANG投与急性期には,まず心血管系組織のNAD(P)Hオキシダーゼが活性化され活性酸素が産生されるが,この活性酸素はさらにミトコンドリア内膜に局在するATP感受性Kチャネルを刺激,開口して,活性酸素産生を一層促進する.しかしこれらANG投与急性期に生じるミトコンドリア由来の活性酸素は,ANGの昇圧機序に組するものではない.イソプロテレノール慢性暴露によって生じる心肥大はANG受容体拮抗薬で抑制される.またAT1a受容体欠失マウスの慢性イソプロテレノール暴露では心拍数は野生型と同様に増加するが,心肥大や心筋酸化ストレスの増大反応が欠如しており,これもAT1受容体関与の重要性を示すものである.またイソプロテレノールによってリン酸化されるMAPキナーゼカスケードの内Raf/MEK/ERK系はAT1受容体拮抗薬(ARB)によってほぼ抑制されており,この抑制機構にはAT1受容体を介したRas-Raf刺激経路の抑制の他,βアドレナリン受容体を介したRap-1の活性化によるRaf抑制機構が関係する可能性がある.
  • 宮崎 拓郎, 山本 雅之, 本田 一男, 大幡 久之
    2005 年 126 巻 4 号 p. 256-261
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/01
    ジャーナル フリー
    血管内皮細胞は常に血流に起因する機械刺激を受容しており,様々な機械刺激を感知して種々の細胞応答を呈することが知られている.実際,内皮細胞に対して血流を模した流れ刺激を負荷すると,負荷直後に細胞内カルシウム濃度上昇が認められ,さらに持続的に流れ刺激を負荷することにより,内皮細胞が流れの方向に整列することが報告されている.これらの機械受容応答の詳細な分子メカニズムは未だ明らかになっていないが,他の非筋細胞または筋細胞における形態変化や筋原性応答と同様に,内皮細胞の形態変化もまた細胞内カルシウム濃度の変化によって厳密に制御されている可能性が示唆される.著者らは,共焦点レーザー顕微鏡および干渉反射顕微鏡を用いたバイオイメージング法により流れ刺激存在下の内皮細胞のカルシウム応答と細胞基底部における形態変化をリアルタイムで観察することにより,両者の関連性について検討した.静止時の内皮細胞において自発的なカルシウム応答が認められたが,流れ刺激の負荷によりカルシウム応答の頻度が増加し,同時に流れの下流部分における偽足の伸展と上流部分における収縮が認められた.流れ刺激によるカルシウム応答と形態変化の空間的相関について検討を行ったところ,カルシウム応答の開始部位は干渉反射像に認められる接着斑と一致し,応答後に収縮することが明らかとなった.また,著者らはイメージング法に薬理学的手法を組み合わせ,このカルシウム応答および収縮に機械受容チャネルを介する細胞外からのカルシウム流入および細胞内カルシウムストアからのカルシウム遊離が関与し,インテグリンを介する細胞接着の変化によって影響を受けることを明らかにした.さらに,流れ刺激によるカルシウム応答がカルパインを活性化することで接着斑が解除され,結果的に収縮が引き起こされることを見いだした.
  • 石川 智久, 中山 貢一
    2005 年 126 巻 4 号 p. 262-266
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/01
    ジャーナル フリー
    脳循環は自己調節能が発達しており,脳動脈の内腔圧が上昇すると血管平滑筋は収縮する.この筋原性収縮の少なくとも一部は,電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)を介した細胞外からのCa2+流入に依存する.しかし,このVDCCの活性化をもたらす膜の脱分極を惹起するメカニズムについては未だ明らかではない.伸展活性化(stretch-activated:SA)カチオンチャネルはその候補の1つであるが,その分子実体を含め,不明な点が多い.著者らは,イヌ脳底動脈における低浸透圧刺激による収縮反応を詳細に検討することにより,伸展誘発収縮の新しい機序を提唱した.まず,低浸透圧刺激による細胞膨張により,膜に伸展刺激が加わり,SAカチオンチャネルが活性化される.このチャネルを介して流入したCa2+が,Ca2+活性化Cl-チャネルを活性化して膜が脱分極する.その結果,VDCCが活性化され,Ca2+が流入して収縮が惹起される.このSAカチオンチャネルをトリガーとした新たな機構が,内腔圧上昇による筋原性収縮においても働いている可能性は充分に考えられる.本稿では,SAカチオンチャネルを中心に,脳血管の筋原性反応に関与するイオンチャネルについて概説する.
総説
  • 児玉 逸雄, 本荘 晴朗
    2005 年 126 巻 4 号 p. 267-272
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/01
    ジャーナル フリー
    心室頻拍・細動(VT/VF)の成立には,渦巻き型の旋回興奮(スパイラル・リエントリー)が重要な役割を果たすことが示され,それらの重大な不整脈の制御を考える上での新しい概念として注目を集めている.我々は,高分解能活動電位光学マッピングを用いた実験で,ウサギ心臓に誘発したスパイラル・リエントリーのダイナミクス解析を行い,Naチャネル遮断薬,遅延整流型Kチャネルの速い活性化成分(IKr)に対する遮断薬(nifekalant),およびamiodaraoneの作用を観察し,心室スパイラル・リエントリーの薬物制御に関する考察を行った.心内膜側を凍結凝固し,心外膜下心室筋だけを残存させた二次元心室筋標本に電場刺激を与えてVTを誘発すると,機能的ブロックライン(FBL)の周囲を旋回するスパイラル・リエントリーを画像として捉えることができた.Naチャネル遮断薬はFBLの延長とVT周期の延長をもたらすとともに,スパイラルを安定化させ,VT持続時間を延長した.Nifekalantは,FBLを極端に延長させるとともに,旋回経路の大きなさまよい運動(meandering)をもたらした.スパイラルは不安定となり,興奮前面と後面の相互作用(front-tail interaction)による興奮波面の分裂(wave-break)や自然停止が生じやすくなった.AmiodaroneはFBLとVT周期の延長をもたらしたが,VT持続時間は短縮し,front-tail interactionは減少した.スパイラルの分裂をもたらすことなく,その停止を促すためには活動電位の脱分極と再分極の両者に対して多面的に作用する薬物が必要であると考えられる.
  • 黒川 洵子, 古川 哲史
    2005 年 126 巻 4 号 p. 273-279
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/01
    ジャーナル フリー
    心筋細胞における外向きカリウム電流は活動電位の再分極に寄与する.外向きカリウム電流である遅延整流性カリウムチャネルは瞬時活性型IKrチャネルと緩徐活性型IKsチャネルからなり,IKsチャネルはKCNQ1遺伝子とKCNE1(minK)遺伝子によりコードされる.IKsチャネルの遺伝子異常により活動電位の再分極が遅延し,致死性不整脈を特徴とする家族性QT延長症候群(LQT1)がひき起こされる.IKsチャネルは種々の細胞内情報伝達システムによる制御を受け,これがQT延長症候群での不整脈発現のトリガー因子などの病態発現にも影響を与えることが指摘されてきた.本稿では,近年報告されたcAMPと一酸化窒素(NO)によるIKsチャネル調節の分子メカニズムを取り挙げ,臨床的結果との関連を議論する.チャネル分子複合体を介したcAMPによる調節では,運動時(マラソン・水泳など)・情動的興奮時などの交感神経系の賦活化がLQT1における不整脈を高頻度で誘発することに関与することが示唆された.また,男性ホルモンが膜上アンドロゲン受容体を介して産生されるNOによりIKsチャネルを調節し,QT延長症候群における不整脈発作の男女差との関連が示唆された.QT延長症候群に関わるイオンチャネルの細胞内情報伝達による機能調節と病態発現の関与がさらに検討されていくことにより,今後個別化医療・性差医療などのより精度の高い予防・治療戦略を立てることが可能となることが期待される.
  • 大草 知子
    2005 年 126 巻 4 号 p. 281-286
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/01
    ジャーナル フリー
    近年,不整脈の治療において,実際に不整脈が生じた場合の治療法(downstream approach)に加え,様々な病態に対する心臓の代償機構の破綻を防止することにより不整脈の発生を予防する治療法(upstream approach)の重要性が強調されるようになった.不整脈の確実な治療法が確立されていない理由の一つとして,従来からの抗不整脈薬は主として細胞膜上のイオンチャネルを中心にコントロールする治療薬であり,upstream approachとして不整脈基質に焦点をあてた治療の遅れがある.肥大心筋細胞,虚血心筋細胞,不全心筋細胞などでは,細胞に多様な機能的・器質的変化が生じており,これらは致死性不整脈の発生・維持の基質となる可能性があり,神経体液性因子などの一過性因子が加わって不整脈の発生に至ると考えられている.不整脈の発生機序としては,1)刺激生成異常,2)興奮伝導異常,さらには3)両者が混在したものが考えられている.刺激生成異常には自動能異常と撃発活動(triggered activity)がある.撃発活動には早期後脱分極(EAD)と遅延後脱分極(DAD)があり,これらの発生には細胞内Ca2+過負荷の関与が考えられている.特にDADの成因は細胞内Ca2+濃度の変化に応じた膜コンダクタンスの周期的変化によるとされている.ゆえに,細胞内Ca2+過負荷は重要な不整脈基質と考えられている.また,興奮伝播異常を引き起こす因子として,ギャップ結合リモデリングがある.心筋細胞間の興奮伝播はギャップ結合を介して行われ,隣接する細胞間を種々のイオンや情報伝達物質が交通し,心筋細胞の正常な興奮伝導はギャップ結合に依存していると考えられている.虚血心筋細胞,肥大心筋細胞,不全心筋細胞,さらにはリモデリングをきたした心臓ではギャップ結合に質的・量的変化が生じ,回帰性不整脈の一因になると考えられている.本稿では,致死性不整脈の発生・維持機構における細胞内Ca2+制御タンパク質異常とギャップ結合リモデリングの関与について,我々のデータを含めた最近の知見に基づき概説する.
  • 田中 光, 川西 徹, 重信 弘毅
    2005 年 126 巻 4 号 p. 287-294
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/12/01
    ジャーナル フリー
    高速走査型共焦点レーザー顕微鏡により生きた心筋細胞内のCa2+に関して3種類の動きが観察されている.Ca2+トランジェントは活動電位によって惹起される細胞質のCa2+濃度上昇で,正常な心筋収縮に対応するものである.哺乳動物の心室筋では全細胞質のCa2+濃度がほぼ同時に上昇し,10 ms程度でピークに達する.Ca2+トランジェント初期相では,筋小胞体のうちT管と至近距離で対峙している部分からCa2+放出が起きることが捉えられた.T管とSRの膜に挟まれた領域でのCa2+濃度が細胞質全体のCa2+に先行して上昇し,異なった挙動を示すことが心筋の正常なCa2+動態の維持に重要な役割を果たしていると考えられる.Ca2+ウェーブは自然発生的かつ局所的なCa2+濃度上昇が伝搬する動きで,筋小胞体からのCa2+-induced-Ca2+ releaseの連鎖である.Ca2+ウェーブは低酸素,強心配糖体投与などにより誘発されることから不整脈などと関連した異常なCa2+の動きであると考えられるが,T管構造のない心房筋では正常な興奮収縮連関の一部として機能している.Ca2+スパークは細胞質内の直径1~2 μmの微小領域での非伝搬性のCa2+濃度上昇で,30-40 ms持続する.Ca2+スパークは筋小胞体からのCa2+放出の単位であり,心室筋ではCa2+スパークが細胞質全体で同時に発生したものがCa2+トランジェントである.Ca2+スパークは筋小胞体のCa2+放出における不応期現象の観測,細胞内Ca2+による心臓ペースメーカー細胞の歩調取り制御の研究,各種生理活性物質や薬物の作用の解析などに応用されている.イメージング技術は我々に他の方法では得られない知見を多く与えてくれるが,目的とする生命現象や薬理作用の理解の中で,それがどのような意味を持つのかを正しく判断することが重要であろう.
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