日本薬理学雑誌
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127 巻, 6 号
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特集:副作用の薬理
  • 伊藤 善規, 千堂 年昭, 大石 了三
    2006 年 127 巻 6 号 p. 425-432
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/01
    ジャーナル フリー
    薬剤の投与により,肺間質組織へのマクロファージ,好中球,好酸球およびリンパ球などの炎症性細胞の浸潤によって炎症を呈し,肺胞壁の肥厚によって呼吸困難などの症状を呈するのが薬剤性間質性肺炎である.間質性肺炎や肺線維症,さらには肺水腫や急性呼吸不全症候群といった肺障害を引き起こす可能性がある薬剤は極めて多い.薬剤性肺障害は発症機序から肺組織に対する直接的な障害作用に基づくものとアレルギー反応に基づくものに分類されるが,多くの場合は両機序が相伴って発症すると考えられている.直接的な細胞障害作用を引き起こしやすい薬剤として,抗癌薬や抗不整脈薬(アミオダロン)があり,肺障害の発現頻度は投与量に依存する.一方,アレルギー性肺障害を引き起こしやすい薬剤としては,抗生物質,抗リウマチ薬,インターフェロン(IFN),顆粒球コロニー刺激因子製剤,小柴胡湯などが挙げられ,この場合の発現は投与量に依存しない.アレルギー性肺障害は予測が困難であり,かつ,症状の進行が早く,発症後,数日以内に呼吸不全に陥ることもある.本稿では,肺障害を起こしやすい代表的な薬剤を取り上げ,その発症機序と対策について述べる.
  • 玄番 宗一
    2006 年 127 巻 6 号 p. 433-440
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/01
    ジャーナル フリー
    ネフロンは,1個の腎臓に約100万個存在し,毛細血管系との共存下で尿の生成における最小単位として機能する.ネフロンは,糸球体とボーマン嚢およびそれにつながる尿細管からなる.尿細管は,近位尿細管,ヘンレ係締,遠位尿細管や集合管などの多くの分節からなリ,各々が異なる特性をもつため,薬物によって障害部位と病態に特徴がみられる.腎臓は,尿生成を通じて,代謝産物および薬物などの異物を排泄し,細胞をとりまく内部環境(血漿や組織間液)の恒常性を維持する.レニンやプロスタグランジン類を産生することにより血圧の調節などに関わるとともに,ビタミンD3活性化やエリスロポエチンの産生も担う.薬物による腎機能障害は,内部環境の恒常性維持などにしばしば重大な支障をきたし,生命を脅かすことになる.腎臓において,その構造や機能の特性により,薬物は有害作用発現に必要な濃度に達しやすいことなどのため,副作用を生じやすいところといえる.薬物治療に際して,薬物性腎障害を早期に発見するためには,できるだけ鋭敏な臨床指標が望まれる.薬物性腎障害の防御や軽減のために,その障害の発症機序についての解明が必要である.シスプラチン,アミノグリコシド系抗生物質,シクロスポリンや造影剤などによる腎障害には,活性酸素のようなフリーラジカルや細胞内カルシウム濃度などの因子が関与すると考えられている.薬物性腎機能障害への細胞内シグナル伝達分子や転写因子の関与についての研究も進められており,その障害像の分子機序の解明に新たな進展をもたらすことが期待される.
  • 市原 和夫
    2006 年 127 巻 6 号 p. 441-446
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/01
    ジャーナル フリー
    高脂血症・高コレステロール血症治療薬として広範に使用されるHMG-CoA還元酵素阻害薬であるスタチンは多くの場合,動脈硬化を未然に防いで冠動脈疾患,心血管疾患を予防しようという目的で患者に投与される.スタチンを使用すると血中コレステロールが低下し,確かに動脈硬化が改善される.しかし,筆者の動物実験および主に欧米で実施された数多くの長期臨床試験の結果は,全てのスタチンが動脈硬化改善に見合う心疾患予防効果を発揮するわけではないということを明白に示している.細胞膜透過性の低い水溶性スタチンは,コレステロール低下に伴う冠疾患予防効果が認められるのに対して,細胞膜透過性の高い脂溶性スタチンはその限りではない.不幸なことに,臨床で使用されるのは,その種類も量も,圧倒的に脂溶性スタチンが多い.脂溶性スタチンも,肝臓のHMG-CoA還元酵素を阻害して血中コレステロールを下げ,動脈硬化を改善して心疾患予防に寄与する.一方,脂溶性スタチンは心臓の同じ酵素を阻害して,心疾患に好ましくない別の作用をする.両作用が合わさってしまうと,この薬物の心疾患予防効果が激減し,期待する心疾患予防が殆ど得られない.筆者でも,これを「副作用」と呼ぶのには躊躇する.しかし,「悪いことはないからいいじゃない」と看過すると,2001年のセリバスタチンのような事故が起こってしまう.ここでは「副作用の作用機序」という特集の中で,「心機能障害」を分担することになっている.本来,多数の薬物,薬剤を挙げ,それらの心臓機能に対する副作用機序を列挙すべきであるが,スタチンを例にして「副作用」に対する筆者の少し偏った考えを述べる.
  • 川口 充, 澤木 康平, 大久保 みぎわ, 坂井 隆之, 四宮 敬史, 小菅 康弘
    2006 年 127 巻 6 号 p. 447-453
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/01
    ジャーナル フリー
    口腔は,消化・咀嚼・感覚・発音といった多様な機能が集合しており,それぞれの機能は,他の器官と共通の調節機構により制御されている.したがって口腔は薬物療法による副次的な影響を受けやすい器官であり,ひとたび機能不全が生じるとその障害の大きさを認識させられることから,健康に対する潜在的価値が非常に高いと言える.薬物が口腔に及ぼす副作用には,味覚障害,口腔乾燥症,歯肉肥大症,唾液分泌過剰,流涎,口内炎,歯の形成不全・着色などが挙げられるが,ここでは,味覚障害,口腔乾燥症,歯肉肥大症に焦点を絞って解説した.味覚障害では亜鉛不足が病態の原因の最も多くをしめること,OH,SS,NHなどの官能基を持つ薬物には亜鉛をキレートする性質があること,唾液分泌が味覚物質の溶媒として欠くことができないことを説明し,さらに,味覚受容体の分子レベルでの研究の経緯と現状について解説を加えた.口腔乾燥症では,向精神薬のうち三環系抗うつ薬とメジャートランキライザー,およびベンゾジアゼピン類の作用標的の違いについて,降圧利尿薬の腎臓と唾液腺での作用の違いについて説明した.歯肉肥大症では原因となる薬物の種類は少ないが,線維芽細胞のコラーゲン代謝機能に影響を及ぼしていること,性ホルモンが修飾する可能性について説明した.
  • 池田 敏彦
    2006 年 127 巻 6 号 p. 454-459
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/01
    ジャーナル フリー
    薬物性肝障害には,用量依存的で動物実験でも再現される非特異体質性肝障害と,動物実験では再現できない特異体質性肝障害が知られている.両者とも化学的に反応性の高い代謝物の生成が最初の引き金であると考えられている(一次反応).これに続いて,大部分は未解明のままであるものの,免疫システムの活性化が原因であると考えられ,非特異体質性肝障害では自然免疫システムが,特異体質性肝障害ではこれに加えてアレルギー反応や自己・非自己認識に関わる免疫システムが関与すると推察される(二次反応).アセトアミノフェンに代表される非特異体質性肝障害においては,反応性代謝物による細胞傷害と細胞ストレスが進行すると,クッパー細胞が細胞傷害性リンパ球を肝臓に動員し,これらの細胞からインターフェロンγが分泌されることによって種々サイトカインの産生が刺激されることが,肝障害発現に重要な鍵となると考えられている.一方,特異体質性肝障害については,二次反応が重きをなすと推察されており,臨床像からはハロセンに代表されるアレルギー性特異体質性肝障害とトログリタゾンに代表される代謝性特異体質性肝障害に分類される.前者は薬疹,発熱および好酸球増多などのアレルギー症状を伴い,薬物曝露から比較的短期間(1カ月以内)に発症するのに対し,後者ではこのような症状が無く,発症までに長期間を要する点で異なっている.ハロセンの場合,反応性代謝物でハプテン化されたタンパク質に対する数多くの抗体が生じており,その種類によってはアレルギー性反応の原因となっているものと考えられる.代謝性特異体質性肝障害では恐らくこのような抗体が少量であるか,あるいは産生していないと推察される.しかし,2種類の特異体質性肝障害とも,反応性代謝物で化学修飾されたタンパク質が,免疫系により非自己と認識されることが肝障害の原因ではないかと推察される.
実験技術
  • 斎藤 亮, 高野 行夫
    2006 年 127 巻 6 号 p. 461-465
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/01
    ジャーナル フリー
    嘔吐の研究には,実験動物として実際に嘔吐を発現するイヌ,ネコ,ブタ,フェレットが用いられてきた.最近ではより小型の動物として,スナネズミ,ジャコウネズミやスンクスなどが用いられているが,これらのほ乳動物はマウスやラットに比べて特殊で入手が困難であることや,生物学的な情報量が著しく少ないなどの問題がある.一方,ラットは嘔吐という行動を発現しない.ところが,ラットに催吐剤を投与すると,通常の食餌とは全く異なったものを摂取するいわゆる異食行動を起こす.私たちはこれまでフェレットの嘔吐反応やラットの異食行動を用いて嘔吐の仕組みについて研究を行なってきた.そこで本稿では,特にラットを用いた簡便な嘔吐反応の測定方法を概説すると共に,それを用いたいくつかの実験結果を紹介する.方法(1)カオリンにアラビアゴム末を加えて水でゴルフボール大に固めガラス容器に入れて,正常飼料と共にそれぞれラットの飼育ケージ内に置いた.方法(2)正常飼料と同等の硬度と形状に作製した飼料をケージの金網越しにラットに与えた.それぞれ1日に1回残った飼料の重量から摂食量を算出した.催吐剤としてシスプラチンをラットに腹腔内投与すると,投与1および2日目に両方法ともにカオリン飼料の摂食量が増加し,それとともに正常飼料の摂食量が減少した.この反応はタキキニンNK-1受容体拮抗薬のCP-99,994およびHSP-117をそれぞれ腹腔内あるいは脳室内に投与することにより著明に抑制された.以上の結果は,フェレットにシスプラチンを投与して発現する嘔吐行動のパターンに酷似していた.従って,カオリン飼料を用いた異食行動は,嘔吐を起こさないラットで嘔吐の指標となり得ることが分かった.特に,方法(2)は飼育ケージ内に欠片がほとんど落ちることがなく正確な摂食量を測定でき,通常の飼料と同じように取り扱うことができた.よってこの方法は,ラットを用いて嘔吐作用の有無を簡便に安価に調べることができる有用な手段と考えられる.
実習技術
  • ―歯学部薬理学実習への応用―
    柴田 達也, 山根 明, 島田 明美, 永田 純史, 小松 浩一郎
    2006 年 127 巻 6 号 p. 467-471
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/01
    ジャーナル フリー
    歯学部学生の薬理学実習において,臨床における薬物治療の基礎となる薬物動態を理解するために,血中薬物濃度時間曲線から薬物動態パラメータを求めることは有用であると考えられる.動物実験から血中薬物濃度時間曲線を得ることもできるが,薬物動態シミュレーションプログラムを用いれば動物を使用せずに,そのような実習を行うことが可能である.鶴見大学歯学部の薬理学実習では,英国薬理学会が開発した薬理学実習ソフトウエアの1つである薬物動態シミュレーションプログラムを用いたシミュレーション実習を平成12年度からとりいれている.6~7名の学生から成る班にシミュレーションプログラムをインストールしたパーソナルコンピューターが1台ずつ配布される.4つの実習課題が用意され,班ごとにそれぞれの課題に沿って薬物投与の条件を設定し,血中薬物濃度の変化をシミュレーションする.得られたグラフから指示された値を読み取り,課題にある薬物動態パラメータを算出する.それらの結果を基にして課題にある質問に答える.本シミュレーションプログラムは,実験動物ではなくヒトの薬物動態をシミュレーションすることができるので,結果を外挿する必要がない.学生は限られた実習時間内に実習課題を終わらせることができた.実習の準備,片づけが簡素化され教員の負担は軽減された.実際に動物実験を行うことでしか得られないこともあり,実験動物を用いる実習をすべて代替法で置き換えることは難しいが,学生実習にシミュレーションプログラムを導入することは効率的に薬理学教育を行う1つの手段であると考えられる.
総説
  • 山田 久陽, 山口 順一, 飯田 泉, 奥山 茂
    2006 年 127 巻 6 号 p. 473-480
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/01
    ジャーナル フリー
    特異体質性薬物毒性(IDT:Idiosyncratic drug toxicity)は,動物実験や臨床試験では発見されることはほとんどない.IDTは医薬品として上市され,より多くの患者さんに使用されて初めて発現する重篤な副作用であり,肝毒性,心臓毒性,血液・骨髄毒性,アレルギー反応などが報告されており,時として死亡例も見られる.IDTは一般に5,000人から10,000人に1人あるいはそれ以下と発症率が低く,既知の薬理学的作用とは無関係な毒性で,単純な用量反応性がないとされている.また,一般にIDTの発現は薬物服用開始後数週間以上と遅く,前述したようにその予測が困難であるなどの特性を有する.近年の具体例としては糖尿病治療薬のTroglitazoneが記憶に新しいところである.IDTは反応性代謝物生成などの薬物自体の要因のみならず,遺伝的要因として薬物の標的や代謝に関する酵素などの遺伝子多型,環境要因として食事,飲酒,喫煙および疾患などが複雑に重なり合い発現するとされる.その発現機序には薬物の代謝により生成される反応性代謝物の関与が重要な役割を演じており,それに加え免疫系の関与も考えられている.IDTの回避には医薬品候補物質の探索研究において,反応性代謝物を生ずる可能性のある化学構造を避けて合成計画を立案することが重要である.反応性代謝物の検出には,代謝活性化に基づくヒト薬物代謝酵素P450分子種の阻害活性測定法,還元型グルタチオンなどの捕捉剤を用いたトラッピングアッセイおよび放射性同位体標識化合物を用いた生体高分子への共有結合量の測定法などがある.また,トキシコパノミクスの技術を導入してIDT惹起物質のバイオマーカーを検索する試みも実施されている.IDTのリスク評価に際しては,開発候補物質に共有結合能が見いだされたとしても,リスクと有用性を考慮して開発の継続あるいは中止を決断する必要がある.現在,IDTを回避する方法は確立されていないが,今後,IDTの発現機序をさらに詳細に研究し明らかにすると同時に,より精度の高いスクリーニング法の開発に注力すべきである.これらの努力により新薬開発の早期段階でIDT惹起物質を排除し,市場導入を防ぎ,患者さんに有効でより安全性の高い医薬品を提供できることになると思われる.
治療薬シリーズ (4) 脳梗塞急性期
  • 進 照夫, 吉川 哲也, 鬼頭 剛
    2006 年 127 巻 6 号 p. 481-484
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/01
    ジャーナル フリー
    脳梗塞急性期における新薬開発のための実験的脳梗塞モデルとしては,種々の動物を用いた多数の実験が報告されており,薬効評価においても梗塞巣を縮小する薬物の報告も数多くある.しかし,臨床においては,それらの化合物の多くが有効性を示めさずに開発が中止されているのも現状である.このことは,これまでの実験的脳梗塞モデルの結果からヒトへの外挿が困難であったことを意味しており,その一因として,実験動物とヒトとの脳高次機能の違いにあると推測される.1999年のStroke誌にヒトへ外挿可能な大動物のモデルを要望するSpecial Reportが掲載され,現在では,臨床試験を実施する前に大動物を用いた評価試験のデータを要求される傾向にある.我々は1997年から,ヒトの脳卒中病態に近いモデルを作製する目的で,血管走行や行動においてヒトに近い動物としてサルを選択した.自家血血餅を内頸動脈から注入することにより中大脳動脈(MCA)を閉塞する,非侵襲的で比較的再現性の良い脳塞栓症モデルを確立した.本モデルの最大の特徴は神経脱落症状にあるが,その神経脱落症状として,血餅注入直後から意識レベルの低下,血餅注入側の対側での麻痺および筋緊張の低下が観察され,座位あるいは横臥位の状態がみられる.血餅注入24時間後の脳梗塞巣は,MCA灌流域を中心として皮質および線条体に形成され,神経脱落症状スコアと脳梗塞巣サイズに相関がみられる.
  • 品川 理佳, 下田 泰治, 鏡石 佳史, 鎌中 喜久
    2006 年 127 巻 6 号 p. 485-488
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/01
    ジャーナル フリー
    アストロサイトは神経細胞の支持細胞として細胞外イオンおよび神経伝達物質の恒常性維持や神経栄養因子の供給などの機能を有し,脳機能を制御する重要な役割を担っている.脳虚血などで,アストロサイトの異常活性化に伴って産生,分泌が亢進するS100Bは,高濃度では神経細胞やミクログリアさらにはアストロサイト自身にも作用して,炎症性因子の発現を増加させ,病態悪化に関与している.Arundic acidはアストロサイトに取り込まれて,S100B産生を抑制し,神経傷害性に働くグルタミン酸,フリーラジカル,炎症性酵素などの産生を抑制して神経細胞保護作用を示すことがin vitro実験で明らかとなった.また脳梗塞動物モデルを用いた検討でも,アストロサイトの活性化を抑制して,脳梗塞巣の拡大を抑制し,神経症状を改善する効果が認められた.以上よりArundic acidはアストロサイトの異常活性化を抑制することによって脳保護作用を発揮する世界初の薬剤であり,急性期脳梗塞治療薬としての有用性が期待される.
  • ―現状と今後の展望
    島 克司
    2006 年 127 巻 6 号 p. 489-493
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/01
    ジャーナル フリー
    わが国における脳卒中診療の最近の動向として,脳卒中治療のガイドライン2004と脳卒中データバンク2005の発表がある.また,治療薬としては,急性期脳梗塞に対して推奨レベルAの血栓溶解薬rt-PA(アルテプラーゼ)の静注療法が,昨年末に承認され使用可能となった.脳梗塞急性期の治療薬に関して,ようやく,脳梗塞急性期のわが国における実態から,治療のガイドライン,ガイドラインで勧められる治療薬とその使用と治療成績の実情などを,現場の臨床医のすべてが共有できるようになった.本稿では,脳梗塞急性期の治療薬に関して,ガイドラインで推奨レベルの高い治療薬である,降圧薬,血栓溶解療法のrt-PAと抗血小板療法のアスピリンを中心に,脳梗塞の治療薬の現状の問題点を概説し,今後望まれる脳梗塞治療薬に関しても言及した.
新薬紹介総説
  • 福住 仁, 池田 孝則, 成田 裕久, 田窪 孝年, 松田 卓磨, 谷口 忠明
    2006 年 127 巻 6 号 p. 495-502
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/08/01
    ジャーナル フリー
    フィナステリドは5α-還元酵素II型(5αR2)の阻害薬で,頭皮や前立腺などの標的組織において,テストステロン(T)から,ジヒドロテストステロン(DHT)への変換を選択的に阻害する.フィナステリドの5αR2阻害作用の選択性は高く,ヒト由来5α-還元酵素I型(5αR1)とヒト由来5αR2で比較した場合,約120~600倍であった.DHTは男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia:AGA)の主な原因として知られており,したがって,DHTの生成を阻害することでAGAを改善できると考えられた.また,フィナステリドはアンドロゲン,エストロゲン,プロゲステロン,グルココルチコイドおよびミネラルコルチコイド受容体に対するin vitroにおける親和性を示さず,また,in vivoにおける直接的なエストロゲン様作用,抗エストロゲン作用,ゴナドトロピン分泌抑制作用,アンドロゲン様作用,プロゲスチン様作用および抗プロゲスチン作用を示さなかった.AGAモデル動物であるベニガオザルにフィナステリド(1 mg/kg/day)を6ヵ月間経口投与したところ,毛髪重量と毛包の長さは増加し,ヘアサイクルにおける成長期の毛包が増加した.AGAの男性を対象とした48週間の本邦臨床試験で,投与前後の写真評価および患者自己評価により有効性を評価した結果,フィナステリド1日1回0.2 mgおよび1 mg群の有効性はプラセボ群に比べて有意に優れ,忍容性は良好であった.外国臨床試験において,頭頂部の脱毛症に対する5年間にわたるフィナステリド1 mg投与はおおむね良好な忍容性を示し,頭髪を改善した.また,フィナステリド1 mgは前頭部の脱毛症においても頭髪を改善し,別の外国臨床試験では,ヘアサイクルを改善した.フィナステリド(0.2 mgおよび1 mg)は5αR2の選択的阻害という作用機序に基づいて明らかな有効性を示し,長期投与時の安全性も高いことから,男性における男性型脱毛症用薬として有用な薬剤になると考えられる.
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