日本薬理学雑誌
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118 巻, 4 号
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総説
  • 菅谷 公伸
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 4 号 p. 251-257
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    老化やアルツハイマー病では前脳基低部のコリン作動性神経の脱落が特徴的に見られる反面, 脳幹上部に存在するコリン作動性神経はこれらの過程に対して抵抗性が高い. 我々はこの2つのコリン作動性神経の間でbrain type nitric oxide synthaseの発現量に違いがある事に注目し, これらの神経でのnitric oxideに対する防御機構の違いが老化やアルツハイマー病に対する抵抗性の違いとなるとの仮説を立てた. この仮説に当たり疑問となるのは老化の過程におけるNOの源が何に由来するかという事である. そこで我々は活性化したグリアがNOを生産する事実に着眼し, 老化の過程における記憶障害とグリアの活性化と過酸化ストレスマーカーの遺伝子発現との関連を老化ラットモデルで検討したところ, 正の相関関係が見られた. この事は記憶の低下している動物ではグリアの活性化に伴う過酸化ストレスが起きている事を示唆する. また, この動物での過酸化ストレスのターゲットを解析したところ, ミトコンドリアのDNAが記憶障害を伴う群で, 有意に過酸化による障害を受けている事が判明した. 然し乍らその他の分子, タンパク質, 脂質, 核のDNAなどへの過酸化による障害の蓄積は観察されなかった. 従って, 老化やアルツハイマー病に伴う記憶障害ではグリアの活性化からの過酸化ストレスによるミトコンドリアのDNA障害が過酸化ストレスに対する防御の弱い細胞で起きており, このミトコンドリアのDNA障害が原因で生ずるミトコンドリアの機能障害が新たな過酸化障害を起こすと思われる. これら過酸化よる神経細胞への障害が更なるグリアの活性を誘導する事で過剰免疫様の反応に進展し, プログレッシブな脳機能障害を生ずると考えられる.
テーシス
  • 毛戸 祥博, 江畑 未紗子, 岡部 進
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 4 号 p. 259-268
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    H. pyloriは, 胃炎, 胃·十二指腸潰瘍の発生や再燃·再発の主要因子として認識されている. さらに胃癌発生の危険因子としても認識されつつある. 本研究ではH. pylori感染動物モデルとして有用な砂ネズミにおいて, 1)H. pylori誘起胃潰瘍の治癒と再発に対する抗潰瘍薬や抗生物質および併用の効果, 2)酢酸潰瘍の治癒と再発に対するH. pylori感染, インドメタシン(IM)投与および併用効果, 3)H. pylori感染による胃癌発生の確認, 除菌による胃癌発生の予防効果について検討し, 以下の結果を得た. 1)薬物投与によりH. pyloriは誘起胃潰瘍は一旦治癒するが, 抗潰瘍薬のみの投与では休薬後, 数例に潰瘍の再発を確認した. この事からH. pyloriは胃潰瘍の再発因子であることが実験的に証明された. 2)潰瘍の治癒は, IM投与のみでは遅延傾向であった. H. pylori感染およびH. pylori感染下IMを投与した場合, 有意な治癒遅延が観察された. さらに後者でより遅延していた. 従って, H. pyloriは非ステロイド性抗炎症薬による胃傷害を増悪させる因子となることが明らかとなった. また一旦治癒した酢酸潰瘍がH. pylori感染1カ月後から, 全例の動物で再発するという新しい知見を得た. 再発潰瘍は酢酸潰瘍治癒部とほぼ同部位に発生すること, 胃酸分泌を十分に抑制した場合, 潰瘍の再発が全く認められないことも判明した. 従って, 潰瘍の再発には治癒部の再生粘膜が脆弱化していることや胃酸が深く関与していることが明らかとなった. 3)H. pylori接種から18カ月後において, 粘膜にびらん, 潰瘍および過形成変化が観察された. 組織学的に萎縮性胃炎, 腸上皮化生, カルチノイドおよびアデノカルシノーマが認められた. 一方, 除菌群ではこの様な変化はほとんど観察されなかったが, 病変が進行した場合の除菌では腸上皮化生および粘膜の萎縮変化の残存が確認された. 従って, H. pyloriの除菌により胃癌の発生を予防することが可能であり, またより早期の除菌が適切であることが示唆された.
実験技術
  • ゲノム創薬への一つの試み
    小浜 一弘, 中村 彰男
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 4 号 p. 269-276
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)はCa2+とカルモジュリン存在下で, 血管平滑筋ミオシン軽鎖をリン酸化し, そのATPaseを活性化する酵素として精製された. キナーゼ活性の他に, アクチン結合性やミオシン結合性が知られているように, MLCKは多機能性である. これらのキナーゼ活性以外の性質も, アクチン-ミオシンの相互作用を修飾し得ることが著者らの手により解明されて来た. MLCKの種々の機能の生理活性を検討する第一歩として, 血管平滑筋細胞内でMLCKのダウンレギュレーション(発現の阻害)を行った. 母体には血管平滑筋由来のSM3株細胞を用い, 発現プラスミドベクターによりMLCKのcDNAの一部をアンチセンス方向でSM3細胞に導入し, MLCK·mRNAのアンチセンス·RNAを細胞内で発現させた. 薬剤耐性を目安にスクリーニングをし, これによりMLCK·欠損株をstable transformantsとして得ることができた. 本稿ではこの方法につき解説を加えた. このMLCK欠損株は, 血小板由来成長因子(PDGF)に対する遊走能が低下していた. 増殖性血管病変では血管平滑筋の形質転換が起こり, 平滑筋が増殖しサイトカインに対して遊走するが, 上記の実験結果を応用し創薬に結びつけるアイデア, 特に(i)増殖指向性のあるレトロウイルスをベクターとして利用すること, および(ii)合成アンチセンスオリゴヌクレオチドの設計·化学修飾に関して言及した.
  • 池本 光志, 瀧田 正寿
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 4 号 p. 277-282
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    ゲノムサイエンス時代の到来とともに, 未知のタンパク質の機能を解明することは急務であり, 今後その重要性は益々増すことは間違いない. 脳内微量注入実験法は, 未知のタンパク質の生体内における機能を解析する上で威力を発揮する点において, 今後より一層注目される実験手法になると思われる. 本稿では, マウス脳内微量注入実験法に関するプロトコールを詳細に紹介するとともに, 薬理学研究への応用例として, Secreted Protein Acidic and Rich in Cysteine (SPARC)タンパク質を扁桃体外側基底核へ脳内微量注入したマウスでは, モルヒネ単回投与にも関わらずモルヒネ移所運動活性に対する逆耐性現象と同様の現象が誘導されることを明らかにした解析事例を取り上げ, 本実験手法の有用性について考察する.
  • 谷口 隆信
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 4 号 p. 283-288
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    マイクロフィジオメーターを用いα1aアドレナリン受容体を発現したCHO細胞において細胞からの酸排出反応を検討した. ノルアドレナリン刺激による細胞外酸性化は二相性の反応で, 細胞外酸性化速度(extracellular acidification rate, EAR)が刺激前の数倍に達し10秒後にピークのあるtransient phaseと, その後ゆっくりと上昇して2分後に刺激前の2倍程度のプラトーに達するsteady phaseが認められた. 何れの相もノルアドレナリンの用量に依存した反応であったがpEC50は前者で5.6, 後者で7.2と明らかに異なっていた. Na+-H+ exchanger 1 (NHE1)に特異的な阻害薬であるHOE642によって, 何れの相も用量依存的にほぼ完全に抑制されNHEを介してH+の排出が行われていると考えられた. transient phaseにおけるHOE642のpIC50は7.3で, steady phaseにおいては2つのコンポーネントが認められ, pIC50は高親和性の部分が8.2, 低親和性の部分が6.0であった. 細胞内Ca2+との関係について検討したところ, 細胞内Ca2+が枯渇するにつれてtransient phaseは減弱したがsteady phaseにはほとんど変化が認められなかった. これらの結果からtransient phaseはHOE642に高親和性でCa2+/calmodulinによって活性調節を受けるNHE1によって, steady phaseはNHE1と少なくとももう一つ別のHOE642低親和性のNHEによって担われている反応だと考えられた. マイクロフィジオメーターは細胞の活性化を細胞外液の酸性化としてとらえる系として開発され, 多くの受容体において細胞内の情報伝達経路の違いによらず普遍的に解析ができる系として活用されている. 今回私達の手法を用い生理的な条件下で酸排出反応そのものを定量的かつリアルタイムに解析することが可能となった.
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