thiamine(T)欠乏のより末期の状態である,痙攣時のラット座骨神経における形態変化を検索した.T deficient diet (TDD)飼育時に,pyrithiamine (PT: 50μg/100g)を11日間連続投与して生じる痙攣発現時の組織変化を,主に微細構造の面から検討し,PTによる座骨神経障害機序を考察した.1)一般症状観察では,TDD飼育下PT投与<PTD
11>群において,投薬開始6日目より体重減少,10日目に異常姿勢,11日目に歩行困難や体温低下,12日目には半数例に顕著な痙攣がみられた.しかし普通食飼育のPT
11群は,対照群と全く変わらなかった.2)光顕的観察では,PT
11群に散在的なmyelinated axon (MAx)の縮小がみられたが,PTD
11群では,個体によりMAxが縮小或いは腫張する傾向を示し,特に痙攣発現ラットの場合,座骨神経中央部にmyelin foldの群落がみられた.3)微細構造は,PT
11群とPTD
11群において,一般症状が明らかに異なるにもかかわらず,障害程度にあまり差がみられなかったが,痙攣発現ラットでは,myelin sheathの異常が著明に認められた.その他の変性像として,(1)Schwann cell(Sc)の腫張,またはそのrough-surfaced endoplasmic reticulum(rER)拡大による空腔発現,(2)unMAxの縮小化や空胞化,organelle変性,(3)MAx内空胞変性,myelin like structureの出現,neurotubleの集積,(4)axon縮小に伴なうperiaxonal spaceへのScやmyelin fragmentの侵入,(5)myelin ovoidやmyelin foldの著明な増加,(6)macrophageの活発化等があった.以上から,PT投与によるT欠乏の座骨神経において,ScはT欠乏時に易損性である事,unMAxの病変はMAxに先行する事,myelin sheathの変性はaxonの変性に次ぐ二次的変化である事が結論づけられた.PTの血液,脳関門通過性やT欠乏末期の痙攣等から考察すると,PTによる座骨神経障害は,中枢原発性であり,PTの神経に及ぼす影響は,より中枢性のものであると推察される.
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