日本薬理学雑誌
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138 巻, 1 号
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特別講演総説
  • 間野 博行
    2011 年 138 巻 1 号 p. 3-7
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/11
    ジャーナル フリー
    我々は独自の機能スクリーニング手法を開発し,それを用いて肺腺がん臨床検体から新しい融合型がん遺伝子EML4-ALK を発見した.本来ALK は受容体型チロシンキナーゼをコードするが,染色体転座inv(2)(p21p23)が生じた結果EML4 遺伝子とALK 遺伝子が融合し,EML4タンパク質のアミノ末端側約半分がALKのキナーゼドメインと融合したタンパク質が産生されるのである.EML4-ALKはEML4内のcoiled-coilドメインを介して恒常的に二量体化され活性化されて発がんを誘導することが明らかになった.実際EML4-ALK を肺胞上皮特異的に発現するトランスジェニックマウスを作成すると同マウスは生後すぐに両肺に多数の肺腺がんを発症し,しかもこれらマウスにALK活性の特異的阻害薬を投与すると肺腺がんは速やかに消失した.すなわちEML4-ALKこそが同キナーゼ陽性肺がんの主たる発がん原因であり,だからこそその酵素活性を阻害する薬剤はEML4-ALK陽性肺がんの全く新しい分子標的治療薬となる事が生体において証明されたのである.我々のEML4-ALK の論文公開は2007年であったが,翌年にはALK特異的阻害薬による初めての臨床試験が開始され,2010年にはその驚くべき治療効果が公表された.現在すでに世界中で計5種類のALK阻害薬による臨床試験が行われており,その数は増加の一途をたどっている.肺がんという極めて予後不良ながん腫に対して,この様な特効薬とも言うべき治療薬が開発されつつあることは臨床上極めて意義のあることであり,大規模な第III相試験を必要としない形で薬剤として認可され臨床に供されることが望ましい.そしてその時に最も重要なことは,正確かつ高感度にEML4-ALK陽性肺がんを診断することであろう.
総説
  • 坪井 一人, 上田 夏生
    2011 年 138 巻 1 号 p. 8-12
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/11
    ジャーナル フリー
    N -アシルエタノールアミンは長鎖脂肪酸のエタノールアミドであり,動物組織に存在して脂質メディエーターとして機能する一群の脂質分子である.そのうちN -アラキドノイルエタノールアミン(慣用名アナンダミド)はカンナビノイドレセプターのアゴニストとして働き,カンナビノイド様生物作用を発揮する.またN -パルミトイルエタノールアミンとN -オレオイルエタノールアミンは,それぞれ抗炎症・鎮痛作用,食欲抑制作用を持つ.これらの化合物はグリセロリン脂質を出発材料として生合成された後,脂肪酸とエタノールアミンに加水分解されることで生物活性を失う.分解酵素については膜に存在する脂肪酸アミド加水分解酵素(fatty acid amide hydrolase: FAAH)が古くから知られているが,著者らが見出したリソソーム酵素であるN -アシルエタノールアミン水解酸性アミダーゼ(N -acylethanolamine-hydrolyzing acid amidase: NAAA)も同じ反応を触媒する.本稿では,N -アシルエタノールアミンの生理機能を概説した後これら2つの加水分解酵素に焦点を当て,さらに新規医薬品への応用が期待されているこれらの阻害薬の開発についても紹介する.
実験技術
  • 大場 雄介, 津田 真寿美
    2011 年 138 巻 1 号 p. 13-17
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/11
    ジャーナル フリー
    下村脩博士によって,Aequorea victoria の発光器官から緑色蛍光タンパク質GFP(green fluorescent protein)が発見され,1992年にそのcDNAが単離されて以来,生細胞イメージングは生物学研究の必須ツールになっている.GFPはcDNAの細胞導入のみで,生理的環境下での目的タンパク質の局在や局在変化を可視化し,種々のカラーバリアントが入手可能な現在では複数のタンパク質の挙動の同時観察も可能である.また,フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET: Förster resonance energy transfer)や蛍光タンパク質再構成法(BiFC: bimolecular fluorescence complementation)等の技術を用いることで,個々のタンパク質の局在や動態のみならずタンパク質の質的変化,つまりタンパク質間相互作用・構造変化等の時間的・空間的な変化の解析も可能である.これらの手法は細胞内シグナル伝達のダイナミクスを解析するために,最も適したツールと言っても過言ではない.本稿では,蛍光イメージングの基礎や応用例の紹介と各実験系が持つ得失を比較し,それぞれの実験系が何を可視化するのに適しているかを議論したい.
創薬シリーズ(5)トランスレーショナルリサーチ(22)(23)
  • 岡 敬之, 吉村 典子
    2011 年 138 巻 1 号 p. 18-21
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/11
    ジャーナル フリー
    変形性関節症(osteoarthritis: 以下OA)は,関節軟骨の変性を主体とし,進行とともに軟骨量が減少していく疾患であるため,診断・重症度判定には関節軟骨を正確に描出し定量化する必要がある.しかし現状でOA評価に汎用されるX線画像は,軟骨と周辺組織にコントラスト差がつかず,関節裂隙狭小化・骨棘など間接的な情報を数段階に分類しているのみであり,診断・重症度判定に難渋する例も多い.本稿ではOA画像診断の現状を打開する画像評価技術最前線について概説する.
  • 川口 浩
    2011 年 138 巻 1 号 p. 22-25
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/11
    ジャーナル フリー
    変形性関節症(osteoarthritis: OA)の分子メカニズムは殆ど解明されておらず,根本的治療法は存在しない.近年,メカニカルストレス負荷モデルによるマウスジェネティクスを用いてその分子背景に迫る研究が多くなされており,成長板軟骨に見られる軟骨内骨化過程が永久軟骨であるはずの関節軟骨において誘導されることがOAの発症に関与していることが示されている.滑膜や靭帯に接して血管の侵入が可能な関節辺縁では軟骨内骨化が起こって骨棘ができるが,関節の内部では血管侵入ができないために骨化することなく軟骨の破壊だけで終わってしまうと推察される.軟骨内骨化シグナル関連分子がOAの根本的治療の標的分子となることが期待される.
新薬紹介総説
  • 古川 雄祐, 平岡 信弥, 和田 妙子, 菊池 次郎, 加納 康彦
    2011 年 138 巻 1 号 p. 26-32
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/11
    ジャーナル フリー
    ベンダムスチン(トレアキシン®)はプリンアナログ様骨格にアルキル基が結合したハイブリッドな抗がん薬である.作用機序はDNAアルキル化が主体と考えられ,代謝拮抗作用については明確な結論は出ていない.がん細胞に作用させた場合に他のアルキル化薬に比べて多彩な作用を示すのが特徴で,(1)架橋形成~DNA鎖切断によるネクローシス誘導,(2)DNA損傷チェックポイント活性化によるp53依存性アポトーシスおよび活性酸素種(ROS)を介するp53非依存性アポトーシスの誘導,(3)分裂期チェックポイントの阻害による分裂期細胞死(mitotic catastrophe)誘導,(4)DNA修復阻害,(5)遺伝子発現調節,(6)早期のS期停止誘導などが報告されている.このような多様な作用機序を有することが,アルキル化薬を含む他の抗がん薬と交差耐性を示さない,単剤で従来の標準併用化学療法を上回る成績を示すなどの優れた特徴を生んでいると考えられる.ベンダムスチンは1963年に旧東ドイツにおいて開発されたが,90年代に入ってから本格的に臨床試験が行われ,低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫(瀘胞性リンパ腫,小細胞リンパ腫),マントル細胞リンパ腫,慢性リンパ性白血病に対する有効性が確立している.現在は再発・難治例が適応となっているが,初発の低悪性度非ホジキンリンパ腫を対象としてリツキシマブ+ベンダムスチンと現在の標準的治療であるリツキシマブ+CHOP(シクロフォスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン,プレドニゾロン)を比較する第III相試験が行われ,無増悪生存期間の中央値において前者が有意に優れていた.さらに現在,中悪性度非ホジキンリンパ腫(びまん性大細胞性リンパ腫,末梢性T細胞リンパ腫),多発性骨髄腫への適応拡大のための臨床試験が行われている.副作用としては血液毒性,リンパ球減少による日和見感染,消化器毒性(食欲不振,悪心,便秘)などがあるが,重篤なものではない.脱毛,末梢神経障害は認めない.ベンダムスチンは今後,さまざまな悪性腫瘍において第一選択の薬剤となる可能性がある.
  • 古屋 良宏, 石井 裕三, 青野 友紀子, 新井 康正, 恩田 史昭, 長谷川 要, 柳田 誠
    2011 年 138 巻 1 号 p. 34-39
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/07/11
    ジャーナル フリー
    ロミプロスチムは,骨髄中の巨核球およびその前駆細胞表面のトロンボポエチン(TPO)受容体に結合して血小板造血を促進する遺伝子組換えタンパク質である.ロミプロスチムのアミノ酸配列は内因性のTPO(eTPO)とは相同性がないにもかかわらず,TPO受容体への結合や細胞内シグナル伝達はTPOと同様であることが確認されている.ロミプロスチムはこの構造的な特徴により,第1世代のTPO受容体作動薬でみられたeTPOの中和活性を有する抗体の産生を生じることなく血小板減少症の治療に貢献することが可能と考えられる.特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病(idiopathicまたはimmune thrombocytopenic purpura: ITP)は血小板に対する自己抗体の発現により主に脾臓において血小板破壊が亢進する一方で,血小板造血が十分に促進されないことで血小板減少を生じる自己免疫疾患である.ITPは通常は無症状のことも多いが,皮下出血斑,鼻出血や口腔内出血等を生じる場合がある.重篤な例では頭蓋内出血を生じ,死に至る場合もある.国内ではピロリ菌の除菌がまず行われ寛解する例も比較的多い.一方で非保菌患者や除菌が無効な患者にはステロイドなどの内科的治療や脾臓摘出術も行われてきたが,効果の持続や副作用の面で課題が多い.そこで長期にわたり安定して血小板数を維持する治療が望まれてきた.国内外の臨床試験において,ロミプロスチムはITP患者の血小板数を目標範囲に維持することが示された.米国では2008年に慢性ITPを適応症に承認され,2010年12月現在,欧米を中心とした28ヵ国で販売されている.我が国でも2011年1月に慢性ITPを適応症に承認された.ロミプロスチムは長期にわたりITP患者の血小板数を維持し,脾臓摘出を回避しうる可能性が示されている.今後,我が国の臨床現場におけるロミプロスチムの有用性が期待される.
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