一酸化窒素(NO)合成酵素(NOSs)系には,神経型(nNOS),誘導型(iNOS),内皮型(eNOS)の3種類の異なったアイソフォームが存在する.従来,生体内におけるNOSs系の役割が,非選択的NOS阻害薬を用いて薬理学的に研究されてきた.しかし,非選択的NOS阻害薬は様々な非特異的作用を有することから,生体内におけるNOSs系の真の役割は未だ十分に解明されていない.この点を検討するために,我々は,全てのNOSsを欠損させたNOSs系完全欠損(triple nNOS/iNOS/eNOS
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-)マウスを開発した.このマウスは幸運にも胎生致死ではなく誕生したが,出生率や生存率は著明に低下していた.興味深いことに,死亡したtriple NOSs
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-マウスの約半数に,急性心筋梗塞が認められた.この成因には,血管機能不全,冠スパスム,メタボリックシンドローム,およびレニン-アンジオテンシン系の活性化の機序が関与していた.また,高齢のtriple NOSs
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-マウスには,拡張期心不全の病態も認められた.Triple NOSs
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-マウスに高コレステロール食を負荷すると,著明な高脂血症が誘発され,粥状硬化と心臓突然死が引き起こされた.骨髄置換実験では,骨髄由来血管平滑筋前駆細胞に発現するNOSs系が血管病変形成に抑制的に作用することが示された.以上より,NOSs系が,急性心筋梗塞,メタボシンドローム,拡張期心不全,高脂血症を含めた様々な心血管病の成因に中心的な役割を果たしていることが示唆された.さらに,骨髄のNOSs系が動脈硬化の成因に役割を果たしていることも示唆された.
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