日本薬理学雑誌
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143 巻, 5 号
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特集 心脈管作動物質研究の最前線
  • 矢田 豊隆
    2014 年 143 巻 5 号 p. 222-225
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/10
    ジャーナル フリー
    冠微小循環は,心筋収縮を繰り返す心筋内を走行するために,心筋収縮に伴うメカニカルストレスによって,他臓器の循環に比べ収縮期の血管抵抗が高くなっている.このような不利な条件下においても,心筋細胞近傍の毛細血管まで血流を保ち,冠灌流圧や心筋酸素需要の変化に応じて血流を増減させる冠自動調節機能や代謝性血流調節機構を有している.本稿では,1.心内膜側と心外膜側冠微小循環の特徴,2.冠微小循環と内皮由来弛緩因子(endotherium-derived releasing factor:EDRF),3.心筋虚血時冠微小循環における内皮由来過分極因子(endothelium-derived hyperpolarising factor:EDHF)としての過酸化水素(H2O2)の役割,4.心筋虚血時冠微小側副血行路におけるEDHFとしてのH2O2の役割,5.糖尿病を伴うペーシング負荷による代謝性冠微小血管拡張時のEDHFとしてのH2O2の役割,について概説する.
  • 筒井 正人, 下川 宏明, 尾辻 豊, 柳原 延章
    2014 年 143 巻 5 号 p. 226-231
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/10
    ジャーナル フリー
    一酸化窒素(NO)合成酵素(NOSs)系には,神経型(nNOS),誘導型(iNOS),内皮型(eNOS)の3種類の異なったアイソフォームが存在する.従来,生体内におけるNOSs系の役割が,非選択的NOS阻害薬を用いて薬理学的に研究されてきた.しかし,非選択的NOS阻害薬は様々な非特異的作用を有することから,生体内におけるNOSs系の真の役割は未だ十分に解明されていない.この点を検討するために,我々は,全てのNOSsを欠損させたNOSs系完全欠損(triple nNOS/iNOS/eNOS/)マウスを開発した.このマウスは幸運にも胎生致死ではなく誕生したが,出生率や生存率は著明に低下していた.興味深いことに,死亡したtriple NOSs/マウスの約半数に,急性心筋梗塞が認められた.この成因には,血管機能不全,冠スパスム,メタボリックシンドローム,およびレニン-アンジオテンシン系の活性化の機序が関与していた.また,高齢のtriple NOSs/マウスには,拡張期心不全の病態も認められた.Triple NOSs/マウスに高コレステロール食を負荷すると,著明な高脂血症が誘発され,粥状硬化と心臓突然死が引き起こされた.骨髄置換実験では,骨髄由来血管平滑筋前駆細胞に発現するNOSs系が血管病変形成に抑制的に作用することが示された.以上より,NOSs系が,急性心筋梗塞,メタボシンドローム,拡張期心不全,高脂血症を含めた様々な心血管病の成因に中心的な役割を果たしていることが示唆された.さらに,骨髄のNOSs系が動脈硬化の成因に役割を果たしていることも示唆された.
  • 新藤 隆行, 桜井 敬之, 神吉 昭子, 新藤 優佳, 河手 久香, 小山 晃英
    2014 年 143 巻 5 号 p. 232-235
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/10
    ジャーナル フリー
    アドレノメデュリン(AM)は,血管をはじめ全身で広範に産生される血管拡張因子として発見されたペプチドである.我々は,AMノックアウトマウス(AM-/-)が血管の発生異常により胎性中期に致死となることから,AMが単なる循環調節因子にとどまらず,血管の発生そのものに必須の因子であることを報告してきた.AMの受容体はGタンパク質共役型受容体CLRであるが,CLRには,受容体活性調節タンパク質,RAMPサブアイソフォームのうち,いずれか1つが結合する.我々は,AM-/-が胎生致死となる発生段階の血管の内皮細胞において,RAMPの中でも,特にRAMP2の発現が亢進していることに着目した.実際にRAMP2ノックアウトマウス(RAMP2-/-)を作成すると,AM-/-で見られる血管の発生異常が再現されることから,血管の発生におけるAMの機能は,主としてRAMP2によって制御されていることが明らかとなった.次に我々は,血管のAM-RAMP2系の病態生理学的意義を解明するために,血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス(E-RAMP2-/-)マウスを作成した.E-RAMP2-/-のほとんどは周産期に致死であったが,少数の成体が得られた.成体のE-RAMP2-/-では,血管壁の形態異常に加え,主要臓器の血管周囲の著明な炎症細胞浸潤を認めた.さらに加齢に伴い,酸化ストレスの亢進と臓器内線維化の進展を認め,肝硬変,水腎症のような臓器障害の自然発症が認められた.次に成体になってからRAMP2欠損誘導を可能とする,誘導型血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス(DI-E-RAMP2-/-)を用いた解析を行った.このマウスでは,RAMP2遺伝子欠損誘導後,血管透過性亢進に伴う全身性浮腫の発症が認められた.さらにDI-E-RAMP2-/-では,虚血時の血管新生が障害されていたが,血管特異的にRAMP2遺伝子を導入することで,血管新生の改善が確認された.以上から,AM-RAMP2系は,発生における血管新生だけでなく,成体の血管や臓器恒常性維持にも重要な生体内システムであることが明らかとなった.RAMP2は新たな治療標的分子として期待される.
総説
  • 玉野井冬彦
    2014 年 143 巻 5 号 p. 236-242
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/10
    ジャーナル フリー
    がんの基礎研究の発展により分子標的治療薬という新規の抗がん薬が開発されてきている.こうした抗がん薬はがん細胞で変化している分子標的をターゲットにしているので副作用が少ないという重要な利点がある.最近では変異B-RafをターゲットにしたVemurafenibというメラノーマに対する分子標的薬が臨床検査で活期的な効果を示している.しかしながら抗がん薬に耐性のメラノーマの出現が見られるという問題点が明らかになってきている.耐性のメカニズムはいくつかわかってきているが,その一つとして注目を浴びているのがRASの活性化である.RASが活性化されるとB-RAFでなくC-RAFを活性化するバイパスの機構が働く.それではRASを阻害することができるであろうか.今までいくつかのアプローチがとられ,最近新しいRAS阻害薬がいくつか報告されている.私たちはRASの細胞膜付加を阻害するアプローチを取っている.UCLAでGGTIという化合物をスクリーニングで同定し,現在FTIとコンビネーションでK-Ras,N-Rasの活性化を抑える方法を検討中である.また分子標的治療薬をさらに効果的にする方法として,ナノ粒子を用いてがんにターゲットすることが考えられる.これは最近のナノメディシンの分野の発展により可能になってきている.今後は抗がん薬の創薬とナノメディシンの分野は相互に影響しあうことにより,次世代のがん治療が展開してくると考えられる.
  • 小森 久和, 玉井 郁巳
    2014 年 143 巻 5 号 p. 243-248
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/10
    ジャーナル フリー
    患者に複数の医薬品を併用することは頻繁に見られる.しかし,医薬品開発段階においては対象医薬品を単独投与したときのみの安全性が評価されている.したがって臨床上では,医薬品併用時に生じる薬物間相互作用(drug-drug interaction:DDI)による副作用が問題になることは当然懸念される.併用医薬品の組み合わせは多様であることから組み合わせ毎のDDIの試験は不可能であり,過去に観測されたDDIメカニズムを明確にし,そのメカニズムの応用による予測によって副作用を回避しなければならない.薬物トランスポーター(輸送体)は医薬品の吸収,組織移行,および排泄を左右するため,輸送体上でのDDIは医薬品の有効性・安全性に影響する.そのため現在,輸送体上でのDDIについて医薬品の開発段階におけるガイドラインが出され,DDIによる副作用の回避に向けた対応が進んでいる.ガイドライン上で対象となる薬物輸送体はOATPs,OATs,OCTs,P-糖タンパク質,およびBCRPであるが,これらは多様な医薬品の体内動態に関わるため重要視されている.さらに,MATEs,MRPs,BSEPなども重篤な副作用の原因となる可能性が懸念されている.DDIのメカニズム解明に基づくin vitroでのDDI評価試験からin vivoでの重要性評価を定量的に予測する手法も提案されつつある.
実験技術
  • 立山 充博, 久保 義弘
    2014 年 143 巻 5 号 p. 249-253
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/10
    ジャーナル フリー
    Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は細胞間情報伝達における主要なシグナリング分子である.GPCRの三次元構造の詳細はこれまで不明であったが,近年,X線結晶構造解析により複数の機能的状態に対応するβアドレナリン受容体の構造が解かれた.一方,GPCRが各構造を遷移する過程,すなわち活性化や脱活性化は,蛍光タンパク質を付加した受容体の蛍光共鳴エネルギー移動(Förster/fluorescence resonance energy transfer:FRET)の効率を計測することにより捉えることが可能となっている.例えば,family A GPCRでは,細胞内第3ループとC末端に蛍光物質を付加したFRETコンストラクトがアゴニスト投与によりFRET効率の減少を示すことが多くの受容体で報告されている.また,GPCRの多くは多量体化することが知られているが,アゴニスト結合がGPCRの多量体形成に与える影響についても,分子間距離の変化を高感度に検出できるFRET計測により解析可能である.さらに,我々は,Gタンパク質活性化機能を有するFRETコンストラクトを用いてGタンパク質によるGPCR活性化構造の安定化作用を示し,また,蛍光タンパク質を付加する部位を工夫することでfamily C GPCRの活性化様式がfamily A GPCRとは大きく異なることを示した.これらの研究を中心に,FRET効率の計測から受容体の状態を捉えることのメリットやその応用などについて紹介したい.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(14)
  • 赤池 昭紀
    2014 年 143 巻 5 号 p. 254-259
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/10
    ジャーナル フリー
    新規医薬品の創出には,アカデミアやベンチャー企業の研究成果・技術を製薬企業の創薬開発に迅速に取込むための環境整備が喫緊の課題であり,創薬シーズ探索のアウトソーシングの時代がやってきていると言っても過言ではない.さらに,iPS細胞の臨床応用やコンパニオン診断薬・医薬品など,新しいタイプの医薬品および関連製品が大きな広がりをもってきており,医療イノベーションを推進するための産学連携による総合的創薬・医療研究のクラスター構築が望まれる.東海地区のアカデミアと製薬企業の間のパイプライン構築を目的とし,グローバルな展開も目指す組織として東海地区創薬情報コンソーシアムが設置され,大学やベンチャー企業の研究成果と製薬企業のニーズのマッチングを行う環境整備が進められている.この取り組みは未だ始まったばかりであるが,国内外での人的交流と情報交換の2つの柱を軸に活動が進めば,革新的医薬品の創出,グローバルな展開の大きな推進力となることが期待される.
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