日本薬理学雑誌
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138 巻, 2 号
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総説
  • 藤井 拓人, 森井 孫俊, 竹口 紀晃, 酒井 秀紀
    2011 年 138 巻 2 号 p. 51-55
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/10
    ジャーナル フリー
    胃酸分泌細胞の形態は,酸分泌休止状態と刺激状態では大きく異なる.休止状態の細胞において細管小胞は細胞内に存在しているため大部分の胃プロトンポンプ(H+,K+-ATPase)は酸分泌には関わっていない.休止時の分泌(基礎分泌)はアピカル膜に存在するH+,K+-ATPaseが担っているものと考えられる.他方,刺激状態では,細管小胞がアピカル膜につながり,大量の胃酸(HCl)が分泌される.著者らは,K+-Cl 共輸送体のKCC4が胃酸分泌細胞アピカル膜において,H+,K+-ATPaseと分子複合体を形成し,基礎胃酸分泌の機能ユニットとしての役割を果たしていることを見出した.今後,胃のKCC4をターゲットとする薬物の研究が進めば,夜間の空腹時などの酸分泌刺激休止時の胃酸分泌を選択的に抑制することが可能になるかもしれない.また,Cl/H+交換輸送体のCLC-5が,細管小胞膜においてH+,K+-ATPaseと分子複合体を形成し,刺激時の胃酸分泌の機能ユニットとしての役割を果たしていることを見出した.他方,H+,K+-ATPaseがどのような分子メカニズムでプロトンを輸送するのかについて,分子動力学シミュレーションにより解析した.その結果,プロトンは細胞質側からイオン結合部位までは電荷移動で輸送されて水にプロトンを渡し,分泌管腔へはオキソニウムイオンの形で輸送されることが明らかとなった.
創薬シリーズ(5)トランスレーショナルリサーチ(24)(25)(26)
  • 本田 剛一, 鈴木 秀明, 青木 喜和
    2011 年 138 巻 2 号 p. 56-59
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/10
    ジャーナル フリー
    リコモジュリン®は,汎発性血管内血液凝固症(DIC)治療薬として2008年5月に発売された世界初の遺伝子組換え型ヒトトロンボモジュリン製剤である.トロンボモジュリン(TM)は,血管内皮細胞上に存在するトロンビン受容体として生体内で血液凝固反応にネガティブフィードバックをかけ,血液の流動性を保持している重要な生理的抗凝固因子である.リコモジュリン®は,このTMの活性部位(細胞外ドメイン)のみを遺伝子工学的に可溶性TMとして動物細胞にて産生させた遺伝子組換えタンパク質製剤である.1987年世界に先駆けてヒトTM遺伝子クローニングに成功して以来,20年を超える長い年月をかけて医薬品としての製品化に成功した.リコモジュリン®は,大学と企業の共同研究から生み出された産学連携の成功例の1つであり,その開発過程を産(企業)の側から振り返ることで,トランスレーショナルリサーチのあり方について考えてみたい.
  • 清水 孝彦, 白澤 卓二
    2011 年 138 巻 2 号 p. 60-63
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/10
    ジャーナル フリー
    加齢と共に変動し,老化や加齢を予測できる因子を老化バイオマーカーと位置付けている.これまでに,性ホルモンのエストロゲンやテストステロンが知られている.Insulin-like growth factor-1やビタミンDなどの成長因子やビタミンも加齢性の変動を示す.カロリー制限アカゲザルの研究からdehydroepiandrosterone sulfate,インスリン,体温の変化が長期縦断研究の加齢性変化データと一致することが判明し,注目されている.さらに最近では,生活習慣病と強くリンクする成分も加齢性変化を示すことが明らかとなった.高齢社会を迎えた現在において,現在の健康状態や老化状態を客観的に評価する老化バイオマーカーの利用価値は高まっている.
  • 田澤 立之, 中田 光
    2011 年 138 巻 2 号 p. 64-67
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/10
    ジャーナル フリー
    肺胞蛋白症は肺胞内にサーファクタント物質が蓄積して呼吸不全を呈する疾患である.その患者の9割は,顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)に対する自己抗体による肺胞マクロファージの機能障害のため,肺サーファクタント物質の除去能が低下して生ずることが,最近の研究で明らかになった.この分子病態に基づく新規治療としてGM-CSFでの治療研究が進められてきた.GM-CSF吸入治療は標準治療の全肺洗浄に比べて簡便で,外来治療が可能である.本邦での多施設第II相試験で重篤な有害事象なく,60%をこえる奏効率を示し,その効果は治療期間と用量によることが示唆された.GM-CSF製剤は本邦では未承認であり,適切な対照群をおいた第III相試験は,本症が稀少疾患であるため,1国のみでは困難なことが予想される.本治療の開発・普及には,患者組織,研究者,製薬会社,国,そして国際共同研究施設が参加する新しい枠組みが必要と考えられる.
新薬紹介総説
  • 原田 拓真, 越智 靖夫, 越智 宏
    2011 年 138 巻 2 号 p. 68-78
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/10
    ジャーナル フリー
    バゼドキシフェン酢酸塩(BZA,販売名:ビビアント®錠20 mg)は,米国ワイス・エアスト社(現ファイザー社)で開発され,本邦では2010年7月に閉経後骨粗鬆症を適応として承認された新規な選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)である.バゼドキシフェンは,in vitro試験では骨代謝および脂質代謝に対してエストロゲン受容体作動性を示し,中枢神経系,子宮,ヒト乳がん細胞に対してはエストロゲン受容体拮抗作用を示した.また,in vivo試験では,BZAは子宮内膜上皮および子宮筋層の肥大ならびにC3遺伝子発現誘導作用(子宮刺激作用の指標)や乳腺刺激作用といった生殖器系へのエストロゲン様作用を示さないか,ごく弱いことが確認され,かつ,ラロキシフェン(RLX)の子宮に対する影響に拮抗した.その一方で,血中コレステロールの低下あるいは骨減少の抑制等のエストロゲン作動性に基づく作用を示した.閉経後骨粗鬆症モデルである卵巣摘除加齢ラットの1年間経口投与試験(有効用量0.3 mg/kg/日)および卵巣摘除サルの18ヵ月間経口投与試験(有効用量0.5 mg/kg/日)では,卵巣摘除による骨減少を抑制し,正常な骨微細構造を有する骨が形成されたが,生殖器を含む他の臓器には有害な影響はみられなかった.海外第III相臨床試験では,椎体骨折の相対リスク減少率はRLX投与群と同等であった.骨折リスクの高いサブグループにおいては,非椎体骨折の発現頻度が有意に減少した.安全性に関しては,SERM特有の副作用である静脈血栓塞栓症,ほてりおよび下肢痙攣はRLXと差異はなく,これらの副作用を除いては心血管系および脳血管系事象ならびに死亡を含めて全般的な安全性の懸念は認められなかった.これらの成績から,バゼドキシフェンは新規SERMとして骨粗鬆症治療の新たな選択肢として期待されている.
  • 大村 剛史, 高橋 伊久麻, 池上 幸三郎, Jeffrey Encinas
    2011 年 138 巻 2 号 p. 79-88
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/08/10
    ジャーナル フリー
    ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(以下,ダビガトランエテキシラート,プラザキサ®)は「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制」を適応として,2011年1月に,日本で初めての経口直接トロンビン阻害薬として承認された.ダビガトランエテキシラートはダビガトランのプロドラッグであり,生体内でエステラーゼによって活性代謝物であるダビガトランに変換され,強力で選択的な直接トロンビン阻害薬となる.ダビガトランはヒト血漿および他の動物種を用いた内因系,外因系または共通の血液凝固系経路の検査で高い抗凝固活性を示すとともに,フィブリンに結合した固相トロンビンと液相中の遊離トロンビンの両方を同程度に阻害する.さらにダビガトランのin vitroならびにダビガトランエテキシラートのex vivoにおける抗凝固作用ならびに血栓モデルにおける抗血栓作用は,速やかに発現し,用量依存性が認められる.また,ダビガトランの抗血栓作用は,納豆などのビタミンK含有食物の影響を受けないことが動物実験で明らかとなっている.脳卒中危険因子を有する心房細動患者に対する血栓塞栓症の発症予防療法としては,ビタミンK拮抗薬(ワルファリンなど)による抗凝固療法が各種のガイドラインで推奨されているが,ワルファリンは,定期的な血液凝固パラメータのモニタリングによる用量調節が必要であることや,薬物相互作用が多いおよびビタミンKを含む食物の摂取制限が必要であるなどの問題を有している.臨床試験において,ダビガトランは,日本人を含む非弁膜症性心房細動患者を対象とした国際共同第III相試験で,脳卒中および全身性塞栓症の発症における抑制効果においてワルファリン投与に比べ優越性が認められた.また,頭蓋内出血などの重篤な出血のリスクもワルファリンに比べて低いことが確認された.ワルファリンで問題となっている治療方法の改善も期待され,心房細動患者に対する血栓塞栓症の発症予防療法として標準薬あるいは第一選択薬の1つとなりえる薬剤であると考えられる.
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