日本薬理学雑誌
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130 巻, 1 号
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特集:GPCR研究の新しい流れ
  • 中田 裕康
    2007 年 130 巻 1 号 p. 4-8
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/07/13
    ジャーナル フリー
    GPCR型プリン受容体のサブタイプの一種であるA1アデノシン受容体の精製の際,アデノシン受容体とP2受容体の特異性を併せ持つハイブリッド的タンパク質(P3LP)を見出しましたが,これが私のGPCRダイマーの研究に携わるきっかけでした.P3LPの特性を再現すべくアデノシン受容体とP2受容体のヘテロダイマーを培養細胞や組織を用いて発現させて解析したところ,いろいろ面白いことがわかってきたのです.また,その他のプリン受容体でもダイマー,もしくはオリゴマーの形成が観察されました.このようにGPCR型のプリン受容体間のダイマー形成はさまざまな様式で受容体の活性調節をつかさどることが示唆されます.
  • 黒瀬 等
    2007 年 130 巻 1 号 p. 9-13
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/07/13
    ジャーナル フリー
    細胞内の酸化ストレスは,細胞内で生じる活性酸素と言い換えたほうがいいかもしれない.活性酸素は,産生する量と場所により細胞を障害する物質となったり,生理応答を仲介するシグナリング分子となったりする.我々はGタンパク質共役型受容体(GPCR)と共役するGタンパク質が,過剰量の活性酸素で細胞を処理すると活性化されることを報告した.一方,活性酸素がGPCRを刺激しても少量ながら産生され,MAPキナーゼの活性化や細胞応答に必須の役割を果たしていることが明らかになってきた.すなわち,細胞内で生じた活性酸素がターゲット分子は明らかではないもののタンパク質のシステイン残基を修飾し,そのタンパク質の機能を変えることで細胞応答に影響することが示されつつある.GPCRと酸化ストレスについて自分の研究を振り返り,きわめて個人的な内容になるけれどもこれまでにやってきたことや感じたことあるいはこれから目指していることなどを述べたい.
  • 児島 将康
    2007 年 130 巻 1 号 p. 14-18
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/07/13
    ジャーナル フリー
    GHS(growth hormone secretagogue,成長ホルモン分泌促進因子)は内因性リガンドが不明のGタンパク共役型受容体,いわゆるオーファン(リガンドが不明なので“みなしご”とよばれる)受容体に作用し,成長ホルモン分泌などの多様な作用を現します.私たちはこのGHS受容体(GHS-R)の内因性リガンドを胃から精製・構造解明し,英語の“grow”に相当するインド・ヨーロッパ基語“ghre”からグレリン“ghrelin”と名付けました.ヒトおよびラットのグレリンは28個のアミノ酸からなるペプチドで,3番目のセリン残基が脂肪酸のオクタン酸によって修飾されており,しかもこの修飾基が活性発現に必要であるという,これまでに知られていなかった構造をしています.グレリンは強力な成長ホルモン分泌促進活性と摂食亢進作用を示す内分泌・エネルギー代謝に関与するホルモンです.
  • 桜井 武
    2007 年 130 巻 1 号 p. 19-22
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/07/13
    ジャーナル フリー
    オレキシンは,近年同定された神経ペプチドで,オレキシン-Aと-Bの2つのアイソペプチドからなり,これらは共通の前駆体から生成される.オレキシンはOX1受容体とOX2受容体という2種のGタンパク質共役受容体に結合する.オレキシンは摂食中枢に存在し,また,脳室内投与によって摂食量を増加させる作用があること,OX1受容体拮抗薬が摂食量を減少させること,さらにオレキシン欠損動物の摂食量が若干減少することなどから,当初,摂食行動を制御する神経ペプチドとして注目された.その後,睡眠障害「ナルコレプシー」とオレキシンの深い関係が明らかになったため,オレキシンの覚醒・睡眠制御における役割,とくに覚醒状態の安定性を保つ機能が明らかになった.近年ではオレキシン神経の制御機構もあきらかとなってきている.本稿ではオレキシンの生理機能に関しては他の総説を参照いただくこととして,同定にまつわる話を中心に述べる.
  • 森 正明
    2007 年 130 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/07/13
    ジャーナル フリー
    GPCRは生物現象のあらゆる場面で中心的な機能を有し,最も重要な創薬ターゲットの一つである.遺伝子情報の蓄積などによって新たに見いだされたオーファンGPCRは,未知なる生物現象の解明に繋がることが期待され,革新的な医薬創出のための新たなターゲットとしての魅力を有している.新規ペプチドであるニューロペプチドW(NPW)はオーファンGPCRであるGPR7およびGPR8の内在性リガンドとしてブタ視床下部から発見された.また,NPWのパラログペプチドであるニューロペプチドB(NPB)はデータベースサーチによってその前駆体タンパク質が見出され,やはりGPR7およびGPR8の内在性リガンドであることが確認された.NPWおよびNPBは中枢性に摂食やエネルギー代謝を調節するなど興味深い生理作用を示すことが明らかになっている.本稿では,主としてこれらの新規ペプチド発見の経緯について述べる.
  • 横溝 岳彦
    2007 年 130 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/07/13
    ジャーナル フリー
    強力な好中球活性化脂質として知られるロイコトリエンB4(LTB4)の2つの受容体を遺伝子同定した.薬理学的な解析から高親和性受容体とされるBLT1は,遺伝子欠損マウスの表現型解析によって,炎症反応のみならず免疫反応の形成においても重要な役割を果たすことがわかった.現在BLT1受容体拮抗薬は,気管支喘息,慢性関節性リウマチ,動脈硬化を標的として,臨床応用を目指した薬剤の再評価が進んでいる.一方,低親和性LTB4受容体BLT2はBLT1遺伝子のプロモーター近傍に受容体遺伝子が同定されたものの,生体内の役割には不明な点が多く,今後の研究の発展が期待される.
  • 斎藤 祐見子
    2007 年 130 巻 1 号 p. 34-38
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/07/13
    ジャーナル フリー
    Gタンパク質キメラを利用したアッセイ法により,オーファン受容体SLC-1に対する内在性リガンドをラット脳から精製し,メラニン凝集ホルモン(MCH)であることを同定した.MCHは魚類の体色変化を引き起こす一方,哺乳類では視床下部外側野に著しく局在し,摂食行動に深く関与することが知られていた.このように注目される鍵分子でありながらもMCH受容体の正体は謎であった.本受容体の発見により,様々な遺伝子改変動物が作製され,また,選択的アンタゴニスト開発および行動薬理学的解析が大きく進展した.この結果,MCH系は摂食/エネルギー代謝の他に,うつ不安行動にも関与することが強く示唆されている.MCH受容体は創薬創出の有望な標的分子となりつつある.
実験技術
  • 本多 健治, 高野 行夫
    2007 年 130 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/07/13
    ジャーナル フリー
    近年,痛みに関する研究はめざましい進歩をとげているが,臨床では治療困難な痛みが数多く存在し,特に既存の非ステロイド性抗炎症薬が無効であるうえ麻薬性鎮痛薬に抵抗性を示す神経因性疼痛(Neuropathic pain)が問題になっている.そのような背景から,神経因性疼痛モデルの開発とその評価を行う疼痛試験法が研究されてきた.著者らは,ここ数年,神経因性疼痛モデル動物を用いて,その発症機構とそれに有効な鎮痛薬の検索について研究している.そこで本稿では,著者らの実験経験を基に神経因性疼痛と炎症性疼痛の疼痛評価法について解説する.
治療薬シリーズ(16) 抗真菌薬
  • 松本 哲, 波多野 和男, 牧 克之
    2007 年 130 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/07/13
    ジャーナル フリー
    深在性真菌症は,ヒトの組織内に侵入して感染を引き起こし,日和見感染症として重篤化する.治療薬として,ポリエン系,アゾール系,フロロピリミジン系の3系統に加えて,新たにキャンディン系抗真菌薬が上市された.一方,既存品については,フルコナゾール(アゾール系)のプロドラッグ化,ならびにイトラコナゾール(アゾール系)やアムホテリシンB(ポリエン系)の製剤改良が成功している.しなしながら,治療の満足度は低く,難治性真菌症に有効な新規機序の化合物の開発が望まれている.新規機序として,タンパク合成阻害薬のイコファンギペンやソルダリンが注目される.さらに,抗真菌薬のゲノム創薬の現状や臨床病態を反映したカンジダとアスペルギルス感染動物モデルについても概説する.
  • 吉田 耕一郎, 小司 久志, 二木 芳人
    2007 年 130 巻 1 号 p. 52-56
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/07/13
    ジャーナル フリー
    21世紀に入り,相次いで新規抗真菌薬が国内の臨床現場に導入されてきた.現時点で私たちが手にしている新規抗真菌薬はミカファンギン注,ボリコナゾール注および錠剤,リポソーマルアムホテリシンB注,イトラコナゾール注,内用液の6種類である.いずれもカンジダやアスペルギルスに対する活性は高く一定の臨床効果を期待できるが,十分に満足できる成績ではない.それぞれ作用機序や体内動態,副作用などに特徴を有しているので,宿主の状態や病型に応じて,PK/PDの概念に基づいた適切な使い分けが求められている.
創薬シリーズ(3) その1 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験
  • 羽倉 昌志
    2007 年 130 巻 1 号 p. 57-61
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/07/13
    ジャーナル フリー
    遺伝毒性試験は,化学物質が細胞DNAの構造・機能に影響を与え,その結果,DNA損傷やDNA修復,突然変異や染色体異常を引き起こす性質(遺伝毒性)を有するか否かを調べる.医薬品開発に必要な遺伝毒性試験は3試験を基本とし,in vitro試験の細菌を用いる復帰突然変異試験と哺乳類細胞を用いる染色体異常試験あるいはマウスリンフォーマ試験の2試験,in vivo試験のげっ歯類を用いる染色体異常試験あるいは小核試験の1試験となっている.この中で2種類のin vitro試験は臨床第1相試験開始前までに,これら全ての試験は臨床第2相試験開始前までに評価終了する必要がある.医薬品候補化合物は,DNAに作用する制癌剤を除き,これら全ての遺伝毒性試験で陰性であることが基本であり,1試験でも陽性結果が得られた場合は,適切な遺伝毒性試験を追加実施し,遺伝毒性のリスクを評価する必要がある.
  • 三分一所 厚司
    2007 年 130 巻 1 号 p. 62-66
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/07/13
    ジャーナル フリー
    生殖発生毒性試験の目的は,医薬品の生体への適用が生殖に対する何らかの影響を明らかにしてヒトにおける生殖への安全性の評価に利用される.試験を実施するには,生殖発生毒性試験法ガイドラインに従って実施する必要があり,多くの医薬品については,(1)交配前(雌雄)から交尾,着床に至るまでの薬物の投与起因する毒性および障害を検討する,受胎能および着床までの初期胚発生に関する試験(I試験),(2)着床から離乳までの間薬物を投与し,妊娠/授乳期の雌動物,出生児の発生に及ぼす悪影響を検出する,出生前および出生後の発生ならびに母体機能に関する試験(II試験),(3)着床から硬口蓋の閉鎖までの期間中雌動物に薬物を投与し,妊娠動物および胚・胎児の発生に及ぼす悪影響を検出する,胚・胎児発生に関する試験(III試験)の3試験が用いられている.これらの試験は薬物の開発の過程に合わせて実施することになる.
新薬紹介総説
  • 大谷 尚也, 井上 晃一, 塩田 哲弘, 鈴木 康正, 野村 俊治, 原田 寧, 石橋 弘子, 安部 茂, 内田 勝久, 山口 英世, 鳥居 ...
    2007 年 130 巻 1 号 p. 69-76
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/07/13
    ジャーナル フリー
    イトラコナゾール(ITCZ)は病原真菌に対して広範囲かつ強力な抗真菌活性を示すトリアゾール系の抗真菌薬であり,本邦では既にカプセル剤(ITCZ-Cap)が種々の表在性真菌症,深在性真菌症を適応症として承認され,広く使用されている.脂溶性が高いITCZは水への溶解性が不良なことから,その吸収には大きな個体差が認められる.この問題点を改善するため,溶解補助剤であるヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HP-β-CD)を添加してITCZを可溶化することによりその吸収性を改善/安定化させた新規製剤が開発された.これがITCZ内用液(ITCZ-OS)であり,口腔咽頭カンジダ症および食道カンジダ症の治療薬として承認された.Postantifungal effect(PAFE)に関するin vitro試験では,ITCZを培養液から除去した後も比較的長時間にわたって抗真菌作用が持続し(良好なPAFE),しかもこの効果に薬剤曝露時間は影響しなかった.またin vivo試験で,ITCZ-OSはカンジダ症マウスモデルにおいて0.8 mg/kg/日以上の投与で用量に依存した改善効果を示した.このITCZ-OSの抗真菌効果は,胃内投与よりも口腔内投与のほうが優れていた.以上の結果から,ITCZ-OSの優れた治療効果は腸管から吸収された後の全身循環を介した患部組織への到達によって発揮する抗真菌効果に,患部への直接接触による局所的抗真菌効果が加わったためであることが示唆された.ヒトにITCZ-OSを投与する場合,空腹時投与のほうが食直後投与よりもITCZおよび主要活性代謝物のヒドロキシイトラコナゾール(OH-ITCZ)ともにCmaxおよびAUC0-∞は上昇し,tmaxは短縮した.こうしたITCZ-OSの薬物動態はオメプラゾールの併用投与による影響を受けなかった.HIV患者にITCZ-OSを経口投与すると,投与8時間後においても唾液中にITCZが検出された.口腔咽頭カンジダ症患者に対する臨床試験において,ITCZ-OSはITCZ-Capを上回る治癒効果または著明な改善効果を発揮し,投与早期から病変部の真菌を減少または消失させた.また,ITCZ-OSは口腔咽頭カンジダ症および食道カンジダ症に対して,フルコナゾール(FLCZ)と同等の治療効果を示した.
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