日本薬理学雑誌
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77 巻, 3 号
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  • 平井 正直, 増渕 美子, 小森山 憲次
    1981 年 77 巻 3 号 p. 231-244
    発行日: 1981年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    妊娠中,胎盤は大量の progesterone,estrone,estradiol,estriol,estetrol 等を生合成する.これらのsteroid hormones は母体と胎児の各流血中に分泌され妊娠の経過中母体の生殖系に作用し,一方,胎児体内に於いて代謝され,時に結合型となりその発育あるいは代謝に作用するが,それらの詳細な機序と系路については不明の点も多い.妊娠時における母体—胎児—胎盤系を1つの生理的に特異な単位と考え,妊娠成立進行に伴う卵巣黄体から胎盤への steroid hormone 産生の移行について解説し,受精卵と初期胎盤による hormones 産生にふれた.progesterone については lipoprotein-cholesterol からの卵巣内および胎盤への transport system から産生酵素系動態を説き,一方,estradiol と estrone の生合成系の存在意義を胎盤での dehydroepiandrosterone sulfate(DHAS)からの変換より解説を加え,estriol の大部分が胎児の 16α-hydroxy-DHAS 由来とその存在役割に言及し,estriol が胎盤機能,estetrol(E4)が胎児機能をそれぞれ比較的優位に示す事を述べた.estrogen 産生欠落の例に無脳児を挙げ,estrogen 前駆物質 DHAS ないし 16α-hydroxy-DHAS の欠乏時の機能的要因を分析し,加えて胎盤のsulfatase 欠損症に基づく DHAS→free DHA への変換不能と,DHA→estrogen 形成酵素系の健在とを区別した.妊娠時母体側の腸肝循環を経る steroid hormones は腸内細菌の変化(炎症,感染,抗生物質使用)等,妊娠因子以外の影響をうけ著しい増減を示す事実は,胎児状態検索上,混同され易い重要な情報となる.また,steroid hormones を指標とした胎児—胎盤系機能テストの価値と,その測定意義に関しては妊娠マネージメントへの情報源としての estrogen の測定,検討および評価を論じ DHAS infusion による負荷試験の利用価値につき言及し,単に胎児状態のみならず妊娠経過に伴う全身的影響および諸作用等を予知する為の基礎的知識の重要性を薬理学的立場から論述した.
  • 五味田 裕, 市丸 保幸, 森山 峰博, 深町 紀美子, 内門 昭久, 荒木 泰典, 福田 保, 小山 鷹二
    1981 年 77 巻 3 号 p. 245-259
    発行日: 1981年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    ハトムギ Coix Lachryma-Jobi L. var. ma-yuen Stapf の主成分 coixol (6-methoxybenzoxazolone)の中枢神経作用を,行動薬理学的ならびに脳波学的に構造の類似した中枢性筋弛緩薬 chlorzoxazone のそれと比較検討した.なお coixol はすべて腹腔内に応用した.その結果,coixol は50~100mg/kg の投与により,ラットおよびマウスの自発運動量を著明に減少させ,また筋弛緩作用も認められ,さらに 100mg/kg の投与により,協調運動の障害も認められた.これらの作用強度は chlorzoxazone と同程度のものであった.また,coixol は50~100mg/kgの投与により,体温下降作用,thiopental 睡眠増強作用ならびに pentylenetetrazol けいれん抑制作用を示した.これらの作用は chlorzoxazone のそれよりも僅かに強力であった.さらに coixol はラットの脳内自己刺激行動に対し著明な抑制作用を示した.次に慢性電極を植込んだラットを用い脳波作用を検討した結果,coixol の 50~100mg/kg の投与により,行動上鎮静を示し,脳波上は傾眠パターンを示すラットが出現した.しかし chlorzoxazone の50~200mg/kg の投与ではこのような傾眠パターンは観察されなかった。coixol は音刺激による脳波覚醒反応を抑制したが,中脳網様体刺激による覚醒反応は抑制しなかった.以上の結果より,coixol の中枢神経に対する作用は chlorzoxazone のそれと質的に類似し,作用強度は僅かに強力であることが示唆された.
  • 平井 正直, 増渕 美子, 熊井 俊夫, 植松 晃代, 小森山 憲次
    1981 年 77 巻 3 号 p. 261-272
    発行日: 1981年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    自然発症由来 Sprague Dawley ラットの選択的兄妹交配により新たに開発した疾患モデル「高脂血症ラット—HLR—」のF14(一部 FlO),13~14週令を用い steroid hormones 動態を調べた.血漿中 free,total cholesterol level は F14,F10 雌雄いずれも有意高値を示したが,血圧は高い群と正常値を示す群との存在を見出した.HLD 卵巣重量は有意高値を示し卵巣 progestin(progesterone,20α-OH-P)は対照の2~3倍以上の有意高値を,一方,卵巣 estradiol は 1/2~1/3 以下の有意低値をそれぞれ示した.子宮重量は有意低値を示した.HLR の性周期は不規則,殊に持続性 diestrus の発現頻度が有意に高い.睾丸重量は有意低値を,睾丸内 testosterone は低値を,また,睾丸内 estradiol は高値をそれぞれ示した.前立腺重量に有意変化はない.副腎重量は雌雄共に有意高値を示した.雌では副腎内 corticosterone,18-OH-DOC が共に有意増加を示し,一方,雄では副腎内 corticosterone の含有量のみに有意増加が認められた.近縁臓器として肝重量は雌雄共に有意高値を示し,周辺性脂肪沈着の組織像を示した.また,胸腺,腎の重量は雌雄共に有意低値を示した.以上の成績から HLR における卵巣機能異常,殊に,高 progestin と低 estrogen および性周期の不規則性が見出きれ,前回報告の繁殖成績(妊孕率,産仔数)有意低下とを併せ考え,高脂血症における性 steroidogenesis 低下に起因する生殖生理異常を提起した.睾丸内低 testosterone,高 estradiol 即ち,estrogen 優位に基づく睾機能低下が見出され卵巣と共に繁殖成績の有意低下の要因形成が推定された.雌副腎の corticoids 過剰産生による顕著な副腎皮質機能亢進は,性差に基づく脂質蛋白移送機構と 11β-hydroxylation および 18-hydroxylation のそれぞれの亢進が推定された.肝重量増加は過剰な血漿脂質蛋白の摂取とその移送機構の調節欠損について論じ,胸腺重量減少は steroids 増加と高脂血症由来の面から,また,腎重量減少は血漿浸透圧低下と糸球体における虚血性変化と血漿 cholesterol 異常増加との関係より言及した.
  • 福田 俊一, 伊藤 敬三, 能勢 尚志
    1981 年 77 巻 3 号 p. 273-280
    発行日: 1981年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    7-chloro-1-cyclopropylmethyl-1,3-dihydro-5-(2-floropheny1)-2H-1,4-benzodiazepin-2-one(KB-509)は,抗不安薬として期待される新しい benzodiazepine 誘導体である.この薬物の抗不安作用を評価する一環として抗ストレス潰瘍作用および血清 11-hydroxycorticosterone(11-OHCS)値に対する作用をマウスを用いて検討した.KB-509 の抗ストレス潰瘍作用を検討するのに先立ち,ストレス負荷条件を種々検討し,diazepam が筋弛緩作用発現量以下で明らかな抗潰瘍作用を示す実験条件を検索した.その結果,26°C,5時間の拘束水浸漬のストレス条件下でdiazepam が強い抗潰瘍作用を示すことを見い出した.この緩和なストレス条件下でKB-509は強い抗潰瘍作用(ED50: 0.36mg/kg,p.o.)を示し,diazepam および atropine sulfate の約3倍および約9倍の効力を有した.しかし KB-509 は diazepam と同様,indomethacin 潰瘍や焼灼潰瘍に対して作用を示さなかった.ストレス負荷により上昇する血清 11-OHCS値に対して KB-509 および diazepam は抑制作用を示したが,抗ストレス潰瘍作用を示すような低用量では作用を示さなかった.以上の結果から,著者らの見い出したストレス負荷条件は抗不安薬の持つ種々の薬理作用のうち,抗不安作用を特異的に反映しうる条件であり,KB-509 は diazepam ならびに atropine より優れた抗ストレス潰瘍作用を示し,その作用は下垂体—副腎系よりもむしろ間脳—自律神経系を介して発現していると推察した.
  • 河野 康子
    1981 年 77 巻 3 号 p. 281-293
    発行日: 1981年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    L-DOPA投与後の tryptophan(Trp)の末梢—中枢間動態の変化と脳内 serotonin(5-HT)代謝の変化との関連性について検討した.雄性 Wistar 系ラットに DOPA 単独,Ro4-4602+DOPA および dopamine(DA) を腹腔内投与後,末梢組織中 Trp 含量と全脳内 Trp,DA,5-HT,5-hydroxyindoleacetic acid(5-HIAA)含量を測定した.薬物投与後の経時的変化および用量依存性の結果を比較することにより,各変化の臓器間関連性を検討した.また脳内 tryptophan hydroxylase に対し基質が飽和状態にある neonatal ラットでも DOPA による 5-HT 代謝の変化を調べた.その結果,Ro4-4602 を併用するか否かで Trp の動態が異ることが見い出された.DOPA 単独投与と DA 投与では血漿遊離 Trp と肝臓内 Trp含量が用量依存的に著明に増加し,血漿総Trp濃度は 減少し,脳内 Trp 含量は軽度増加した.Ro4-4602+DOPA 投与では末梢組織中 Trp 含量は不変で脳内 Trp 含量は減少した.一方 DOPA 投与後の脳内 DA 含量の増加に従い 5-HT 含量は減少し,両 amine 含量の経時的変化も平行した.neonatal ラットでも DOPA により5-HT 含量は減少し 5-HIAA 含量は増加した.これらの結果は 5-HT 系神経内で DA が貯蔵顆粒内の 5-HT と displacement を起すとする機構の存在を支持するものであった.しかし 5-HIAA 含量の増加と 5-HT 含量の減少とは対応せず,Ro4-4602+DOPA 投与では 5-HT 含量が著明に低下するにもかかわらず 5-HIAA 含量の増加は軽度であった.逆に DOPA 単独投与では 5-HT 含量が減少しない用量でも 5-HIAA 含量は有意に増加した.この様な 5-HIAA 含量の変化の特徴は displacement され た5-HT の代謝のみでは説明できない.DOPA をRo4-4602 と併用投与するか否かで Trp の動態が異っており,そのため 5-HT turnover が変化したことが 5-HIAA 含量に反映されたと思われる.以上の結果,DOPA 投与後の脳内 5-HT 代謝の変化にはdisplacement 機構の他に,Trp の末梢—中枢間動態を介する 5-HT turnover の変化や,Trp と DOPA との相対的濃度差に基づく 5-HT 生成の変化などが含まれると考えられる.
  • 仲川 義人, 武田 敬介, 橋本 豊三, 桜井 浩, 三富 明夫, 今井 昭一, 浜村 みつ子, 熊田 衛
    1981 年 77 巻 3 号 p. 295-312
    発行日: 1981年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    降圧薬として新しく開発された guanfacine の降圧作用について正常血圧ラットおよび3種の高血圧モデルラット(高血圧自然発症ラット(SHR),DOCA 高血圧ラット,腎性高血圧ラット(RHR))を用い無麻酔下での降圧作用および心拍数に対する作用について検討した.また,正常血圧ラットを用い麻酔下に降圧作用,心拍数,呼吸数に対する作用および腎交感神経活動に対する作用につき検討を加えた.最後に pithed rat における作用についても検討した,何れの場合も中枢性の降圧薬である clonidine の作用と比較検討した.無麻酔下では薬物は全て経口投与し,用量は殆んどの標本で guanfacine 5mg/kg,clonidine 0.5mg/kg を用いた.両薬物とも投与後の作用発現は早く,SHR 以外では血圧は明確な二相性の反応を示して上昇(30分でピークに達する)後徐々に下降し,持続性の降圧に移行した.正常血圧ラットでは guanfacine(5mg/kg),clonidine(0.5mg/kg)はほぼ同程度の降圧効果を示したが,DOCA 高血圧ラットおよび腎性高血圧ラットでは guanfacine の方が clonidine に比し降圧作用が強く,持続的であった.一方 SHR では昇圧作用は殆んど認められず,降圧作用は,clonidine(0.5mg/kg)の方が guanfacine(5mg/kg)よりも強い傾向を示した.心拍数はいずれの薬物でも減少した.心拍数減少は血圧上昇に対する反射によると考えられるが,血圧下降時にも心拍数は減少していた.麻酔下での実験では guanfacine 100μg/kg,clonidine 10μg/kg の静注により,いずれも血圧は上昇ののち下降(持続性)という二相性の反応を示した。この血圧上昇は phentolamine により抑制され,レセルピン前処置により増強きれたことから,末梢のα受容体に対する直接作用によるものと考えられる.降圧作用および心拍数抑制作用は guanfacine では用量依存的に認められたが,clonidine の場合 10μg/kg 以上では降圧作用,心拍数減少作用ともに減弱傾向を示した.降圧作用は pithed ラットでは認められないこと,降圧時腎交感神経活動の低下がみとめられること,大槽内投与による降圧作用は静脈内投与によるそれよりも低用量で認められることなどから,中枢のα受容体に対する作用によるものと考えられる.なお guanfacine の作用は clonidine の約1/10の強さであった.
  • 小友 進, 中池 司郎, 辻 郁子, 森 千鶴子, 大関 正弘
    1981 年 77 巻 3 号 p. 313-320
    発行日: 1981年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    D-penicillamine(D-PA)の免疫機能に及ぼす影響を抗原刺激量を変化させた実験モデルを用いて検討した.Wistar 系ラットを用いたアジュバント関節炎(AA)にたいしては,D-PA の作用時期を明確にするため1回静脈内投与する方法を用いた.その結果通常使用される結核死菌量で誘導した AA にたいしては何ら作用を示さなかったが,結核死菌量を減らし低発症となる条件下で感作と同時に D-PA を注射した場合,D-PA に明らかな発症促進作用が認められた.ヒツジ赤血球(SRBC)を抗原としたマウス PFC 産生能にたいする D-PA の作用については,感作抗原量を種々変化させ,D-PA を感作直後および24時間後の2回腹腔内投与することにより検討した.通常感作量(4×108 SRBC)により感作した場合には D-PA により PFC 産生抑制が認められたが,低感作量(4×106 SRBC)を用いることによって抗原刺激量を少なくした場合,D-PA により2倍前後の PFC 数増加が認められた.また,D-PA の1回投与した場合のマウス PFC 産生に及ぼす影響を検討したところ,感作後2時間に投与した時に最大の促進作用が認められた.concanavalin Aによるマウス脾細胞幼若化にたいしては,D-PA 1×10-6~5×10-5M で25%程度の促進,5×10-4M で抑制作用が認められた,これらの成績より D-PA は levamisole と同様に免疫調節剤としての作用を有することが認められた.その作用機作としては,AA および PFC の成績より,おそらく免疫反応の初期の段階,つまり macrophage による抗原貪食あるいはリンパ球への抗原情報伝達の段階に作用しているものと考えられる.
  • 藤村 一, 鶴見 介登, 中山 環, 国場 節子, 平松 保造, 田村 洋平
    1981 年 77 巻 3 号 p. 321-336
    発行日: 1981年
    公開日: 2007/03/09
    ジャーナル フリー
    新規非ステロイド抗炎症薬(NSAID)を開発する目的で,phenylpropionic acid 誘導体を合成スクリーニングし,標題化合物 TN-762 に最も好ましい作用を認めた。この化合物は Janssen らが抗炎症活性の強い化合物として報告している suprofen と同じものであったが,詳細な薬理試験がなされていないので,TN-762 について急性炎症反応に対する影響ならびに prostaglandin(PG)合成阻害作用について検討した.TN-762 は histamine あるいは酢酸によって惹起した血管透過性亢進ならびに carrageenin 足蹠浮腫を,5~20mg/kg の低用量経口投与によって用量依存性に抑制し,ketoprofen や indomethacin とほぼ同等の著明な効果を有することが認められた.TN-762 の抗浮腫効果は連投によって減弱せず,副摘によっても影響されなかった.TN-762 は dextran,formalin および serotonin による足蹠浮腫に対しても,carrageenin 浮腫に対するよりは弱かったが,ketoprofen や indomethacin と同等の抑制効果を示した.また紫外線紅斑に対して TN-762 は,1mg/kg 以下の用量にてすでに抑制効果を呈し,ketoprofen や indomethacin より有意に強い抑制効果が認められた.しかしこの抑制効果は5時間後には消失し,NSAIDとしての作用態度が認められた.紫外線紅斑には PG の関与が示唆されているところから,arachidonic acid による carrageenin 浮腫増強作用,arachidonic acid 静注によるウサギ急性死ならびに endotoxin による下痢などに対する抑制作用を検討した.これらの作用はいずれも、PG の関与する反応で,TN-762 は抗炎症作用用量よりも低用量にてこの反応を有意に抑制した.他方 TN-762 の消化管障害作用は ketoprofen や indomethacin より明かに弱かった.以上の結果より TN-762 は急性炎症反応に対して,ketoprofen や indomethacin と同等の抑制活性を有し,PG 合成阻害作用はそれらよりも強く,胃腸障害は反対にそれらより弱く,臨床上有用なものと考えられた.
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