日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
140 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
特集 漢方薬理学:補完・代替医療としての薬理学的エビデンス
  • 佐藤 広康
    2012 年 140 巻 2 号 p. 54-57
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
    ジャーナル フリー
    漢方薬の薬理効果を理解するには,生薬・含有成分の基礎薬理学的エビデンスは最重要である.古来からの伝統医学は主観に基づいた理論概念による漢方処方であるが,そうではなく,薬理学的エビデンスから作用機序を捉まえて,漢方薬の理解を進めていきたいと考えている.本来,西洋薬中心の医療が主体であり,和漢・漢方薬は補完・代替医療として捉えるべきである.西洋薬との非適合(アレルギー,副作用,致死率など)による必要性や,高齢者,女性に高い適応性があるため,漢方薬を含めた多種多様な補完・代替医療を理解し最大限に活用していくべきである.欧米からみれば,日本漢方薬の品質均一化は薬品価値から高く評価されている.しかし,漢方方剤は製薬会社間で,含有生薬が異なり生薬含有量にも差異がある.従って,私には欧米と同じようには評価できないが,補完・代替医療として,漢方薬,健康食品の規格,含有有効成分の統一化を図る必要性を強く感じている.
  • 西田 清一郎, 佐藤 広康
    2012 年 140 巻 2 号 p. 58-61
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
    ジャーナル フリー
    未病は,古来より東洋医学において重要なテーマとして掲げられている.未病ははっきりとした病が現れる前から体の中に潜む病態(状)を意味しており,まだ病ではない状態を意味しているのではない.未病は病を発生させる根本的な異常を意味し,東洋医学的には「〓血(おけつ)」と深いかかわりがあると考えられている.我々は,未病を現代医学的に解釈した場合,その病態は酸化ストレスの蓄積が一つの原因であると考えている.〓血に対して処方される駆〓血剤は,酸化ストレスの蓄積を抑制し,すなわち未病の進展を遅延,または阻害すると推察されている.駆〓血剤である桃核承気湯(とうかくじょうきとう)と桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)には,抗酸化作用があることが知られていた.酸化ストレスは血管緊張に変化を与えるが,これらの漢方薬は酸化ストレス負荷条件下で,血管の収縮を抑制し弛緩作用を増強した.駆〓血剤をはじめとする漢方薬は,酸化ストレスに対して,抗酸化剤として緩和作用だけではなく,状況に応じて酸化促進剤として血管収縮作用を表す.つまり,酸化ストレスをうまく制御して生体機能の調節作用をするものと考えられる.この酸化ストレス緩和作用は,酸化ストレスによる障害を和らげ,未病の進展を抑制していると思われる.
  • 宮崎 忠昭
    2012 年 140 巻 2 号 p. 62-65
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
    ジャーナル フリー
    毎年,季節性インフルエンザが流行し,高齢者,乳幼児,妊婦,および慢性疾患患者がインフルエンザを発症した場合は,急性脳症や肺炎などを合併し死亡するケースも報告されている.さらに,今後,病原性の高いインフルエンザウイルスや薬剤耐性ウイルスが出現し,それらの感染拡大の可能性があるため,効果的なワクチンや治療薬を早急に開発する必要がある.生体で産生されるインターフェロンは抗ウイルス効果を有するが,我々は,これまでに,インフルエンザAウイルスのRNAポリメラーゼがIPS-1(interferon-beta promoter stimulator 1)に直接会合し,インターフェロンの産生誘導を阻害すること,また,RNAポリメラーゼのサブユニットであるPB2にSiva-1というアポトーシス誘導分子が会合し,カスパーゼの活性化を介してウイルスの増殖を制御することを明らかにした.今回,インフルエンザウイルスの増殖を阻害する物質を探索した結果,漢方薬である銀翹散(ぎんぎょうさん)と麻黄湯(まおうとう)の成分がインフルエンザウイルスのプラーク形成阻害作用を示し,“新型ウイルス”と報道されたA/Narita/1/2009株やA/Kadoma/2/2006株に対しても高い阻害効果を示すことを確認した.そこで,銀翹散のエチルアセテート抽出物をさらにメタノール/クロロホルムで抽出した後,シリカゲルカラムで分画した結果,非常に高いプラーク形成阻害活性を有する画分が認められた.また,麻黄湯に関しては,メタノール残渣成分に高い阻害活性が確認されたため,現在,活性成分の分画を進めている.今後,これらの分画成分に含まれる活性物質を分離精製しその構造と薬理活性を明らかにすれば,インフルエンザ治療薬の候補物質となる可能性がある.
  • 岩崎 克典, 高崎 浩太郎, 野上 愛, 窪田 香織, 桂林 秀太郎, 三島 健一, 藤原 道弘
    2012 年 140 巻 2 号 p. 66-70
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
    ジャーナル フリー
    漢方薬である抑肝散(よくかんさん)は,アルツハイマー病の周辺症状(BPSD)にしばしば使われる.しかし,その薬理学的特性は未だ明らかにされていない.漢方を認知症の補完・代替医療として考える場合には,その薬理学的な背景を明らかにすることが肝要である.そこで,我々は抑肝散が,妄想・興奮モデルとしてのメタンフェタミンによる自発運動量の異常増加を抑制すること,幻覚モデルとしての5-HT2A受容体アゴニストであるDOI投与による首振り行動,高架式十字迷路および明暗箱課題を用いた不安行動,夜間徘徊の指標となる明暗サイクルにおける明期の自発運動量の増加をそれぞれ有意に抑制することを明らかにし,認知症患者のBPSDに有効である可能性を示した.さらに8方向放射状迷路課題において,抑肝散が空間記憶障害の改善作用を示すこと,さらにこの作用は記憶に関わる海馬ACh神経終末からのACh遊離の促進を介することを見出し,抑肝散の中核症状への応用の可能性を提案した.次に,これらの作用が抑肝散の構成生薬のうちどれに由来するかを検討した.その結果,抑肝散を構成する7種の生薬のうちBPSDに対しては釣藤鈎(ちょうとうこう)の5-HT2A受容体を介した作用が,また,中核症状に対しては当帰(とうき)のACh神経系を介した作用がその役割を担っている可能性が示唆された.以上のことから,抑肝散はアルツハイマー病患者のBPSDのみならず中核症状にも有効で,補完・代替医療において西洋薬に替わる治療薬として有用であることが示唆された.
  • 伊藤 謙, 伊藤 美千穂, 高橋 京子
    2012 年 140 巻 2 号 p. 71-75
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
    ジャーナル フリー
    補完代替医療のひとつに,香りを吸入することで精油成分のもつ薬理作用を利用し,心身の疾病予防や治療に応用するアロマテラピーがある.揮発性の高い化合物を気化状態で吸入すると,体内に吸収され,非侵襲的に生物活性を表すとされるが,天産物由来の成分探索や多様な効能に対する科学的なエビデンスの蓄積に乏しい.そこで,著者らは医療としての「アロマテラピー」の可能性を探るべく,記憶の影響を最小限にしたマウスの行動観察が可能な実験系を構築した.本評価系はオープンフィールドテストによるマウス運動量変化を観察するものであり,アロマテラピー材料の吸入による効果を簡便に検討することができる.次いで,香道に用いられる薫香生薬類の吸入効果について行動薬理学的に評価し,鎮静作用があることを報告した.さらに,得られた化合物群の構造活性相関研究に関する成果として,化合物中の二重結合の位置および官能基の有無によって鎮静作用が著しく変化することがわかり,活性発現に重要な構造を見出した.本成果は我が国古来の香道の有用性を示唆するだけでなく,経験知に基づく薫香生薬類の多くから新たな創薬シーズの発見が期待できる.
総説
  • 梶田 美穂子, 藤田 恭之
    2012 年 140 巻 2 号 p. 76-80
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
    ジャーナル フリー
    発がん過程において,上皮細胞層に生じた1つのがん細胞(変異細胞)は周りを正常上皮細胞に囲まれた状態で増殖していく.ショウジョウバエでは,正常上皮細胞と変異細胞の境界において生存を懸けた競争が起こることが報告されている.一方,他の動物種でも同様の現象が起こるのかは長い間不明であったが,最近になって,ほ乳類においても正常上皮細胞と変異細胞の境界で様々な現象が起こることが明らかになってきた.たとえば,ある種のがん遺伝子が活性化した変異細胞と正常細胞の境界では,変異細胞が細胞層の頭頂側へはじき出されるように離脱することが示された.このとき,変異細胞内では複数のシグナル伝達系が活性化されており,周りの正常細胞の存在が,変異細胞内のシグナル変化と挙動に影響を与え得るということが分かった.また,ある種のがん抑制遺伝子のノックダウンによって変異した細胞では,正常細胞に囲まれたときのみアポトーシスが誘導され,細胞層の頭頂側へ排除されることが分かった.細胞層の頭頂側とは,生体内では管腔側にあたるため,がんが浸潤する方向の反対側と見なすことができる.つまり,正常上皮細胞には抗腫瘍能力が備わっており,変異細胞の管腔側への離脱もしくはアポトーシスの誘導等により,異常な細胞から生体を守っている可能性がある.さらに細胞培養系だけでなく,ゼブラフィッシュやマウスのin vivoシステムにおいても正常細胞と変異細胞の境界で特異的な現象が報告されてきた.この総説では主にほ乳類における正常上皮細胞と変異細胞の境界で起こるさまざまな現象について紹介する.また,この新規の研究分野がどのようにがん予防・治療法の開発へとつながっていくかその展望を論説する.
創薬シリーズ(6)臨床開発と育薬(17)
新薬紹介総説
  • 柿元 周一郎, 小澤 徹, 五十嵐 澄, 得能 朝成, 加来 聖司, 関 信男
    2012 年 140 巻 2 号 p. 85-92
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/08/10
    ジャーナル フリー
    ガバペンチン エナカルビル(レグナイト®錠)は,新規レストレスレッグス症候群(restless legs syndrome: RLS)治療薬として開発されたガバペンチンのプロドラッグである.本剤は,ガバペンチンと異なる経路で消化管より吸収され,生体内で速やかにガバペンチンに変換されるため,ガバペンチンで問題となる投与量の増加に伴うバイオアベイラベリティの低下がなく,経口投与時の血中濃度の個体差が小さくなるようにデザインされている.一方,RLSの発症メカニズムは十分に解明されていないが,その症状はむずむずとした脚の不快感や痛みといった異常感覚を伴っており,RLS患者では脊髄後角に入力する感覚神経線維からのシグナル伝達の亢進あるいは異常が起こっていることが示唆されている.このことから,本薬の活性本体であるガバペンチンは,脊髄後角において感覚神経終末に発現する電位依存性カルシウムチャネルα2δサブユニットに結合し,興奮性シナプス伝達を抑制することで,RLSの症状に対する治療効果を発揮すると考えられる.実際に,国内外の臨床試験において,本剤はガバペンチンに比べ優れた薬物動態特性を示し,また中等度から高度の特発性RLS患者の症状に対して優れた改善効果を示した.一方,副作用およびその発現率は,市販されているガバペンチン製剤で認められているものとほとんど変わらず,本剤の忍容性が確認された.以上より,カバペンチン エナカルビルはRLSの薬物治療において新たな選択肢になると期待される.
feedback
Top