日本薬理学雑誌
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127 巻, 2 号
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特集:ニューロペプチドY(NPY)の中枢摂食制御研究の進展
  • 上野 浩晶, 中里 雅光
    2006 年 127 巻 2 号 p. 73-75
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/01
    ジャーナル フリー
    近年,肥満者の増加と,肥満を基礎にして発症する糖尿病,脂質代謝異常,高血圧症などの肥満症やメタボリックシンドロームを呈する患者数が増加している.しかし,その根底にある肥満の治療法は不十分なままである.最近,NPYやそのファミリー(PP,PYY)を含めてさまざまな摂食調節物質の同定や機能解析が進んでいる.NPYは中枢神経系に存在しており,強力な摂食亢進作用を有している.NPYニューロンを活性化する入力系としてグレリンやオレキシン,抑制する入力系としてレプチンやインスリンがある.入力系の中でも胃から分泌される摂食亢進ペプチドであるグレリンは迷走神経や神経線維を介してNPYニューロンにシグナルを伝達してその作用を発揮している.PPは主に膵臓に発現しており,摂食抑制作用を有する.PYYは十二指腸から結腸までの腸管で産生され,摂食抑制作用を有する.PYYは迷走神経を介して中枢の摂食抑制系ペプチドであるPOMCニューロンを活性化してその作用を発揮している.これら摂食調節ペプチドの機能解析が進んで,ペプチドそのものや受容体のアゴニスト,アンタゴニストといった新規の抗肥満薬の開発や実用化が期待される.
  • 石井 新哉, 亀谷 純
    2006 年 127 巻 2 号 p. 77-82
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/01
    ジャーナル フリー
    摂食調節は視床下部の摂食促進因子であるneuropeptide Y(NPY)/agouti-related peptide(AGRP)と抑制因子であるproopiomelanocortin(POMC)/cocaine and amphetamine-regulated transcript(CART)が末梢のシグナルを感知し制御されると考えられている.我々は甲状腺中毒症での摂食亢進のメカニズムを検討する目的で,甲状腺ホルモンT3を投与した甲状腺中毒症ラットにおける摂食状態の変化,視床下部神経ペプチドの変化を観察した.甲状腺中毒症ラットでは,体重の減少と摂食量の増加を認めた.血中インスリン濃度は増加していたが,血中レプチン濃度は有意に低下していた.胃のグレリン遺伝子発現,血中グレリン濃度は変化しなかった.視床下部NPYは増加し,POMC/CARTは減少した.オレキシン,melanin concentrating hormone(MCH)は変化しなかった.甲状腺中毒症ラットの脳室内にNPY/Y1受容体特異的拮抗薬であるBIBO3304を投与すると摂食量,飲水量ともに抑制された.以上より,甲状腺ホルモンによる摂食亢進は甲状腺ホルモンの作用によるエネルギー消費の亢進ではなく,血中レプチン濃度の減少とそれに伴う視床下部NPY遺伝子発現の増加とPOMC/CART遺伝子発現の減少によってもたらされると考えられた.BIBO3304の中枢投与により摂食量と飲水量が抑制されたことよりこの摂食亢進はY1受容体を介することが示唆された.次に我々は低用量のT3単回皮下投与4時間後の摂食量を測定した.低容量T3投与群では,摂食量は有意に増加したが,視床下部NPY,POMC遺伝子発現は対照群との間に差は認めなかった.このことより,低用量のT3はレプチン-NPY系を介することなく,T3の直接作用による摂食調節機構の存在が想定される.
  • ―特にグレリンとの関連から
    乾 明夫
    2006 年 127 巻 2 号 p. 83-87
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/01
    ジャーナル フリー
    ニューロペプチドY(NPY)はレプチンの下流にあり,食欲制御に重要な役割を演じていることが明らかとなっているが,消化管機能に及ぼす影響に関しては,ラットやマウスでの解析の困難さから,十分な検討がなされていなかった.著者らは,ラットを無麻酔,無拘束下で,摂食行動と平行して胃・十二指腸運動をリアルタイムで測定する系を確立し,ラットにおける生理的な空腹期運動,食後期運動の観察を行ってきた.この系を用いて,成長ホルモン分泌促進因子(GHS)受容体の内因性リガンドとして,児島,寒川らにより胃から同定されたグレリンが,空腹期運動の調節に重要な役割を有することを見出した.グレリンは,視床下部にあるNPYを介して摂食行動を誘発するのみならず,消化管運動を空腹期のパターンに変換する.この作用は迷走神経求心線維を介する作用が主であり,視床下部NPYがグレリンの下流にあるペプチドとして,摂食行動と密に関わる消化管運動をも統合的に調節する可能性を示唆している.このように,空腹や飢えに対する応答には,レプチンの低下とあいまって,グレリンの上昇が重要であると考えられるに至った.最近,N端側から3番目のセリンがアシル化されたアシルグレリンに対し,アシル基のないデスアシル型も何らかの生理的意義を有する可能性が報告されている.デスアシルグレリンは,食欲や空腹期消化管運動を抑制するが,この作用は迷走神経を介さず,また少なくとも直接的にはNPYを介さない.今後,アシルグレリン,デスアシルグレリンと,NPYをはじめとする視床下部ペプチドの相互作用を検討してゆく必要がある.
  • 金谷 章生, 石原 あかね, 岩浅 央, Douglas J. MacNeil, 深見 竹広
    2006 年 127 巻 2 号 p. 88-91
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/01
    ジャーナル フリー
    ニューロペプチドY(NPY)は,強力な摂食促進ペプチドであり,視床下部に存在する7回膜貫通型受容体を介して,その作用を惹起する.現在,5つの受容体サブタイプがクローニングされているが,中でも,Y1およびY5受容体がNPYの摂食促進作用に関与していることが示唆されている.我々は,サブタイプ選択的な低分子化合物と受容体欠損マウスを用いた実験を通して,それぞれの受容体の更なる機能解析を行った.その結果,Y1およびY5両受容体ともに,摂食行動において重要な役割を果たしている受容体である事を確認した.しかしながら,Y1およびY5受容体は,NPY関連の摂食行動において,異なる役割を有することが示唆された.
  • 樋口 宗史, 山口 剛, 仁木 剛史
    2006 年 127 巻 2 号 p. 92-96
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/01
    ジャーナル フリー
    摂食行動は中枢視床下部摂食中枢の神経細胞に存在する10種あまりの摂食関連神経ペプチド遺伝子の発現により精密に調節されている.その主体をなすものは視床下部弓状核にある摂食誘導性のNPY/AgRP神経と摂食抑制性のα-MSHを産生するPOMC(proopiomelanocortin)神経の拮抗的支配であることが明らかになってきた.NPYは弓状核NPY-Y1とY5受容体を介して最も強い摂食誘導を引き起こす中枢内在性の神経活性ペプチドである.絶食負荷は摂食行動を強く誘導するが,これは末梢での血糖,インスリン,レプチンの低下が摂食中枢の神経ペプチドNPY/AgRP遺伝子転写を誘導し,逆に摂食抑制性のPOMC,CART遺伝子を抑制することに依る(血糖恒常説,脂肪恒常説).摂食関連ペプチド群の中でNPY遺伝子発現系が摂食調節にどのように関わるかを調べるために,NPY-Y5受容体ノックアウトマウスの摂食行動と脳内摂食関連ペプチド遺伝子発現の変化が調べられた.急性投与ではNPY受容体Y1,Y5アンタゴニストはそれぞれ摂食行動を有意に抑制するが,NPY-Y5受容体の生後よりの持続的遮断を反映するY5受容体ノックアウトマウスでは逆に特徴的な肥満と,それに伴う自由摂食時と絶食負荷時の摂食量の増加が認められた.自由摂食時の視床下部弓状核でのNPY遺伝子発現は著しく減少していたが,摂食抑制性のPOMC遺伝子発現は弓状核で有意に減少していた.絶食負荷時にはこれらの遺伝子発現の変化が増強された.NPY受容体ノックアウトを用いた実験から,NPY神経系が持続性遮断されるような状態では他の摂食関連遺伝子発現,特にPOMC遺伝子発現が視床下部摂食中枢で代償的に変化する代償機構の存在が明らかになった.
総説
  • ―冬眠を制御するシステム―
    近藤 宣昭
    2006 年 127 巻 2 号 p. 97-102
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/01
    ジャーナル フリー
    哺乳類の冬眠動物が冬眠時期に数℃という極度の低体温を生き抜くことは良く知られている.さらに,細菌や発ガン物質などにも抵抗性を持ち,脳や心臓では低温や低酸素,低グルコースにも耐性を示すとの興味深い報告もなされている.このことから,冬眠現象には種々の有害要因や因子から生体を保護する機構が関与しているとの指摘がなされ,最近,生物医学分野での関心が高まりつつある.特に,冬眠発現に関わる体内因子には古くから強い関心が寄せられ探索されてきたが成功せず,近年その存在も疑問視されてきた.これには,冬眠が複雑な生体機能の統合による現象であることや,その発現が1年の長い周期性を持つこと,体温低下により生体反応が著しく抑制されることなど,実験の障害となる深刻な問題が関わっていた.その様な状況下で,我々は1980年代初期に始めた心臓研究を切っ掛けに,冬眠にカップルする新たな因子をシマリスの血中から発見した.冬眠特異的タンパク質(HP)と命名した複合体は,冬眠時期を決定する年周リズムにより制御され,血中から脳内へと輸送されて冬眠制御に深く関わることが明らかになってきた.ここでは,冬眠研究の現状や問題点を含めて,我々が見出したHP複合体が初めての冬眠ホルモンとして同定されるまでの経緯を概説し,医薬分野での新たな応用を秘めた冬眠現象について述べる.
  • 井上 信孝, 藤田 佳子, 沢村 達也
    2006 年 127 巻 2 号 p. 103-107
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/01
    ジャーナル フリー
    酸化ストレスは,活性酸素産生系/消去系の不均衡にて生じる.亢進した酸化ストレスは,内皮傷害の直接的な要因であり,また一方でLDLの酸化的修飾により生成された酸化LDLを介して内皮機能障害をきたす.酸化LDLは,内皮機能障害因子として心血管病のinitiatorとして働くだけはなく,promoterとしても機能する.酸化LDLは,レクチン様酸化LDL受容体(lectin-like oxidized LDL receptor-1:LOX-1)を介した系にて種々の細胞反応を引き起こす.LOX-1は,内皮細胞だけではなく,血管平滑筋細胞,炎症細胞など様々な細胞種に発現を認め,その発現は様々な条件下,刺激により,ダイナミックに調節されている.LOX-1は,酸化LDLだけではなく,アポトーシスの陥った細胞,老化赤血球,炎症細胞などを認識し,生体防御機構や炎症性機転などの様々な生命現象において重要な役割を果たしていることが明らかになった.最近,幅広い分野においてLOX-1の病態生理学的意義に関する研究が展開されており,高脂血症下での内皮機能障害だけではなく,血管バルン傷害後の内膜肥厚,糖尿病血管病変,敗血症,急性冠動脈症候群などの種々の病態形成に深く関与している可能性が示された.今後,LOX-1をターゲットにした薬剤の開発が,酸化ストレスを基盤とした病態の理解,さらには新たな治療戦略の構築につながる可能性がある.
実験技術
  • 稲垣 直樹, 永井 博弌
    2006 年 127 巻 2 号 p. 109-115
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/01
    ジャーナル フリー
    アトピー性皮膚炎は増悪と緩解とを繰り返す,掻痒を伴う湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くはアトピー素因を有する.近年,患者数が増大しており,成人重症例の増加は社会問題にもなっている.治療にはステロイド外用剤が繁用されているが,適切に使用されない場合も多く,重症化の一因ともなっている.掻痒はアトピー性皮膚炎のもっとも重要な症状の一つであり,掻痒によって誘発される掻破行動によって皮膚病変が増悪するので,掻痒抑制薬は有用な治療薬になるものと思われる.薬物の評価および新薬の開発には動物の病態モデルが重要な役割を果たす.アトピー性皮膚炎は多くの因子が発症に関わる複雑な疾患であるが,マウス皮膚に抗原を反復暴露して誘発するアレルギー性皮膚炎が病態モデルとして有用である.NC/Ngaマウスの耳殻皮膚にダニ抗原溶液を反復塗布すると,血中総IgEレベルの上昇とともに皮膚炎が誘発される.また,BALB/cマウスの皮膚にハプテンを反復塗布することによっても血中IgEレベルの上昇を伴う皮膚炎が誘発される.これらのマウスアレルギー性皮膚炎では,表皮の肥厚,真皮の腫脹,リンパ球および好酸球を中心とする炎症性細胞の浸潤,Th2サイトカインmRNAの発現などが認められるので,ヒトアトピー性皮膚炎の特徴の一部を再現していると思われる.また,臨床においてアトピー性皮膚炎の治療に用いられている薬物がこれらのマウスアレルギー性皮膚炎に対して抑制効果を発揮することから,ヒトアトピー性皮膚炎の病態モデルとしての有用性が示唆される.マウスの掻破行動は掻痒評価の指標として有用であると考えられるが,タクロリムスはハプテン塗布による皮膚炎誘発に伴って出現する掻破行動を強く抑制する.タクロリムスのマウス掻破行動抑制作用機序の解明は新しい掻痒抑制薬の開発に示唆を与えるものと思われる.
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