日本薬理学雑誌
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115 巻, 2 号
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  • 金子 勲, 久保 武一, 森本 潔
    2000 年 115 巻 2 号 p. 67-77
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    βアミロイドの神経細胞毒性作用に関して,今までの経緯と問題点および最近の知見を紹介し,併せて,βアミロイドのラセミ化の観点からアルツハイマー病(AD)の発症について論じた.βアミロイドの神経細胞毒性およびMTT還元能低下作用は,βアミロイドの対イオンにより大きく影響を受けた.塩酸塩型のβアミロイド(β1-40,β25-35,D-Ser26β25-35) はβ構造を取り,微小線維を形成し,海馬神経細胞に対して細胞毒性を発揮し,HeLa細胞に対しては毒性を発揮せずにMTT還元能を低下させた.一方,市販のβアミロイド(TFA塩)はその様な活性を発揮しない.ADでは,βアミロイドが蓄積後,数十年経て神経脱落がおこる.加齢により生じるとされる D-Ser26β1-40は可溶性であり in vitro では神経細胞毒性を示さないが,脳タンパク分解酵素処理により活性体 D-Ser26β25-35 に変換された. D-Ser26β1-40をラット脳内に注入すると,β1-40 および D-Ser26β25-35 の場合と同様に,単独では脱落を惹起しないが少量の興奮性アミノ酸共存下で広範囲の海馬神経細胞の脱落を誘発し,脳内で活性体に変換することが示唆された.このことはβアミロイドがβ構造をとることにより興奮性アミノ酸感受性を増強し神経細胞脱落を誘発することを示す. D-Ser26β25-35 特異的抗体はAD患者の海馬 CA1 変性錐体神経細胞を特異的に染色したが,正常老人の海馬神経細胞は染色しなかった.以上のことより, AD では,βアミロイドが老人斑に蓄積後,加齢とともに Ser26 残基がラセミ化されると老人斑より溶出して拡散し,脳内で活性体 D-Ser26β25-35 様物質に変換され,それが興奮性アミノ酸を介して海馬神経細胞死を誘発すると考えた.
  • 武田 雅俊, 篠崎 和弘, 西川 隆, 田中 稔久, 工藤 喬, 中村 祐, 柏木 雄次郎
    2000 年 115 巻 2 号 p. 79-88
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    最近のアルツハイマー病病理過程の解明は,いくつかの創薬への戦略を指し示している.家族性アルツハイマー病の原因遺伝子として同定されたプレセニリンの機能が明らかにされた.プレセニリンは APP や Notch の膜透過部分での切断に関与しており, APP の γ-セクレターゼとして作用している.この知見は,アルツハイマー病治療薬としてγ-セクレターゼを考えるとき,Notch シグナル系の抑制という副作用も考慮しなければならないことを示唆している.また,変異 APP を導入したアルツハイマー病モデル動物 (APP-TG マウス)についてAβ42による免疫により脳内アミロイド沈着が抑制されるとの報告は,このような免疫反応によりアルツハイマー病におけるアミロイド沈着を抑制できる可能性を示唆するものかもしれない. FTDP-17 におけるタウ遺伝子変異の発見以来,アミロイド・カスケード仮説に限らず,直接タウタンパクの機能を回復することにより神経細胞脱落過程を抑制する戦略も考えられている.リン酸化タウに結合して,そのマイクロチュブル結合能を快復する proryl isomerase はタウタンパクのリン酸化による機能障害を抑制する方法として,治療薬開発につながる可能性が考えられる.このようなアルツハイマー病の分子病態の理解は,確実にアルツハイマー病治療薬の開発に大きな指針を提供している.
  • 比佐 博彰
    2000 年 115 巻 2 号 p. 89-98
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    腎臓は細胞外液量の調節を介して循環器系の恒常性維持に寄与している.腎臓の様々な構成部位において,調節の機序が詳細に研究されている.しかし,それらが統合された腎臓の機能を理解し,循環器用薬の評価を行なうには,生体位の腎における検討が不可欠である.生体位腎実験系は,腎からの内因性物質の遊離を測定し,また,薬物を腎内へ選択的に投与することで,腎臓局所での生理反応と薬物の影響をより適確にとらえることができる.例えば,麻酔下イヌを用いた筆者らの最近の研究では,腎cAMPレベルの制御におけるホスポジエステラーゼIVの関与,腎cAMPレベルの変化による腎血行動態,糸球体濾過,および尿細管再吸収への影響,ならびに腎におけるアデニル酸シクラーゼ活性化薬とホスホジエステラーゼIV阻害薬の相互作用に関する知見が得られている.腎交感神経の活性は腎臓の機能を変化させる主要な生理的要因である.生体位腎実験系は,神経伝達物質の放出から始まる一連の腎機能変化の解析にも適用できる.筆者らは,アデニル酸シクラーゼ活性化薬が,腎神経活性上昇時の神経伝達物質の放出ならびに尿細管再吸収の亢進を抑制せずに,濾過能の低下に拮抗してNa排泄の低下を軽減することを見出している.以上の例に限らず,生体位腎実験系は腎臓の機能ならびに全身循環の調節を理解するために有用であり,薬物や生理活性物質の腎作用に関して,個々の部位での検討からは得られない重要な情報を提供している
  • 山田 清文, 鍋島 俊隆
    2000 年 115 巻 2 号 p. 99-104
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    一酸化窒素(nitric oxide;NO)は血管,免疫および神経系において重要な役割を果たしている生理活性物質である.神経系においては神経伝達物質あるいは神経調節因子として高次神経機能の制御に関与している.NOの生理的および病態生理的な役割を解明するためにはin vivoでのNOの測定が不可欠であるが,NOは非常に不安定であり直接測定することは容易ではない.一方,NOの代謝物である亜硝酸イオンと硝酸イオンはグリース法により測定することが可能であり,グリース法とインビボダイアリシスを組み合せることにより,脳内におけるNO産生を間接的に測定することが可能となった.本稿ではこの方法の概略と問題点およびその応用例として,(1)ラット小脳でのNO産生におけるグルタミン酸受容体刺激とグリア細胞毒であるフルオロクエン酸の効果,(2)リポポリサッカライドの海馬内投与によるNO産生の変化と脳機能障害の関連,(3)ペンチレンテトラゾール誘発性キンドリングにおけるNOの役割について紹介する.
  • 大石 了三
    2000 年 115 巻 2 号 p. 107-109
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
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