βアミロイドの神経細胞毒性作用に関して,今までの経緯と問題点および最近の知見を紹介し,併せて,βアミロイドのラセミ化の観点からアルツハイマー病(AD)の発症について論じた.βアミロイドの神経細胞毒性およびMTT還元能低下作用は,βアミロイドの対イオンにより大きく影響を受けた.塩酸塩型のβアミロイド(β1-40,β25-35,D-Ser26β25-35) はβ構造を取り,微小線維を形成し,海馬神経細胞に対して細胞毒性を発揮し,HeLa細胞に対しては毒性を発揮せずにMTT還元能を低下させた.一方,市販のβアミロイド(TFA塩)はその様な活性を発揮しない.ADでは,βアミロイドが蓄積後,数十年経て神経脱落がおこる.加齢により生じるとされる D-Ser26β1-40は可溶性であり in vitro では神経細胞毒性を示さないが,脳タンパク分解酵素処理により活性体 D-Ser26β25-35 に変換された. D-Ser26β1-40をラット脳内に注入すると,β1-40 および D-Ser26β25-35 の場合と同様に,単独では脱落を惹起しないが少量の興奮性アミノ酸共存下で広範囲の海馬神経細胞の脱落を誘発し,脳内で活性体に変換することが示唆された.このことはβアミロイドがβ構造をとることにより興奮性アミノ酸感受性を増強し神経細胞脱落を誘発することを示す. D-Ser26β25-35 特異的抗体はAD患者の海馬 CA1 変性錐体神経細胞を特異的に染色したが,正常老人の海馬神経細胞は染色しなかった.以上のことより, AD では,βアミロイドが老人斑に蓄積後,加齢とともに Ser26 残基がラセミ化されると老人斑より溶出して拡散し,脳内で活性体 D-Ser26β25-35 様物質に変換され,それが興奮性アミノ酸を介して海馬神経細胞死を誘発すると考えた.
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