日本薬理学雑誌
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158 巻, 6 号
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特集:医学教育分野別評価における薬理学の役割
  • 西村 有平, 冨田 修平
    2023 年 158 巻 6 号 p. 427
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
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  • 田邊 政裕
    2023 年 158 巻 6 号 p. 428-433
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル 認証あり

    1999年に米国科学アカデミー医学研究所からTo Err Is Human: Building a Safer Health Systemという報告を契機に医療の質保証と改善を求める社会的ニーズが高まった.医療提供体制を改善し,医療の質を向上させる方策として臨床教育の再構築と医学教育の質保証が提言され,アウトカム基盤型教育(outcome-based education:OBE)が医学教育の質保証を担保するグローバル・スタンダードとなった.我が国の医学教育もこれまでのプロセス基盤型教育から,学修成果を明示してそれを確実に達成するOBEへとパラダイム・シフトした.薬理学が基礎医学,臨床医学,社会医学等との水平的統合,垂直的統合により如何にOBEに実装されるかを考察し,OBEプログラムを以下の4段階で構築した.Step 1が学修成果の設定,Step 2がコンピテンシーごとに順次性のあるパフォーマンス・レベルに応じた学修方略の作成,Step 3が学修成果の評価法の作成,Step 4が全教育課程の検証・改善である.学修成果に至る卒業時マイルストーンズとして「治療計画に基づき患者,家族への説明・同意を経て最適な薬剤を安全に(指導医による指導・監視のもとで)処方できる」を独自に策定し,薬物治療に関係する学修目標を令和4年度改訂版医学教育モデル・コア・カリキュラムから抽出した.これらの学修目標を達成するカリキュラムと学修成果の評価法をパフォーマンス・レベルに応じて作成し,全教育課程の検証・改善については千葉大学医学部の取組みを紹介した.

  • 西村 有平
    2023 年 158 巻 6 号 p. 434-439
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル 認証あり

    医学教育分野別評価は,世界医学教育連盟の国際基準をふまえて,日本医学教育評価機構が各大学における医学教育プログラムを公正かつ適正に評価する枠組みである.この評価では,学生が卒業時までに到達すべき学修目標を設定し,その目標を達成するための方略と評価を構築するというアウトカム基盤型教育の実践が重要視されている.臨床実習前共用試験の公的化により,臨床実習において医業を行うことが可能となったが,医学生による処方箋の交付は政令で除くべき医業とされている.しかし,医師国家試験合格後間もない時期に研修医として処方箋を適切に出すためには,疾患の病態生理と治療薬の薬理作用の理解に加えて,患者と家族や社会との関わりなどを包括的に捉える能力と資質を医学部卒業時に修得しておく必要がある.すなわち,薬理学は基礎医学の水平的統合と,基礎医学,行動科学,社会医学,臨床医学の垂直的統合におけるハブとして,多くの学修目標に必然的に関与する.本稿では,三重大学医学部医学科における薬理学教育をアウトカム基盤型教育の観点から展望し,医学教育分野別評価において薬理学が果たすべき役割について考察する.

  • 池田 康将, 船本 雅文
    2023 年 158 巻 6 号 p. 440-443
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル 認証あり

    日本において国際基準による医学教育の分野別認証評価制度の確立が求められている.分野別認証評価が求める基準として「カリキュラム統合化」があり,「質的向上のための水準」として,「関連する科学・学問領域および課題の水平的統合」・「基礎医学,行動科学および社会医学と臨床医学の垂直的(連続的)統合」を確実に実施すべきと定められている.基礎医学においては,講義の水平的・垂直的統合はすでに行われている一方で,実習の統合化は試みられていない.徳島大学では,生化学,生理学,薬理学で合同実習(基礎医学統合実習)を行っている.本稿では,徳島大学における基礎医学実習の水平的統合の取り組みについて紹介し,現時点での課題を述べる.

  • 冨田 修平, 松永 慎司, 山口 雄大
    2023 年 158 巻 6 号 p. 444-447
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル 認証あり

    2023年2月1日現在,日本医学教育評価機構は,70医学部における医学教育プログラムを評価し国際基準に適合していると認定している.また医学教育の質保証を改良しさらに発展させるために,この認証評価を継続的に受審することが求められる.多くの医学部が1巡目の受審を完了したが,アウトカム基盤型教育に基づく統合カリキュラムへの改変については共通して残された課題の一つである.大阪公立大学では,アウトカム基盤型教育の根幹であるコンピテンシーの達成度を適切に評価するためのマイルストーンの策定を含め,教育プログラムの見直しを進めている.また,設定される卒業時のアウトカムに向かった統合型教育の推進とアクティブラーニングの実践を推進するプログラムへの改定を継続的に進めている.本稿では,大阪公立大学が推進するアウトカム基盤型教育システムに基づき,薬理学教育における水平垂直統合的理解のための工夫と試みについて現状について紹介する.

特集:神経・精神疾患の病態における多価不飽和脂肪酸の関与
  • 徳山 尚吾
    2023 年 158 巻 6 号 p. 448
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル 認証あり
  • 中本 賀寿夫, 徳山 尚吾
    2023 年 158 巻 6 号 p. 449-453
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル 認証あり

    心理・社会的ストレスへの慢性的な暴露は,うつ病や不安症などを含む精神疾患のリスクファクターとなるだけでなく,慢性疼痛の発症や増悪を引き起こす.現在,慢性疼痛発症・増悪機序におけるストレス負荷の影響の詳細は不明であり,有効な治療法も確立されていない.近年,脂肪酸およびその代謝産物の分析技術が発展した結果,各種細胞や臓器ごとの脂肪酸組成を網羅的に測定するリピドミクス解析や,リン脂質,脂肪酸やその代謝産物などの組織中の局在性を可視化できる質量顕微鏡の技術が登場している.これらの技術の発展により,生体における脂質の多様性やその役割,分布の違いや病態時における脂肪酸組成変化などが解明されつつある.最近,我々も慢性疼痛モデルマウスにおいてストレス負荷による脳内脂肪酸組成変化やリン脂質の変化をイメージング解析することで,疼痛時における脂肪酸シグナルの関与について明らかにしてきた.その結果として,ストレスにより誘発される慢性疼痛に対する新たな治療標的として,脂肪酸シグナルの調節が重要であることを提唱するに至った.本総説では,慢性疼痛発症・増悪機序におけるストレス負荷の影響と脂肪酸シグナルの役割について,最新の基礎および臨床の知見についてまとめた.

  • 栗原 崇
    2023 年 158 巻 6 号 p. 454-459
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    FFAR1(free fatty acid receptor 1)は遊離中/長鎖脂肪酸を内因性リガンドとするGタンパク質共役型受容体である.FFAR1は中枢神経系にも広く発現することが発見当初から示唆されていたが,その機能に関しては今なお不明な点が多い.最近徳山らの研究グループは,視床下部,青斑核,縫線核等に存在するFFAR1が,オピオイド-モノアミン系を賦活することで鎮痛作用をもたらすことを見出した.一方,著者らは,一次知覚神経節や脊髄後角神経細胞にFFAR1が存在し,炎症や末梢神経障害に伴いFFAR1タンパク質発現レベルが上昇すること,FFAR1作動薬の脊髄クモ膜下腔投与は,炎症性疼痛および末梢神経障害性疼痛モデルマウスに鎮痛作用を示すことから,FFAR1は鎮痛薬開発の良い標的となりうることを報告した.そこで著者らは,FFAR1のさらなる中枢神経機能に迫るため,FFAR1作動薬(GW9508),FFAR1拮抗薬(GW1100)およびFFAR1遺伝子欠損マウスを用い,内因性疼痛調節機構およびうつ様行動におけるFFAR1の機能的関与について検討を行った.その結果,FFAR1欠損マウスは炎症性・末梢神経障害性疼痛様行動およびうつ様行動を強く呈すること,特に末梢神経障害性疼痛に伴ううつ様行動は,イミプラミン非感受性であった.次に我々は,in vivoマイクロダイアリシス法を用い,FFAR1が脳内モノアミン(ドパミン,セロトニン)遊離に実際関与するのか検討を行ったところ,FFAR1はセロトニン遊離を促すことによって間接的にドパミン遊離を調節するメカニズムの存在が示唆された.現在我々は,コカインやモルヒネなどの依存性薬物に対する行動変化にFFAR1はどのように関与するか,検討を行っているところであるが,本特集ではコカイン投与による移所運動促進効果を取り上げ,考察する.

  • 浜崎 景
    2023 年 158 巻 6 号 p. 460-463
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル 認証あり

    厚生労働省の「患者疾患」によると,「気分障害(躁うつ病を含む)」の受療率(入院+外来)が,1996年には48(人口10万対)だったのが2020年には94と,この四半世紀で倍に増えている.また,COVID-19の感染拡大の影響もあり,経済協力開発機構(OECD)の報告によると加盟国では軒並みうつ病および抑うつの有病率が増加しており,日本では2013年の調査で7.9%だった有病率が,2020年には17.3%まで上昇している.うつ病に対する治療はこれまで主として,薬物療法,心理療法,電気療法などであったが,普段の生活習慣(睡眠,食生活,運動等)の改善により,予防もしくは症状改善につなげられるという報告がここ10数年の間に増えてきた.さらに,食・栄養との領域ではω3系多価不飽和脂肪酸(以下ω3)の報告が多い.ω3は1970年頃のグリーランドにおける観察研究を発端に,当初は動脈硬化症に対する予防効果や改善効果が注目されていた.日本の臨床現場でも1990年頃からエイコサペンタエン酸(EPA)製剤が,2013年からはEPA+ドコサヘキサエン酸(DHA)混合製剤が,脂質異常症や閉塞性動脈硬化症に対する疾患に対して処方されるようになった.2000年頃からメンタルヘルス(うつ病や抑うつ)を対象とした観察研究や介入研究が報告されるようになり,動物実験等によりその機序も徐々に明らかになってきた.現時点では,観察研究では魚食・ω3摂取とうつとの関連は認められているが,介入研究のメタ解析結果からは,抑うつ症状に対して効果があるものとないものが混在しており,まだエビデンスとしては十分ではない.本稿では我々が得た知見を紹介するとともに,この分野に関する海外からの観察研究や介入研究の報告をメカニズムとともに紹介する.

特集:がん悪性化シグナル制御に着眼したイオンチャネル・トランスポーター創薬研究の新展開
  • 大矢 進, 酒井 秀紀
    2023 年 158 巻 6 号 p. 464
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル 認証あり
  • 藤井 拓人, 清水 貴浩, 酒井 秀紀
    2023 年 158 巻 6 号 p. 465-468
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル 認証あり

    Na/Kポンプ(Na,K-ATPase)は,ほぼ全ての細胞の膜電位形成に寄与しており,その触媒サブユニットには,4つのアイソフォーム(α1~α4)が存在する.細胞容積調節性アニオンチャネル(volume-regulated anion channel:VRAC)は,細胞の生命維持に極めて重要な「細胞容積調節機構」に必須の役割を担う一方で,細胞死のシグナル伝達にも関与している.本稿では,まず,がん細胞におけるアクチンフィラメントの破壊によるVRACの機能不全が,抗悪性腫瘍薬のシスプラチンに対する耐性獲得に関与することについて述べる.また,VRACが,がん細胞の膜マイクロドメインにおいて,Na/Kポンプα1アイソフォーム(α1NaK)と複合体を形成し,強心配糖体の受容体として機能していることについて述べる.この受容体型のα1NaKは,ポンプ活性を有さず,低濃度の強心配糖体に感受性であることがわかった.さらに,がん細胞の細胞内小胞にNa/Kポンプα3アイソフォーム(α3NaK)が異常に発現し,細胞の剥離にともない原形質膜に移行することについて述べる.通常の上皮細胞は足場を失うと細胞死(アノイキス)が引き起こされるが,がん細胞はアノイキス回避機構を有しているため足場から離れ浮遊した状態でも生存可能である.このメカニズムにα3NaKの移行が密接に関与していることがわかった.

  • 塩崎 敦, 工藤 道弘, 竹本 健一, 清水 浩紀, 小菅 敏幸, 大辻 英吾
    2023 年 158 巻 6 号 p. 469-474
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,イオン輸送体が細胞生命機能維持に重要な役割をもつことが報告され,がんの治療標的としても注目されている.一方,がん組織は幹細胞能力とがん形成能をあわせ持つ少数のがん幹細胞により形成・維持されることが解明され,がんの増大・転移・再発への関与が報告されている.我々は,がん幹細胞におけるイオンチャネルの特異的高発現を同定するため,種々の消化器がん細胞株からがん幹細胞を抽出培養後,遺伝子発現の網羅的解析を行った.食道扁平上皮がんにおいては,Ca2+透過性陽イオンチャネルであるTRPV2のがん幹細胞特異的な高発現に着目し,その阻害薬であるトラニラストが,がん幹細胞においてより強い増殖抑制効果を示すことを明らかにした.トラニラストは抗アレルギー薬として,特に外科分野においてはケロイド・肥厚性瘢痕の予防・治療薬として広く臨床で使用されているが,そのがん幹細胞増殖抑制効果を新たに見出し報告した.この結果を受け,進行食道がん患者を対象としたトラニラスト併用化学療法のPhase I/II studyを特定臨床研究として開始している.胃がんにおいては,電位依存性Ca2+チャネル(CACNA2D1,CACNB4)のがん幹細胞特異的な高発現と,阻害薬であるアムロジピンやベラパミル(高血圧・狭心症治療薬,抗不整脈薬)のがん幹細胞増殖抑制効果を見出した.また,膵がんにおいては,電位依存性KチャネルのサブファミリーであるKCNB1,KCNC1,KCND1のがん幹細胞特異的な高発現と,阻害薬である4-アミノピリジン(多発性硬化症治療薬)のがん幹細胞増殖抑制効果について報告した.本総説では,我々の研究で得られた新知見を紹介し,がん幹細胞特異的に発現するイオン輸送体を標的とした新たな治療概念とその展望について概説したい.

  • 高橋 重成
    2023 年 158 巻 6 号 p. 475-477
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル 認証あり

    通常の居場所(niche)を逸脱して生存・増殖するがん細胞は,代謝異常や細胞外マトリックスからの解離など,様々な障害を受けている.これらの障害は細胞恒常性を揺るがす摂動因子であり,結果としてがん細胞は好気性生物が被る酸素毒性(即ち,酸化ストレス)の影響を色濃く受ける.つまり,強固な酸化ストレス防御能を有することが,がん細胞の生存にとって必須である.しかし,どのような機構でがん細胞が酸化ストレス防御を示すのかは,詳細が明らかにされていない.今回,主に感覚神経にて酸化ストレスセンサーとして機能するTRPA1チャネルが実は多くのがん細胞において発現しており,がん酸化ストレス防御機構を担うことを発見した.TRPA1はがん細胞において活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)を感知し,細胞内にCa2+を流入させることで抗アポトーシス経路を活性化する.本発見は,従来知られていたROSを減らす,即ち抗酸化を介する古典的(canonical)経路に加えて,TRPA1を介した酸化ストレス「耐性」という非古典的(non-canonical)経路の存在を示すものである.

  • 大矢 進
    2023 年 158 巻 6 号 p. 478-482
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル 認証あり

    カリウム(K)チャネルは,細胞膜や細胞内小器官における膜電位の形成・維持や細胞容積の調節に重要な役割を果たしており,①細胞周期,遺伝子発現の制御,および②細胞分裂,細胞移動の制御に関与している.近年,イオンチャネル・トランスポーターのがんの発生・進行と悪性化への関与が注目され,各種Kチャネルもがん分子マーカーやがん治療標的分子として期待されている.3次元(3D)スフェロイド培養モデルは,がんの発生,転移,再燃,化学療法に対する耐性など,がんの悪性化の原因となるがん幹細胞のがん微小環境における特徴をin vitroで解明するための研究ツールである.著者らは,市販の超低粘着性プレートを利用して,カルシウム(Ca2+)活性化KチャネルKCa1.1発現ヒトがん細胞株の3Dスフェロイドモデルを作成し,KCa1.1阻害薬が抗アンドロゲン薬や化学療法薬に対する抵抗性を克服させることを明らかにした.また,KCa1.1阻害のアンドロゲン受容体や薬剤排出トランスポーターの発現調節に関わる分子メカニズムを解明した.さらに,がん幹細胞化に伴うKCa1.1発現亢進にユビキチンE3リガーゼFBXW7のダウンレギュレーションが関与することを見出した.これらの結果は,抗がん薬の併用療法の新たな治療オプションとしてKCa1.1阻害薬が有効である可能性を示している.本稿では,in vitro 3Dがんスフェロイドモデルを利用したKCa1.1研究に関する著者らの最近の知見を紹介し,がん幹細胞を標的とした薬物治療の標的分子としてのKチャネルの潜在性について議論する.

創薬シリーズ(8)創薬研究の新潮流59 ~ベンチャーが拓く創薬研究~
  • 島田 卓
    2023 年 158 巻 6 号 p. 483-489
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル 認証あり

    ヒト肝細胞キメラマウスは免疫不全と肝障害の両方の形質をもつマウスに,正常なヒト肝細胞を導入した実験動物である.株式会社フェニックスバイオが提供するPXBマウス®は,cDNA-uPA/SCIDマウスをホスト動物として作製され,肝臓の70%以上がヒト肝細胞に置換されていることから,創薬ツールとして,ヒト特異的代謝物探索などの薬物動態や,ヒト肝毒性の予測,抗肝炎ウイルス薬の研究などに利用されてきた.さらに,近年注目を集める新規モダリティである,核酸医薬や遺伝子治療薬においては,ひとつの臓器の大部分が正常なヒト細胞で構成されているという特徴から,ヒト特異的な核酸配列に起因する有効性検証やオフターゲット効果の検証に利用されることが期待されている.本稿では,これら研究分野における実績を中心に,PXBマウスの特性を紹介する.

新薬紹介総説
  • 川西 政史, 藤井 康行
    2023 年 158 巻 6 号 p. 490-499
    発行日: 2023/11/01
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

    新規TNF阻害薬であるオゾラリズマブは,関節リウマチ(RA)を適応症とする国内初のナノボディ®製剤である.抗ヒトTNFαナノボディ®分子2つに抗ヒト血清アルブミンナノボディ®分子1つを有する3量体構造のヒト化融合タンパク質(低分子抗体)であり,Fc領域を持たないという構造的特徴を持つ.非臨床試験では,in vitro試験においてTNFαで誘導される細胞死に対する抑制作用を示し,その阻害濃度はエタネルセプト,アダリムマブ及びインフリキシマブより低値であった.In vivo試験ではマウス空気嚢モデルにおけるヒトTNFα誘発細胞浸潤に対する抑制効果,ヒトTNF遺伝子導入関節炎モデルマウスにおける関節炎スコア抑制効果を示した.さらにオゾラリズマブは,関節炎モデルマウスにおける炎症部位への速やかな移行性を示し,TNFαとの免疫複合体が皮下炎症モデルでの炎症を誘発しないなど,構造的特徴に起因すると考えられる既存のIgG抗体とは異なる薬理学的性質を示した.臨床試験では,オゾラリズマブはメトトレキサート(MTX)治療で効果不十分なRA患者を対象とした治験において4週間に1回の皮下投与にて有効性を示し,その臨床症状の改善効果は投与3日目から認められた.また,MTX非併用のRA患者に対しても臨床症状の改善を示し,安全性プロファイルは既存のTNF阻害薬と大きな相違がないことが確認された.大正製薬株式会社はこれらの成績をもとに製造販売承認申請を行い2022年9月に製造販売承認を取得した.オゾラリズマブはRA患者に対して臨床症状の早期改善を示し,また他の生物学的製剤と異なる構造的特徴を持つことから,他剤で効果不十分な患者に対しても有用な薬剤になることが期待される.

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