日本薬理学雑誌
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136 巻 , 1 号
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特集 アルツハイマー病治療薬の研究戦略
  • 高橋 秀樹
    2010 年 136 巻 1 号 p. 6-10
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/09
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病(AD)治療薬の前臨床段階の研究には,様々な動物モデルがそれぞれの有用性と問題点が考慮された上で効果的に利用されている.古典的な脳損傷モデルはAD脳内で病変が顕著である特定の領域の神経変性を再現できる.また,遺伝子改変動物はAβやタウ病変などのAD脳の病理学的特徴を模倣できる.一方,老化動物は加齢依存的な認知障害に関連したモデルとして確立され,老年期の諸種中枢神経系疾患治療の評価に用いられている.これらのモデルはADの分子生物学的および病態生理学的な理解に多大な貢献をしてきたとともに,治療薬候補の評価に用いられてきた.それにも関わらず,ADの薬物治療は未だ対症療法のみしか承認されておらず,その症状改善戦略も治療効果が限定的にしか認められていない.現在までに,ADの完全なモデルは確立されていないが,既存モデル以上にADの病理や行動異常を示すモデルを作製し,それらを前臨床評価に採り入れることによって,より効果的な治療法の開発が実現するだろう.次世代のADモデルを確立し,それらにトランスレーショナルな手法を適用できれば,近い将来,AD治療薬研究やAD研究そのものが大きく進展し,新たな進展抑制薬の創出につながると期待される.
  • 福島 哲郎
    2010 年 136 巻 1 号 p. 11-14
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/09
    ジャーナル フリー
    要約:アルツハイマー病(AD)は進行性の神経変性疾患であり,アミロイドβ(Aβ)やタウの凝集・蓄積に起因する神経変性が病態に関与すると考えられている.T-817MAは,神経栄養因子様作用を有する低分子化合物であり,ADの進行抑制と症状改善を目指す治療薬として,現在北米で臨床試験が進められている.T-817MAは,培養ラット神経細胞において神経突起伸展を促進し,Aβが誘発する神経細胞死を抑制した.また,AD病態モデルとして知られているラット脳室内Aβ持続注入モデルにおいて,Aβ持続注入4週目にみられる認知機能の低下に対してT-817MAは抑制作用を示した.さらに,Aβ持続注入8週間後からT-817MAの投与を開始した場合でも低下した認知機能を回復させた.一方,病理学的観察においてもT-817MAはAβ持続注入による海馬歯状回領域の神経細胞変性を抑制し,神経新生の減少を回復させることが確認された.これらの結果により,T-817MAは神経保護効果に加え,神経ネットワークを再構築することにより症状を改善する効果を有すると示唆された.また,ヒト変異タウ(P301L)トランスジェニックマウスにおける海馬歯状回領域のシナプトフィジンの低下を抑制し,認知機能の低下を改善するなど,T-817MAの神経保護効果の作用メカニズムは,軸索変性に対する抑制作用が関与していることが示唆されている.以上より,T-817MAはADの進行を抑制し,認知機能を回復させる治療薬として期待される.
  • 志鷹 義嗣, 三谷 泰之, 長倉 晃, 三宅 哲, 松岡 信也
    2010 年 136 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/09
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病(Alzheimer’s disease: AD)の発症には,アミロイドβペプチド(Aβ)の生成増加や分解低下に伴う凝集/蓄積Aβの増加が関与していると考えられている(アミロイド仮説).Aβは,その前駆体であるAPP(amyloid precursor protein)がβおよびγセクレターゼによって切断されることによって生成される.また,脳内で生成されたAβは一定の割合で分解・除去される.アミロイド仮説に沿えば,脳内の悪玉Aβ量を低下させることがAD病態の進行抑制に繋がると考えられ,Aβの生成抑制,Aβクリアランスの促進,オリゴマーAβの形成抑制などが創薬コンセプトとなり得る.本稿では,低分子アミロイド抑制薬の研究開発状況を作用機序別に紹介する.
  • 荒木 伸
    2010 年 136 巻 1 号 p. 21-25
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/09
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病の治療戦略としてアミロイドβ (Aβ)の生成や凝集を阻害すること,あるいはAβを除去することなどが考えられている.Aβを除去するという観点では,アミロイドβ免疫療法が最も妥当性が高いと考えられる.アミロイドβ免疫療法は,エラン社のDale SchenkらがヒトAPP高発現マウス(PDAPPマウス)にAβ1-42を免疫し脳内のアミロイド形成抑制,除去を示したことからはじまる.しかしながら,最初に治験されたAβワクチンAN1792は髄膜脳炎の発生により十分な薬効評価を行えず中止を余儀なくされた.その後,AβのN末端だけを抗原に用いるなど髄膜脳炎を発生しにくいことを想定したAβワクチンの開発が進んでいる.一方,抗体療法においては,多くのメーカー/機関により様々な部位をエピトープとする抗Aβ抗体の開発が進められている.その中で,我々は,スウェーデンの家族性AD患者から新たに見出されたArctic変異を有するAβ(Aβ E22G)の凝集性の高さに注目し,これから調製されたプロトフィブリルを抗原にして作製した抗Aβプロトフィブリル抗体mAb158(マウス抗体)からの創薬を進めてきた.mAb158はAβプロトフィブリルに高い結合能を示し,Tg-APP ArcSweマウス脳内のAβプロトフィブリル量を顕著に減少させたことから,mAb158のヒト化抗体(BAN2401)を作製しAD免疫療法として開発すべく様々な検討を行っている.
総説
  • 福原 茂朋, 望月 直樹
    2010 年 136 巻 1 号 p. 26-30
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/09
    ジャーナル フリー
    アンジオポエチン–1(Ang1)は,血管内皮細胞に発現するTie2受容体を介して,血管構造の安定化と血管新生の相反する機能を制御している.Ang1-Tie2シグナルは内皮細胞間接着によって空間的,機能的に制御されている.細胞間接着を有する内皮細胞において,Ang1はTie2のトランス結合を形成し血管安定化シグナルを活性化する.一方,細胞間接着を持たない内皮細胞では,Ang1はTie2を細胞—基質接着部位にターゲットすることで,血管新生シグナルを惹起する.細胞間接着部位でトランス結合したTie2は,Akt経路を介して,内皮細胞の生存促進作用および抗炎症作用を発揮すると共に,内皮細胞間接着を増強することで,血管構造の安定化に寄与している.血管の不安定化は,様々な疾患の発症と密接に関連しているが,最近Ang1-Tie2シグナルの血管安定化作用を,これら疾患の治療法開発に応用しようとする試みがなされている.
  • 山崎 良彦
    2010 年 136 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/09
    ジャーナル フリー
    ニコチンは,神経細胞の興奮性やシナプス伝達を変化させる.脳内報酬系におけるニコチンの作用は多くの注目を集めているが,ある種の記憶・学習の成立に必要な構造である海馬でもニコチンが多様な効果をもたらすことがわかってきた.ニコチン受容体は抑制性介在ニューロンに多く発現しているが,そのサブタイプによって,ニコチン刺激に対し速い脱感作を示したり,あるいは持続的に反応したりする.その結果,ニコチンは複数の機序によって抑制性シナプス伝達を修飾し,主細胞である錐体細胞の興奮性を調節する.また,抑制性シナプス伝達の修飾に加え,ムスカリン受容体の活性化を含む機序によって,N-methyl-D-aspartate受容体反応を増大させ,記憶・学習の細胞レベルでの基礎過程と考えられている長期増強の誘導を促進する.ここでは,上記のような,海馬神経回路に対するニコチンの効果とその作用機序について概説し,ニコチンの作用の多様性について述べてみたい.
実験技術
  • 山田 雅之, 仁木 直人, 浜田 知久馬
    2010 年 136 巻 1 号 p. 36-41
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/09
    ジャーナル フリー
    医薬品開発において開発候補化合物の特性を評価する方法の1つに,用量反応関係の解析がある.広い用量範囲で用量反応関係を検討できるin vitro試験では,用量反応モデルを当てはめて推定されたパラメータを用いて化合物の特性評価が行われる.薬物の最大効果が実験系の最大効果に達しない部分作用薬では,用量反応モデルのパラメータの他に薬物の最大反応の程度を示す相対効果についても興味がある.創薬研究に広く用いられているin vitro試験のデザインを考慮し,相対効果を直接推定可能な用量反応モデルは提案されていない.本研究では,個体間変動が見られるサイトカイン産生抑制試験を想定し,4パラメータロジスティックモデルを拡張して,相対効果を設定したロジスティックモデルを提案した.シミュレーション実験により,既存法と提案モデルの性能を評価し,さらに実データへの適用を行い,既存法との比較により提案法の有用性を検討した.シミュレーション実験の結果,個体間変動の大きいパラメータにのみ変量効果を設定し,相対効果を直接推定するモデルを用いることで,相対効果がある程度大きい場合には,安定し,かつ精度の良い推定が可能であることが示された.また,実データへの適用により,既存法と同様の推定結果が得られた.以上より,サンプルサイズが小さいin vitro試験において,相対効果を設定したロジティックモデルは既存法と同様に適用可能であることが示された.
創薬シリーズ(5)トランスレーショナルリサーチ(3)(4)
  • 永田 良一
    2010 年 136 巻 1 号 p. 42-45
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/09
    ジャーナル フリー
    医薬品開発受託研究機関(Contract Research Organization: CRO)である新日本科学(SNBL)は,非臨床から臨床までに渡る広範な資源(技術,ノウハウ,研究施設)を活用して“トランスレーショナルリサーチ(TR)事業”に取組んでいる.TR事業では,自社研究のほか,大学などの研究機関やバイオベンチャー(BV)における基礎研究から生まれる有望なシーズを共同研究開発という形でインキュベートして,医薬品などの評価・承認に必要な前臨床試験や臨床試験を行い,付加価値を高めて事業化へつなげることを目指している.本稿では,創薬を取巻く環境,TR事業の基本構想,ならびに具体的な取組み事例として核酸医薬,抗うつ薬,経鼻製剤の開発概要を示した.
  • 漆谷 徹郎
    2010 年 136 巻 1 号 p. 46-49
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/09
    ジャーナル フリー
    マイクロアレイ技術の発達により,一度に全遺伝子の発現を定量するという,一時代前は夢のようなことが可能となった.医薬品開発における安全性研究は,何が起こるか分からないという状態で発生確率の低い有害作用の可能性を予測せよという,一見して不可能なことを強いられていたが,これを毒性学に応用したトキシコゲノミクスという領域が生まれ,安全性研究に革命をもたらした.我が国のトキシコゲノミクスプロジェクトは,世界最大規模のデータベースTG-GATEsを完成させたが,これを安全性試験に適用するには多くの課題が見いだされてきた.現在,後継プロジェクトにおいて,このシステムを活用し,安全性バイオマーカーの創出に力を注いでいる.
新薬紹介総説
  • 平井 圭介, 加藤 浩紀, 西川 久夫, 行弘 信仁, 西山 啓次, 宮本 政臣
    2010 年 136 巻 1 号 p. 51-60
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/09
    ジャーナル フリー
    既存の睡眠薬は,GABAA受容体に作用して睡眠を誘発する.GABAA受容体は,脳幹毛様体,辺縁系,海馬,小脳,脊髄,大脳皮質辺縁系など広範囲に存在し,種々の神経伝達物質を含有する神経に対して, Clイオンの細胞内流入を介して抑制的に作用する.そのため,睡眠誘発作用は示すものの,その睡眠は自然睡眠とは異なり,筋弛緩作用,前向性健忘,反跳性不眠,依存性などの種々の有害作用を惹起する.これに対してラメルテオン(Ramelteon,TAK-375,商品名Rozerem®)は,主に視床下部視交叉上核に存在するメラトニン受容体(MT1/MT2受容体)にアゴニストとして作用してcAMP産生系を抑制し,サルおよびネコで強力な睡眠誘発作用を示した.その睡眠パターンは自然睡眠に極めて近いものであった.また,既存薬で見られる学習記憶障害,運動障害,依存性などは見られなかった.ラメルテオンは入眠障害を特徴とする睡眠障害患者における臨床試験において,入眠までの時間を短縮するとともに総睡眠時間を増やした.ヒトにおいても記憶障害や運動障害などの有害作用は極めて少なく,依存性も見られず,反復投与においても耐性や反跳性不眠も認められなかった.ラメルテオンは,ヒトの睡眠覚醒サイクルを司る視交叉上核に作用する新規作用機序を有し,副作用が少なく生理的な睡眠をもたらす不眠症治療薬として期待される.
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