日本薬理学雑誌
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137 巻, 2 号
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特集 プライマリ・ケアの実践と薬理学
  • 石橋 幸滋
    2011 年 137 巻 2 号 p. 60-64
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/02/10
    ジャーナル フリー
    プライマリ・ケアの現場で働く医師は,子供から老人まで,感冒から生活習慣病まで様々な疾患を診ているため,数多くの薬を使用している.しかし,医師は薬の薬理作用,特に臨床薬理に関しては十分な教育を受けて来ているとは言いがたい.そのため,使用する薬の薬理作用を理解し,副作用にも配慮して使用する努力はしているが,その知識は不十分と言わざるを得ない.その上,多剤服用者の増加による併用薬の相互作用,次々に認可される新薬など必要な知識はますます増えている.これらの現状に対応していくためにプライマリ・ケア医は,基本的な薬理学知識と最新の薬に対する客観的で正確な知識を持たなければならない.しかし,その修得は極めて困難であり,この状況を補うために,プライマリ・ケアの現場で働く薬剤師によるチェックやアドバイスが必要とされており,医師と薬剤師の協動が不可欠である.
  • 笠師 久美子
    2011 年 137 巻 2 号 p. 65-67
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/02/10
    ジャーナル フリー
    本来,スポーツは健全な心身のもとに競技が行われるべきであるが,薬物等の誤用や濫用による「ドーピング」が社会問題にまで発展している.これは一部の作為的な行為によるものばかりではなく,医薬品やドーピングに関する知識不足による使用も多く含み,結果的に同様の制裁を受けるのが現状となっている.2007年にドーピング防止ガイドラインが文部科学省により策定され,薬剤師も積極的にドーピング防止活動に努めることが明記された.ドーピング撲滅のために薬剤師が介入できる事項としては,薬に関する教育や相談応需,医薬品情報の提供,禁止物質の治療目的使用に係る除外措置(TUE)に関する支援などがあげられる.薬剤師の職務である適正な薬物療法と安全性の担保は,スポーツにおいても求められるところである.そのためには,従来薬剤師が医薬品として理解している「薬物」に加え,ドーピング効果を期待する「薬物」としての情報が求められる.
  • 上塚 朋子
    2011 年 137 巻 2 号 p. 68-69
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/02/10
    ジャーナル フリー
    薬学部6年制への移行に伴い,臨床実習の延長や実習前の客観的臨床能力試験に注目が集まっているが,従来からカリキュラムに組み込まれている薬理学は現在でも変わらず重要だと考えられる.近年の薬物治療の高度化・複雑化に伴い,薬剤師の業務は処方に基づく調剤といった医薬品の供給から,包括的な患者ケアを提供する方向に拡大している.業務の基礎となっている知識は幅広いが,とりわけ薬理学は土台となる知識である.薬理学の知識が将来薬剤師として患者ケアを提供する際に必要である実感を持つためには,従来の講義形式の薬理学の教育方法に工夫を加えることが望ましい.日米両国での薬学教育を受けた経験から感じたのは,疾患の治療への応用,臨床での薬の使用場面が想起できれば,学習意欲の向上が期待でき,身に付けた知識を臨床で患者ケアに応用することが可能になる.
実験技術
  • 松井 勇人, 櫻井 文教, 形山 和史, 水口 裕之
    2011 年 137 巻 2 号 p. 70-74
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/02/10
    ジャーナル フリー
    1970年代後半からの分子生物学の顕著な進歩を背景に,これまで不明であった様々な疾患の原因が,遺伝子やタンパク質のレベルで解き明かされる時代となってきた.そして今日では,明らかとなった疾患関連遺伝子情報を元に,今までに効果的な治療が望めなかったような難治性疾患に対する遺伝子治療研究が精力的に行われている.しかし,遺伝子治療の実用化には依然多くの問題が残されており,特に安全に効率よく治療用遺伝子を標的細胞に導入可能なベクターの開発が最重要研究課題となっている.アデノウイルス(Ad)ベクターは,既存の遺伝子導入用ベクターの中では最も高い遺伝子導入効率を示すなど,遺伝子治療用ベクターとして多くの長所を有することから,遺伝子治療臨床研究で広く用いられている.しかしながら,Adベクターの抱える問題点として,1)Coxsackievirus and adenovirus receptor(CAR)を受容体とし感染するため,CAR陰性細胞(樹状細胞や悪性度の高いがん細胞など)への遺伝子導入が困難であること,2)生体内に投与した場合,Adベクターからわずかに産生されるウイルスタンパク質に対する細胞障害性T細胞が誘導され,組織障害が生じることなどが挙げられる.これらの問題を解決するために,これまでに様々な改良型Adベクターが開発されてきた.本総説の前半では,主な改良型Adベクターを紹介し,後半では,Adベクターを用いた神経系細胞への遺伝子導入ならびに神経疾患・神経膠腫(グリオーマ)の遺伝子治療について最近の報告を織り交ぜて述べることにする.
創薬シリーズ(5)トランスレーショナルリサーチ(13)(14)(15)
  • 西谷 孝子, 松村 保広, 片岡 一則
    2011 年 137 巻 2 号 p. 75-78
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/02/10
    ジャーナル フリー
    原子を組み上げ,新物質,新デバイス,新システムを作り上げるというナノテクノロジーの“ボトムアップ的手法”によるナノテクノロジー製品の先駆としてナノ粒子を挙げることができる.生命現象を司る分子機構に基づいた分子アッセンブリーシステムとして構築されたナノ粒子には,局所治療を成し遂げる極小デバイスやドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発に利用の道が開かれている.DDSは,毒性の高い制がん薬を病変部位へ特異的に送達することのできる優れた投薬システムであり,がん治療用DDS製剤の開発が急がれている.本稿では,片岡らによって考案された制がん薬内包高分子ミセルの開発を紹介し,トランスレーショナルリサーチの在り方を考察した.
  • 橋本 亮太, 安田 由華, 大井 一高, 福本 素由己, 山森 英長, 新谷 紀人, 橋本 均, 馬場 明道, 武田 雅俊
    2011 年 137 巻 2 号 p. 79-82
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/02/10
    ジャーナル フリー
    精神疾患によって失われる普通の健康な生活は,他のすべての疾患と比較して最も大きいことが知られており,社会的経済的な影響は重大である.精神疾患の代表である統合失調症の治療薬である抗精神病薬はその効果が偶然見出された薬剤の発展型であるが,これらを用いると20~30%の患者さんが普通の生活を送ることができるものの,40~60%が生活全体に重篤な障害をきたし,10%が最終的に自殺に至る.そこで統合失調症の病態に基づいた新たな治療薬の開発が望まれており,分子遺伝学と中間表現型を用いて,統合失調症のリスク遺伝子群を見出す研究が進められている.これらのリスク遺伝子群に基づいた治療薬の開発研究が始まっており,今後の成果が期待される.
  • 赤水 尚史
    2011 年 137 巻 2 号 p. 83-85
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/02/10
    ジャーナル フリー
    グレリンのユニークで多彩な生理・薬理作用を臨床応用しようとする創薬研究が現在精力的に行われている.本稿では,グレリンの内分泌・摂食作用に関する創薬研究を述べる.成長ホルモン(GH)分泌促進作用と摂食促進作用に対して,それぞれ対象疾患が探索され,一部ではすでに臨床試験が実施されている.前者に関しては,成長ホルモン分泌不全症の診断・治療薬,高齢者QOL改善薬としての可能性が検討されている.後者については,カヘキシア,神経性食欲不振症,機能性胃腸症などの食欲不振ややせを呈する疾患が候補として挙げられている.本稿では,これらの創薬研究に関する現状を紹介する.
新薬紹介総説
  • 安岡 由佳, 後藤 新, 芹生 卓
    2011 年 137 巻 2 号 p. 87-94
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/02/10
    ジャーナル フリー
    アバタセプトはCTLA-4細胞外領域とIgGのFc領域からなり,抗原提示細胞とT細胞間の共刺激経路を阻害することでT細胞活性化を調節する新規の薬理作用を持つ関節リウマチ治療薬である.関節リウマチの病態形成にはT細胞の活性化が重要な役割を果たしており,T細胞の活性化の調節には抗原提示細胞からの共刺激経路が必須であることが報告されている.関節リウマチを適応としている既存の生物学的製剤がTNFやIL-6等の炎症性サイトカインを標的としているのに対して,アバタセプトは炎症発生の上流で作用し,抗原提示細胞上のCD80/86と結合することによりT細胞への共刺激経路を阻害し,T細胞の活性化を抑制する.その結果,下流における炎症性サイトカインやメディエーターの産生が抑制される.アバタセプトは非臨床試験では,in vitro試験においてCD4陽性T細胞の増殖およびIL-2,TNF-α等のサイトカインの産生を抑制した.さらに,ラットの関節炎モデルにおいて,足浮腫,炎症性サイトカイン産生および関節破壊を抑制した.また,臨床試験においてもアバタセプトは,海外試験では,関節リウマチの標準的治療薬であるメトトレキサートの効果不十分例やTNF阻害薬の効果不十分例,さらには発症早期の関節リウマチに対しても疾患活動性の改善ならびに関節破壊抑制効果を示した.本邦においては,海外臨床成績を日本人に外挿して用いるブリッジング戦略に基づいて開発がすすめられ,2010年9月に関節リウマチに対する治療薬として上市された.新規作用機序をもつアバタセプトは,関節リウマチ治療において新たな治療オプションをもたらすものと考えられる.
  • 石井 豊, 田中 岳
    2011 年 137 巻 2 号 p. 95-102
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/02/10
    ジャーナル フリー
    レベチラセタムは,ピロリドン誘導体の新規抗てんかん薬である.薬理試験として,てんかんモデルおよび急性けいれんモデルを用いて,レベチラセタムの作用を検討した結果,実施したキンドリングモデル等の全ての部分発作および全般発作を有意に抑制し広範な発作に対する有効性が示された.しかし,既存の抗てんかん薬とは異なり,最大電撃けいれん(MES)等の急性けいれんの抑制作用は認められなかった.また,レベチラセタムの作用機序として,(1)Synaptic Vesicle Protein 2A(SV2A)への結合,(2)N型カルシウム(Ca2+)チャネル阻害,(3)細胞内Ca2+の遊離抑制,(4)GABAおよびグリシン作動性電流に対するアロステリック阻害抑制および(5)神経細胞間の過剰な同期化の抑制を見出したが,特にレベチラセタムが有するSV2Aへの高い親和性は既存の抗てんかん薬にはみられない特徴であった.実際に,レベチラセタムのSV2Aへの親和性と各種てんかんモデルに対する発作抑制作用との間に高い相関が認められたことから,レベチラセタムはSV2Aに結合し神経伝達物質放出を調節し,てんかん発作を抑制すると考えられた.一方,本邦の臨床試験では,第III相試験として既存の抗てんかん薬による治療で十分にコントロールできない部分発作を有するてんかん患者を対象にプラセボ対照二重盲検比較試験を実施し,レベチラセタムの有効性および安全性を確認した.レベチラセタムの代謝はチトクロムP-450の関与を受けず,併用された既存の抗てんかん薬の薬物動態にも影響を及ぼさなかったことから,既存の抗てんかん薬でしばしば問題となる他剤との薬物相互作用のリスクは少ないと考えられる.以上の成績および特徴から,レベチラセタムは本邦において部分発作を呈する難治てんかん患者に対して有用な治療薬になるものと考えられる.
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