日本薬理学雑誌
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123 巻, 6 号
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ミニ総説号:細胞外シグナルとしてのATPの放出とその役割
  • 桂木 猛, 右田 啓介
    2004 年 123 巻 6 号 p. 382-388
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/25
    ジャーナル フリー
    近年,ATPのオートクリン/パラクリンシグナルとしての放出のメカニズムを探る研究が欧米を中心に盛んに行われているが,未だ,諸説入り乱れた状態で明確な結論を得るに至っていない.これについては,多彩な研究のアプローチが見られるが,これは以下に示すように大きく4つに分けられるようである.(1)先ず,ATP結合カセットであるCFTRの活性化がClチャネルの開口と,ATP放出を引き起こすという説であるが,これを否定する報告も多く,その論争は現在も続けられている.(2)これに関連して,赤血球のデフォルメーションの結果,CFTRの活性化によってATPが放出されるという一連の報告もある.(3)グリア細胞や種々の株細胞から機械的刺激などによるInsP3産生増加がヘミチャネルを介してATPを放出する.このATPがパラクリンとしてP2Y受容体を刺激して,InsP3とCa2+の細胞内増加を引き起こし,この繰り返しにより,Ca2+波が伝播するという考え方もある.(4)平滑筋などでInsP3産生を促す神経伝達物質(ATPを含む)やペプチド類による受容体刺激でATP放出が見られるが,InsP3産生以降の放出機構は現在不明である.このように用いる細胞や刺激の種類によってATPの放出には様々なメカニズムの存在が示唆され,今後の研究のさらなる進展が待たれる.
  • −細胞外ATPの役割−
    小泉 修一, 井上 和秀
    2004 年 123 巻 6 号 p. 389-396
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/25
    ジャーナル フリー
    神経膠細胞(グリア細胞)は,ヒト脳ではニューロンの10倍もの多数を占めており,このグリア細胞存在比はヒトが圧倒的に高い.嘗て,ニューロンの物理的支持細胞と考えられていたこの糊(glue)様細胞であるグリア細胞が,実はニューロンの活動をダイナミックに制御しているとして最近注目を集めている.特に,グリア細胞で最大数を占めるアストロサイトは,ニューロンに寄り添い,シナプスを覆うように存在していること,ほとんどすべての神経伝達物質受容体を発現していること,ニューロン活動に応答して液性因子放出能を有すること,などから第三のシナプスとして注目されており,ニューロン−アストロサイトの協力によって所謂シナプス伝達が成り立っている可能性が示唆されている.本稿は,特にアストロサイト間の情報伝達“gliotransmission”が,アストロサイトが放出する液性因子“ATP”によって行われていること,また刺激依存的に放出されたアストロサイト由来ATPが,海馬ニューロンの興奮伝達を抑制性に制御していることを示す.さらに,アストロサイトは自発的ATP放出能を有し,これにより自発的gliotransmission,さらに恒常的に海馬ニューロンを抑制している.このように,脳のダイナミックな情報伝達·発信機能は,従来考えられていたようなニューロンの活動だけに起因するものではなく,アストロサイトの積極的な制御および加工を受けている可能性が高い.脳機能は,グリアーニューロン連関の総合的な機能としてとらえる必要がある.
  • 古家 喜四夫, 秋田 久美, 曽我部 正博
    2004 年 123 巻 6 号 p. 397-402
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/25
    ジャーナル フリー
    ATPは普遍的な細胞外情報伝達物質として認識されつつあるが,その放出には機械的な刺激が関与する場合が多く,メカノシグナリングにおいて重要な役割を担っていると考えられる.授乳期の乳腺では分泌上皮の袋である腺胞のまわりを筋上皮が取り囲んでおり,オキシトシンによって収縮することで射乳が起こる.この系での生理的な機械刺激としては,[1]オキシトシンによる筋上皮の収縮,[2]ミルクによる腺胞の膨張等が考えられる.[1]に関しては,分泌上皮と筋上皮細胞の共培養系を作成しオキシトシンによって筋上皮細胞を収縮させたとき,分泌上皮細胞からATPが放出されCa2+波が伝播すること;[2]に関しては,薄いシリコンゴム膜上に細胞を培養し伸展刺激を与えたとき,ATPの放出とCa2+の上昇が刺激強度依存的に起こること,によってそれぞれATP放出の機械刺激となることを示した.放出されたATPは分泌上皮細胞のP2Y2型ATP受容体および筋上皮細胞のP2Y1にオートクライン/パラクライン作用しミルクの分泌を制御していると考えられる.とくに,筋上皮細胞のP2Y1の活性化はオキシトシン受容体を協調的に増強し,オキシトシンに対する感受性を1桁上げることから,ミルクの満たされた腺胞のみが血中濃度のオキシトシンによって収縮できるという機構の存在を示唆した.ATP放出経路に関しては機械刺激による一過性の放出以外に自発性の持続的放出があり,それは細胞外Ca2+-free溶液中で増強した.Luciferin-Luciferase反応を用いた放出ATPの定量,薬理学的処理などの結果,少なくとも2種以上のATP放出経路の存在が示唆された.細胞外ATPシグナリングにおけるATP放出経路はいわば細胞内Ca2+シグナリングにおけるCa2+チャネルに相当し,その経路,制御機構は多彩であると考えられる.
  • 大池 正宏, Droogmans Guy, 伊東 祐之
    2004 年 123 巻 6 号 p. 403-411
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/25
    ジャーナル フリー
    血管内皮細胞は様々な生理活性物質を分泌して血管の緊張や増殖の調節に関わり,その機能は血中の液性因子や血球との接触,さらに血流や血圧で加わる機械的な刺激によってもたらされる.これらの調節機構のひとつとして,機械刺激によって内皮からATPが放出され,オートクリン/パラクリン的に自身あるいは周囲の細胞に作用して一酸化窒素の産生などをもたらす反応が知られている.ATPの放出は血管内皮細胞以外にも種々の上皮系および非上皮系細胞で観察されているが,このメカニズムにはなお不明な点が多い.特に,どのような経路を通ってATPが放出されるのかについては未だ結論が得られていない.トランスポーターによる能動輸送,ATP含有小胞の開口放出,陰性荷電物質としてのATPが透過しうる陰イオンチャネルを介した放出などが可能性として示されているが,これらのうち血管内皮細胞で報告されているのは,開口放出と容積感受性陰イオンチャネル(以下VRAC)およびコネキシンを通した放出である.我々はウシ大動脈内皮細胞を用い,VRAC阻害薬によるVRAC電流とATP放出の抑制の濃度反応関係が一致していることを観察した.また,低濃度の細胞外ATPによってVRAC電流が電位依存性に抑制され,この現象がKd(0)1.0 mM,チャネル結合部位の電気的距離0.41とした透過型阻害薬モデルで説明できることを明らかにした.すなわち,この細胞での低浸透圧刺激によるATP放出はVRACを介するものと考えられた.血管内皮細胞の種々の生理機能に及ぼすATP放出の役割の解明とATP放出経路の修飾による内皮機能調節の可能性に向けて,今後の検討が期待される.
実験技術
  • 中島 龍一, 中村 健, 宮川 博義, 工藤 佳久
    2004 年 123 巻 6 号 p. 413-419
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/25
    ジャーナル フリー
    浮腫は,傷害後に起こる様々な細胞内分子反応経路の集約点である.浮腫を観察し,定量化することで,障害の程度を把握することができれば,様々な保護薬の作用を簡便に評価することができる.我々は,急性スライス標本における細胞の浮腫を定量化することが出来る新しい測定系を開発したので本稿で紹介する.この測定系は,赤外線微分干渉顕微鏡(infrared differential interference contrast microscopy: IR-DIC)とスライス標本中の細胞の形態的変化を定量化する,リアルタイム画像解析システムで構成されている.この画像解析システムでは,形態変化を評価するために,IR-DIC画像の輝度の変動係数(CV: coefficient of variation)を用いた.この方法と電気生理学的計測を組み合わせることにより,脳浮腫が生起した時のCV,光透過性,および興奮性シナプス後電位の間の関係を検討した.また,この新しい測定系を用いて,既知の脳保護薬であるマンニトールの浮腫回復作用を定量的に評価した.10分間の虚血負荷後に,マンニトールを投与することによって,濃度依存的に,神経細胞の形態が回復することを確認した.本稿で紹介した新規浮腫測定手法は,浮腫の定量化や,浮腫保護薬の定量システムとして,信頼性,妥当性,定量性が非常に高いものであり,今後様々な応用が期待出来る.
新薬開発状況
  • 廣内 雅明
    2004 年 123 巻 6 号 p. 421-427
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/25
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病(Alzheimer's disease, AD)の治療薬としてアセチルコリンエステラーゼ阻害薬が登場し,認知機能の改善等に貢献している.ADによる重度の痴呆に対する臨床試験も,NMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体のチャネル阻害作用を有する薬物を用いて本邦で進行中である.近年,アミロイドβペプチド(amyloid β peptide, Aβ)量を低下させる薬物をADの治療薬に応用する試みが広がっており,その筆頭がβおよびγ-セクレターゼ阻害薬である.これらはAβの生成だけでなく他の生理的シグナルにも関わるプロテアーゼのため,阻害薬開発にはAβ生成活性に選択性を有することが前提とされており,そのような化合物を探索中である.一方,ある種の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)などはこの条件を満たしており,AD治療に有効とされる種々の作用を併せ持つNSAIDの直接的な応用,あるいはそのようなNSAIDを基盤とした新規化合物の創製も期待されている.
新薬紹介総説
  • 河野 康子, 武内 正吾
    2004 年 123 巻 6 号 p. 429-440
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/25
    ジャーナル フリー
    塩酸プラミペキソール(以下プラミペキソール)は,非麦角系のドパミンアゴニストで,薬理活性の強い左旋性の光学異性体をパーキンソン病(以下PD)治療に用いている.プラミペキソールは,D2受容体サブファミリー(D2,D3,D4)の中ではD3サブタイプへの親和性が最も高く,D1およびD5サブタイプに対する親和性は示さない.各種の実験的PDモデル動物において運動障害を改善し,線条体シナプス後膜のD2受容体刺激を反映する回転行動を誘発し,in vivo,in vitroの実験系で神経保護作用を示した.プラミペキソールの神経保護作用は必ずしもドパミンD2受容体刺激を介するものではなく,D3受容体刺激作用,抗酸化作用によるラジカルの発生抑制,Bcl-2増加とアポトーシス抑制,神経栄養因子増加などの多面的な作用機序が関与しており,神経保護作用の詳細についてはドパミンアゴニスト間で差異が示された.初期および進行期PD患者に対する有効性は,国際的な評価基準であるUPDRS(Unified Parkinson's Disease Rating Scale)PartII(日常生活動作)およびPartIII(運動能力検査)を主要評価項目として欧米で検討され,日本でも確認試験が実施された.その結果,プラミペキソール単独投与(L-DOPA非併用),L-DOPA併用投与のいずれにおいても有用性が示された.さらにプラミペキソールで治療を開始した場合はL-DOPAで治療を開始した場合に比較して,ジスキネジアの発現率が低く,ドパミントランスポーター標識化合物投与後のSPECT(Single-Photon Emission Computed Tomography)による画像診断で線条体ドパミン神経機能低下が遅延することが示唆されている.
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