日本薬理学雑誌
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158 巻, 4 号
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特集:ミエロイド系細胞の新時代:発生機構から創薬標的としての可能性まで
  • 増田 隆博
    2023 年 158 巻 4 号 p. 297
    発行日: 2023/07/01
    公開日: 2023/07/01
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  • 佐藤 荘
    2023 年 158 巻 4 号 p. 298-303
    発行日: 2023/07/01
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル 認証あり

    マクロファージはその発見以来100年以上もの間,一種類の細胞しかないと考えられており,サブタイプが複数ある他の免疫細胞と比較すると日陰の存在であった.しかし近年,徐々に再度スポットライトが当てられ始めている.その中でも,最近のトピックの1つとして,M1・M2マクロファージが挙げられる.しかし,私たちはマクロファージはM1・M2ではなく更に詳細なサブタイプに分かれると仮定して研究を行った.その結果,アレルギーに関わるサブタイプはJmjd3により分化すること,またメタボリックシンドロームに関与するサブタイプはTrib1より分化することを突き止めた.これらの研究から,現在私たちは病気ごとの“疾患特異的マクロファージ”が存在している可能性を考えている.新たな疾患特異的マクロファージを探索するために,線維症に着目した.線維化初期に患部で増えるマクロファージについて解析を行ったところ,一部の細胞が線維症の発症に必須であることを突き止め,segregated nucleus atypical monocyte(SatM)と名付けた.さらに,この細胞に影響を与える非免疫系の解析,またその非免疫系の制御因子の研究を行ってきた.このように,私たちの体には未だ見つかっていない“疾患特異的マクロファージ”が存在しており,各々が対応する疾患が存在していると考えられる.これらの疾患特異的な細胞を標的とした創薬は,その疾患特異性の高さから,副作用の少ない創薬応用につながることが期待される.

  • 金森 光広, 原田 義広, 伊藤 美菜子
    2023 年 158 巻 4 号 p. 304-307
    発行日: 2023/07/01
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル 認証あり

    主要な免疫特権部位である脳においては,他末梢臓器と比較して免疫の研究はあまり盛んではなかった.しかしながら脳はミクログリアと呼ばれる免疫細胞で散りばめられており,とりわけ疾患時には重要な役割を果たす.また疾患時には抹消からも免疫細胞が浸潤する.加えて近年,脳に隣接する組織中の免疫細胞の解析も進み,多くの記述的知見が得られている.しかしながら解析が進むほど,このような免疫応答は症状改善における正と負の両方の作用を持つ複雑な反応であることが明らかとなり,未だに全容の解明には程遠くはっきりとした臨床応用の方向性も定まらないままである.本特集では定常状態に加え,日本の死亡および後遺症を引き起こす主要な原因である脳梗塞,および認知症の実に6~7割を占めるアルツハイマー病におけるミクログリアおよびマクロファージの役割について紹介する.

  • 増田 隆博
    2023 年 158 巻 4 号 p. 308-311
    発行日: 2023/07/01
    公開日: 2023/07/01
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    脳および脊髄を含む中枢神経系組織は,神経細胞やグリア細胞,血管系細胞や免疫細胞など多種多様な細胞によって構成され,それらの複雑かつダイナミックな相互作用によって高度な機能が維持されている.その中でも,中枢機能を正確に維持するために欠かすことのできない細胞が,著者らの研究対象である脳内マクロファージである.脳内マクロファージと聞いてまず思い浮かぶのが,脳内主要免疫細胞として知られるミクログリアではないかと思う.長年の研究から,ミクログリアの細胞特性や機能,他の免疫細胞との関係,中枢神経系疾患への関与などが明らかになってきている.一方,ミクログリアの傍らであまり目を向けられてこなかった第2の脳内マクロファージが存在する.それが,髄膜や血管周囲空間などの境界領域に存在する脳境界マクロファージ(CNS associated macrophages:CAMs)である.その存在は長年認知されてきたものの,CAMsはミクログリアと遺伝子プロファイルが非常に似ており,これまで両細胞種を正確に分けて解析した報告は少なかった.近年,CAMsに着目した研究も増加しつつあり,その理解もようやく進み始めた.本稿では,ミクログリアおよびCAMsに関して,その発生・維持メカニズムや細胞特性,またそれらを解析するための研究ツールについて,最新の知見を交えて概説する.

特集:マイクロバイオーム創薬研究とその将来展望
  • 上桐 和磨, 吉川 公平
    2023 年 158 巻 4 号 p. 312
    発行日: 2023/07/01
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル 認証あり
  • 橋本 求
    2023 年 158 巻 4 号 p. 313-318
    発行日: 2023/07/01
    公開日: 2023/07/01
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    遺伝因子と腸内細菌叢とは相互に影響を与え合い自己免疫疾患の発症に寄与する.TCRシグナル伝達にかかわる主要分子ZAP70に点突然変異を有するSKGマウスは,BALB/c背景において自己免疫性関節炎を,C57BL/6背景において全身性エリテマトーデスを発症する.変異ZAP70によるTCRシグナル伝達低下により,胸腺選択において自己反応性T細胞が負の選択を免れ末梢に出現する.TCRシグナル伝達不全は一方で,腸内細菌反応性T細胞の正の選択を抑制し,その結果,腸内細菌反応性T細胞によって誘導される高親和性IgAの産生の低下により腸内細菌叢のdysbiosisを起こす.腸内細菌叢のdysbiosisは,Th17の分化誘導により自己免疫疾患の発症を促進する.このようにT細胞シグナル伝達不全は,自己および腸内細菌抗原に対する胸腺選択および末梢における反応性の閾値を変えることで,自己反応性の亢進とともに腸内細菌叢dysbiosisを介して自己免疫疾患の発症に至っていた.本稿では,全身性自己免疫疾患に影響をあたえる遺伝子と腸内細菌叢の相互作用について,TCRシグナル伝達不全動物モデルから得られた知見を中心に紹介する.

  • 阿部 高明
    2023 年 158 巻 4 号 p. 319-325
    発行日: 2023/07/01
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル 認証あり

    腎不全に至る主要原疾患である糖尿病性腎臓病(DKD)への介入が重要視されているが,どの糖尿病患者がDKDを発症しあるいは進行してゆくかを占う指標として,eGFRや尿中アルブミンだけは不十分であり新たな指標が求められている.糖尿病患者の体内や腸管内では様々な代謝物が合成されその病態に影響している.我々はDKDのマーカーかつ原因候補代謝物としてフェニル硫酸(PS)を同定した.食事中のチロシンは腸内細菌によってフェノールに変換され,肝臓で硫酸抱合されることでPSとなり,尿中に排泄される.従って腎不全患者ではPSの血中濃度は高い.しかしPSは腎機能が正常でも糖尿病下ではその産生が増加しており,ポドサイト障害を惹起してアルブミン尿を増加させる.糖尿病患者コホート(U-CARE,n‍=‍362)の解析からPSはアルブミン尿と相関し,特に微量アルブミン群患者において2年後のアルブミン尿増悪と相関していた.さらにフェノールを産生する腸内細菌の酵素を阻害すると,蛋白尿の減少と腎機能の改善が認められた.PSは100%腸内細菌が作るフェノールからできる代謝物であり各種腸内環境の介入によるPSの血中濃度の低下はDKDの新規かつより安全な治療法である可能性が示唆された.

  • 寺内 淳
    2023 年 158 巻 4 号 p. 326-331
    発行日: 2023/07/01
    公開日: 2023/07/01
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    次世代シークエンサー(以下,NGSと表記)の登場とその後の欧米による大型国家プロジェクトにより,飛躍的にマイクロバイオームの情報や疾患と関連するデータが蓄積している.とりわけ難治性C. difficile感染症における腸内細菌叢移植療法による驚異的な治療効果が報告されたことからマイクロバイオーム創薬に対する期待が高まり,欧米ではマイクロバイオーム創薬ベンチャーが勃興し既に臨床後期開発品が生まれている.本邦では,残念ながら他のモダリティでも見られるように欧米と比べて周回遅れになりそうな状況であるが,腸内細菌研究では先駆的な研究が国内で始まり,その後も高い研究力を有している分野であることから,国内におけるマイクロバイオーム創薬基盤構築による推進が待ち望まれている.そのような環境下,マイクロバイオーム研究の産業応用を推進する目的で2017年に設立された一般社団法人日本マイクロバイオームコンソーシアムは,製薬会社を含め国内30社以上が参画して協調的活動を進めており,マイクロバイオーム創薬基盤構築に繋がる①ビッグデータを取り扱う上で信頼できる測定基盤としての測定標準,②健常人腸内マイクロバイオームデータ,③マイクロバイオーム創薬を目指した創薬エコシステムの構築,を政府のプロジェクトを活用し,活動を進めている.本稿では,コンソーシアムの紹介とともに,協調的活動を通じた産業化促進についてその内容を報告する.

創薬シリーズ(8)創薬研究の新潮流57 ~ベンチャーが拓く創薬研究~
  • 高橋 厚弥
    2023 年 158 巻 4 号 p. 332-336
    発行日: 2023/07/01
    公開日: 2023/07/01
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    ゲノム編集技術は,基礎研究から非臨床試験・臨床試験と続く医薬品の開発プロセスにおいて,あらゆる場面で革新的な飛躍をもたらしており,技術自体の発展も目覚ましい.特に,2020年のノーベル化学賞を受賞したCRISPR/Cas9システムによるゲノム編集技術は,遺伝子改変マウスや疾患モデルマウスの作製を大幅に効率化し,様々な創薬研究・非臨床試験で利用されている.株式会社セツロテックは,2017年に設立した徳島大学発のゲノム編集スタートアップである.本稿では,CRISPR/Cas9システムによるゲノム編集技術を簡単に振り返ったうえで,当社の概要と独自技術である受精卵エレクトロポレーション法(GEEP法),培養細胞ゲノム編集法VIKING法,そして創薬研究分野への貢献とゲノム編集技術の産業利用への取り組みを紹介する.

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