日本薬理学雑誌
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120 巻, 4 号
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総説
  • 足立 尚登
    原稿種別: 総説
    2002 年 120 巻 4 号 p. 215-221
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    脳が虚血に陥るとたとえ短時間でも後に障害が生じるが,これにはグルタミン酸をはじめとする興奮性神経伝達物質の放出や細胞内Ca2+増加が関与している.ヒスタミンは中枢神経系で神経伝達物質としての作用があり,ヒスタミン神経支配は広く脳全体におよんでいる.虚血時にはヒスタミン神経からのヒスタミン放出も増加し,ヒスタミン神経活動が亢進する.このヒスタミン神経活動を抑制すると虚血による障害が増悪する.また,あらかじめヒスタミンを脳室内に投与しておくと虚血による障害は改善し,逆に,H2受容体遮断によって増悪する.さらに,H2受容体遮断によって虚血時のグルタミン酸やドパミン放出も増加する.以上のことは,脳内ヒスタミンがH2作用によって,興奮性神経伝達物質の放出を抑制し障害を改善することを示唆する.一方,ヒスタミンには血液脳関門の透過性を亢進させる作用や脳浮腫を引きおこす作用があり,これらにもH2作用が関与している.
  • 森下 竜一
    原稿種別: 総説
    2002 年 120 巻 4 号 p. 222-228
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    遺伝子治療が臨床の場に現れて,10年の歳月が過ぎた.単一性遺伝子疾患に始まり,HIVなどの感染症,がんへの治療へと移り,近年では循環器疾患を含む生活習慣病にまで適応されるに至った.アメリカでは,多くの臨床試験が大学·公的研究機関はもちろんバイオベンチャーをスポンサーとして実施されてきた.未だ医薬品として発売された製品は存在しないが,既に臨床試験第3相が実施されているものもあり,2004年には第一号の遺伝子治療医薬品の発売が期待されている.これらの技術は,21世紀の先端医療の中でも中心的医療技術となることは疑う余地はない.遺伝子治療は,ゲノム創薬の代表例であり,医薬品化に適したモデルであり,多くの画期的な新規薬剤をもたらすであろう.日本においても,遺伝子治療ベンチャーが出現し,期待されている.世界に通じる遺伝子治療医薬品の育成に最も大切なことは,ハードルとなっている多くの関連法律·規制の改革整備が早急に行われる事とチャレンジ精神を持った人材(研究者)の育成である.我が国にも早くアメリカ型遺伝子治療医薬品が育つことを期待する.
  • ―ESRによる測定法を中心に―
    江頭 亨, 高山 房子
    原稿種別: 総説
    2002 年 120 巻 4 号 p. 229-236
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    種々の疾患の因子となる酸化ストレスの原因物質であるフリーラジカルの生体内での動態を知るには,不対電子の電子スピン共鳴を測定する電子スピン共鳴法(electron spin resonance, ESR法)が最適である.しかし,ESRでは直接フリーラジカルを測定出来ないので,寿命が短いフリーラジカルを捕捉するために,スピントラッピング法が開発された.トラップ剤がフリーラジカルとすばやく反応し,スピンアダクトを生成する.このスピンアダクトをESRで測定し,得られたスペクトルから捕捉したフリーラジカルを同定することが出来る.X-バンドESRを用いたin vitroの測定では,スピントラップ剤として5,5'-dimethyl-1-pyrroline-N-oxide(DMPO)やα-phenyl-N-t-butylnitrone(PBN)が用いられ,スーパーオキシドやヒドロキシルラジカルを捕捉し,特有のスペクトルを示す.この方法はラジカル消去物質(抗酸化物質)の検索にも利用されている.また,これらを酸化ストレス病態モデル動物に投与し,血中および臓器中のラジカルを検出することも可能である.一方,in vivoでは,L-バンドESRをもちいて,安定なラジカルであるニトロキシルラジカルをスピンプローブとして投与し,そのニトロキシルラジカルのシグナル強度の減衰から生体内ラジカルの動態,生体内抗酸化力などを検討している.この系を用いて生体内のフリーラジカルの発生や酸化ストレスを非侵襲的に丸ごとの動物で測定可能である.最近ではこのスピンプローブを用いて,酸化ストレス病態モデル動物の臓器別画像化にも成功しており,将来ヒトでもESR-CT(ESR-computer tomography)によってフリーラジカルの発生部位や発生量が画像化され,臨床応用も可能になるものと期待されている.
実験技術
  • 田中 求, 河本 定則, 丸山 敬
    原稿種別: 実験技術
    2002 年 120 巻 4 号 p. 237-243
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    咳に関する研究では,麻酔下でポリエチレンチューブなどにより気管を刺激して,横隔膜および腹直筋の筋電図を指標に咳を同定する方法や,クエン酸またはカプサイシンのような化学物質の吸入により咳を誘発し,無麻酔·拘束下で2-チャンバー方式のプレチスモグラフを用いて,胴体部のチャンバー内の圧変化により咳を同定する方法などがある.咳は麻酔の深度に影響を受けやすいこと,またカプサイシンやクエン酸のような刺激性物質の吸入は2回目の反応が著しく低下することから,同一動物を用いて鎮咳薬の評価をすることは困難であった.しかし,今回我々が開発した喉頭内微量注入による咳誘発モデルは,無麻酔·無拘束の条件下で24時間間隔の繰り返し適用でも咳を安定して誘発できることから,同一動物を用いて鎮咳薬の効果を評価することが可能であった.また,Buxco社製の呼吸機能解析システムによる呼吸反応の波形とチャンバー内へマイクを内蔵することにより得られた音声とを同じ時間軸で記録することにより呼息反応を,呼息反射(expiration reflex),ためいき(sigh),嘔気(retching),咳(cough)とくしゃみ(sneeze)に分類することができた.吸入実験の多くは2回目以降の反応の減弱はタキフィラキシーであると報告しているが,我々の実験系では24時間間隔の繰り返し適用ではほとんど反応性が回復していることから,吸入による反応の減弱は息こらえなどの別の機序が考えられる.以上の結果から本咳誘発モデルは呼吸の吸入量や息こらえなどに影響されることなしに咳を確実に誘発できること,24時間間隔の繰り返し適用ができること,咳以外の呼息性反応から咳反応を単離できることなどから,咳に対する鎮咳薬の効果を精度良く評価することができると思われる.
新薬紹介総説
  • 入野田 一彦, 野村 俊治, 橋本 宗弘
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2002 年 120 巻 4 号 p. 245-252
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    リネゾリド(ザイボックス®)は,全く新規なオキサゾリジノン系完全合成抗菌薬であり,2001年4月,国内初めてのバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)感染症治療薬として承認を得た.リネゾリドはグラム陽性菌に対して広い抗菌スペクトルを有し,そのMIC90は0.5~4 µg/mLで,バンコマイシンとほぼ同程度の抗菌活性を示した.また,リネゾリドはVREやメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの薬剤耐性菌に対しても感受性菌と同程度の抗菌活性を有している.既存のタンパク合成阻害薬のマクロライド,テトラサイクリン,アミノグリコシド,クロラムフェニコール系薬剤は,細菌のタンパクがリボソームで合成される段階の30S及び50Sリボソームに結合してelongation cycle(伸長過程)を阻害するのに対し,リネゾリドはリボソームの50S,30S-mRNA,fMet-tRNAの三者が形成される過程を阻害し,かつ伸長過程を阻害しない.リネゾリドはこの特有な作用機序を有することにより,既存の抗菌薬群に対して耐性を有する菌にも交叉耐性を示すことなく,また,耐性獲得も極めて緩除であった.リネゾリドのVREに対する抗菌作用は静菌的であった.リネゾリドは経口投与によりVREを感染させたマウス全身感染モデルにおいてin vivoにおける有効性を示し,同じくマウス軟組織感染症モデルにおいても膿瘍形成前に経口投与することにより感受性菌の場合と同程度の有効性を示した.リネゾリドの経口投与後の吸収は極めて速やかであり,静脈内投与との比較における経口投与での生物学的利用率はほぼ100%である.臨床試験において,リネゾリドは1日2回の投与によりVRE感染症治療に優れた有効性を示すことが明らかにされている.
  • 塩沢 明
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2002 年 120 巻 4 号 p. 253-258
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/01/28
    ジャーナル フリー
    塩酸セビメリン水和物(商品名:サリグレン®カプセル30 mg(日本化薬株式会社))は雪印乳業株式会社および日本化薬株式会社により共同で開発された,キヌクリジン環を基本構造とする新規な誘導体である.塩酸セビメリン水和物は唾液腺のアセチルコリンM3受容体に高い親和性を示す受容体アゴニストであり,口腔内に分泌される唾液の重量を指標とした動物実験で唾液分泌促進作用を示した.この唾液分泌促進作用は,臨床試験でもシェーグレン症候群の口腔乾燥症患者において,口腔内に含んだガーゼを用いて唾液の重量を測定するサクソンテストで実証され,その結果として患者の自覚症状および他覚所見を有意に改善し,QOLを向上する事が明らかにされた.さらに長期投与試験においても安全性および有効性が確認された.薬理試験および薬物動態試験の結果,塩酸セビメリン水和物は経口投与後速やかに吸収され,類薬に比較して即効的かつ持続的に唾液分泌を促進することが示された.これらの基礎試験および臨床試験の結果,新規合成化合物である塩酸セビメリン水和物は,唾液腺のM3受容体を選択的に刺激して持続的に唾液分泌を促進させることが明らかとなり,シェーグレン症候群患者の口腔乾燥症を改善しQOLを向上する薬剤として期待されている.
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