日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
116 巻, 5 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 抗血栓薬の現状と新薬開発
    近藤 一直
    2000 年 116 巻 5 号 p. 263-268
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    急性冠動脈症候群を始めとする血栓性疾患の治療薬として,血小板 glycoprotein IIb/IIIa 受容体拮抗薬(IIb/IIIa 拮抗薬)が開発され,[1]モノクローナル抗体,[2]合成ペプチド,[3]非ペプチド,[4]経口薬,の4群が登場した. IIb/IIIa 拮抗薬はフィブリノゲンを介した血小板相互の結合を阻害することから,血小板相互の結合に選択性が高いごと,刺激の種類を問わず総ての凝集反応を抑制できること,強力な凝集抑制効果が見込まれたこと,などを理由に臨床応用への期待が高まったが,現在までに公表された大規模臨床試験の結果はモノクローナル抗体のみが有効性を示し,非ペプチドおよび経口薬は無効であった.この様な結果が出た根拠としては,(1)血小板との結合時間の長さ,(2) GP IIb/IIIa以外の接着分子に対する抑制効果,(3)受容体における結合サイトの違いと部分的アゴニスト作用の存在,(4) caspace の活性化を介した凝集促進またはアポトーシスの誘導,(5)遺伝子変異による凝集能の修飾,などの因子が影響している可能性が考えられた.今回の知見をもとに血小板の生理機能に関する解明が進み,新たな薬物あるいは治療法の発見につながることが期待される.
  • 抗血栓薬の現状と新薬開発
    梅村 和夫, Abby R. Saniabadi
    2000 年 116 巻 5 号 p. 269-274
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    高脂血症は虚血性冠動脈疾患の危険因子である.近年,脂質成分中のレムナントリポタンパクの重要性がいわれている.そこで今回はレムナント様リポタンパクが血小板凝集にどのような影響を与えるか検討した.レムナント様リポタンパクは血小板豊富な血漿中では血小板を凝集させなかったが,他の血球成分が含まれる全血中では凝集させた.走査型電子顕微鏡で,赤血球膜上で血小板の凝集がみられ,血小板・赤血球の相互関与の重要性が確認された.また,この凝集には ADP が関与していた.レムナント様リポタンパクによる血小板凝集の機構は直接血小板を刺激しておこるのでなく,血小板と赤血球との相互関与を介することが予測され,新しい凝集経路を見出せたことは興味深い.さらに,レムナント様リポタンパクの表面には apoE があり,レムナント様リポタンパクの細胞内取り込みのリガンドとしての役割を持っている. apoE には E2,E3,E4 の3つのアイソザイムがある.その中で apoE4 は動脈硬化やアルツハイマー病に関与しているという報告がある.健常者は apoE3 が多く含まれている.我々は, apoE4/3 が豊富なレムナント様リポタンパクの血中濃度の高い患者から血液を採取し, apoE4/3が豊富なレムナント様リポタンパクの血小板凝集における影響を検討した. ApoE4/3 が豊富なレムナント様リポタンパクは apoE3/3が豊富なものより血小板を強く凝集させた. apoE3/3 が豊富なレムナント様リポタンパクによる血小板凝集はベルシェイプで用量を高くすると凝集が弱くなってしまうが, apoE4/3 が豊富なものでは用量に依存して凝集が強くなり,さらに凝集の程度も強い.このことから apoE のアイソザイムの違いはレムナント様リポタンパクによる血小板凝集に大きく影響していることが示唆された.
  • 抗血栓薬の現状と新薬開発
    川崎 富久, 平山 復志
    2000 年 116 巻 5 号 p. 275-282
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    新しい抗血栓薬の開発は,臨床ニーズの高まりと血栓症発症機序の解明を基盤として,遺伝子工学技術の発展とともに展開してきた.抗凝固薬としては,ワーファリンとヘパリンが種々の血栓塞栓性疾患に従来から繁用されており,その有用性は確立している.しかし前者は治療域が狭く用量依存性に個人差が大きく,薬物相互作用や食事の影響を受けやすいなどの問題点が指摘されている.また後者は,治療域が狭く出血の危険性が高く,効果発現が血中アンチトロンビンIII濃度に依存することや抗体産生による血小板減少症惹起などの問題点が指摘されている.したがってこれらの薬薬を使用する場合には,重篤な出血性の副作用を回避するため,凝血学的検査により抗凝固能をモニターすることが必要とされている.近年,これらの問題点を克服すべく新しい抗凝固薬の開発が行われている.これらには,トロンビン,Xa因子,IXa因子,VIIa因子/組織因子の阻害薬,あるいはプロテインC抗凝固経路の充進薬が挙げられ,静注薬のトロンビン阻害薬,トロンボモジュリン,プロテインCおよび活性化プロテインCはすでに上市あるいは臨床試験段階にある.また,経口薬のトロンビン阻害薬やXa阻害薬は現在臨床試験段階にあり,近い将来,ワーファリンに代わる血栓塞栓性疾患の治療薬として登場してくるであろう.この目標に向って,高い経口吸収性を示す化合物の探索競争が熾烈をきわめている.近い将来これらの薬薬の登場により,各種血栓症に対する抗凝固療法も大きく様変わりしていくことであろう.
  • 抗血栓薬の現状と新薬開発
    大森 庸子, 高橋 靖雄
    2000 年 116 巻 5 号 p. 283-289
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    天然型のヒト可溶性トロンボモジュリン (MR・33) は,ヒト血漿を用いた in vitro 試験において,トロンビンの凝固促進作用を抑制するとともに,プロテインC (PC) 活性化を介して,トロンビンの産生を抑制した.また MR-33は,ATIII非依存的に抗凝固作用を発揮するとともに,ラット DIC モデルにおいて,抗凝固薬の副作用となる出血を助長することなく凝固亢進を改善した.さらに, MR-33 は,マウス肺障害モデルあるいは虚血再灌流によるラット臓器障害モデルにおいて,凝固異常を改善するとともに,サイトカインの産生を抑制し,臓器障害の進展を阻止することが明らかとなった.これらのことより, MR-33 は, DIC の治療薬として優れており,また,臓器障害を伴う疾患に対しても有用であることが期待される.
  • 抗血栓薬の現状と新薬開発
    勝浦 保宏
    2000 年 116 巻 5 号 p. 290-297
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    活性化プロテインC (Activated Protein C: APC) は血液凝固制御機構を司る重要な生体成分で,分子内のγ-カルボキシグルタミン酸とCa2+を介し血栓が形成されている細胞膜上に結合し,活性化凝固第V因子や第VIII因子を不活化し凝固カスケードを抑制するため,出血のリスクが少なく強力な抗血栓作用を発揮することが期待される.我々はAPCを成分とする血液分画製剤を血栓症治療薬として開発しているが, APC製剤がヘパリンに比べ出血リスクが少なく抗血栓作用を示すことを汎発性血管内凝固症候群の動物モデルを用いた試験や,臨床試験において実証した.また抗凝固作用とは別に線溶亢進作用を有し,血栓保持を抑制する.さらに白血球活性化を抑制し抗炎症作用を発揮すること,また血管内皮細胞膜に特異的な受容体の存在が発見され,APCの機能との関連が明らかになりつつある. APCは血液凝固線溶系と炎症免疫系の接点に位置し多面的に生体の防御機構を調節していると考えられ,その生理調節能が注目されるとともに, APC製剤の血栓症や炎症疾患への有用性が期待される.
  • 抗血栓薬の現状と新薬開発
    浦野 哲盟
    2000 年 116 巻 5 号 p. 298-303
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    凝固系の活性化に伴い線溶活性が増強する事は旧くから知られており,種々の機構が提示されている.中でもフィブリンが一部分解されることによって生じるC末端 Lys は線溶活性の増強に重要である.最近発見されたトロンビン活性化線溶抑制因子 (TAFI) は,血漿中 carboxypeptidase B (CPB) と同一であり,トロンビンによる限定分解を受けて活性化される (TAFIa) と,ペプチドC末端の Arg あるいは Lys を遊離させる機能を持つ.プラスミンにより一部分解されたフィブリンのC末端 Lys はその生理的な基質とされ, TAFIaはこれを除去することにより,フィブリンの線溶促進能を無くして線溶活性を抑制するとされている.本稿では凝固と線溶の相互作用を概説し, TAFIによる線溶阻害機構について述べる.
  • 塩見 浩人, 田村 豊
    2000 年 116 巻 5 号 p. 304-312
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    冬季,環境温度の低下への適応として,一部の哺乳動物では体温を低下させ,非活動の状態で冬期を過ごす冬眠行動をとる.哺乳動物の冬眠は,気温が上昇する春季まで持続するのではなく,冬眠-覚醒のサイクルを何度も繰り返す.しかし,冬眠への導入と維持ならびに冬眠からの覚醒における生理機構はほとんど解明されていない.我々は,冬眠への移行期の体温下降ならびに冬眠状態から覚醒への移行期の体温上昇に関与する中枢機構を検討し,以下の知見を得ている. (1)非冬眠ハムスターの体温(37°C)は,アデノシンA1受容体作用薬,N6-cyclohexyladenosine(CHA) の側脳室内投与により用量依存性に下降する. (2)冬眠初期の低体温(6°C)は,アデノシンA1受容体拮抗薬,8-cyclopentyl-theophylline (CPT) の側脳室内投与により活動期正常体温へ急激に上昇する. (3)A1受容体を介するアデノシンの体温下降作用は,視床下部後野の熱産生中枢の抑制作用による. (4)深冬眠期にはCPT処置によって体温上昇が起こらないことから,アデノシンとは異なる系が熱産生中枢を抑制している可能性がある. (5)冬眠初期,深冬眠期のいずれにおいても, TRH (thyrotropin releasing hormone)の側脳室内投与は活動期正常体温へと急激に体温を上昇させる. (6)非冬眠ハムスターの体温をCHA投与により急性的に15°C以下に低下させると, CPTの拮抗作用は発現せず, TRH の体温上昇作用も現れない.これらの結果から,冬眠導入期には中枢アデノシンが,冬眠からの覚醒には,中枢TRHが重要な役割を演じていることが示唆される.また,自然冬眠時には低温時でも作動する非冬眠時とは異なる熱産生系の存在が示唆される.
  • 芳賀 慶一郎, 稲葉 賢一, 正路 英典, 橋本 敏夫
    2000 年 116 巻 5 号 p. 313-320
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    イヌを用い,非プラチナ性抗悪性腫瘍薬,塩酸ドキソルビシン(ドキソルビシン)によって投与後24時間以降に誘発される遅延性嘔吐の発現を検討し,併せて摂餌量,摂水,排便行動などに及ぼす影響を検討した. 2mg/kgのドキソルビシンを静脈内投与すると,投与24時間以内に発現する急性嘔吐は少なかったが,投与24時間以降に発現する遅延性の嘔吐が全例に誘発された.この遅延性嘔吐の発現は投与3∼4日目にピークに達し,5日目には減少した.遅延性嘔吐の発現にやや遅れて摂餌量および飲水回数の減少,排便回数の増加が観察された.5-HT3受容体拮抗薬である塩酸アザセトロン(アザセトロン)の0.3および1mg/kg/dayを抗悪性腫瘍薬投与の24時間後から4日間反復経口投与すると,ドキソルビシン誘発の遅延性嘔吐をそれぞれ約30および50%減少させた.ドキソルビシンで誘発される遅延性嘔吐の発現機序には,一部5-HT3受容体が関与していると推察される.摂餌量および飲水回数の減少に対しては,アザセトロンは明らかな影響を及ぼさなかったが,排便回数の増加に対しては改善作用を示した.イヌにドキソルビシンを投与する本法は,非プラチナ性抗悪性腫瘍薬で誘発される遅延性咽吐のモデルとして,機序の解明および治療薬の開発に有用と考えられる.
feedback
Top