三酸化ヒ素(As
2O
3)をラットに経口投与して血糖量と肝グリコーゲンの変動を調べ,その作用機序を確かめる目的で実験を行い次の結果を得た.1)As
2O
3 の 15mg/kg を経口投与すると4時間目に peak を示す過血糖を生じた.2)両側内臓神経の切断,両側副腎摘出および副腎髄質の剔出により As
2O
3 の過血糖作用は抑制された.3)迷走神経を切断すると,As
2O
3 の過血糖作用は増強した.4)中枢神経系に作用する barbital sodium を As
2O
3 と併用投与するとやや抑制の傾向が見られた.5)副腎 catecholamine の遊離を促進させる薬物のうち,nicotine tartrate は As
2O
3 を投与してから3時間後に投与した場合および As
2O
3 と同時に投与した場合には As
2O
3 の過血糖作用を抑制した.ephedrine hydrochloride は As
2O
3 の過血糖作用に対して影響をおよぽさなかった。6)副腎 catecholamine の遊離を阻害する薬物である hexamethonium bromide,tolazoline hydrochloride,propranolol hydrochloride,atropine sulfate はいずれも As
2O
3 の過血糖作用を抑制した。7)As
2O
3 を投与すると肝グリコーゲンは2時間目から減少し,24時間後でほぼ回復した.以上の結果から As
2O
3 は中枢に作用し,そこで acetylcholine の分泌を促進し,その結果 catecholamine が肝臓の酵素活性を高めグリコーゲンを分解することにより血糖の増加が起こると思われる.
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