日本薬理学雑誌
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124 巻, 6 号
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ミニ総説「小胞体ストレス応答系と神経細胞死制御」
  • ―AR-JPのメカニズム―
    高橋 良輔
    2004 年 124 巻 6 号 p. 375-382
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/26
    ジャーナル フリー
    パーキンソン病は,ドパミンニューロンの選択的変性による進行性の運動障害を主症状とする神経変性疾患である.家族性パーキンソン病の一型である常染色体劣性若年性パーキンソニズム(AR-JP)の病因タンパク質であるParkinは,基質タンパク質を特異的に認識し,プロテアソームによる分解を促進する酵素,ユビキチンリガーゼ(E3)である.このためE3の不活性化により,基質タンパク質が異常蓄積してAR-JP発症に至ると考えられる.その仮説に基づいてParkinの基質タンパク質が探索された結果,現在では約10種類の異なる分子がParkinの基質として報告されている.その中で我々が見出したパエル受容体(Pael-R)は黒質ドパミン細胞に高度に発現する,リガンド不明のGタンパク質共役型受容体である.Pael-Rは折れたたみ(フォールディング)が困難なタンパク質で,新生タンパク質の約50%がフォールディングに失敗し,構造が異常で機能をもたないミスフォールドタンパク質になる.ParkinはE3として構成的にミスフォールド化Pael-Rをユビキチン化し,その分解を促進している.AR-JPではParkinが不活性化されるために分解されなくなったミスフォールド化Pael-Rが小胞体に蓄積し,小胞体ストレスによって細胞死を引き起こすと考えられる.Pael-Rは培養細胞でアポトーシスを起こすだけでなく,ショウジョウバエのニューロンで過剰発現させてもドパミンニューロン選択的細胞死を引き起こすことが示された.一方Parkinノックアウトマウスではドパミンニューロン死は起こらず,既知の基質の蓄積もみられないことから,病因となる基質の特定は困難な状況である.Pael-R蓄積による小胞体ストレスがAR-JPの神経変性をどこまで説明できるのか,最新のデータに基づいて議論する.
  • —アストロサイトに発現する新規小胞体ストレスセンサーOASIS
    今泉 和則, 遠山 正彌
    2004 年 124 巻 6 号 p. 383-390
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/26
    ジャーナル フリー
    小胞体ストレスは神経変性疾患の発症に密接に関わる.このような疾患の治療薬開発のためにも小胞体ストレス応答の全貌解明が望まれている.我々は小胞体ストレスに対し強い抵抗性を示すアストロサイトに注目し,その細胞で特異的に発現する新規小胞体ストレスセンサーOASISの同定に成功した.これまで小胞体ストレス応答の鍵分子である小胞体ストレスセンサー分子が哺乳細胞で3つ同定されている.すなわち,IRE1,ATF6,PERKである.これらは全ての細胞にユビキタスに発現するものと考えられている.アストロサイトには既存のストレスセンサー以外にグリア固有のストレスセンサーが存在し,そのセンサーからの情報伝達系がアストロサイトの小胞体ストレス抵抗性を生み出す根源であると考えた.我々が同定したOASISはストレスのない状態では小胞体膜上に存在する.一旦アストロサイトに小胞体ストレスが負荷されると,OASISはRIP(regulated intramembrane proteolysis)という現象によって膜内で切断され,切断された断片(CREB/ATF転写因子に共通するbZIPドメインを含む)が核内に輸送される.核内では小胞体分子シャペロンの転写制御に重要なシス配列,すなわちERSE(ER stress responsive element)およびCRE(cyclic AMP response element)に作用して分子シャペロンの発現を誘導する.このOASISを強制的に細胞に発現させると明らかに小胞体ストレスに対して強い抵抗性を示すようになることも明らかになった.以上の結果は,新規膜結合型転写因子OASISはアストロサイト特異的防御システムを活性化させるストレスセンサーであること,ならびにアストロサイトが他の細胞に比べてストレス抵抗性を示す理由がこの分子の存在にあることを示唆する.
  • 金子 雅幸, 野村 靖幸
    2004 年 124 巻 6 号 p. 391-398
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/26
    ジャーナル フリー
    小胞体ストレス(小胞体機能の障害に伴い,成熟不全タンパク質が小胞体に蓄積する)に対して細胞は様々な防御機構を作動させる.小胞体関連分解(ER-associated degradation: ERAD)では,小胞体の異常タンパク質が小胞体から細胞質に排出され,ユビキチン・プロテアソーム系により分解される.我々がクローニングに成功したHRD1(出芽酵母Hrd1pのヒトホモログ)はERADに関与するユビキチンリガーゼ(E3)で,小胞体膜に存在し,低酸素などの小胞体ストレスによって誘導される.さらに我々は,HRD1がC末端にあるPro-rich領域を介して,家族性パーキンソン病AR-JPの原因遺伝子であるユビキチンリガーゼParkinの基質の一つであるPael受容体(Pael-R)と結合することを見出した.そして,HRD1はPael-Rをユビキチン化し,その分解を促進すること明らかにした.さらに,ATF6やXBP1の過剰発現による小胞体ストレス応答の活性化がPael受容体の蓄積を抑制することを見出した.一方,ケミカルシャペロンと呼ばれる4-phenylbutyric acid(4-PBA)は,嚢胞性線維症などのフォールディング病に用いられている.我々は,4-PBAが神経芽細胞腫SK-N-MC細胞において,シャペロンの誘導を介さずに小胞体ストレスによる細胞死を抑制することを見出した.また,4-PBAは小胞体ストレスによって引き起こされる小胞体シャペロンの誘導や小胞体ストレスセンサーPERKの活性化を抑制することを明らかにした.さらに,4-PBAはPael受容体の凝集を防ぎ,Pael受容体蓄積によって起こる小胞体ストレスを抑制することを示した.以上より,HRD1などのERAD遺伝子を誘導する小胞体ストレス応答活性化薬物や4-PBAなどのケミカルシャペロンは,Pael-Rをはじめとした小胞体ストレス関連疾患の新たな治療薬の一つとなることが示唆された.
  • 川原 浩一, 森 正敬, 中山 仁
    2004 年 124 巻 6 号 p. 399-406
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/26
    ジャーナル フリー
    脳が損傷を受けたり神経変性疾患に陥った場合,ミクログリアは活性化し病変部位に集積する.活性化ミクログリアの主な役割は,死細胞の除去や免疫担当細胞として脳組織を修復することである.しかしながら,活性化ミクログリアから産生される過剰量のNOは,神経変性過程でみられる神経障害の重要なメディエーターと考えられている.NOによる細胞死のメカニズムについては十分には解明されておらず,標的が何であるかも分かっていない.一般にNO毒性は,ミトコンドリアの機能不全やDNA障害/p53経路を介して起こると考えられている.著者らは,p53ノックアウトマウス由来のミクログリア細胞株MG5を用いてNO毒性のメカニズムについて解析した.MG5をLPS/IFNγで処理すると,iNOSが誘導され,アポトーシスが起こった.この時,小胞体(ER)ストレス誘導性のアポトーシスに関与するCHOP/GADD153が誘導されることを見いだした.また,ERストレスによって誘導されることが知られるBiP/Grp78も誘導された.これらの結果より,MG5ミクログリアにおけるNO依存性アポトーシスは,CHOPの誘導を含む小胞体ストレス経路を介して起こっており,p53とは無関係であることが明らかとなった.このように,過剰な活性化によって引き起こされたミクログリア自身のアポトーシスは,近傍に位置する脆弱な神経細胞を殺さないようにする,ミクログリアの重要な自己制御機構かもしれない.一方,最近の報告によると,ミクログリアは中枢神経系において2種以上のヘテロな細胞集団から成ることが示唆されている.著者らは,type-1とtype-2ミクログリアを分離し,それぞれの海馬神経細胞に対する影響を解析した.活性化type-1ミクログリアは,iNOSを著しく誘導して神経細胞死を引き起こしたが,同様に活性化したtype-2ミクログリアでは,そのような神経傷害作用は観察されなかった.中枢神経系の炎症過程においては,性質の異なるミクログリアサブタイプが異なった作用を示す可能性がある.
  • 北村 佳久, 高田 和幸, 谷口 隆之
    2004 年 124 巻 6 号 p. 407-413
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/26
    ジャーナル フリー
    小胞体はタンパク質の品質管理を行う細胞内小器官であり,その機能不全によって折り畳み構造の異常なタンパク質が増加・蓄積する.異常タンパク質の蓄積が基盤となり発症する疾患はコンフォメーション病と呼ばれ,アルツハイマー病(AD)などの神経変性疾患がその疾患の一つとして考えられている.AD脳では,細胞外におけるアミロイドβタンパク質(Aβ)の蓄積により形成される老人斑や,神経細胞内で異常リン酸化タウタンパク質の蓄積により形成される神経原線維変化が観察されるが,現在では,脳内Aβの蓄積がAD発症メカニズムの上流に位置すると考えられている.細胞外でのAβ蓄積に対するストレス応答反応として,ミクログリアが老人斑に集積するが,その役割は不明である.近年,我々は,ラット培養ミクログリアがAβ1-42(Aβ42)を貪食し分解すること,その貪食には低分子量Gタンパク質のRac1やその下流で働くWiskott-Aldrich syndrome protein family verprolin-homologous protein(WAVE)により制御されるアクチン線維の再構築が関与することを明らかにした.さらに,ミクログリアによるAβ42貪食は,ストレスタンパク質であるHeat shock proteins(Hsp)により増強され,反対に,核内タンパク質として知られるHigh mobility group box protein-1(HMGB1)により阻害されることがわかった.このような,ミクログリアによるAβ42貪食メカニズムの解明や調節に関する研究を基盤として,新規AD治療法の開発が期待される.
総説
  • 阿部 正義, 吉本 谷博
    2004 年 124 巻 6 号 p. 415-425
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/26
    ジャーナル フリー
    ロイコトリエン・リポキシゲナーゼ系に関連した薬の中で最初に臨床的に確かな評価を得たのは,構造式の決定に長年の研究を要したslow reacting substance of anaphylaxis(SRS-A)を抑制するものであった.最初に抗喘息薬として登場したのは5-リポキシゲナーゼ阻害薬であったが,次に開発されたcysteinyl-leukotriene type 1 receptor(cysLT1R)拮抗薬が5-リポキシゲナーゼ阻害薬と同等以上の効果を示すこと,副作用が後者に比べて少ないことより抗喘息薬,抗鼻炎薬としてcysLT1R拮抗薬が世界的に広く使われるようになっている.ロイコトリエン代謝に関連する各酵素並びに受容体がクローニングされアレルギーや各種の炎症病態でのロイコトリエンの役割に関する分子レベルでの研究が進んでいる.例えばcysLTsの受容体には喘息の病態に重要であるcysLT1Rのほかに,未知の機能の受容体cysLT2Rが知られているが,その組織内分布の検討により心臓や脳組織に豊富に分布する事が明らかになってきた.従ってcysLTsが虚血性心疾患や不整脈の病態にも関与している可能性があり,また精神神経疾患への関与も示唆され,選択的cysLT2R拮抗薬が登場すれば大きな進展が期待される.リポキシゲナーゼ阻害薬に関しては,動脈硬化と5-リポキシゲナーゼの密接な関連を裏付ける研究,12/15-リポキシゲナーゼがlow density lipoprotein(LDL)のエスエル化された多価不飽和脂肪酸を酸化することができる等より,動脈硬化の進展に関与していることが考えられている.また15-リポキシゲナーゼは前立腺癌の抑制に関与していると報告されている.以上のように,ロイコトリエン・リポキシゲナーゼ代謝系は急性炎症のみならず慢性に進展する疾患まで広範な病態への関与が考えられ,今後とも新たな創薬の標的になり続けると考えられる.
  • 中村 明夫, 今泉 晃, 柳川 幸重
    2004 年 124 巻 6 号 p. 427-434
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/26
    ジャーナル フリー
    β2アドレナリン交感神経受容体(β2-AR)刺激薬の大部分は未変化のまま腎臓より排泄されるため,ネフロンを通過する過程でなんらかの薬理学的効果を発揮すると思われる.しかしながら,β2-ARの腎機能調節における役割が明らかにされていないため,実際の使用時には,このような薬理効果は考慮されていない.腎臓のβ2-ARは主に近位尿細管上皮細胞と,腎動脈の平滑筋細胞膜に分布している.これらの発現の部位を考えれば,β2-ARは糸球体機能や,ネフロンでのナトリウムと水分バランスに作用していると思われる.実際,β2-AR刺激薬を投与すると腎糸球体濾過率は著しく低下する.一方,β2-AR刺激薬は腎臓での炎症性サイトカイン,例えばTNF-αの産生を阻害する.さらに,β2-AR刺激薬は溶血性尿毒症症候群(HUS)の志賀毒素によるアポトーシスの誘導を抑制することがわかっている.腎臓のβ2-AR機能に関して薬理学的根拠に基づいた理解を進めることは,呼吸器疾患で投与されるβ2-AR刺激薬の腎機能を考慮した適正使用についてや,敗血症とHUSに伴う腎臓の炎症や障害に対する治療について重要かつ新しい情報を提供することになる.
新薬紹介総説
  • 有田 二郎, 奥山 朋子
    2004 年 124 巻 6 号 p. 435-444
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/11/26
    ジャーナル フリー
    ベルテポルフィン(ビスダイン®)は,特定波長のレーザー光線の照射により活性化される光線力学的療法(PDT)用製剤であり,中心窩下の脈絡膜新生血管(CNV)を伴う加齢黄斑変性症(AMD)に対して,本邦にて初めて承認された治療薬である.ベルテポルフィンは690 nm付近に吸収を示し,光照射により活性化され,フリーラジカルおよび一重項酸素を生成した.マウス細胞腫および腫瘍モデルに対して,至適波長の光照射によりベルテポルフィンは強い細胞障害ならびに抗腫瘍作用を示した.また,ウサギ角膜新生血管モデルにおいて,ベルテポルフィンは静脈内投与後速やかに新生血管へ選択的に移行するとともに,光照射により新生血管閉塞作用を示した.以上のことから,本剤の静脈内投与後,標的部位に光照射することにより,ベルテポルフィンが光活性化され生成する活性酸素等が新生血管を損傷・閉塞させることで有効性を発揮すると考えられた.なお,ベルテポルフィンは主に血漿リポタンパクのLDLに分布すること,ベルテポルフィン-LDL結合物を投与した場合に腫瘍組織内への移行性が高くなること,増殖性細胞においてLDLレセプター数の増大がみられることから,ベルテポルフィンは投与後,LDLへ移行することで,LDLレセプターを介して選択的に増殖性細胞へ蓄積するものと考えられた.サル脈絡膜新生血管モデルにおいて,投与量およびレーザー照射時期,照射出力等を限定することで,正常網膜等の近隣組織に対する影響を最小限にした選択的な新生血管閉塞作用を示した.AMD患者を対象にした国内第III相試験では,治療開始12ヵ月後におけるclassic CNV(フルオレセイン蛍光眼底造影にて観察される境界鮮明な強い蛍光を示す脈絡膜新生血管)の進展率は19%,平均視力はベースラインより3文字の増加を示し,海外で実施された第III相試験の結果より優れていた.これらの基礎および臨床試験の成績より,ベルテポルフィンによるPDTには,CNVを伴うAMDに対する高い治療効果が期待されている.
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