日本薬理学雑誌
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115 巻, 6 号
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  • 小林 正彦, 内藤 恭三
    2000 年 115 巻 6 号 p. 323-328
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/02/27
    ジャーナル フリー
    塩酸ドルゾラミドは点眼薬として初めて開発された,炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)である.経口のCAIに眼圧下降作用が報告されて以来,CAIは眼圧調節因子である眼房水産生抑制作用から注目され,緑内障治療薬として用いられてきた.全身性副作用の発現が避けられない内服薬の欠点を避ける為に局所投与が可能な点眼薬としての研究が続けられ,塩酸ドルゾラミドが開発された.ヒトの炭酸脱水酵素(CA)には7種類のアイソザイムが存在するが,眼圧調節を担う最も重要なCAは眼局所毛様体に分布するII型とされている.ドルゾラミドはこのII型CAに対する阻害活性が0.18nMと経口CAIに比べ強く,しかもII型CAを特異的に阻害した.特異性と共に眼組織内移行性が点眼薬化に重要な因子であるが,ウサギへの点眼投与1時間後の虹彩・毛様体におけるCA活性は0.02%,0.1%ドルゾラミドでそれぞれ87%,100%阻害されたのに対し,0.1%のアセタゾラミドとメタゾラミドの阻害活性はそれぞれ26%,12%に止まり,ドルゾラミドの優れた眼組織移行性と強いCA阻害活性が証明された.国内の原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者を対象とした臨床試験では,至適用量は有効性と安全性の面から0.5%又は1%の1日3回点眼とされた.経口CAIからの切り替え試験からドルゾラミド点眼液の眼圧下降効果は経口CAIとほぼ同程度であり,経口CAIでみられた全身性副作用の軽減が確認された.また,0.5%ドルゾラミドは緑内障治療の第1選択薬であるマレイン酸チモロール(0.25%の1日2回点眼)や,β遮断薬併用時のピロカルピン又はジピベフリンと同程度の眼圧下降効果を示した.更に,1年間の長期試験でも安定した眼圧下降効果が持続し,続発緑内障や原発閉塞隅角緑内障患者を対象とした試験でもその効果が確認された.海外では,正常眼圧緑内障患者の眼圧を下降し,眼循環を改善させて,視野感度を改善する事も報告されている.ドルゾラミド点眼液は従来の緑内障治療点眼薬と作用機序が異なるのでそれらとの併用が可能で,眼底部における血液循環も改善することから近年問題となっている正常眼圧緑内障患者への投与も可能である.
  • 仁木 一郎
    2000 年 115 巻 6 号 p. 329-335
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/02/27
    ジャーナル フリー
    膵B細胞から分泌されるインスリンは,唯一の血糖降下ホルモンである.インスリンの分泌不全と感受性低下が混在している2型糖尿病において,残存する膵B細胞のインスリンを放出させて血糖を調節する,というストラテジーは,約60年前のスルホニル尿素剤の発見に端を発して,現在も盛んに続けられている.一般に分泌物は,分泌穎粒の生成に始まり,細胞内トラフィック,細胞膜へのドッキングプライミングを経て開口放出によって細胞外へ放出される(分泌カスケード).膵B細胞の分泌カスケードにおいても,最近の細胞生物学的手法の進歩により開口放出の上流の調節機構が明らかにされてきた.本稿では,膵B細胞を特徴付けている栄養物質・ホルモン・神経伝達物質などの制御因子について述べ,分泌カスケードに従ってインスリン分泌調節機構を概説した.さらに,分泌カスケードの解析がもたらす,インスリン分泌をターゲットとする新しい抗糖尿病薬開発への展開についても触れる.
  • 岡 亨, 小室 一成
    2000 年 115 巻 6 号 p. 337-344
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/02/27
    ジャーナル フリー
    心筋細胞は中胚葉から発生し,胎生期には分裂・増殖を繰り返すが,出生後その分裂能を喪失する.心筋細胞はミオシン,アクチンなどの構造タンパク質やANP,BNPなど心筋特異的遺伝子を発現しているが,これらの遺伝子の転写は心筋特異的転写因子によって制御されている.心筋特異的転写因子の研究はショウジョウバエの心臓特異的ホメオボックス遺伝子tinmanの発見を契機に進展し,そのマウスホモログであるCsx/Nkx-2.5,zinc fingerモチーフをもつGATA遺伝子ファミリー,MADS boxをもつMEF2遺伝子ファミリー,bHLHモチーフをもつd/eHAND遺伝子などの転写因子が単離されてきた.これらの転写因子は胎生早期から予定心臓領域に発現し,loss-of-functionやgain-of-functionによって心臓発生に重要な役割を果たしていることが明らかになった.さらに,心筋特異的遺伝子の転写調節としてプロモーター領域の特異的な塩基配列に直接結合するだけではなく,相互にprotein-protein interactionやco-factorを介する機序も示された.また,予定心臓領域に接する内・外胚葉から分泌される細胞増殖因子dppやBMP2/4は中胚葉に心筋特異的転写因子を誘導することからTGF-βスーパーファミリーのような細胞増殖因子も心筋細胞の発生において重要と考えられる.心筋細胞では骨格筋におけるMyoDファミリーのような強力なマスター遺伝子は同定されていないが,心筋細胞の発生・分化のgenetic cascadeを解明することは,未分化細胞や非心筋細胞を使った心筋細胞誘導を可能とし,心筋梗塞などで失われた心機能を再生心筋によって回復させるといった新たな治療法の開発につながるものと考えられる.
  • 窪田 一史
    2000 年 115 巻 6 号 p. 345-352
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/02/27
    ジャーナル フリー
    発痛物質を新生ラットの背部皮下に投与することで生じる体動を定量化し,薬物の鎮痛作用を検出する方法を開発した.体動の定量化のために音響用スピーカーを検出器とした装置を作製した.カプサイシンを投与すると,動物は投与部位を引っ掻いたり,もがいたりする侵害受容行動を起こした.この体動の量を本装置で1分ごとに測定したところ,0~1分の間にピークがみられ,その後1~3分にかけて減少していくという一過性の反応が検出された.さらに,そのピーク時において最大作用用量が3000ng/bodyである用量依存的な反応が検出された.内因性発痛物質であるブラジキニン,セロトニン,ヒスタミンもカプサイシンと同様に一過性の反応を引き起こした.これに対し外因性発痛物質であるホルマリン,酢酸は持続性の反応を引き起こした.カプサイシン誘発体動に対する各種薬物の作用を調べたところ,この体動はオピオイド化合物であるモルヒネ,ブプレノルフィン,ペンタゾシンにより抑制された.しかしながら,非ステロイド性抗炎症薬であるインドメタシン,イブプロフェン,アセトアミノフェン,そして,鎮静薬であるジアゼパム,クロルプロマジンによって抑制されなかった.以上の実験結果より,新生ラットのカプサイシン誘発体動を指標にした本鎮痛試験法は,μオピオイド活性を有する化合物の鎮痛作用を簡便に検出できる有用な方法であることが示された.
  • 堀内 城司, 佐藤 悠
    2000 年 115 巻 6 号 p. 353-359
    発行日: 2000年
    公開日: 2007/02/27
    ジャーナル フリー
    糖尿病性痙痛は末梢の知覚神経のsmall fiber neuropathyによって引き起こされると考えられている.本研究では,まず自然発症糖尿病ラット(WBN/Kobラット)の末梢知覚神経にみられるsmall fiber neuropathyが,求心性神経活動を自発性に引き起こしているかについて検証し,さらに,抗不整脈薬で糖尿病性疼痛に有効とされるメキシレチン,局所麻酔薬であるリドカインの胃内投与が,起こっている自発性神経活動に対してどのような効果を持つかを比較検討した.実験には,ウレタン麻酔下のWBN/Kobラットと対照群であるWistar SLCラットを用いた.7匹中,6匹のWBN/Kobラット(57∼62週齢)の中枢側を挫滅した左腓腹神経から自発性の求心性神経活動が観察され,それはメキシレチンの投与(10mg)で有意に長時間(最高2時間まで観察)抑制された.これに対して,より若い(54週齢)WBN/KobラットおよびWistarSLCラット(31および35週齢)では左腓腹神経から自発性の求心性神経活動が観察されなかった.62週齢のWBN/Kobラットの左腓腹神経を電気刺激(1Hz,673mV,0.05ms duration)したときの求心性刺激伝導速度はメキシレチンの投与前後で変化が認められなかった.以上の結果から,メキシレチンによる糖尿病性疼痛の改善効果は,疼痛の原因とされる知覚神経のsmall fiber neuropathyによって引き起こされる自発性求心性神経活動が,メキシレチンの投与で抑制されることによりもたらされることが示された.また,メキシレチンの抑制効果は知覚神経の刺激伝導には明らかな影響を与えなかった.
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