ラットの坐骨神経を圧挫し,それによって生じる神経機能障害の程度と,障害からの回復の経過を測る方法を確立した.次に,その方法によりビタミンB群の作用を調べた.(1)後肢の第一指と第五指の間隔(1~5指間隔)や第二指と第四指の間隔(2~4指間隔)の測定,ならびに歩行などの障害程度を10段階で採点する方法を検討した.その結果,指間距離もBehaviorも,圧挫の強弱により有意差がみられ,弱い圧挫の方が回復が早かった.圧挫の部位による障害の比較では,中枢側(臀部)よりも抹消側(大腿部)の圧挫による場合の方が回復が著明であった.坐骨神経を18~20mm摘出した場合には,91日後まで回復は全くみられなかった.これらの方法は,再現性もよく,無麻酔,無拘束のまま,長期間にわたる経日変化が調べられ,末梢神経麻痺を示す良い指標になり得る.(2)この神経障害に対して,ビタミンB
1,B
6,B
12の合剤(3B)は,1~5指間隔,2~4指間隔,Behaviorのいずれを指標としても,有意に回復を促進した.B
1およびB
12も,指間距離とBchaviorのいずれに対しても有意な効果を示したが,B
6は明らかな効果を示さなかった. 3Bと各単剤との比較では,1~5指間隔ではB
6とB
12に対して,2~4指間隔ではB
1,B
6, B
12のいずれに対しても,BehaviorではB
6との間に有意差がみられ,3Bの効果は単剤に比して,より優る.(3)神経麻痺に伴う筋萎縮の指標に,下腿の9つの筋を摘出し,筋重量を測定した.圧挫後1~2週の間で,3Bは,ヒラメ筋や足底筋,前脛骨筋,後脛骨筋などにおいて有意な効果を示した.その作用は,特にヒラメ筋において顕著である.B
1,B
6,B
12の各単独の効果はほとんど認められなかった.圧挫後2週における3Bと各単剤との比較では,ヒラメ筋においてはB
1,B
6,B
12のいずれに対しても,腓腹筋においてはB
6に対し,足底筋と後脛骨筋においてはB
1に対し,3B投与群の方が筋重量が有意に大であった.
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