われわれはすでに2匹のマウスの闘争反応におよぼす第三者マウスの影響について, またEl-マウスの痙攣発症における2匹間および3匹間の相互関係について報告した.しかしこれらは, いずれも刺激により誘発された反応における相互関係であった.そこで今回は動物の自然行動に比較的近い情動行動が見られると考えられるところの東京教育大式小動物探索行動記録装置を用いて, 15分間におけるdd系マウス1, 2, 3匹の相互関係を求め, これにおよぼす向精神薬の作用について検討した.まず向精神薬を与えた際の1匹の行動量と2匹のそれを比較したところ, 2匹の行動量は薬物の作用傾向と必ずしも一致せず, しかも薬物による値の変動率は僅微であった.しかし2匹の行動量に比し3匹のそれは薬物投与によりかなり大きく増加または減少した.そこで2匹の行動量から1匹のそれを差し引いた値すなわち第2匹目のマウスによってもたらされた行動の増加量に対する第3匹目によるそれの比率 (
R) が向精神薬の投与によってどのように変動するかを調べた.この際, 薬物投与量は1匹の行動量に著変を認めない量, すなわちsedationやataxiaを認めない量を原則とした.1) Caffeine 1.0, 2.0, 5.0, pentetrazol 5.0, ephedrine 5.0またはDL-amphetamine 0.5 各mg/kg i.P. 投与の場合
Rはcontrolの
Rに比べ著しく小さくなった.Dimorpholamineでは大差がなかった.2) Chlordiazepoxide 2.0, 3.0, diazepam 0.5, 5.0, imipramine 2.5, chlorpromazine 0.2, mescaline 0.5 および2.0各mg/kgでは
Rはcontrolより著しく大きくなった.またGABOB 15mg/kgでは幾分大きく, hexobarbital-Na 10, 15mg/kg ではcon-trolと大差なく, diphenhydramineでは小となった.以上の実験成績より2匹の行動量に対し3匹の行動量が, 中枢興奮性の向精神薬により大きく減少し, 抑制性の向精神薬により大きく増加した.このことから中枢興奮剤は3者関係における抑制機能すなわち精神的な相互牽制作用を増強し, 中枢抑制剤は脱抑制作用を示すのではないかと考えられる.またこの行動が3者関係を反映した情動行動の一つのモデルになる可能性がある.
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