日本薬理学雑誌
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131 巻, 5 号
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特集:アルツハイマー病の診断・治療の基礎理論と臨床の現状―解決すべき問題は何か
  • 岩田 修永, 樋口 真人, 西道 隆臣
    2008 年 131 巻 5 号 p. 320-325
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/14
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病(AD)では脳内のアミロイドβペプチド(Aβ)の凝集・蓄積が発症の引き金となることから,本症の根本的な克服のためには脳内Aβレベルを低下させることが必要である.Aβは前駆体タンパク質よりβおよびγセクレターゼによる二段階切断によって産生するが,分解過程にはネプリライシンが深く関わる.ネプリライシンは既報のAβ分解酵素の中で唯一オリゴマー型Aβを分解できる酵素的特性を有し,シナプス近傍におけるオリゴマー型Aβの分解に寄与する.このように脳内Aβの動態にはプロテアーゼが大きな役割を果たす.一方,最近の研究で,Ca2+依存性細胞内システインプロテアーゼ・カルパインの活性化により,脳内Aβの蓄積およびタウのリン酸化が促進することが明らかになった.本節では,AD研究の現在の動向について触れるとともに,Aβの神経毒性機構(オリゴマー仮説)とこれらのプロテアーゼを標的としたADの治療戦略について解説する.
  • 服部 尚樹, 北川 香織, 中山 靖久, 稲垣 千代子
    2008 年 131 巻 5 号 p. 326-332
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/14
    ジャーナル フリー
    アミロイドβタンパク(Aβ)はアミロイド前駆タンパク(APP)からβ-およびγ-セクレターゼによってペプチド分解されて生成され,Aβオリゴマーとなって神経細胞毒性を生じる.細胞外のAβ沈着に先立って細胞内に主にAβ1-42が蓄積し,神経細胞傷害をきたす.細胞内Aβの起源として,細胞内産生よりも細胞外に分泌されたAβが細胞内に取り込まれる経路が優位であると考えられている.細胞外Aβによる神経細胞毒性機構としてNMDA受容体の細胞内取り込み増加によるシナプス機能障害やグリア細胞の活性化が報告されている.一方,細胞内Aβによる神経細胞毒性機構としてこれまでに,1)ユビキチン依存性タンパク分解の抑制,2)シナプス機能障害,3)過リン酸化タウタンパクの増加,4)カルシウム仮説,5)ミトコンドリア傷害とフリーラジカルの増加等が示されてきた.我々は,Aβによる神経細胞傷害の新たな原因としてホスファチジルイノシトール-4-一キナーゼ(PI4K)阻害作用を見出した.アルツハイマー病脳ではPI4K活性が約50%に低下しており,ホスファチジルイノシトール(PI)やホスファチジルイノシトール一リン酸(PIP)のレベルも低下している.塩素イオンポンプ(Cl-ポンプ)はその活性発現にPI4Pを必要とする事から,AβによるPI4K活性抑制に伴うPI4Pレベルの低下がCl-ポンプ活性を抑制し,神経細胞傷害をきたすかを検討した.病態生理濃度のAβ(1~10 nM)は,ラット脳細胞膜分画中のII型PI4K活性を阻害し,細胞膜のPIPレベルを低下させた.初代培養ラット海馬神経細胞にAβ1-40,Aβ1-42,Aβ25-35を投与すると,神経毒性の強さに平行して細胞内塩素イオン濃度[Cl-]iが上昇し,グルタミン酸興奮毒性が増強された.この機構に,神経細胞[Cl-]iの増加によるII型ホスファチジルイノシチド依存性キナーゼ(PDK2)活性低下とそれに伴うリン酸化Aktレベルの低下が考えられた.今後,Aβの新たな標的であるPI4Kを作用点とするAβ標的拮抗薬の開発が期待される.
  • 岡村 信行, 谷内 一彦
    2008 年 131 巻 5 号 p. 333-337
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/14
    ジャーナル フリー
    生体内分子の非侵襲的画像化をめざした分子イメージング法が様々な分野に応用されているが,アルツハイマー病(AD)研究においては特徴的病理像である老人斑を描出するアミロイドイメージング技術が近年,大いに発展を遂げている.アミロイドイメージングは,人口の高齢化とともに急増するADを早期発見する検査として,さらには脳内Aβの沈着過程をモニタリングする新たな薬効評価系として,診断・治療評価の両面から強く期待されている.アミロイドの検出法としては,PET,SPECT,MRI,近赤外光イメージングなどを用いた手法が提案されているが,PETを用いた方法が現在の主流である.PETを用いたイメージングでは,老人斑への結合選択性に優れたプローブ開発が成功のカギを握る.プローブはアミロイドβタンパクへの高い結合親和性に加えて,高い脳血液関門透過性と正常組織からの速やかなクリアランスが要求される.これまでにプローブの候補化合物が数多く開発され,Thioflavin-T誘導体である[11C]PIBや[18F]FDDNP,[11C]BF-227などのプローブが実用化されている.これらのPETプローブを用いたアミロイドイメージングでは,ADの臨床診断を受けた大多数の患者の大脳皮質で集積異常を示す.またADの病前段階に相当する軽度認知障害(MCI)の過半数の症例も異常集積がみられ,将来のADへの進行を予測する指標となる.また健康成人の中にも異常所見を認める者が一定数存在する.これらは無症候段階でのアミロイド沈着を検出している可能性が高く,発症前診断へ向けたエビデンスの蓄積が求められる.本検査のさらなる普及をめざし,18F標識PETプローブやSPECT用プローブの開発が進められている.
  • 杉本 八郎
    2008 年 131 巻 5 号 p. 338-340
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/14
    ジャーナル フリー
    世界で始めてアルツハイマー病の治療薬として承認されたものはコリン仮設に基づくものであった,すなわちアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬である.その後の研究からAChE阻害薬は神経保護作用やアルツハイマー病(AD)の原因と考えられているβアミロイドの産生を抑制することが示されている.仮にこれらの作用がMCI(Mild Cognitive Impairment)に対して効果が示されれば,AChE阻害薬の新たな方向が見出されることになる.最近,選択的なブチリルコリン(BChE)阻害薬はアセチルコリン(ACh)を増加すること,またβアミロイドの産生を抑制する作用が報告された.さらなる研究が必要ではあるがコリン仮説の別な視点での治療薬に繋がる可能性が示されれば大変興味ある知見となる.しかし現在のADの原因に迫る治療薬としてはアミロイド仮説に基づくものが最も有力である.βアミロイドを産生する酵素はAPPと呼ばれる前駆タンパク質からβアミロイドを切り出してくる.その酵素はαセクレターゼ,βセクレターゼ,γセクレターゼである.αセクレターゼはβアミロイドそのもを切断する酵素であり,この場合は活性化するものがβとγのセクレターゼは阻害薬が望むものとなる.この考えかたに基づく方法はアミロイド仮説と呼ばれるものだが,すでに臨床試験に入っている化合物がある.近い将来ADを原因から治す薬が開発されることも夢ではない.
  • 福永 浩司, 塩田 倫史, 森岡 基浩, 韓 峰
    2008 年 131 巻 5 号 p. 341-346
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/14
    ジャーナル フリー
    成体脳で見いだされた神経新生はアルツハイマー病,パーキンソン病,ハンチントン舞踏病,脳虚血などの神経変性疾患において神経再生という新しい治療法の可能性を示した.神経新生は脳虚血やてんかんなどの神経疾患において一過性に刺激されるが,長期に新生ニューロンが生存し,代替機能を果たすのかは疑問視されている.アルツハイマー病患者においても神経前駆細胞が増えるという報告もあるが,遺伝子改変のアルツハイマー病モデルマウスではむしろ減少するという知見もあり,結論は出ていない.脳は急性ストレスや軽度な損傷が起こった時に代償機構として神経新生が刺激される.もし,神経前駆細胞の生存と成熟を促進する薬物があれば神経変性疾患の新しい治療法になることが期待できる.バナジウム化合物はPTP-1Bなどのチロシンホスファターゼの強力な阻害薬であり,インスリンや細胞増殖因子のチロシンキナーゼ受容体のチロシン残基のリン酸化反応を上昇させる.受容体チロシンキナーゼの上昇により,ホスファチジルイノシトール-3キナーゼ(PI3-K)と下流のAkt/protein kinase Bが活性化され,同時に,Ras系と下流の細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)が活性化される.AktとERKは下流のHIF-1α,CREBなどの転写因子,グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK-3β)を介して,血管新生,細胞の増殖と生存を調節している.私達はバナジウム化合物の末梢投与により脳虚血後の神経新生が促進されることを見いだした.バナジウム化合物の神経新生促進作用にはAktとERKの両方の活性化反応が関わっていた.さらに,嗅球摘出マウスの中隔野で見られるコリン作動性神経の変性がバナジウム化合物の末梢投与で抑制された.バナジウム化合物によるコリン作動性神経の変性の抑制は嗅球摘出マウスにおける認知機能障害の改善と良く相関した.以上の結果より,末梢投与で神経新生を促進するバナジウム化合物はアルツハイマー病などの神経変性疾患の新しい治療薬となる可能性がある.
  • 本間 昭
    2008 年 131 巻 5 号 p. 347-350
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/14
    ジャーナル フリー
    要介護認定者のほぼ半数が認知症であることによっても示されているように,認知症をめぐる様々な課題は現在のわが国ではきわめて身近な問題となっている.平成19年の通常国会で75歳時の運転免許更新時講習に認知症のスクリーニング検査が導入されることが決まり,平成21年の6月をめどに実施される.認知症の医療・ケアの課題は種々あげることができるが,早期発見・診断・治療が最大の課題である.認知症者の自己決定と尊厳を支える上ではその意義はきわめて大きい.認知症の原因のなかで最も多いアルツハイマー病に関しては現在,抗認知症薬による治療が可能である.そのための地域医療のシステムおよび今後の方向性を示した.
  • ―現状と解決すべき諸問題
    下濱 俊
    2008 年 131 巻 5 号 p. 351-356
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/14
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病(AD)の中核症状である認知機能障害に対して使用できる治療薬には,アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬として本邦で唯一使用できる塩酸ドネペジルの他に,リバスチグミン,ガランタミン,またNMDA受容体阻害薬としてメマンチンがある.ドネペジルはAChE阻害作用が強く,リバスチグミンはAChEとブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)の両方を阻害し,ガランタミンはAChE阻害作用の他にニコチン性ACh受容体の作用を増強するという特徴がある.メマンチンはNMDA受容体阻害薬であるが,正常な神経伝達やLTP形成を阻害せず,グルタミン酸の神経興奮毒性による神経細胞傷害に対し保護作用を示すという特徴がある.最近,これらの薬剤は対症的な作用だけでなく,病態の進行を抑制するdisease modifierとしての作用も期待されている.現在,ADの原因および発症に密接に関与しているとされるアミロイドβタンパク(Aβ)に関する研究からAβの産生・代謝に関与する酵素阻害薬および免疫療法などが開発されてきている.これらの研究成果や臨床治験が実を結び実際の治療に寄与できることが期待される.一方,ADの周辺症状である行動および心理症状(BPSD)に対する薬物療法としては非定型抗精神病薬の有効性が確立しつつあったが,米国食品医薬品管理局が死亡率の増加を示したことからその適応については議論が続いている.ADの発症機序は未だ明らかでない状況ではその危険因子を明らかにし,それに介入することで,発症を抑制,あるいは,症状の進行を抑制できる可能性があり,その方面の科学的研究が今後必要となろう.
受賞講演総説
  • ─α1Aアドレナリン受容体とSnapinの相互作用による増大を中心に
    鈴木 史子
    2008 年 131 巻 5 号 p. 357-360
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/14
    ジャーナル フリー
    α1Aアドレナリン受容体(以下α1A受容体)を含むGqタンパク共役型受容体の活性化は,細胞内Ca2+ストアからの一過性のCa2+遊離と,それに続く持続的なCa2+流入を惹起する.平滑筋組織においては,この持続的なCa2+流入が収縮反応を調節する主要な因子となっていることが知られており,創薬の点からも注目されている.しかし,この受容体の活性化によるCa2+流入機構の詳細は,未だ完全には明らかにされていない.私たちは,Gqタンパク共役型受容体の一つとしてα1A受容体に着目し,この受容体の活性化により惹起されるCa2+流入機構の解明を目的として研究を行なった.その結果,Snapinがα1A受容体の相互作用分子であり,この受容体の活性化により,“α1A受容体-Snapin-TRPC6チャネル”複合体を形成してCa2+流入を引き起こすという,新しい受容体作動性Ca2+流入機構を明らかにした.
  • 安東 嗣修
    2008 年 131 巻 5 号 p. 361-366
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/14
    ジャーナル フリー
    多くの皮膚疾患でその主要な症状の一つとして「痒み」がある.痒みは,抑制できない場合には苦痛となり,痒みによる掻破が皮膚症状を悪化させる.したがって,掻痒性皮膚疾患では,痒みと掻破の抑制が重要な治療目標となる.これまでマスト細胞から遊離されるヒスタミンが,内因性の痒み因子として重要な役割を担っていると考えられてきたが,このような皮膚疾患の痒みには,H1ヒスタミン受容体拮抗薬が無効である場合が多い.このことは,マスト細胞―ヒスタミン系以外に痒みのメディエーターおよび,発生機序が存在することを示唆する.そこで,マウスを用いた痒みの評価系を確立し,様々な痒みのモデルマウスを用いた研究から,表皮ケラチノサイトが痒みのメディエーター(ロイコトリエンB4,トロンボキサンA2,ノシセプチン,一酸化窒素と過酸化水素)を産生・遊離することが明らかとなった.一酸化窒素を除くこれらメディエーターは,マウスへの皮内注射により痒み関連動作である注射部位への後肢による掻き動作を誘発し,一酸化窒素は,起痒物質の皮内注射によって惹起される掻き動作を増強した.また,ケラチノサイトから産生・遊離されたトロンボキサンA2やノシセプチンは,一次感覚神経への直接作用に加え,ケラチノサイトにもオートクライン的に作用し,痒みを増強する可能性を示した.ところで,一般的に,アレルギー性の痒みには,IgEが重要な役割を果たしていることが知られている.最近,高親和性IgG受容体が一次感覚神経に発現しており,一次感覚神経上での抗原-IgG複合体形成による直接作用に加え,神経終末からのサブスタンスPの遊離を介したケラチノサイトの活性化による掻痒反応発生機序の存在を明らかにした.いくつかの抗アレルギー薬や漢方薬の中には,ケラチノサイトに作用して鎮痒効果を示すものもある.このようにケラチノサイトは,痒みの誘導や増強に重要な役割を担っており,新たな鎮痒薬開発のターゲット細胞になるかもしれない.
実験技術
  • 植田 弘師, 松本 みさき
    2008 年 131 巻 5 号 p. 367-371
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/14
    ジャーナル フリー
    実験動物における疼痛閾値は,これまで機械的,熱的,化学的刺激法による侵害性行動の評価が用いられてきた(本誌130巻1号2007年7月39-44頁,実験技術:疼痛試験法の実際).一般に,機械性刺激は有髄A線維を,熱性刺激は無髄C線維を感作すると概括されているが,各線維間の混合刺激となるのが常であり,知覚線維に対する選択性に課題があった.慢性の痛みには異なる分子機構により生ずることが予想されることから,線維特異的な応答評価,分子機構解明を行うことは創薬の観点から重要な課題である.著者等は,マウスにおいて様々な生理活性化学物質による侵害性応答を比較し,責任線維の解析を行ってきた(末梢性疼痛試験法Algogenic stimulation-induced paw flexion test:APF試験法).近年のめざましい研究の発展から,神経因性疼痛などの病態時には生理的に非侵害性であるとされた有髄Aβ線維の活動も疼痛伝達に関与することが明らかにされてきた.そこで,著者等はこの目的のために,化学物質によらない侵害刺激法として,ニューロメーター電気刺激装置を導入し,EPF(Electrical stimulation-induced Paw Flexion)試験法,ならびにEPW(Electrical stimulation-induced Paw Withdrawal)試験法を確立した.これは,3つの異なる電気刺激により,無髄C線維応答,有髄Aδ線維応答,有髄Aβ線維応答をそれぞれに評価することのできる方法である.ニューロメーター装置は,既に臨床において数年にわたる実績があり,著者等はこれをマウスに応用し,高感度且つ安定的に閾値を決定づけることに成功した.実際に,得られた各種線維応答の薬理学的特性は,これまでに見出されてきた特性とも一致する.本稿では,ニューロメーターを用いた行動解析法の実験技術と,これにより得られる線維応答の薬理学的特性について併せて紹介する.
創薬シリーズ(3)その3 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験
  • 大石 裕司
    2008 年 131 巻 5 号 p. 373-377
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/14
    ジャーナル フリー
    消化管とは口腔から肛門までの管状の器官を指し,消化吸収に関連する舌,各種の唾液腺,膵臓,肝臓,胆嚢を含めて消化器と称する.消化管の基本構造は,粘膜,筋層,漿膜の3層より成り,筋層内には脊髄に匹敵するほどのニューロンを有する腸管神経系を持ち交感・副交感神経を介して中枢神経と連携するとともに,粘膜に存在する多種類の神経内分泌細胞とその消化管ホルモンにより,微妙な制御がなされている.医薬品開発上の安全性試験で遭遇する消化管毒性の主な症状所見として悪心・嘔吐,排便異常,便の性状異常,鼓腸などがあり,何れも注意深い動物の観察が重要である.消化管毒性の組織変化としては,粘膜の出血,粘膜の損傷・再生,粘膜の欠損すなわちびらん・潰瘍,炎症,粘膜の萎縮,消化管の癒着,リン脂質・脂質やカルシウム塩の蓄積症などが剖検や病理組織検査で認められ,頻度は少ないものの増殖性の悪性腫瘍に至る変化も認められる.
新薬紹介総説
  • 宇野 隆司, 小林 文義, 緒方 昭仁, 許斐 俊彦
    2008 年 131 巻 5 号 p. 379-387
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/05/14
    ジャーナル フリー
    イミダフェナシン(ウリトス®錠,ステーブラ®錠)は,過活動膀胱を適応症として2007年6月に国内で上市された新規抗ムスカリン薬である.ムスカリン受容体サブタイプ選択性に特徴があり,イミダフェナシンは膀胱においてM3受容体の拮抗作用により平滑筋収縮を抑制するのみならず,副交感神経末端に存在するM1受容体を阻害することによりアセチルコリン放出も抑制する.動物摘出臓器を用いた機能試験により,ムスカリン受容体M1,M2およびM3サブタイプに対する作用を検討した結果,イミダフェナシンはM2受容体と比較してM3受容体およびM1受容体を選択的に阻害した.M3およびM1受容体に対するイミダフェナシンの親和性は極めて高く,M3受容体の場合,その親和性は塩酸プロピベリンの459倍であった.モルモット摘出膀胱において,イミダフェナシンはM3受容体を介したカルバコールによる収縮を用量依存的に抑制した.さらに,イミダフェナシンはラット摘出膀胱において経壁電気刺激によるアセチルコリン遊離を用量依存的に抑制した.カルバコール誘発ラット排尿反射亢進モデルにおいて,イミダフェナシンは用量依存的に膀胱容量の減少を抑制した.また,ラットにおいてイミダフェナシンは唾液腺分泌および律動的膀胱収縮を用量依存的に抑制したが,その作用は膀胱において強かった.以上のことから,イミダフェナシンは膀胱選択性を有することが示された.第I相試験において,ヒトでの薬物動態,安全性および忍容性を確認した.過活動膀胱患者を対象とした後期第II相試験において,臨床効果と副作用の両成績を基にイミダフェナシンの臨床推奨用量を設定し,第III相比較試験と長期投与試験を実施した.第III相比較試験において,イミダフェナシンは過活動膀胱患者の臨床症状である尿失禁,頻尿,尿意切迫感の諸症状に対して改善効果を認めた.さらに,長期投与試験において,イミダフェナシンの長期投与における効果の減弱および長期投与に起因する副作用発現の増加は認められず,慢性疾患である過活動膀胱の病態に対して長期的な治療効果の維持が可能な薬剤であることが示された.以上,前臨床試験および臨床試験の結果より,イミダフェナシンは高齢者が主体となる過活動膀胱患者の治療に対して有効であることのみならず,その高い安全性により長期間の服用が可能な薬剤であると考えられた.
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